アップル&グーグル愛憎物語

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アップルがグーグル携帯製造元を20件のiPhone特許侵害で訴えました。つい最近まであんなに仲睦まじいカップルだったのに、いつからこんな険悪になっちゃったんでしょう?

ふたりが急接近したきっかけはiPhoneです。

2006年の段階ではギズもまさかあのふたりが付き合ってるとは思わなかったんですけどね。ちょうどその頃スティーブ・ジョブズがグーグルのエリック・シュミットCEOを家に呼んで、アップル取締役会のテーブルに入れてあげて、バニラフロスティのカップケーキで一緒にお茶してたんですね。たちまちふたりは恋に落ちます。

昔の恋

2007年のiPhone発売に向け手に手を携えて邁進するふたり。

あの頃は毎日がバラ色でした。グーグルがアップルに地図、検索、メールを与えれば、アップルはグーグルに光り輝く新端末の中で最高のスポットを与える。アップルがiPhoneにYouTubeを入れれば、グーグルはYouTubeがQuickTimeとうまく連携するよう全動画をh.264規格に変えてしまう(アップルがFlashの悪ガキを避られるように)。調子こいてiPhone向けにウェブアプリの最適化まで行い、そんな健気なグーグルをアップルは目を細めて眺めていました。

 

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ふたりはスマートフォンという新しい遊び場で遊びに暮れ、ヤフー、マイクロソフト、アドビなど他のみんなのことはクスクス笑いものにしていました。ふたりは遊び場で一番クールなキッズだったのです。

どんなに幸せか会う人、会う人みんなにノロけて回るふたりを見て、周囲のみんなも非の打ちどころのない理想のカップルだね、と思っていたものです

いよいよiPhone発売。

iPhoneはあれよあれよという間にバカ売れし、ユビキタスなコンシューマ主導型コンピューティングの未来を担う端末としてのポジションを固めます。その地位は他でもないグーグルが、自社の高度ターゲット広告を流すため是が非でもコントロールしたいと望んでいたものでした。それをよりによってアップルが先に手にするなんて...グーグルがアップルの成功を知った時、両者の関係には亀裂が生じ始めます

目を閉じると、エリックとセルゲイ、ラリーが額を小突き合わせて話し合う光景が目に浮かぶようです。「なんだこれ...? なんであっちが..? ファッ○、こうなりゃこっちも今すぐ参入だ!

とうとうグーグルの化けの皮が剥がれ、2005年に買収した、携帯の魔術師アンディー・ルビン率いる小さな会社(Android)で実は何をするつもりだったのか、プランが露になります。

グーグルは気づいたのです、ウェブに通じるメインのウィンドウのコントロールをおめおめアップルに渡すわけにはいかん、と。ウェブはグーグルのもの。アップルのものではないのだから。

2007年11月5日。iPhone発売から半年と置かずグーグルは自社独自のスマートフォンOS「Android」を発表します。それはアップルのOSを真似て作ったものでした。開発に散々リソースを注ぎ込んだ挙げ句、グーグルはこれを全メーカーとキャリアに無償で提供すると言い出したのです。これにはさすがのスティーブ・ジョブズもロマンスの破局を悟らぬわけにはいきませんでした。

裏切られた。彼にとってグーグルはマイクロソフトの再来です。本当は敵だった。それも市場を独占する「Windows」みたいなものを再び作り出し兼ねない敵。iPhoneで彼が最初手にした成功をMacのようなアンダードッグ(負け犬)に転じてしまい兼ねない敵。

ここに至って、すべては憎しみに変わったのです。

深まる溝

それは表に見えない戦争でした。最初は何もかもがカーテンの裏で行われていた。グーグル社員によれば、アップルはAndroid端末のマルチタッチ採用に待ったをかけ、グーグルはアップルの言う通りにしたといいます。言う通りにしないと特許の地雷原に足を踏み入れるだけだと分かっていたからです。結局は冒頭書いたように、Android端末をつくるHTCの方が訴えられてしまうわけですけどね。

いくら縛ってもスティーブ・ジョブズの舌は別の生き物のように饒舌です。Android発表から3ヶ月と置かず2008年1月には「電話に参入しても百害あって一利なし、みんな不幸になるだけだ」とグーグルとAndroidにもう釘を刺しています。表で不穏な刃を抜いたのはそれが最初でした。が、最初で最後...とはいかなかったのでございます。

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それを境にアップル経営陣はタガが外れたように、グーグルについてどう思うか、ズケズケ喋るようになります。

例えばあの日頃は物静かで無口な男だったはずのティム・クックCOOまで「グーグル携帯はまだ2年前の初代iPhoneに追いつくのでやっとだ」と言い、まるでジョブズがとりついたかのようです。

ジョブズも万人の気持ちを代弁し、iPad発表直後の社員集会ではグーグルの社是が「悪をなさない」なんてべんちゃらおかしい、「クソ食らえだ」と気炎をあげ、神聖なるマントラを一刀のもとに斬り捨てます。

