【Giz Explains】リキッドメタルって何?

2010.08.23 23:00
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Appleが使用ライセンス契約を取得した「リキッドメタル」が巷で話題沸騰! ですが、みんなワケもわからず騒いでない? リキッドメタルって何? Appleはこれで何するつもりなの? ―リキッドメタルの謎に迫ります。


リキッドメタル

この聞くからにパワフルなネーミング。なんとなく『ターミネーター』から『おまかせアレックス・マック』まで連想してしまいますが、これ、オキシモロン(矛盾語)でもあります。だってリキッド(液状)のメタル(金属)ですもんね(金属も溶けたら液体になるから語弊があるけど)。

まさかアップルがT1000製造ビジネス参入なんてことないとは思いますが、この謎の新素材でなんか大きなこと企ててる可能性はありますよね。

と言っても、みんなリキッドメタルに興味津々なのは、なにもこれが「新技術だから」じゃないんです。リキッドメタルの市場デビューは2003年、開発まで含めたらもっと古くからある技術ですから。まさにその逆で、「新技術じゃないから」これだけ関心を集めているんです。

リキッドメタルの用途は広く、ゴルフのクラブから野球のバット、宇宙船、あの爆発炎上したBPの掘削機ディープウォーター・ホライズンはもちろんのこと、家電にだって使われてます。(例えば、コネクタがスライドアウトするUSBドライブ「SanDisk Cruzer Titanium」。そう、あれもチタンではないんです)


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こんだけ普及が進んだ素材を、アップルは採用するのみならず、いきなり「リキッドメタルテクノロジーズ社の技術特許を所有したい」と言い出したから、みんなオイオイと首をかしげてるんですね。なぜ? 他のみんなに見えなくてアップルに見えてるものがあるんだとしたら、それは何?  将来のApple製品と業界他社にとって、これが意味するものとはズバリなんなんでしょう? 
 

サイエンス

リキッドメタルの科学的定義はこんな感じです。

リキッドメタルとは、正式には「バルク金属ガラス」として知られる合金クラスに属するもの。衝撃に脆いところなど、ガラスの属性に最も近い属性を備えているのでそういう分類になってるんですね。融点は一定ではなく、高温になると徐々に一体性が損なわれていきます(じわじわ溶ける)。銅、チタニウム(チタン)、アルミニウム、ニッケルといったお馴染みの原料の混合体ですね。というわけで、そうなのです、基本的にはポリマー、アルミ合金、ガラスと同列の、ある種の物質なのですね。

作り方の秘密は、合金を混ぜて単に冷やすんではなく、もっと急速に冷却してアモルファス(非晶質)な合金にすること。こうすると原子構造が変わって、基本的性質まで変わっちゃうんです。

一般の金属は整然と並んだ結晶構造みたいな原子構造になってるのが普通なので、ぶつけたり曲げたりすると変形します。ですが、並ぶ暇もなくギュッと冷えてアモルファス(非結晶な状態)になった合金は原子の並び方がてんでばらばらなカオス(ある意味、液体)なので、ぶつけても曲げても元の形に戻る傾向があるんですね、液体みたいに。(ほとんどの金属は木目のように、ある決まった方向に粒子が並んでいるが、リキッドメタルは違う)

リキッドメタルが他のアモルファス(非晶質)合金と比べ何が特別なのか? というと、やっぱりリキッドメタルは簡単に作れるところが一番の違い。やや乱暴な言い方すると、他の類似の素材ほどには急速に冷却してやる必要がないので、もっと大量に冷却(製造)できるんでございます。

...という話はみなさんもどっか(2ちゃんとか)でもっと詳しく、あるいはもっと大まかに聞いたことあると思いますが、大学で物理科学専攻した人でもない限り、こういう説明聞いてもあんましピンときませんよね。なのでここは「ヘンな原子構造の素材なんだな」ってことでOKです。

では次に、これがどう重要なのかを一緒に考えてみましょう。


どんなモノなのか?

手の中にリキッドメタルが1個、あるとします。見た目はどうで、手に持った感触はどうなんでしょう?

リキッドメタル合金は見た目、普通の金属です。「そのメタリックカラーは他にはない独特の色だが、アルミニウムというよりはステンレススチールに近いね」―リキッドメタル社勤続10年以上で、現在はワシントン州立大学(WSU)新素材学部長を務める同社研究者のひとり、アタカン・ピーカー(Atakan Peker)博士はこう語ります。

「薄いカードや棒の形状だと、ステンレススチールやアルミニウムよりずっと柔軟な印象だ。しかし、もっと折り曲げると強度はずっとある感じがして、曲げるのにもずっと力が要る。... プラスティックをうんと強くしたものがリキッドメタル合金、と考えると早いかも」

