コーヒーギーク達に最も愛されたエスプレッソマシン MIss Silvia

コーヒーギーク達に最も愛されたエスプレッソマシン MIss Silvia 1

コーヒーが好きだよ。大好きなんだよ。

Mark Frauenfelder氏の著書Made by Handより。エスプレッソが大好きなギーク達と、そんなギーク達に愛されたエスプレッソマシーンの話。

ほとんどの会社はメーカーフレンドリーな製品を作ることに興味はないだろう、でも時々、アクシデントのように、そんなメーカーフレンドリーな製品ができあがることがある。Rancilio Silviaはそんなフレンドリーなマシン。

Rancilio Silviaは1997年に誕生。Rancilio Silviaは商品として生まれたのではなく、Rancilioの高級レストラン並のエスプレッソマシンの輸入業者や販売代理店への御礼の品として作られたのが始まりだった。そして、このマシンは多くの商品といろいろなパーツを共有し、修理修繕をくりかえし、愛されるマシンになっていったんだ。

Rancilio がSilviaを家庭用商品として売り出す事を決めると、コーヒーギーク達はすぐにSilviaに飛びつき、改造できるようなハッキングプラットフォームを整えた。alt.coffeeのコーヒーギーク達はSilviaを使いこなしその詳細を細かく丁寧に記録していった。多くのコーヒーギーク達の手によってSilviaの詳細が研究されその情報はインターネットで共有され、SIlvia は史上最も資料が豊富なエスプレッソマシンになることとなった。さらにコーヒーギーク達はRancilioからSilviaの図式を入手し、PDFを配布。そうするうちにSilviaはMiss Silviaと呼ばれるようになった。ミスとつける、擬人化する、人々がどれだけSilviaを愛しているかがわかるだろう。コーヒーを飲むための大好きな道具としてだけでなく、Miss Silviaはもっとリアルに人との関係を築いていったのである。

コーヒーギーク達は、Miss Silviaを実によくできたマシンであると称したが、彼女(Miss Silvia)のある欠点について頭を悩ませていた。それは温度調節がいまいちなところ。ほとんどの家庭用エスプレッソマシンがそうであるように、Miss Silviaもバイメタルサーモスタットを使用していた。水が冷たいと、サーモスタットを通して電流が流れ、パーツを暖め、結果それが水を温める。水が十分に熱されると、サーモスタットがオフに切り替わる。このタイプのサーモスタットの問題点は、ヒーターをオフに切り替えた後も、ヒーターにはまだ熱が残っているということ。そしてその熱が水を温めつづけてしまうということ。逆も然りで、お水の温度が下がってヒーターがまたオンになっても、ヒーター自体が暖まるまで時間がかかるので、その間お水の温度が下がりつづけてしまうということ。

しかし、コーヒーギーク達はSilviaを見捨てなかった。Silviaにはたくさんのいいところがある、だから致命的かもしれないこの温度の問題をなんとかしようと、コーヒーギーク達はSilviaのためにたちあがったのだ。愛すべきSilvia。alt.coffeeのギーク達はSilviaのために、温度調節をする技術を開発することにした。

2001年、alt.coffeeの常連コーヒーギークのGreg Scace氏がSilviaの温度問題について詳しく調べた。そして、その結果Scace氏は、Mark Prince氏(通称Coofeekid)によってつくり出されたCheating(別名Tickling)と呼ばれる、かなり複雑な温度調整の方法をSilviaに組み込む事にした。このCoffeekidの技術によって、1度というレベルで温度の調整ができるようになった。

またPrince氏がCoffeekidの方法を組み込んだ同じ月に、また別のalt.coffeeメンバーであるAndy Schecter氏は温度調節問題をなんとかしようとして、SIlviaのバイメタルサーモスタットをPID制御の温度調整コントローラーに置き換えるという方法を試していた。これによって、温度の調整を1度から2度のレベルで変化させることが可能になった。

Shecter氏は「心のなかで、これはSilviaのエスプレッソマシンとしての可能性を考えられないくらい無限に広げた、と思いましたよ。」と語る。

その1ヶ月後、Greg Scace氏はSilviaに温度調整コントローラーを入れこんだ2人目のコーヒーギークとなる。結果はとても満足のいくものであった。彼が語るには「PID制御のコントローラーを入れることによってとても満足のいく結果がでています。今までは水を熱くするのに、ヒーターのスイッチをいれて温めて、35秒待って、それでやっとエスプレッソのショットを淹れる事ができた。今はただ温度を見てればいいだけです。MIss Silviaを改造して僕のコーヒーはますますおいしくなりました。」

また、その同じ日、Chris Beck氏もSchecter氏に相談し、無事PID制御装置を彼のSilviaに入れ込むことに成功。これでPID制御装置をいれこんだ改造をしたコーヒーギークは3人に。その後はあれよあれよと言う間に、alt.coffeeを通してどんどん世界中にこの改造方法が広がっていった。そうこうするうちに、PID制御装置をいれこむための全部入りキットまでがコーヒーギーク達の手によって売られるようになった。

