ソーシャルゲームのジンガはいかにして巨人になったのか

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グーグルが秘密裏に1億~2億ドル出資してる「Zynga(以下、ジンガ)」の非公式のモットーが「悪をなせ」(社員)なんて面白い捻れですよね。

パナソニックのJungleの記事でチラッと名前が出たジンガは新興ソーシャルゲーム分野最大手。日本では今年5月ソフトバンクと合弁会社「ジンガ・ジャパン」を設立し、夏には「ウノウ」を買収し話題になりました。昨日(月曜)もYahoo米オーディエンス部門トップのDavid Ko氏をモバイル部門トップに抜擢するなど、今たぶんシリコンバレーでも一番勢いのある会社です。現オフィスが手狭となり、今度はサンフランシスコSoMaの新オフィスビルに移転も決まってます。

その快進撃の秘密とは一体何なのか? 先月SF Weeklyのピーター・ジェイミソン(Peter Jamison)記者が元社員たちに取材しました。

記事のタイトル「FarmVillains」はヒット商品「FarmVille」に「Villains(悪人)」をかけた造語。まあ、ネガティブですが、今をときめく「ソーシャルゲーム」ヒット量産の現場で何が行われているかについては日本のゲームデベロッパーさんも無関心ではいられないと思うので、前半だけ訳しておきますね。

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2010年のネット業界最大のサクセスストーリーは、ポトレロヒルのヴァーモント通りの元ポテトチップ工場から生まれた。ここはサンフランシスコのオンライン「ソーシャル」ゲーム制作会社「ジンガ」発祥の地。同社一番の人気商品は種まきや収穫が楽しめる簡単なアプリ「FarmVille」。これで同社はわずか3年で、血の気の多いスタートアップからシリコンバレーの花形企業へとのし上がった。

インターネットゲームを初めて売り出したのは2007年。以来、ジンガは破竹の勢いで成長した。実際の売上げが今どれぐらいかは外の人間には知る由もない。が、業界オブザーバーの推測では年間5億ドルかそれ以上の収益を上げているとも言われている。株発行者の法人登記を基に5月ソーシャルメディアアナリストLou Kerner氏が出した見積りでは、ジンガの企業価値は40億ドルとある。

ジンガの目まぐるしい発展を見て、Web 2.0系の人気ベンチャー会社はことごとく採算化に苦しんでいるのに市場でこれだけの成功を収めるとは一体どんな新しいビジネスを実践しているのだろう、それを自分の目で確かめてみたい、という気持ちで初出社したものです、とある元上級社員は振り返る。ジンガの秘密とは何だったのか? 出社してほどなく答えは分かった。ジンガ創業者兼CEOのマーク・ピンカス(Mark Pincus)本人の口から直接。それは彼も予想だにしない答えだった。

 

「イノベーションなんかファ○○ング要らんのよ。みんなどうせ競合ほど頭良くないんだから。彼らのやること単にコピーして、それをあっちの数に追いつくまで続ければいい」

これが単なる大言壮語と思ったら大間違いだと元社員(匿名希望)は語る。今回SFウィークリーは他のジンガ元社員らにも取材を敢行したが、そちらからも他社のゲームのアイディアを盗みジンガの市場支配力を駆使して元のゲームデベロッパーをユーザ数で出し抜く行為は普通に行われていた、という話は出た。

ジンガのアイディア盗用にまつわる噂や批判は前々からある。ハイテク業界のブログを中心に、ジンガのスマッシュヒット(FarmVille、FishVille、PetVille、Café World、Mafia Warsほか)が、それより前に発売された他社製ゲームとデザインが酷似しているとの指摘は散々なされてきた。が、ここまで率直に、ピンカス率いるジンガが競合の盗作を踏み台に儲かるビジネスモデルを構築してきたという話を社内の人から聞けたのはこれが初めてだ。

誰もジンガが意図的に法を破ったと責めてるわけではない。なるほど著作権侵害で訴えられたことはある。が、ゲームのコンセプトを盗むことそれ自体は違法ではないのだ。具体的なゲームのメカニズムとデザイン要素をかなりのところまでコピーしまくらないとIP(知的所有権)保護の網はかからない。

それはそうなのだが、元社員たちはジンガの社風の根本にはライバルの企業やゲーマーを食い物にする態度があるという言い方をしている。グーグルやツイッターのようにイノベーティブで社会的有用性のある事業を展開する会社と違い、ジンガが求めているのは「リパッケージしてサッサと儲けること」である。で、死に物狂いで売り歩くのだ、他人のアイディアを。