なんだかスティーブ・ジョブズ個人の怨みに近いもの感じますよね。あの作り笑いを浮かべたエリック・シュミットが、アップル取締役の椅子に座って、ジョブズの食べ物を食し、ジョブズのワインを飲み、その一方でアップルの赤ちゃん誘拐を企てていた、最初からそのつもりだったんだ...と。

悪感情はお互い様のようです。シュミット氏もアップルの次の赤ちゃんiPad「デカイ電話とどこが違うのだ」と味噌クソに言ってます。

いざ経緯を知ってしまうと、むしろシュミット氏があれだけ長くアップル取締役にいたことの方が驚きです。氏が辞職したのは2009年8月です。ちょうど両社の対立が表沙汰になってきた頃でした。

第1戦はモバイル広告会社AdMobをめぐる買収合戦。これはグーグルが1本とります(これでアップルはQuattro Wireless買収を余儀なくされた)。

第2戦は楽曲ストリーミングのLALAをめぐる買収合戦。ラリーとセルゲイが買収を強く希望していたのですけども、これはアップルが1本奪います。なんと壮大な花いちもんめ!

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もう破局は決まったも同然です。こうして苦々しい別れが始まりました

壊疽のように両社の関係のあらゆる面に憎しみは広がっていきました。インサイダーからの情報によると、新iPhone OSとiPadに搭載する地図の契約条件交渉は壮絶を極め、頭にきたアップルが他所を当たって、地図専門会社を買収する一幕もあったのだそうな。ポーカーの手の一部でやったのか、それとも本気でグーグルから100%独立する気だったのかは神のみぞ知る、です。―グーグルをやめてBingをiPhoneのデフォルト検索エンジンにするとかいう噂だってブラッフか本気か分からないところありますよね。

コンピュータの未来をめぐる覇権争い

しかし、本当の戦いはこれからです。2日のHTC提訴から先が正念場でしょう。訴えの対象にはWindows携帯の名前も挙がってますが、あれは本当の標的から目を逸らせるための撹乱です。訴状で上がっている重要な事例はみなAndroid端末ですし、真の攻撃目標はAndroidと見るのが妥当でしょう。

チェーンの中で最も脆いHTCに攻撃を仕掛けることでアップルはグーグルだけじゃなく、全メーカーに警告を発しているのです。「あちらさんのNexus Twoの製造に手出ししたら次はあんたにミサイル発射するからな」と。攻撃目標のリストの次に名前があがってるのは、ひょっとしたらモトローラ ―グーグル携帯開発中という噂は本当だった― かもしれません。

ジョブズには明確に分かっているのです。それもこれもコンピューティングの未来―ネクスト・ビッグ・シング(次なる大潮流)―の覇権を賭けてやっていることなのだ、と。今度はマッキントッシュvs.ウィンドウズ戦争の結末の二の舞は踏みたくないのです。今回ジョブズは大きなリードを固めています。軍資金も懐にたんまりある。彼は覇権のためなら新製品開発でも戦略的買収でも総力挙げた法廷バトルでも何でもやる構えです。

先日行われたアップル株主総会で氏はこう明言しました。我々の巨大なキャッシュの山を使って必要なことはなんでもやる、リードを維持するのに必要とあらばどんな「強硬手段」も厭わずやる、そしてエンチラーダは全部(=何もかも、の俗語)我々のものにする、と。

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間違いなく、ジョブズは本気です。グーグルの計画の裏をかき、携帯端末およびアプリの市場シェアを維持するためなら、アップルが今持ってる現金資産400億ドルを最後の1ドルまで使い果たしても構わないと思っています。

でも、その目的遂行のためには強固なクラウド・ストラクチャーが要るし、ウェブのソーシャルな面にも深く踏み込んでいかなくてはならないでしょう。後者に関してはアップルもまだ手つかずです。前者の頼みはMobileMeですが、これも半煮えソリューションだし、iWork.comベータ版もそんな大してユーザー数は確保できていないのが実情です。たぶんその辺のことはアップルの旧敵 ―マイクロソフト― が力になってくれるかもしれません。それとたぶんFacebookとタッグを組めば、グーグルのもっと痛い弁慶の泣きどころをビシャッとやれるんじゃないでしょうかね。

一方グーグル。クラウドでリードを固めてはいますが、ソーシャル事業(Buzz)では躓いてジョークとブーイングの的になってしまいました。技術で秀でているAndroidにしてもiPhoneほどには売れてません。AndroidのアプリマーケットプレイスはまだApp Storeに比べると小さいし、質も今ひとつです。現段階ではアップルの方がアプリ開発者の間で支持が得られやすいムードですし、これが大きなアドバンテージにもなっています。

というわけで、元恋人のふたりには形式上の繋がりは残っているものの、その関係は日増しにダーティーに血生臭くなっています。愛の終わりは時に切ないもの。

Jesus Diaz(原文/satomi)