ここで私もPID制御装置取り付けをやろうと決意。IntelligentsiaのKyle Glanville氏にSilviaのPIDキットはどれがオススメか尋ねてみた。すると彼はアドオンキットにはドリルで穴を開けたり、パーツを切ったり削ったり、はんだごての作業等が一切不要なものがあることを教えてくれた。そのキットとはコーヒーギークの1人、ケンタッキーのレキシントンに住むJIm Gallt氏の作ったキット。さっそくGallt氏のサイトpidkits.comへ行って購入! 値段は280ドル(約2万4千円)程度。Silviaの半分くらいの値段である。数日後には、靴箱くらいの大きさの箱が到着。中には、電気部品、ワイヤー、取り付けようの部品等がビニールに入って並んでいた。作り方の書いてある付属のCDも。

Silviaの持ち主達はみんなSilviaをまるで女の子のように扱う。作り方説明書の中でも「彼女」と称している。Gallt氏から送られてきたキットも例にもれずそうだった。個人の手によって作られている多種多様なキット、そのどれもが説明書が簡単で、組み込みやすく、中国から輸入されているわけのわからないキットとは大違いだった。Gallt氏のPIDキットは実によく作られている愛すべきキットである。ケーブルは全てきれいに巻かれてジップロックのバックにまとめてあった。サーモスタット用の熱伝導ペーストの入った小さいチューブまで中に入っていた。このような細かいところまで気がつくとは、Silviaへの愛がなせる技だろう。

PID制御装置をSilviaに組み込む作業は実に楽しかった。カバーを外して中が見えるようにして、ボルトとナットでリレーを取り付けて行く。リレーを使うのは電気回路系では常識である。物理的に指でオン/オフのスイッチを切り替える部屋の電気スイッチとは違い、リレーを使うと電気の力でオン/オフの切り換えができる。温度調整システム内でリレーはPID制御装置から「電圧が低くなってるよ!」という連絡がくるのを待ち、それによってボイラーのオン/オフを切り替えるわけだ。

次は、既存のサーモスタットボイラーからワイヤーを外し、熱電対を代わりにとりつけていく。熱電対とは、PID制御装置によってボイラーの温度をはかるためのものだ。PID制御装置とはつまり温度を測る小さなコンピューター。このコンピューターは、現在の温度を測るようにプログラムされており、減じアの温度と目的の温度の差を計算し、どれくらい早く目的の温度まで温度を変化させられるかをはじき出す。こうやって導きだされた情報により、熱し過ぎやさまし過ぎになることなく迅速に目的の温度までもっていくことができるのである。これは実に複雑な電圧の切り換え、つまりはボイラーのオン/オフ切り換えをしているということだ。

目的の温度に近づくと、リレーはボイラーをほんの一瞬だけオンにする、そして表示ランプをピコピコとやる。PID制御装置にもLEDの表示ランプは2つあり、現在の温度と目的の温度を示している。alt.coffeeのギーク達のほとんどが228度がベストなエスプレッソのための最適温度だとしているが、もし、自分でいろいろ試してみたければPID制御装置についているボタンで簡単に目的の温度を変更できる。

PID制御装置をくみこむのにかかった時間は4時間程度。作り終わって考えてみると、キットから何かを作るのは、全くのゼロから自分でつくるのとはかなり違う経験だった。ゼロから作るときはトライ&エラー、試行錯誤の繰り返しである。とは言っても、キットから作っても、エスプレッソマシンがどのようになっているのかがよくわかった。作り方説明書の通りにやると言ってもそこにもやはり、自分が手作業している十分な気分が味わえるし、やはりトライ&エラーも多少はあるのだ。

取り付けを終えて、カバーを戻す。マシンをキッチンんへと運ぶ。タンクに水を入れてスイッチをいれる。初めは70度くらいだった水の温度が、、静かにしかし着実にあがっていく。228度に近づくと、ボイラーの表示ランプがついた、ボイラーがオン/オフを繰り返して完璧な温度へと近づけて行く。昔の電気リレーと違って最近のものは可動部分がないので、実に静かなものだ。数分後、温度は228度に! 一瞬228.2にあがったがすぐに228度にもどった。

Black Catというコーヒー豆を引き、フィルターにいれる。初めてのPIDエスプレッソショットのできあがりだ。キャラメルエスプレッソのピューレをカップにたらす、上にはクリームを。今まで飲んだどのエスプレッソよりも美味い。これからは2度と温度調整で悩む事はないんだな。デミタスカップを掲げて、この小さな満足に乾杯である。

自分でマシンを開けて、改造して、自分だけのマシンをつくった。なんていい気分だろう。

Copyright © 2010 by Mark

(※以下文中の温度は全て華氏度です。)

閉鎖的ではなくオープンなマシンだったからこそ、たくさんの人が改造できこんなに愛されるMiss Silviaは誕生しました。致命的な欠陥があった、けどたくさんいいところがあるんだもんなんとかしたい、そう言って改造していったギーク達、それを共有したギーク達。これも全てしびれるような香りいっぱいの琥珀色した飲み物の持つ魅力なのでしょうね。

llustration: Nikki Cook; Hacked Silvia image via Make:

Mark Frauenfelder(原文/そうこ)