アップルが次世代iPhoneを失くした顛末

2010.04.20 16:00
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その店の名は「Gourmet Haus Staudt」。
本場ドイツのエールが飲めるご機嫌な飲み屋です。

ここに一杯機嫌で次世代iPhoneを置き忘れてきてしまったのが、グレイ・パウエル(Gray Powell )さん、27歳。

写真の才能もあるパウエルさんはノースカロライナ州立大学を2006年に卒業し、今はAppleでiPhoneのベースバンドソフトウェア(電話をかける時に使うちっちゃなプログラム)のエンジニアを務めています。


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それは去る3月18日のことでした。

パウエルさんは、カリフォルニア州レッドウッドシティにある良い雰囲気のドイツ産ビアガーデン「Gourmet Haus Staudt」で輸入物ビールに舌鼓を打っていました。

く~極楽! 飲み屋も最高なら、ビールの味はまた格別! 早速パウエルさんはフィールドテストで持ち歩いてた次世代iPhone(傍目にはiPhone 3GSにしか見えないようカモフラージュしてる)から、こう打ちました。

「ドイツ産ビールを侮ってたよ」

まさかそれが最後のFacebook更新になるとも知らず...。

そうなのです、こう打った直後、パウエルさんはうっかりスツール(背の高い椅子)の上に極秘の端末を置き忘れて家に帰ってしまったのです。アップルが製品リークにいかに厳しい態度で対処するか思うと、このビールのつけは...高くつきそうです。


(ほぼ)鉄壁のセキュリティ


 


アップル伝説の磐石なセキュリティは、これまで完璧に狙い通りの効果をあげていました。

工場からボケボケの写真がリークするとか、発売間際になってアップルが戦略的に提灯メディアに吹き込んだ情報が出るとかいう小物はありましたが、大きな魚はすべて一部の隙もなく守られてきたのです。

クパティーノにある本社敷地内ではガジェットもコンピュータも守るべき価値ある製品はすべて装甲ドアの影に置いて守ってます。ドアには数分置きにコロコロコードが変わるセキュリティロックをかけ、試作機はぜんぶ机にスライド錠で括り付けて。こういうラボの中でハードウェア、ソフトウェア、インダストリアルデザインを担当する小人たちはひっそりと働いてます。同じ製品なのに別々に分かれてせっせと。最終的にどんな製品になるかの大枠も知らされないまま。

社内の隅々ではアップルの秘密警察が目を光らせています。彼等のチームのミッションはひとつ、「 誰も余計なことは外部に話さないようにすること」。リークがあれば犯人を突き止め、ビルの外につまみ出します。必要とあらばロックダウン(抜き打ち検査で部署ごと外部との接触を絶って携帯を没収しマシンの中まで調べること)など恐怖戦術の行使も厭わないメン・イン・ブラック(黒服の男)。機密漏洩の最後の防衛線には、この彼等が控えています。アップルの最悪の悪夢を回避してくれる人材としてジョブズは彼等を頼りにしているのです。戦略的製品の機密情報が漏洩すると、無料でやってもらえる何百万ドル分のマーケティングPRがブチ壊しになってしまいますし、製品のニュースサイクルにもアップルのコントロールが効かなくなりますからね。

でも人間、完璧なセキュリティなんてないんです。落し物だってする。人間なんだから当たり前です。例えば次世代iPhoneでも、落とす時は落とすのが人間なのです。


落し物、発見の経緯

かくして3月18日深夜、アップルが天高く張り巡らせたセキュリティの鉄壁はガラガラと音を立てて崩壊しました。それも本社のInfinite Loopからたった20マイル先の飲み屋で! パウエルさんたちがみんなヘベレケに酔って仲良く盛り上がった、その晩に。


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忘れたiPhoneは結局、隣に腰掛けていた人の手に転がり込みました。彼も友人ひとりと飲んでいたんですが、パウエルさんが隣のスツールに座っているのは知っていたけど、そんなに気にも留めていなかったそうです。

