iPod発明者ケーン・クレイマーさんの物語

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(写真ソース:DailyMail

ケーン・クレイマー(Kane Kramer)という発明家は、ご存知ですか?

今から30年前にiPodの原型を発明したイギリス人です。

上図が、そのiPodのご先祖「IXI」

わずか3.5分ですが、楽曲が保存できる電子端末です。

1979年、当時23歳だったクレイマーさん(15歳までしか学校は行ってません)はこれで特許を取得し、開発会社を設立、試作機を組み立てました。これが平凡な暮らしから抜け出すチケットになるはずだったんですが、1988年に役員会が分裂し、120カ国をカバーする特許の更新に必要な6万ポンド(925万円)の出資が集まらず、更新を断念。そのまま特許は公有財産となってしまいました

時は流れて2008年秋。

iPodの好調で前年比利益過去最高を記録した直後のアップルからクレイマーさんの元に、いきなりSOSの国際電話がかかってきたのです。

アメリカ訛りの女性は「アップルで法務業務のヘッドを務める者です」と名乗ると、梯子に登って壁塗りしていたクレイマーさんに、Burst.comに「iPodは特許侵害だ」と巨額の損害賠償を求められて困ってる、ついてはiPodの真の発明者として力を貸してくれないだろうか、と言い出したのです!

 

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(写真ソース:DailyMail

どうせ友だちが一杯食わせる気なんだろう、と最初は思いました。でも、何がなんだか分からないまま、梯子の上でともかく話を聞いてたら、「アップルとしてはカリフォルニアまで来て証言してもらいたいのです」という話になったんです。

[...]

そうして、法廷では速記者の前に立って、法律事務所ではビデオ撮影者の前で宣誓供述することになったんですね。Burst社の法務顧問からの尋問は厳しく、計10時間に及びました。それをやること自体は楽しかったです。

結局この証言が決め手となり、2社は法廷外の和解で決着がつきました。

正直言って私は、やっと自分のしたことが日の目を見て音楽産業を変えたことが認められ、嬉しかったんですね。何もかも感極まれりという気持ちでした。

と、英紙デイリーメールに語ったクレイマーさんですが、実は家具の会社を畳んで3人の子どもと賃貸の家に引っ越し、経済的には「iPod買う余裕もない」大変な時期だったので、アップルにも絵の分の著作権使用料だけでも少し払ってもらいたかったようですよ? 

が、この一連の証言で受け取ったのは裁判で専門知識を提供した謝礼の相談料だけ。アップルにもらったiPodは8ヶ月で壊れたそうです。

iPod発明者ケーン・クレイマーさんの物語 1

(写真ソース:KaneKramer.com via WIRED

...とまあ、以上が、昨年秋のコラムです。

米ギズの今週のウィークリー企画「1979年」で改めて出てきたので訳してみたんですが、いやほんと、これはiPodですねー。

端末だけなら誰でも落書きできそうな気がしますけど、クレイマーさんは違うんです。端末と楽曲配信を一体化したiPod-iTunesの関係も30年前に予測してたんですよ。DRMのことから、フラッシュメモリーが支配的になることまでピタリと。恐ろしいまでのディテールです。

クレイマーさんが作ったデバイス「IXI」は、フラッシュがベースでした。 1979年当時のフラッシュメモリーなんて3分ぐらいしか音声は保存できませんけど、そこを押して、「そのうち容量は上がるから」と言ってフラッシュを使ったんです。

四角いスクリーン、4方向のコントロール、大きさはタバコの箱ぐらい、どれもiPodと同じ。

もっと奇妙なのは、既にデジタル楽曲の創出・販売を予想し、そこから生まれる良いことも悪いことも全て予見してたことですね。例えば、諸経費がゼロになり、在庫もゼロになるが、所属レーベルのないアーティストにとっては大きなプッシュになる、但し海賊版が大きく迫るリスクもある、とか。...ひぃいいい、全部今起こってることじゃないですか!

まだあります。クレイマーさんはDRMも予想してたんです。...と言っても、これはあんまり詳しくは語ってませんけどね。そんなこと言ったら、「人の往来の激しいエリアにコイン入れて動かす楽曲販売マシンが登場するだろう」とか、時代の壁を思いっきり感じさせる予言も混じってますけど。

ゾッときます。

[DailyMail, Wired]関連

Dan Nosowitz、Jack Loftus(原文1原文2/訳:satomi)