マイクロソフト、Kinがねらう市場とは

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二兎を追う者...大丈夫でしょうか?

マイクロソフトから、新しい携帯電話のKin(コードネームではProject Pinkだったもの)が発表されました。今年末発売予定のWindows Phone 7とは別のプラットフォームだそうです。さらにアプリは基本的に全てデフォルトのもののみ。なぜ、全く違うコンセプトの商品をこの近い時期に発表したのでしょうか?

明らかに、Windows Phone 7とKinの二股になっています。Windows Phone 7に自信がないから、控えを用意した、とも解釈できます。または、単なる社内競合の果てにこうなってしまったのか?アップルとかグーグルがいるのに、内輪でカニバってどうする?と見る向きもあるでしょう。

でも、マイクロソフトは成り行きでKinを作ってしまったわけではなく、ちゃんとしたねらいがあるようです。そのねらいとは?

続きでお伝えします!

 

どうした、マイクロソフト?

おそらく、多くの人が以下のような疑問を持つと思います。

・Kinは16歳~30歳がターゲットで、Windows Phone 7は25歳以上がターゲットらしい。それだと、25歳から30歳の層が混乱してしまうのでは?

・Windows Phone 7が25歳未満向けでないなら、Xbox Liveが統合されているのはなぜ?さらにKinにはXboxが入っていないのはなぜ?

・Windows Phone 7とKinは相互補完的なもの、のつもりらしい。それなのに相互に移行できる手段がないのはなぜ?

・アップルが若年層向けに、iPod TouchをiPhoneへの入り口として売り込み、アプリを使わせることで成功しているのに、真似しないのはなぜ?

マイクロソフトのWindows Phone 7プロダクトマネジメント部門ディレクターのアーロン・ウッドマン氏に、この質問をぶつけてみました。すると意外にも、彼はこうした疑問に対する明快な答えを持っていたのです。

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ユーザーを多面的に捉えている

マイクロソフトは、意図的に全く違う製品を全く違う種類のユーザーに売ろうとしています。それらはお互いにまったくかぶらないように設計されています。もしかぶるとしたらそれは数年後で、そのときにはそれぞれの製品も共通する点が増えているでしょう。

ターゲットがかぶっている、と思われる20代後半でもそれほどの混乱はない、とマイクロソフトは考えています。なぜなら、今回のターゲティングにおいては、年代での分類よりも、心理的な面での分類を重視しているからです。

マーケティング用語っぽい話なので、事例で説明しましょう。たとえば、同じ27歳でも、両親より収入が多いという人もいれば、一定した仕事に就いていないが、夜の街にはやけに詳しいという人もいるでしょう。前者にはWindows Phone 7、後者にはKinが向いているようです。ウッドマン氏はさらに、「40代男性でも、離婚したてで、可処分所得もあまりない、という人は、より安価でシンプルで、かつつねにSNSとつながっているKinがあれば、新しい生活のスタートに役立つのでは」としています。

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Xboxについては?

ウッドマン氏は、Xboxについては、確かに25歳以下のユーザーが興味を持つものだと認めました。でも同時に、Windows Phone 7では本格的なモバイルゲームプラットフォームを開始する予定だともしました。そのため、ゲームデベロッパーを逃がさないためにも、ハードウェアのスペックは一貫して高性能でなくてはならないのです。KinのTegraチップセットならインターフェースは滑らかになるでしょうが、まだ、少なくともWindows Phone 7の端末のようなレベルで3Dゲームが動くほどではありません。

またウッドマン氏は、XboxはKinに興味を持つユーザー層にとって魅力的な要素になると認めてはおり、「Xboxのそうした価値は、機会として捉えている」と述べています。つまり、3Dではないにしろ、何らかのXbox Liveのカジュアルゲームが遊べる可能性が残されているのでしょうか?ウッドマン氏は、今後の製品についてはコメントを避けました。開発中とされるZune HD2には電話機能はありませんが、Windows Phone 7のゲームを動かせる性能があるとされ、この端末が何らかの形で生かされるのではないかと期待できます。

Windows Phone 7とKin相互に移行したいユーザーに関しては、Windows Phone 7とKinに共通するユーザー体験が、特に登録制の音楽サービスZune Passにはある、とウッドマン氏は言います。また、全ての携帯電話端末はMicrosoft LiveのIDを持ち、そこに決済や個人情報がひもづけられるのです。

