なぜAppleは紛失した試作iPhoneを取り戻せなかったのか

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誰でも不思議に思うのはそこ、ですよね。

なんでアップルはあの携帯の所在が掴めなかったのか? よくよく調べてみたら、アップルには取り返すチャンスは2度あったのです。ところがアップルはその2回とも、棒に振ってしまってたんです

あの晩の流れを整理してみましょう。

3月18日、アップルエンジニアはトップシークレットの次世代iPhoneの試作機を持って飲み屋に寄りました。その日は彼の誕生日。お祝いに一杯ひっかけた帰り際、スツール(椅子)の上に携帯を置き忘れてしまいます

それを酔っ払った客が見つけ、別のご一行様のものと勘違いして渡し、渡された客はなんとなく普通と違う携帯だという事に気づきます。きっとアップルのセキュリティ対応手順がそうなってるんでしょう、翌朝持ち主に連絡を取ろうと思った時には携帯はウンともスンとも動かなくなっていました。(「アップルは今の今まで紛失に気づいてなかったのでは?」という人がいるかもしれないけど、その可能性はないです。直後にブリック化されたので、直後に気づいていたはず)。

しばらく経って端末は、ギズの元にきました(5000ドルで買取った)。1週間近くかけて調べ、真偽を確かめ記事化。アップルの要求に従い返却、と。

気になるのは、このギズに渡る前の約3週間です。アップルは取り返そうとして取り返せなかったことになりますが、そもそも携帯は探してたんでしょうか? というのも、発見者は早い段階でアップルに返そうとしてはいたのです。それが何がどう転んで、こんなことに? 

引渡しに失敗

その携帯は外見も動作もiPhoneです。iPhone 3GSに偽装までしています。でもパスワード保護はかかってませんでしたが(!)。OSは普通のiPhone OSみたいで、ちょっと違うだけ。Facebookや他のアプリも動きます(情報提供者はあんまり深く首は突っ込んでない、と言ってます)。そして何時間か後(夜明け前みたいですね)、携帯はパッタリ動かなくなったわけですよね。

つまり、アップルかエンジニア本人が紛失に気づいてすぐ(たぶん当夜遅く)遠隔操作で情報を消去した、と考えられます。おそらく新ハードウェアの機能にロックをかける目的だけじゃなく、新OSの秘密が外部に漏れないように縛りをかけた。手の中の携帯もブリック化しちゃったことだし、こうなると取るべき行動は当然、アップルに電話をかけることです。さっきも書いた通り、これがまさに情報提供者がとった行動で、彼は早速アップルの窓口とサポートの番号に電話をかけたのです。ところがサポート用のチケット番号をくれただけで、相手にしてもらえなかったんですね。

電話を受けたアップルの窓口の隣の人は、受けた側の視点から、こうその時の模様を証言しています。

 

AppleCareでtier 2のエージェントとして働いてる者です。リークの全容がネットで報じられる前に、隣で働いてる男性の元にその男性から例の携帯を返却したい旨、電話がありましたよ。我々の側から見たら、作り話か、ニセモノ掴まされた人に思えましたね。アップルは社内の我々に何も伝えてこないんです。携帯が紛失した件についても何もお知らせとかそういうのは受けてなかったし、ましてやうちが新携帯を作ってるなんて一言も聞いてませんでしたからね。

電話がかかってきた時は、男性の携帯の説明も曖昧で、写真も提供できないということだったので、前述のようにその男性が見つけたのも中国の模造品だと思ってしまったんです。どっちみち我々にはどう対処していいか見当もつかなかったでしょうけどね。これがアップルで働いてて嫌なところで、我々には人を助けるのに必要な分の情報しかこなくて、いざ誰かからこういう電話がきた場合どう対処していいかの情報が全然足りないんです。

男性が写真を提供してくれてたら、こちらからエンジニアに送って、絶対そこからなんらかの対処はできたはずです。でも、あれだけの話では情報が少な過ぎて話は通せないし、インチキとして片付けてしまったのです。

いやこれはマジでこれ以外の展開は考えられないですよね? 中堅のカスタマーサービス窓口の社員には次世代iPhoneのことなんて知ようがないですから。彼の身になって現場を再現してみると、こんな感じでしょうか。

お電話ありがとうございます、こちらAppleCare。

もしもし。僕、持ってると思うんですよ、iPhone試作機みたいな、なんかそういうの!