イノベーションの暴論をピンカスの口から聞いたというジンガ元上級社員は、ジンガで働く人たちが冗談(半分)でよく、自分たちの会社の非公式のモットーはグーグルの「Don't Be Evil(悪をなさない)」の逆だと言っていたのを今でも覚えている。

「ジンガのモットーは"Do Evil(悪をなす)"だって言うんですね。自分がこれまで居合わせた中であれだけ悪い場所は他にないですよ。企業カルチャーの観点からもビジネスアプローチの面でも。あれ以来、ジンガで働くと言う友だちがいたら絶対止めるよう、自分の友だちには全力で言い聞かせてありますよ」

ジンガのゲーム模倣体質が孕む問題は倫理的問題に留まらない。メインストリームのメディアからは強気な見通しの記事を沢山書いてもらっている同社だが、業界専門家の間からはそのスター性にもそろそろ翳りが出ているかも、という声も出ている。看板アプリ「FarmVille」の月間ユーザー数はピークの8400万人から26%落ち込んだ。新世代のソーシャルゲーマーはオンラインのエンターテイメントにも、より洗練されたものを求めてくる。ジンガがそれに順応できるかどうかを疑問視する声もオブザーバー(ジンガ創業者の少なくともひとりを含む)から出ているのだ。

「今までみたいに安っぽいちっこいゲーム作ってもバイラルにはならないんですよ」と語るのは、ジンガの初期投資家で、元リードエンジニアとして2008年当時同社株40万株以上を持っていたTom Bollich氏だ(株はもう全部売却済み)。「こうしたゲームは穴の開いたバケツに水入れるようなもの。人は沢山呼び込めるけど、ずっとそこに溜まっているわけじゃない」

ジンガ上層部にも取材を申し込んだが断られた。同社広報ゼネラルマネジャーDani Dudeck氏からは投資家数名とピンカス(CEO)の元同僚の連絡先を教えてもらえたが。

ジンガの取材要請の対応を補佐するBrew Media Relations広報担当Michelle Kim氏は、同社はおおむね好意的に紹介してくれる保証がないと取材協力を嫌がる会社だと言う。

「記事内容をすべて把握し、ネガティブなことがひとつも書かれないという前提じゃないと、おそらく誰も(取材には)出してくれないと思いますよ」―SF Weeklyからの取材に女史はこう答えた。「最近は本当にマスコミの取材にOKもらうのも一苦労なんです」

昔ながらの「コンソール」向けビデオゲーム(お店で買ってパソコンやPSなんかのゲーム機で遊ぶタイプ)がアートとして認知されるのを目指す中、FarmVilleみたいな甘ったるい菓子が広い注目を集め金銭的にも成功しているのは奇異に映るかもしれない。例えば2007年に「2K Games」が発売したコンソールゲーム「Bioshock」なんかは非常に魅力的で、Ayn Rand(アイン・ランド)が唱えた自由を謳歌する海底都市で難しい倫理的選択を積み上げていくゲームだ。これだけ没頭できるゲームと並べると、ジンガのゲームはいかにもアホっぽい。FarmVilleもFishVilleもCafé Worldもソーシャルベーム・デベロッパーが「compulsion loop(衝動脅迫ループ)」と呼ぶものがベースになっており、ほとんどそれしかないのだ。

プレイする人は作物をクリックして収穫したり、レストランのコンロをクリックしたり、魚をクリックして餌やりしたりの基本タスクをこなして偽マネーを稼ぎ、農場やらレストランやら水槽を改善する、その繰り返し。ジンガの手にかかるとユーザーをこういうギミックで罠にかける部分は、ほとんど文字通り「科学」になる。ピンカスCEOが昨年タイム誌に語ったところによれば、ジンガでは行動心理学者も雇っているということだ。

ゲームが進むとユーザーには無報酬でゲームの宣伝エージェントをやる機会がちょこちょこ与えられる。自分の進捗状況をFacebookに投稿するよう促されるのだ。で、Facebookの友だちはギフト攻め、隣人「ヘルプ」のリクエスト攻めに遭う。妙なことに、こういういわゆる「ソーシャル」ゲームにはソーシャルなところなんてひとつもない。人と関わるのはせいぜい、友だちにバーチャルグッズおねだりしたり、魚や茄子の画像スパムを送りつけることぐらいだ。