ウッドマン氏に、KinでXboxを使いたい、と言ってみました。また、KinのStudio機能(テキストメッセージや写真などが、携帯端末とシンクしてオンラインで保存される機能)をWindows Phone 7のオプションとして使いたいとも要望してみました。彼は特に確定的なことは言いませんでしたが、「数年後には、それぞれのプラットフォームの相関が高まってもおかしくはない」と言いました。まあ、マイクロソフトにありがちな「いつかそのうち」トークのような気もしますが、Windows Phone 7とKinのこれまでの経緯からすると、将来的にどちらかのプラットフォームの計画が変化していくのはそんなに難しい話でもないでしょう。

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打倒iPhoneは?

では、アップルの戦略にはどう対抗するのでしょうか?若年層にiPod Touchでアプリを使わせて囲い込み、iPhoneに誘導していくやり方が、正しくはないのでしょうか?

でも、この疑問は、自分で調べてみることで解決しました。僕の16歳のいとこ、ケイティのFacebookをチェックしてみたところ、アップルのやり方が両刃の剣だと気付いたのです。以下はケイティのFacebookからの引用です。文中の「itouch」はiPod Touchのことのようです。

itouch持ってる。itouchゲットしたとき最初思ったのはiphoneがすごくほしーと思った。だってアプリとかみんなあるから。でもitouch使ってたら、itouch持ってるのにiphoneと両方持つの意味なくね?と思いはじめた。iphoneでタイピングするのってホントうざくて、てかキーボードならちょーはやく、見ないで打てるのに、iphone・itouchだと集中して見ながら打たないといけないし、すぐめちゃめちゃになるし、タッチスクリーンてすぐ反応するからホントうざい。

これを読む限り、ケイティはiPod Touchを使ったことで、iPhoneを使わなくなってしまった、と言えます。また、少なくとも現時点ではケイティはKinに興味があるようです、というのは、ハードウェアにキーボードがあるからです。

マイクロソフトはこうしたユーザーにKinが響くと考えています。そして、Windows Phone 7のような高機能なスマートフォンを作りつつ、そこまでスマートじゃない電話も精力的に追及することは、リスクは高いものの戦略としてはアリだ、と考えても十分な状況なのでしょう。

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自動車市場との類推、または世界は広い

Kinのマーケティング素材の中にこんなくだりがあります。

ホンダはCRVとElementを製造販売しています。どちらも中型のSUVですが、スタイルや機能、提案する価値が異なります。前者は都会的なドライバー、後者はアウトドア好きなドライバーに向けられています。これによりホンダは、異なる消費者層に対し同時に訴えかけることができ、マーケティング上の優位性を持つことができます。

自動車と携帯電話を同じように考えていいのか、という疑問は多少残りますが、確かに現在のマイクロソフトがねらっているのは、ホンダと同様、二兎を追って二兎を得るということなのでしょう。

自動車も携帯電話もとても大きな市場なので、その市場を適切に分類し、そこに対し適切な製品をアピールできれば、意味があることでしょう。ガートナーの調査によると、去年は2億台のスマートフォンが売れました。でも携帯電話市場全体で12億台が売れているので、スマートフォンはその6分の1に過ぎません。つまり、スマートフォン市場だけで考えるとKinを作った意図がよくわからないのですが、より大きな非スマートフォン市場に目を転じると、わかってくる気がします。

iPhoneがどんなに早く普及しようと、マイクロソフトがどんなにスマートフォン市場で巻き返そうとしても、そのかたわらには(当面は)より大きな非スマートフォン市場が存在し続けます。Kinが、端末も契約も安価に抑えられるとしたら、サムスンやLGやノキアといった安価で一般的な電話と戦えるでしょう。それはアップルやグーグルと戦うよりも楽なものかもしれません。

マイクロソフトは10億台の非スマートフォン市場の中に、スマートさを求めるユーザー層を見出し、彼らに対して(非スマートフォン市場の中では)一番スマートな製品を投入しようとしているのでしょう。

[Full Coverage of Microsoft Kin]

Wilson Rothman(原文/miho)