自分で度が合わせられる油圧眼鏡「Adspecs」を医者不足の村へ!

自分で度が合わせられる油圧眼鏡「Adspecs」を医者不足の村へ! 1

新製品のレビューでも速報でもないですけど、今もどこかで誰かがすごいことしてるんだなーというのを思い出させてくれるエピソードです。少しお付き合いくださいね。

世界には今も検眼医不足でメガネがつくれない人10億人以上もいます(WHO推計)。そこで生まれたのが、DIY眼鏡「Adspecs(アドスペックス)」。

普通は度が合わなくなるとお医者さんに視力検査してもらってレンズ交換しますよね?

ところが「Adspecs」は、この牛乳瓶の底みたいなメガネかけて、視力検査表を見ながら、自分で横の注射器のつまみをクルクル回してレンズに液(シリコンオイル)を足してって、自分の視力ぴったりのところで止めて外すだけで、あっという間にメガネがつくれちゃうんです。

何年か前、この話を初めて耳にした時には感動でした。この油圧式レンズを発明したのは、英オックスフォード大学のジョッシュ・シルバー(Josh Silver)物理学教授です。1996年にはAdaptive Eyecareという会社を興して、英国開発庁(Department for International Development=DFID)と共同で途上国に配るレンズの開発を始めました。今は大学附属の「Centre for Vision in the Develop World」を母体に研究支援活動を続けているんですよ。

僕も早速かけてみましたので、その動画も貼っておきます。


「分厚いけど正直悪くないですよ」(50秒-) 再生できない方はVimeo

その後が気になって今回調べてみたら、どうしてどっこい。「Adspecs」のメガネは各種エイド団体を通じて世界各地で3万個使われているではないですか!

さっそく喜び勇んで、センターのオーウェン・リーディング(Owen Reading)さんに今後の展望をお伺いしてみました。Adspecsが途上国の経済にぴったりな理由をオーウェンさん(なんとギズ読者。Hi, Owen!)はこう話してますよ。

「この注入には、訓練がほとんど要らないんですね。現地団体のボランティアでもできます。一度配ったら、あとは(視力向上で生まれる)違いが何年も持続する。処方薬のような品物に比べ、安全です(+闇市場に流しても高い値がつかない)」

な~るほど~。

次にレンズの断面図も見てみましょう

 100203_fluidfilledlens

曲がるプラスティック膜の中に液

(左)液を抜くと度が弱まる。近視向き/(右)注入すると度が強くなる。老眼・遠視向き。

Adspecsもまだ完璧じゃありません。サンプルでいただいたメガネは少し前のデザインだったせいか、縁がグ~ラグラ。僕のデカい頭にかけたら、みるみる広がってしまって、接着剤をちょっとやそっと付けたぐらいでは戻んなくなっちゃいました! 幸い現地に既に配った分はもっと頑丈なデザインで、改良は常時繰り返し行っているそうです。

価格も改善に励んでるポイントのひとつ。今のバージョンはまだひとつ約19ドルもしますからね。メガネ本体に視力検査料も込みなこと考えたらバーゲンだけど、シルバー教授兼センター所長が目標に掲げる1個1ドルには、ま~だまだです。

1月には米国深夜番組のコメディアン、スティーブン・コルベアも番組の中でこのメガネかけましたよ(動画下)。ゲストは『Design Revolution』著者Emily Pillotonさん。「デザインで世界を変える」実例3つを紹介してますね。因みに、眼鏡の前に出てるのは地雷爆発を回避できるシューズ、後に出てくるのは水95kg入れてゴロゴロ転がして運べるタンク兼ローラーです。

The Colbert ReportMon - Thurs 11:30pm / 10:30c
Emily Pilloton
www.colbertnation.com
Colbert Report Full EpisodesPolitical HumorEconomy

Adspecs開発者のシルバー教授が昨年7月TED Global 2009で行ったデモも素晴らしいので、貼っておきますね。37秒のところで手を挙げてるのは眼鏡・コンタクトレンズの人たち。教授は「今の社会は平均6割」と言ってますけど、TED参加者ぜったい6割以上いますよね!


[教授が説くポイント]

・「今は全人口の約6割が眼鏡の必要な人

・「レンズは安い。沢山ある。問題はピッタリのレンズを選んでくれる専門医が安くもないし多くもないこと」

・「英国は検眼医ひとりにつき患者1万人。アフリカ南部はひとりで100万人

・「この問題を解決するのがDIY眼鏡。自分で度が合わせられる安い眼鏡」

・「私は1995年から配布事業に取り組んできた。ゆっくりだが今は15カ国で利用者3万人超」

・「メガネはひとつ19ドルする。世界には1日1ドル未満で生活している人が10億人いる。彼らのためにもメガネは安くしないと」

・「大事なのは研究。そこで大学内にセンターを設けた。詳しくはCentre for Vision in the Develop Worldのサイトでどうぞ」

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まさにチャリティーとイノベーションの融合というところに、気持ちがワクワクきます。大量生産の機会と先進国のデザインのケーパビリティを駆使して、恵まれない人たちに人生を変えるソリューションを提供する、それも援助の受け手を他人の助けにずっと依存させることなく―。

Adspecsのネタはこれで最後ってことないように、ギズでも折に触れご紹介したいと思います。 寄付はこちら配布パートナーのお申し込みはこちら

毎日流れてくるウィジェットやタブレット、携帯、通販家具の情報に埋もれてつい忘れがちなことだけど、技術ってほんっと人の暮らしにこんなにも深い変化をもたらすことができるものなんですね。忘れないでおきたいな。

(動画で使った音源は、NYブルックリンのバンド「The Depreciation Guild」。NES+shoegazeなギターが良い感じですよね。きっとみなさんも気に入ってくれると思うので、最新シングルの動画も貼っておきます)

Joel Johnson(原文/satomi)