なるほど~。このリキッドメタルの一番のすごさはエキストリーム(極限)な状態に近づくにつれ、その行動までエキストリームになるところにあります。この物質についてNASAがまとめたレポートにはこう書かれています。

実験では、ビー玉大のスチール製ボール3個を同じ高さから別々のガラスの試験管に落とした。試験管の底にはスチール、チタニウム、リキッドメタルと、1本1本異なるタイプの金属板を予め敷いておいた。落下後はボールがポンポン跳ね反るのが止まるまで放っておく。するとスチールとチタニウムの板に当たったボールは20~25秒間、リキッドメタルの板に当たったボールは1分21秒間跳ね反ることが分かった。実験中、試験管の外まで跳ね返ったボールは、リキッドメタルの板に当たったボールだけだった。

『フラバー』(ロビン・ウィリアムズ扮する天才科学者フィリップが発見した、無限に弾力を増やしていく脅威の物質フライング・ラバーの略)? ですかね?




まだよくイメージが掴めない人のために、博士はもっと分り易い喩えを伝授してくれました。

「リキッドメタル合金からペーパークリップを作ったとするよね。するとそいつはいつまで経ってもすごく柔軟なままなわけ。永久に壊しでもしない限り、指を1本か2本傷つけたり切ってしまう」

へー、リキッドメタル曲げようとすると、曲げようとする自分の方が怪我しちゃうんですね。分かりましたね、みなさん、はい。

...て、神話の確立手伝ってる場合じゃないですよね、現実を見ましょう、現実! 現実の製品化はそんなに成功ってほどの大成功収めてないじゃないですかね! あのSanDiskのキーもそうだし、サムスンだっていくつかの携帯機種の液晶フレームやヒンジにリキッドメタルの部品使ってはいますけど、そうでも言われないと他の機種とほぼ見分けつきませんよ?

まーしかし、一般電化製品から離れれば離れるほど、リキッドメタルの話は面白くなるんですよ...。例えば初期改良段階では、これを素材に採用した600ドルのクラブなんてのもありましたが、その驚異的弾性は人気だったものの精度がイマイチで、そんな強く打たなくてもヘッドがもげちまうとかバラバラに壊れるというんで知られていたのです。(この小さな騒ぎでリキッドメタル社の子会社Liquidmetal Golf社は「かなりの」借金を抱える羽目になった)

リキッドメタルはローリングス(Rawlings)の野球用バット、ヘッド(Head)のテニスラケットにも使われてますし、コアをこれで包んだスキー板もいくつかあります。製品に高級感を出す素材という扱われ方もチタンそっくりで、書類上は見栄えがいいので重宝されるんだけど、言われないと普通の人は気づかないんですよね。あのアンドレ・アガシも一時リキッドメタルのラケ使ってましたが、あのラケット使わなかったら2003全豪オープン優勝はなかったなんて思う人います?



軍ではアーマーを貫通するキネティックエネルギー兵器(Kinetic Energy Penetrator:KEP)の弾頭に型打ちして使ってますし、リキッドメタルは超高硬度の手術用メス、人の義関節にも使われてます。NASAにはファンもおり、何度か宇宙に送り込んで実験を行っているほか、墜落した探査機ジェネシスの上部の太陽風粒子回収用タイルにも使われていました。BPとトランスオーシャンの間で取り交わされたこちらの掘削契約書を見ると、メキシコ湾を汚染破壊した掘削機のドリルのパイプにもほぼ間違いなく「Armacor」という名前でリキッドメタルが使われていたことが分かります。(あの事件ではArmacorの名は出ていませんが)



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以上の話をまとめると、リキッドメタルは「超硬くて柔軟で型抜きも簡単にできる素材が使えそうだなあ...」と思うところどこでも使える素材、といえると思います。

これを一部使わせてもらうんならともかく、独占権丸ごと買い取るというのは、でも、変ですよね。ガジェット分野の応用では他の分野ほど大きな成功は収めてないわけだし、アップルが映画の悪役でお馴染みの軍産複合体、航空宇宙、深海掘削の会社とビジネスする動きにも取れるわけで、あらぬ方向に想像が膨らみます...(まあ、アップルとの契約上の取り決めでは、リキッドメタル社も一般電化製品以外の製品への自社技術のライセンス供与は許可される可能性もあるみたいなので、リキッドメタル社の肩越しにアップルが直接取引きとかは無さそうですけどね―Thanks, Ogged!)


