「セグウェイで乳母車を押すお母さん」に訂正とお詫び

「セグウェイで乳母車を押すお母さん」に訂正とお詫び 1
3年前の記事原文)に訂正とお詫びです。セグウェイでベビーカーを押す女性を「怠け者」と笑った自分は本当に大馬鹿者でした。写真の女性メリッサ・ホフステッター(Melissa Hofstetter)さんにはお詫びの言葉もありません、本当にすみませんでした。

ネットではみんな匿名でひどいこと書くし、チープでも笑えれば相手のこととか本当の事情なんか深く考えなくてもいい...みたいな風潮があります。そういうものに責任転嫁するのは簡単だけど、違いますよね、これはひとえに僕が悪い。申し訳ございませんでした、メリッサさん。

編集部に身内の方から連絡をいただいて初めて知ったのですが、メリッサさん、実は15年前がんで左足を失い、セグウェイは歩行用補助器具として使っていたんですよ。特に坂道は歩くのも一苦労なので。車椅子と違ってセグウェイは小回りがきくし、立ったままの姿勢が保てるので、相手と同じ目線で話をして自由に動き回れるからということで...。

例の写真は、シアトルの家族を訪問中、甥夫婦が忙しくてお嬢さんの面倒見れないので代わりに見てあげてた時に誰か通りがかりの人が ―誰かはわかりません-- 撮ってネットに公開し、珍画像としてアッという間に広まりました。

ちょうどそのころ撮った別の写真も、どうぞ。あのかわいい女の子と一緒のツーショットですね。

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本当に申し訳ございませんでした、メリッサさん。こうして親切な甥のJoshuaさんが編集部に知らせてくれなかったら、まさかあの写真の背後にそんな事情があるとは夢にも思わず、ずっと「セグウェイに乗った怠け者」と思い込んでる目出度い奴でいたと思います。

Josh(=Joshua)さん(ご本業はがんの専門家です)が教えてくれた真相―メリッサさんの身に何が起こったか―を以下に記しておきます。Joshさん、本当にありがとうございました。僕もメリッサさんは誰が見ても素晴らしい女性だと思います。

 

メリッサは1995年に間葉性軟骨肉腫(肉腫がんの一種)と診断されました。当時3歳と5歳と9歳になる子どもを抱え、「5年生き残る確率は50%」と言われた人です。腫瘍を小さくする目的で化学療法にも数ヶ月耐え抜いたのですが、効果がなかったため、結局ひざの上を切断しました。

ゆっくり習得する過程を経て、今では義足で効率良く歩き回れるまでになっています。が、長距離移動は困難で、義足で長く歩くと痛くなることもしばしば。それを見兼ねた夫(おじ)が2001年、ひとりで歩き回れるようセグウェイを購入してあげたんですね。

名医とちょっとした運に恵まれたお陰でがんの再発もなく、おばはセグウェイに乗って世界中を旅しています、からだの不自由さに決してとらわれることなく。セグウェイは世界中お供して回り、子ども(と義家族)と一緒の暮らしでも重要な役割を果たしていますよ。みんなペースを合わせなくて済むんです。

この話題には僕自身とても関わりが深いんです。おばの闘病経験がきっかけとなって腫瘍専門の整形外科医の分野を志し、今は彼女みたいながんを抱える若い人たちの治療に当たっているものですから。僕は当時シアトル在住で、フレッド・ハッチンソン癌研究所とシアトルがんケア連合(SCCA)で研修医を務めていたんです。

からだが不自由な人全体の中では、患肢救済のある無しに関わらず腫瘍切除手術で手足を失った若い人は本当に少数派。それはおばを通して実感しました。 車椅子専用駐車レーンに停めたり、セグウェイに乗ってショッピングモールを移動すると、人に怒鳴られるわけですよ。でも、なにも80歳の車椅子の老人だけが障害抱えてるわけじゃないんですね。イラクやアフガニスタンから手足を失って帰還した若者を見ても分かるように。そこのところはもっと意識を高め、社会の受け入れ態勢を整える必要がありますね。

ADAとセグウェイで検索すると、この今までにないデバイスをQOL(生活の質)改善に活用する方面では、うちのおばみたいな人たちがパイオニアだったことがわかります。最初の「アメリカ障害者法」(The Americans with Disabilities Act=ADA、障害を持つアメリカ人法とも)は1992年に作成されましたが、補助器具に盛り込まれたのは3輪と4輪だけだったんですよ。2輪車は実現が何年も先と思われていたので。

あの写真では僕の娘のベビーカー押しながら道を横断していますけど、あれは夕食の買出しにスーパーに行ったからああなってしまったんです。12年前に50/50の生存率だった人が、自力でシアトルまで旅して、僕と妻(ともに医師)が勤務中はこうして甥の娘の面倒も見て、僕らが帰宅した頃には晩ご飯の支度までちゃんとできていたんです。僕にとってこんな素晴らしい話はないですし、それにも増してこんな素晴らしい人はいませんよ。

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メリッサさんの近影(2009年のサンクスギビング、家族と)

初報でご迷惑をおかけしたメリッサさんとその子どもたち、甥のJoshさん、その他たくさんのみなさまには重ねてお詫び申し上げます。これ読んでるみんなも最初の写真転送して友だちと笑ってた何百万人のひとりだったら上の説明も是非見せてやってね。写真の中の人も生身の人間だってこと思い起こすきっかけになれば、もしかしてこのネットももっと住みやすい場になるかもしれないですし...。

[Thanks Joshua!]

イラスト:Sam Spratt (ポートフォリオFacebook Artist's Page

Jason Chen(原文/satomi)