気になり始めたのは、パウエルさんが店を出た後、やはりベロンベロンに酩酊した反対隣の男が話しかけてきてからです。トイレから椅子に戻ってきたその人は、アップルの若手エンジニアが椅子に置き忘れていったお宝のプロトタイプを目ざとく見つけ、指さしながら、こう言ったのです。

酩酊男「へ~い、メ~ン、これおまえさんのiPhoneじゃね?」
入手男「え、なんですか?」、「いやいや、僕のじゃないですよ」

酩酊男「おおおおお~、じゃあおまえさんの友だちのだねー」(トイレに立った友人の意) 「ほら、持っておけよ」「失くしたら大変だろ」

と言ってしまうと、そのどこぞの名も知らぬ酩酊男は店を出てゆきました。

入手男は周りの客に聞きまわってみましたが、誰も自分のじゃないと言います。そういえば隣に若い男が座ってたなと思って、友人とふたり店に残って帰ってくるのを待ちましたが、結局パウエルさんは帰ってきませんでした。

入手男は待ってる間、携帯をいじってみました。見たところ何の変哲もない普通のiPhoneです。「僕もその時はただのiPhone 3GSだと思っていたんですよ。[...]見た目もそうとしか見えなかったし。カメラ使おうとしたんですけど、3回クラッシュしました」と、彼は後日電話取材で言ってました。

そのiPhoneは一見、特別な機能があるようにも見えなくて、ただバーコードが後ろに2つ、「8800601pex1」と「N90_DVT_GE4X_0493」とついてるだけです。ボリューム調整用のキーの隣にはもうひとつシールが。そちらは「iPhone SWE-L200221」とあります。 それ以外はアプリが6ページ分あるだけでした。

...その中にFacebookがあって、開いてみたらAppleエンジニア、グレイ・パウエル(Gray Powell)さんの名前がそのFacebook画面上にあったのです。


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明日返してあげよう、そう思って彼は店を出ました。

ところが朦朧とした晩から一夜明けてみたら、なんと携帯が死んでいるではありませんか。遠隔でブリック化されたのです。紛失したiPhone端末の所在を探し当て、中の情報を消去する際に使うアップルのMobileMeというサービスを通して。

なんか、おかしいぞ。―そのiPhoneに奇妙な点があることに気づいたのは、その時です。そういえば外見も不自然だし、カメラが前についてます。いろいろいじっていると、3GSのケースがパカッと外れ、なんと中から、それまでのとは全く違うまぶしいものが出てきたのです。


その後

Gizmodoが入手したのは、何週間か経ってからです。見ると、本物です。一通り中と外を見たら、それが本物であることには一点の疑いもありませんでした。入手に至った経緯は伺っていましたが、これが確かにパウエルさんの携帯とわかったのは今日になってからです。その携帯から彼に電話をかけてみたんです。

Gray Powellさん: はい、もしもし?
John Herrman: パウエルさんですか?
G: そうだよ
J: どうも、Gizmodo.comのJohn Herrmanです。
G: Hey!
J: お勤め先はアップル、ですよね?
G: えーと今はちょっとあんまり話せないよ。
J: ですよね。端末こちらにお預かりしてます。もしかしてバーに置き場所間違えた端末かもしれないので、お返ししたいと思って。
G: そうしてくれると。君から届いた(iPhoneの持ち主か尋ねる)メールは転送しといたので、きっと誰かから連絡がいくはずだよ。
J: OK。
G: この(君の)電話番号も一緒に送っていいかな? 
J: (僕の連絡先)

疲れて弱りきった声でしたが、少なくとも生存は確認できました。まだアップルで働いてるようで、これは何よりです。iPhoneなんかでクビにされたら堪りませんもんね。人間誰だって間違いはあるものです。グレイ・パウエルさんでもフィル・シラーでもあなたでも僕でもスティーブ・ジョブズでも。

いやあ、それにしてもアップル伝説のセキュリティを突き崩したのが、よりによってビールと人為ミスとは。やはり侮れないです、ドイツ産ビール。


追加取材:John Herrman/取材協力:Kyle VanHemert、Matt Buchanan、Arianna Reiche---感謝!


Jesus Diaz(原文/satomi)
 


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