世界で一番売れている携帯

2010.10.23 12:00
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ノキアは問題だらけです。スマートフォンも問題ならソフトウェアも問題、アメリカも問題。でも、問題の所在を100%理解するには、問題ないもの-つまりNokiaの目を問題から逸らしているものを理解しなくてはダメ。というわけで、みなさまにご覧にいれたいのがこちら、世界で最も売れてるケータイです。

今世界では清潔なトイレが使える人より、携帯持ってる人の方が多いとされます。が、世界携帯利用人口推定50億人のうちスマートフォン持ってる人はほんの一部の特権階級で、iPhoneはそのまた一部、微々たるものです。

何時間もアプリいじって、ソフトウェアのアップデートの重箱の隅つついて笑ったり、画面の解像度やピクセル密度がどうのこうの言ってるとつい忘れてしまいがちだけど、実言うと携帯電話っていうコンセプトそれ自体が既に奇跡なんですよね。

携帯電話は毎日の世界を1点に集約してくれる端末です。これがあるお陰で知り合いは誰でも自分に連絡が取れて、同時にほぼ誰にでも自分の方から連絡が取れる。瞬時に、どこでも。

2005年夏、ナイジェリア。ある男が1台欲しくなって、店を探し、カウンターに金を置いて、店を出ました。手には「Nokia 1100」。-それと同じ年、アメリカでAT&Tが製造停止にしたのとほぼ同機種の携帯です。統計上の平均像では、おそらくそれが彼にとっては初めて買う携帯、そしておそらく似た機種は友だちや家族が持ってるのを使って知っている、という感じ。この小さな奇跡が彼の人生の転機になったかどうかは知る由もないけど、ノキアにとってはそれが販売通算10億台目の携帯でした。

あの携帯を買ったことで男は小さなクラブの仲間入りを果たします、「Nokia 1100」のユーザーになったのです。10億には遠く及ばないけど、彼と同じ携帯を持つ仲間は世界にななななんと2億5000万人。彼らと一緒に男は、ほとんど電話のない世界から、この小さな電話の塊のある世界へと駆け上ったのです。


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Nokia 1100は使って楽しい携帯ではありません。キーパッドもテキストを親指入力するにはちっこ過ぎるし、細身なので片手で持つと親指曲げるのに一苦労です。しかもボタンは全部ガボガボいうゴムのシールドに覆われてます。直感で使いこなすっていうより、使い方を丸暗記して手で覚えるタイプの携帯ですよね。

当時の基準から言っても、1100は秀逸とは程遠い携帯でした(参考までに2003年と言えば米Gizmodoが真のスマートフォン「Palm Treo 600」の登場を息つく間もなく特集していた頃です)。 液晶も小さく、ピクセルは大きくってモノクロ、着メロは耳にくる音だし、なんか手にもつと怪しいぐらい軽いんです。
 
 

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...とかなんとか言えるのも、スマートフォン、タッチスクリーン、お金と年数かけて細心の注意を払って積み重ねてきたインターフェイス研究の成果に日々甘やかされてる人間の立場だからなんですよね。死ぬほど沢山の携帯使ってきた人間だから言える。まあ、かく言う自分もNokia 3595(1100とそんな遠くない親戚)は何年も持ち歩いた経験者なので1100見ても違和感というのはないんですけどね。大体の人はそうでしょう。

でも考えてみたら、僕なんて最初からNokia 1100の購買層じゃ全然ないわけだし、このデザイナーさんたちにしたって別に僕に「スゴい!」と言ってもらうためにこの携帯作ったわけじゃないんですよね...。

よく見ると、この携帯。ちっこいので、すごく持ち運びに便利です。どこにでも忍ばせることができる。ガブガブいうキーパッドも水や埃を寄せ付けないための配慮なんですね。これなら雨が降っても砂に落としても大丈夫、携帯は死にません。筐体がプラスティックっぽくて、やけに軽いのも、一度タイルの床に落としてみたら「なんだ、そういうことだったのか!」って理由が分かると思いますよ。割れずに、ポンポン跳ね返って無傷で止まるだけなんです。まあ、メニューシステムとボタンの設定は僕のデザインセンスには馴染まないけど、それはPCと任天堂で育ったせいかもね。僕なりに洗練されたものを求めてるつもりではいるんだけど、シンプル過ぎるとデザインの欠如と勘違いしてしまうとこあるので。

というわけで、この携帯は過酷な環境でサバイブし、きちんと任務をこなすために生まれてきた携帯なんですね。その任務というのは取りも直さず、電話をかけ、テキストを送ること。そしてその利便性を可能な限り長い時間、可能な限り安い値段で提供すること、それだけ。

「こうした機能に辿り着くまでには、消費者やチームの自宅を訪ねて長い時間一緒に過ごし、インタビューして、彼らの暮らしぶりを観察しなきゃならないんだよ」と語るのは、Nokia携帯マーケティング部門VPのAlex Lambeekさん、ノキアに入社する前は途上国向けハードウェアデザインの分野一筋でやってこられた方です。「一例をあげるとトーチ(フラッシュライト)機能。トーチなんて誰が気にするのさ? って君なら思うかもしれない。それがそうじゃないんだよ、インドやインドネシアやアフリカといった地域に住む消費者にとっては。ああいう地域では電気が通ってないか、 通ってたとしてもしょっちゅう停電して断続的にしか来ないから、トーチ持ってるってことがかなり重要なのね」