へ?

そうなんです、ちょっと四角くって、動かない携帯。飲み屋で見つけました。

OK! お電話ありがとうございました

こんなもんでしょ、ね? アップルもそこまで秘密主義じゃなかったら電話も誰か、きちんと対処できる人の耳に届いてたかも...と思うと、なんとも皮肉な話です。それに電話の内容がここまで素っ頓狂でなかったら、あるいは対処してもらえたのかもしれませんね。

Find My iPhoneが使い物にならなかった?

さて、残るはアップルです。彼らの方からなぜ所在が突き止められなかったのか? この段階まで来てしまうと、もうさすがのアップルも、iPhone持ってる人なら誰でもできる対処に選択肢が限られてます。

電話かテキスト送信: ギズの情報提供者が携帯のソフトウェアを使えたのは、ほんのちょっとの間。なので、情報提供者はメッセージや通話履歴はチェックしませんでしたが、テキスト受信とか取り損ねた電話を知らせる通知ボックスも出てなかった、と話してます。朝見た時には携帯が死んでたので、夜間のうちに誰かがテキスト送信か電話をかけてきたのかも。

Find My iPhone: 携帯のGPSは? アップルには紛失機を探し出し、遠隔でシャットダウンできるコンシューマ向けのMobileMeサービスもあります。あれなら一発で探せる! ところがこれがiPhone OS最新バージョンでは壊れてて使えないんです。

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携帯には「iPhone OS 4」のテストバージョンが搭載になってたそうですよね。これは次世代iPhoneと一緒に出る見込みのアップルのソフトですから、ギズも現行のハードで試したことあります(詳細)が、その時ひとつ気付かなかったことが...。―オンライン地図で紛失機の現在地をものの数秒で表示するMobileMeの「Find My iPhone」機能が、なんとOS 4では動かないんですよ! まだ! つまりアップルはベータ版ソフトのバグのせいで携帯の現在地を探知できなかった...という可能性も考えられます。

Shut it down: これもOS 4ではまだ使えないMobileMeの機能ですね。遠隔でデータを消去する機能です。ただし、こちらはiPhoneのExchange Serverのインテグレーションにも独自の遠隔消去のサポートがあるので、そっちを使えば遠くからでもiPhoneには爆弾投下(ブリック化)できます。状況から見て、アップルがやったのは、まさにこれかと。

無論、ここに書いたのと全然違う独自の追跡サービスがあるのかもしれないし、Find My iPhoneが動くOSビルドが入っていたのかもしれませんけど、仮にみんながここ数週間使ってるiPhone OS 4ベータ版と同じだとすると、この説明でパズルのピースは繋がります。

Question Zero―そもそもの謎

紛失後の展開は幾通りも考えられますが、最大の謎は「なぜにこんな物騒な携帯がクパティーノ本社から外に出たのか?」、これに尽きますよね。

話の残りのところ ―例えば「平社員は秘密のアップル製品について詳しく知らされてないので、狂言で片付けてしまった」のとか、「アップルのベータ版ソフトはアップルのサービスをサポートしてなかったりするので、窮地から救ってくれるはずの機能も肝心のところで使えなかった」のなんかはアップルのアイデンティティーに合うんです。

でも全体の話の流れの中で一点だけアップルらしくないのが、そこ。トップシークレットのハードを社員に巷で使わせてたんですよ? 一般人に混じって、パスワードロックなんかの単純な保護もかけずに(まあ、初代iPhoneはフィールドテストに200人投入してるので、アップルがテスト段階で外に持ち出すのはこれが初めてじゃないですけどね)。

あの噂にきく(奇妙な)アップル社内機密保護規則は一体なんだったの!? リーク犯探しのゲシュタポは何してんだい!?  今回の件が前例のない、信じられないほどユニークな失態なのか、それともアップルの秘密主義をこっちが買いかぶり過ぎていたのか? 秘密を守るのは確かにうまいけど、アップルも人間なんですね...。

この失態 ―アップルの失態― に限っては謎過ぎて説明を求めるだけ無駄という気がします。まあ、もう二度と起こらないことだけは確かでしょう。

John Herrman(原文/satomi)