Appleが欲しがる理由

アップルはリキッドメタルで何をしようとしてるのか? 知る方法は2つ。ダメ元でスティーブ・ジョブズ、ジョナサン・アイヴ、アップルのエンジニアに聞いてみることか、彼らの過去の発言を見てみることですよね。で、過去発言が示唆するリキッドメタル史上最大の応用先は、どうもiPhone臭いんです

Cult of Macブログのリーアンダー・ケイニーと談話中、ピーカー博士はiPhoneのSIMカード取り出し用工具のピンに不審な点があることに気付きました。

「見た瞬間にわかりました。エキスパートの見立てでは...あれ、リキッドメタルです」

聞きました!?  アメリカにお住まいのみなさん(米国以外はスチール製らしいので)、iPhone 3Gや3GSの箱に今すぐダッシュして、ピン引っこ抜いて、じっくり拝んでみましょう! そのお手元にあるのが噂のリキッドメタルですよ! (あ、iPhone 4のマイクロSIM取り出し用工具は違うそうですorz...)


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こんなちょこざいな道具にリキッドメタルが!


まー、ピン1本の正体が分かったところで謎は謎のままですが、少なくともこれで以下2つのことが分かります。 

1)使用権取得のだいぶ前からアップルはこの素材に注目していた。
2)アップルは、この素材を加工してこんな小さな道具が何百万個という単位で製造できるどっかの誰かさんを見つけた。

ピーカー博士によると、リキッドメタルが一般電化製品でブレイクしない理由は、素材本来の特性の将来性に問題があるからではなく、「これに相応しい製造インフラがない」からなのだそうな。誰も製造に本腰入れてないので製造コストが高過ぎる、だからダメなのだ、と言うんですね。しかしこれは解決できない問題じゃない。粘り強さ、金、ハードウェア製造に及ぼす影響力、この三拍子揃った会社があるだけで変わる。つまりアップルのような会社がひとつあれば変えることができる―かもしれません。

マテリアルサイエンティストの想像力の限りを尽くして予言すると、どうでしょう? ずばりアップルはこれで何をしようとしてるのか? ピーカー博士は「硬くて変形も腐食もなく傷に強い素材」となれば当然考えられるのはケースじゃよ、ケース、と言ってます。

プラスティックは柔軟だけども強度がない。メタルはプラスティックよりずっと強いけども、プラスティックほど柔軟じゃない。リキッドメタル合金なら、硬いプラスティックよりもっと凹み・切り傷・すり傷・損傷に強く、耐性に優れたケースができる。

プラスティックケースの携帯を落とすと、割れ目や傷がつきます。メタルケースの携帯を落とすと、凹んだり、切り傷がつきます。リキッドメタルのケースの携帯なら、まあ、ビョンビョン弾けておしまいですからね。1分と21秒とか。まあ、理論上は。

またまたリーアンダー・ケイニーと話してる最中、ピーカー博士はアンテナに使われるに違いないとの予想も立ててます。

リキッドメタルはアンテナにも使えるんですね。実際ベライゾン向けにNovatelが作ったワイヤレスモデムに既に使われてもいます。iPhone 4で問題が表面化したアンテナは、ケースの一部でした。これも些細な偶然じゃないでしょう。

リキッドメタルなら簡単に型抜きできますし、アンテナゲートで懲りたアップルが代替案を探してたとしても不思議じゃないですよね。今度は継ぎ目抜きのものを作るんじゃないでしょうか。



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でもまあ、もっと目に見えない変化に留まると見るのが現実的かもね。他にも優れた素材は沢山あるんですけど、目に見えないところで使われてますよね。リキッドメタルもデザインの裏方になって、僕らの目からは隠れてしまうんじゃ? 仮にアンテナがリキッドメタルになっても「リキッドメタルiPhone」と宣伝するわけじゃあるまいし、今までよりちょこっと良くなったiPhoneとして出るんじゃないでしょうかね~。

緩んだり磨り減るのにもっと時間がかかる素材としてMacBookのヒンジに採用されるんじゃ? 次のiPod Shuffleはきっと漫画みたいにちっこくなるので、そっちにも使うんじゃ? ―リキッドメタルが下馬評通りの素材ならそれで一歩改良にはなるでしょうけど、それは新製品だから当たり前とみなさん思ってる圏内の改良であって、ほとんど目につかないと思いますよ。

もっと目につく変化は、この新素材がアップルにもたらす競争優位性、でしょう。アップルのユニボティの製造工程なんかも別にそんな大それた変化じゃなかったんですね、ちょっとばかりベターというだけで。でもあれのお陰でアップル製品には、もっと贅沢で、構造的に優れたもの、という雰囲気が醸し出されました。他と違うルックが生まれたんですね。

もっと強度は増したかもしれない。でも、そんなの実のところ確かめようがないわけですよ。ところがそんな目に見えない違いの集合体がアップルのラップトップのラインを定義付ける違いとなり、アップルは抜け目なくその工程にガッツリ特許を取りました。あれと同じで、リキッドメタルも次世代アップル製品に組み込まれたら、どこがどうと指差して違いを言うことはできないかもしれません。でもそこにあることは、嫌でも分かると思いますよ。


写真手配:Sam Spratt(ポートフォリオFacebook Artist's Page

John Herrman(原文/satomi)
 

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