周辺機器・サービスもそう。西欧で不要になったものの使い回しじゃなく、最初から彼らのニーズに合わせて考えられているんですね。新品の携帯の隣には、自転車で蓄電できるチャージャーなんてのが並んでる。ノキアが運営する特定の電話番号にSMS送ると、その地方の農産物の相場の一覧や天気予報も送ってくれるんですよ。

露天市場で買った携帯は、持ち帰ってからなんかあってもたぶん交換してもらえません。ソフトウェアのアップデートなんてのも論外でしょう。一度買ったらその携帯とずっと付き合わなきゃならないんですね。カスタマーサービスは言葉の違いや識字率の問題、あと単に意識が足りないこともあって複雑なので、携帯のソフトウェアには必ずトラブルシューティングみたいな短いガイドを入れるのがマストなのです。

以上の話で得た教訓は、こうです。アメリカみたいな場所で時代遅れになった一昔前のハードウェアを、ただ安くして途上国に売りつけようったってそうはいかない、そういう会社は失敗してしまう、ということ。僕らから見たら古臭くて変かもしれない。でもそんな新しい携帯の開発にNokia、LG、サムスンのような企業は膨大な時間とお金をかけているんですね。そしてかけるのには、それなりの理由がある。-新興市場はとにかく巨大なのです。

販売台数ベースで今世界第8位、9位、10位の携帯メーカーは、みなさんが聞いたこともないような会社です。ZTE、G-Five、Huawei-いずれも最初つくった携帯を何百万人に売りまくって莫大な富を得ました。実言うと王者ノキアもインドではシェアが落ち込んでるんですね。その大きな要因はインド国内携帯電話産業の急成長。それを牽引するのが、新規参入とは思えない勢いで驚異のセールスボリュームを出している企業群なのです。そんな競争の激しい急成長市場にノコノコ不用品払い下げ同然の携帯ひっさげて行商に行っても、誰にも相手にしてもらえないでしょう。


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途上国ではハードウェアに求めるものが違う、これは分かりますよね。でも、話をさらにややこしくするのが携帯の売り方。そう、そっちも欧米とは違うんですね。

「米国と欧州の多くの地域では携帯事業者がハンドセットに補助を出すのが一般的だよね」(Lambeekさん)。まー長期契約すると端末値引きしてくれるのは日本でもお馴染みのシステムですよね。「これ、アフリカのような地域では非常に稀なんだ。補助つけてもらっても何の得にもならないという、単に経済的理由で。補助のお金は全く来ないか、来たとしても長くかかり過ぎるっていう意識なんだね」。そんなわけで、携帯はすべて実費商い。電話事業者は携帯の販売の方には全くノータッチなのです。

これでシンプルになることと、ならないことがあります。まず、実費で買うとBlackBerryとかiPhoneみたいな高級スマートフォンは500ドル楽勝で超えちゃうので高嶺の花、まったく手が届かくなっちゃいます。あと携帯電話はすべて統一規格でアンロックした状態で売らなきゃならないんですね。通話・テキスト・ネット接続など、どれでも買った人が人気サービスや自分の地域で使えるサービスを選んで、どんなサービスでも自由に使えるように。


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途上国はiPhoneに用はないんです。実用の妨げになるほどデリケートで、高価だし、バッテリーも1日もってラッキー、これではいけない。でもスマートフォンというコンセプトはある意味、魅力なんですね。それは他の地域もナイジェリアも差はありません。

Huweiのような企業は、携帯買うのが2度目の人たち向けに、既にAndroid携帯の方程式の再考に取り組んでいます。補助抜きタッチスクリーン・スマートフォンで本体価格200ドル大幅に切るぐらい、できる限り100ドルに近づける方向で。

あと例えばNokiaのC3シリーズ(写真下)。これはWi-Fi接続、2MPカメラ、メタルキーのQWERTY配列のフルキーボード、microSDストレージ、App Storeを装備した携帯で、箱を開けて取り出すと、もうFacebookとTwitterにアクセスできる状態になってるんですね。お値段は、関税にもよりけりですが、世界一円で100ドル前後にて発売中。

米上陸も間近ですよ! もうすぐウォルマートの棚に並びます。いくらするかって? 80ドルです。これはアンチN8とも言うべき携帯ですね。超シンプルで超安い。それにこれまでのところか~なりの超人気


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というわけでみなさん、これが次世代メガセラー携帯の姿です。金持ちのハイエンドなスマートフォンを荒いFAXに通し、贅肉と無駄を削ぎ落した、妥協の結晶。元の携帯の9割を2割の価格で。デジタル楽曲ストアの代わりにFMラジオを、LEDのフラッシュの代わりにフラッシュライトを装備した携帯、それが地球の残り半分が考えるスマートなフォン。まあ、途上国ユーザーを半分と呼ぶのはだいぶサバ読んでますよね。実際は、こちらは半分の足元にも及びませんから。


John Herrman(原文/satomi)
 

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