アップルは広告嫌い(ただしiAd以外に限る)

アップルは広告嫌い(ただしiAd以外に限る) 1

アップルが半端なこと言わないのは有名ですけど、Safariリーダーはすごいですね、「ウェブ広告はコンテンツの邪魔」と言い切ってますよ。そう言いつつ「iAd」で広告参入ですから、いやはやなんとも。

常日頃からオープンウェブ推進派をアピールしているアップルは、こないだもSafariでしか動作しないHTML5なんてものこしらえてましたっけ...。今もここでHTML5ショーケースってとこクリックするとSafariをインストールするよう促してきます。単なるサンプルで目くじら立てるのもアレだけど、MozillaエバンジェリストChristopher Blizzard氏なんかは「相互運用性のないHTML5を出しといてSafariを広めるとはけしからん」と書いてましたよね。

さて、月曜ひっそりリリースした「Safari 5」に装備されてる「Safariリーダー」は、あのiPad/iPhoneアプリ「Instapaper」みたいに、その邪魔な広告をワンクリックで隠し、記事の文章・画像だけ拾い上げて美しいレイアウトで読める機能です。複数ページにまたがる記事も全文一括表示して、「鬱陶しい広告、その他集中の妨げになるビジュアル」(アップル英文解説より)をきれいサッパリ取っ払って読めます。こんな風に。

InstapaperとSafariリーダーの主な違いは何か? Instapaperの方はネットで気になる記事があればiPhoneで後で読めるよう作られたアプリであるのに対し、SafariリーダーはSafari開いて読んでるウェブページの真上に別のページが立ち上がるんですね。つまりアップルがやってるのは、ウェブページをリッピングして、リフォーマットして、Safariの中で再表示することで、ネット読書環境を快適にするのみならず、殺菌してウェブへの侮辱を表明している行為に他なりません。

ユーザーの利便性に極めてフォーカスした機能であることは確かなので、Safariユーザーはその点から擁護すると思うんですが(広告好きな人なんていないからね!)、僕が嫌だなあ...と思ったのはiPhone/iPadアプリ向け広告プラットフォームを正式に立ち上げたその日にSafariリーダーを発表するという、このタイミングですね...。

このSafariリーダーについて、早速ハイテクアナリストのジム・リンチ(Jim Lynch)さんは、「アップルの大量殺戮兵器」と、まるでこの世の終わりみたいな展望を書いてますよ。

 一言でまとめると、Safari 5は「広告ブロッカーを内蔵した初のブラウザ」であり、複数ページを一括表示することでページビューを減らし、表示スタイルを決める権限をパブリッシャーから奪ってしまう、と言うんですね。

Ars Technicaも「ウェブを裏切りiPadをピカピカ飾り立てるアップルの"邪悪/ジーニアス"なプラン」と、これまた黒魔術的タイトルを打って批判。当座このスクリプティングで広告は呼び出せるんだけど呼び出しても広告が表示されないのだそうで、これが人気機能となれば他のブラウザも追随するだろうし、そしたらパブリッシャーは広告収入が減って先行き危ういだろう、と書いてます(僕はそこまで酷いことにはならないと思いますね。たぶんiPadのSafariの機能として使いたいせいか...この機能はiPadの方がもっと使えると思いますよ)。

他方アップルは自分でiAdを売るわけです。

パブリッシャーはSafariリーダーを通した先の自社コンテンツ表示スタイルは一切いじれない。でも、「Wired」や「Popular Mechanics」みたいな雑誌アプリ作って、アップルのiAdプログラムでそこに広告出したら、ブロックされないんです。すごく深いところまでインタラクティブな広告だし、他の広告サービス --少なくとも非独立系の大手-- が絶対回収できない情報も回収できるというわけですね。

WWDC基調講演でスティーブ・ジョブズCEOがいかにのめり込める(エンゲージできる)広告かいじってみせてiAd宣伝しましたが、なんか変ですよね。いやだってどんなに格好良くても広告は広告、広告とインタラクトしたい人なんかいるわけないですもん、ね? 

ところが広告主はどうもインタラクトすると思ってるようなのです。業界内部の人から聞いた話によると、広告プラットフォームとしてのiPhoneに対する関心はずっとあったのだけど、プレミアム広告 ―エンゲージメント・ベースの広告― を流す手法はiAdが初めて。それで、アップルが披露してる『トイ・ストーリー』みたいな広告を自分たちも作ろうよ、ってことで我も我も気運が高まってるそうなんですねー。アプリ内にいきなり「エクスペリエンスが投入」できるんだから、そりゃそうでしょう。だから広告主もiAdに既に6000万ドル(54.7億円)なんて投資を注ぎ込んでるんです。その人は言ってました、広告主はこういうウンコが大好きなんだよ、だって伝えるメッセージは昔から同じでも、それにインタラクティビティで蓋できるし、人がキラキラした新しいものに夢中になると自分も同じぐらい夢中になってしまう人たちだからね、と。

それもあるし、あとアップルが基調講演で紹介枠を確約したから盛り上がってる、というケースもあるんでしょうね。ベンツで日々激走するジョブズがiAdの説明で日産Leafをサンプルに使ったのが単なる偶然と思ったら大間違いで、日産とアップルは広告代理店が同じTBWA/Chiat/Dayなんですよ。

いやあ、巧いです。ウェブ向けには広告ブロッカーを出し、返す刀で間伐入れず広告プラットフォームを出す。そしてこれがウェブで最も広く普及しているもうひとつのインタラクティブ広告形式(Flash)を締め出した端末に文字通り監禁されたオーディエンスに広告を流す優れた手法となるプラットフォームというんですから...。

パブリッシャーから見ると、ちょっと妙どころじゃなく妙で、パブリッシャーが大好き、助けたいとあれだけ言ってるアップルは一体なんなのだ、と...。パブリッシャーにとって一番の得策は最も汎用性の高いプラットフォームで自社コンテンツが読めるようにすることなんですけど、アップルが現実に差し伸べる救済への道はただ1本、AppStoreを通る道しかないのでございますよ。

<ウェブは救ってくれませんよ> ...売り込みは続きます... <だってウェブ広告はひどいですもん --Flash使ってるかもしれないしね!--  あんなものどっちみちみんなにブロックされるか無視されるかでしょ。>

でもじゃあiAdは?  <そりゃイノベーティブで、訴求力の高い、インタラクティブな広告ですよ。Instapaperみたいなブラウザ専用プラグインも許可しないプラットフォームの上だし。絶対無視できませんて。> 

ということなのかな。

写真:Brendan Limさんに掲載許可をいただきました。

matt buchanan(原文/satomi)