宣伝手法としてこれはまずい、そもそもジンガのゲームにはアートなところがない、ということで、同社は長年のゲームファンやデザイナーからも批判の標的になってきた。「エクスペリエンスの美に対するここまでの無関心は我々も見たことがない」と、ジョージア工科大学教授でPersuasive Games創業パートナーのIan Bogost氏は語る。シンプルだが中毒になるアプリを開発するジンガの市場主導型アプローチは「露天採鉱のようなもので、彼らにとってはフォルムやエクスペリエンスの寿命なんてどうでもいいんだね。 ... こういう態度は普通、石油会社や薬品会社の話で出てくるものだが。アートやエンターテイメントの分野ではあんまり聞かない」

他方、こうした保守派の批判にはもう飽き飽きだという人もいる。そりゃ洗練はされてないけど、FarmVilleのようなソーシャルゲームは今までにない全く新しいゲーム人口(例えば年長の女性)を引き寄せたというのだ。「彼らの中には自分のことゲーマーと思ってない人も多いんですね」と言うのは、サンフランシスコのiPhoneゲーム開発会社「Ngmoco」のアプリケーションVPのJason Oberfest氏である。「年長者はこうしたゲームをメール代わりに使える代替手段とさせ思ってるんですよ」。氏は、 ソーシャルゲームを単純だと言ってアッサリ否定する態度は「エリート主義的な物の見方」だという。

ピンカスCEOもタイム誌インタビューではソーシャルアプリケーションという新分野について同じような論調で擁護し、コンソールゲームとジンガゲームの差をこうひと言にまとめている。「彼らが作るのは映画だ。僕らがやってるのは週刊TV番組制作なんだよ」

なんせ成功してるので反論は難しい。アプリ追跡サイト「AppData」の調べによると、ジンガのFacebookアプリ月間ユーザー数は現在平均2億3300万人で、2位のデベロッパー「Electronic Arts」の月間平均5500万人を大きく引き離している。

ジンガにはシリコンバレーのスタートアップには珍しく、実証済みのビジネスモデルという武器がある。同社収益の大部分を占めるのは、小さいけど熱心な底辺のプレーヤーがリアルマネーでバーチャルグッズを購入するところから流れこむキャッシュだ。こうしたプレーヤーは「whales(鯨たち)」と呼ばれる。彼らがネットに落とす月間20ドルかそれ以上のお金が、けっこう馬鹿にならないからだ。

金融調査サイト「Track.com」向けに投資家たちがまとめた概要によると、ジンガの収入高はSecond Sharesの推定では2009年の3億ドルから今年は5億3000万ドル近くまで伸びるという。(同社は非上場企業なので、本当の収入と企業価値は分からない)

「これは驚異的と言うしかない」―失敗に終わったSNS「Tribe.net」をピンカスと共同設立したジンガ初期投資家のPaul Martino氏は言う。「ゼロから年5億ドル、6億ドルだよ。いやだからさ、人類史上これだけのことやった会社が何社あるっていうんだい?」

成功した企業の多くは、原罪を抱える。--近道をし、橋を焼き、仲間を踏みつけにした黒歴史。ジンガの場合、その聳えたつ商業ビルの足元にはグラグラする倫理的土台があるのだと、元社員は言う。つまり、ライバル製品のコピー行為。ファッション産業がそうであるように、ゲーム産業もデザインはある程度似てるのは予想の範疇だが、ジンガはとりわけ人のアイディアをパクる会社として自ら定評を確立してきた。

2009年6月、ジンガはソーシャルネットワーク利用者の間ではお馴染みの名前となるゲームを出した。それまでのゲームもそこそこ成功していたジンガだが、この「FarmVille」はブロックバスターヒットとなる。が、見る人が見ればそれは、「FarmVille」に先駆けて出たあるゲームに瓜二つだった。

その発売が先行したゲームは「Farm Town」。開発したのは「Slashkey」というほぼ無名のフロリダの会社だ。この製品にはゲームプレイを楽しくするメカニズムが沢山実装されていた。一番の改善は、プレイヤーが定期的にゲームに戻って農場の世話をしないといけないリアルタイムの作物成長のメカニズムだ。ジンガ版リリースは、このSlashkey版発売に遅れること数カ月。ほとんどのプレイヤーにはおそらく見分けがつかないはずだ。

ゲームはどっちとも、頭でっかちな小さいアバターが四角い土地に様々な作物を植え、時間が経つと収穫してバーチャルコインをもらい、Facebookの友だちを「neighbors(隣人)」に確保して農場を手伝ってもらってグッズを交換したりする。ゲームのメカニクスも画面コマンドからレイアウトまで多かれ少なかれそっくり同じなのだ。

Slashkey社にもコメントをお願いしたが、返事はいただけなかった。だが、このゲームに詳しい人の間からは、これだけ「Farm Town」そっくりなのにジンガがFarmVilleで訴えられなかったなんて信じられないという声も出ている。

パルアルトに住む知的所有権専門弁護士Robert Taylor氏は言う。「訴訟がなかったとは驚きを禁じえない。何故って私が見たところでは彼らは確かにコピーしてますからねえ」

もっとも初期のヒット商品「Mafia Wars」(2008年6月、Facebookで発売)の著作権侵害ではジンガも訴えられている(最初のヒット商品「Zynga Poker」も明らかにコピーだが、あっちはジンガが「Texas Hold 'Em」のライセンス契約をちゃんと結んでリブランディングした)。2009年2月にはアプリ開発者David Maestri氏がTaylor弁護士事務所を通し、発売が先行した彼のマフィアゲーム「Mob Wars」を違法に「クローンした」としてジンガを提訴した。 「Mob Wars」はMaestri氏の有限会社「Psycho Monkey」が2007年12月に開発したゲームだが、訴えによるとジンガはMaestriの会社を買収する交渉決裂後、ゲームをコピーしたという。

「Mob Wars」と「Mafia Wars」はハッとするほど似ている。ゲームの多くの要素、キャラクター、地名(「The Godfather」、「The Hospital」、「The Bank」など)も同じなら、「仕事(jobs)」に付随する経験値ポイント・金額、所有「資産(properties)」の数え方まで同じだ。似てるのは偶然の一致ではない。あるジンガ初期社員は「Mob Wars」をコピーして別名ブランドで売り出すとどんな影響があるか率直に意見交換する場に自分もいたと言っている。「きっと開発者に訴えられるだろうけど、『まあ、いいよ。そしたら和解しよう。我々の事例は、弁護の余地なんてないからね』ということでしたね」。「Psycho Monkey」も結局は和解が成立した(和解金額は非開示)。

他人のアイディア盗用はジンガの創業まで遡ることができると、元インサイダーたちは言う。「Mob Wars」コピーの相談現場に立ち会ったという元社員は、そもそも最初にオンラインに進出する時もボードゲームのケーススタディーから着手したと言っている。ジンガのオフィスには参考にするゲームがそこら中に散らかっていて、それをスタッフがじっくり研究し、どうしたらオンラインアプリに採用できるか考えたという。「売れ筋のボードゲームは全部片っ端から購入しました。コピーする目的で」、「これは初期の頃の話ですね。あそこからデジタル[のコピー]に進化していったんですよ」(元社員)

ある元ゲームデザイナーによると、ジンガではインターン(見習い研修生)に競合各社のゲームを「recon(再構築)」するよう指示し、成功した機能を洗い出してもらい、それを基に上の人間が再現に着手するらしい。「インターンは座ってライバルの製品を観察し、全機能を書き出し、こちらに分り易いよう、まとめるんですよ」(元デザイナー)。ある契約社員はジンガにフリーランス契約で仕事を任された。内容はライバルのアプリを真似る仕事。「あのゲームをコピーしろ」とあからさまに指示されたという。

ピンカスの「ノー・イノベーション」の暴言の場に立ち会った元上級社員は、ジンガのビジネスモデルをこうまとめた。「誰か他人のゲームを盗れ。何百万ドルと突っ込め。それでダメならバーチャルコイン投入だ」

元ジンガ社員Bollichさんにもジンガの競合他社のコピーが本当かどうか尋ねてみたが、反論された。「いや、だからそれは、実際にはね -- ちょっとだけなんですよ」とため息をつくBollichさん。「どこかの段階でMob Warsを見て彼のアイディアを少しはいただいたと思いますよ。でも丸々コピーというのは実際は起こってない」

SFウィークリーが取材したジンガ元社員のほとんどは、そんな風に反論した。名前を表に出さないという条件で。同社に報復されるのが怖いから。ジンガは2009年だけで元社員7人を訴えている。

例えばジンガは競合会社Playdomに転職した元社員の一団を、新勤務先に企業機密を開示したとして提訴した。ジンガを辞めて自分たちのiPhoneアプリ開発会社を立ち上げた元ジンガ社員らも、ピンカスのお抱え弁護士に狙われた。新しいゲームのコンセプトが非競合契約に違反すると言うのだ。自分のコンセプト盗用体質は棚に上げ、人のことはIP違反ですぐ訴える、それを思うと余計に頭にくると元社員たちは語っている。(後略)

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続きはSFWeekly(英語)でどうぞ。写真もあります。コピーされたとされる元のゲームとジンガのゲームを比べたスラドショーはThe Business Insiderでどうぞ。

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Kat Hannaford(原文/satomi)