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アメリカは5度被曝しかけた

冷戦時代、われわれアメリカ人は米ソが意図して核戦争を始める不安に絶えず怯えて暮らしていた。が、実は第3次世界大戦より、核兵器でうっかり自国を吹っ飛ばす不安の方がはるかに強かった。
核事故には縁起でもない軍事用コードネームがいろいろついている。例えば「Broken Arrow(折れた矢)」、「Faded Giant(消えた巨人)」、「NUCFLASH(核の閃光)」など。このような事故は実言うとこれまで何十回も起こってるのだが、ここでは米国内で起こった5大事件に絞って紹介しようと思う。旧ソビエトまで含めたら何時間あっても足りないからね。ロシアは、核潜水艦が行方不明になるか、核爆弾積んだまま潜水艦が行方不明になるか、核潜水艦の原子炉が炉心溶融(メルトダウン)するか、以上3つ全部が一度に起こる、という事故が1週間置きぐらいのペースで起きていたからね。Kompetentnyh? Nyet.(これでプロ? ニエット=まさかね)
トラヴィス空軍基地、1950年 -- Broken Arrow
朝鮮戦争中、アメリカの軍部・政治の上層部は核兵器使用を真剣に考えていた。
1950年8月には加州フェアフィールド・スーサン空軍基地(旧称)からB-29スーパーフォートレス爆撃機10機がグアムに向け飛び発った。第2次世界大戦で日本に投下した原爆の大体2倍の破壊力を持つ核爆弾「Mark IV(Mark 4)」を各機搭載して。

離陸後すぐ、B-29のうち1機にエンジン故障が発生した。機上にいたのはロバート・トラヴィス(Robert Travis)将軍だ。着陸用ギアが引っ込められないことに気づいた将軍は、直ちに基地に引き返すよう機体にコマンドを出した。機体高度が下がってゆくのに気づいたパイロットは、基地の住宅をなんとか回避しながら、基地北西端に突入。この最初の衝撃で乗員20名のうち、将軍はじめ12名が死亡した。機体は炎上し、Mark IVの装備の一部だった5000ポンド(2268kg)分の通常兵器が爆発、地上にいた7名が死亡した。爆弾に核分裂カプセルを装備していたら、死者の数はたちどころに6桁に跳ね上がる危ないところだった。
空軍は事件をひた隠しにし、訓練機に搭載した通常爆弾の爆発、ということにした。殉職した将軍の名に因み、同基地が名称を「トラヴィス空軍基地」に改めたのは、事故発生からわずか数ヶ月後のことだった。「Broken Arrow」は、核戦争勃発の危険性のない核事故を指す。
増炉フェルミ1号、1966年 -- Faded Giant
ジョン・フーラーの著書タイトル『We Almost Lost Detroit』とその恐ろしい表紙、この核の悪夢を歌うGil Scott-Heronのグルーヴィーなスロージャムの影響で一躍、「デトロイト全市焼失の危機」の夜として不滅の名を刻んだ事故。
フェルミ1号の事故は、作業ミス、ずさんな安全基準、単なる原子炉建設の経験不足が原因で起こった。
設計技師たちが冷却システムに変更を加える際、変更内容を記録に残さなかったため、原子炉で働くエンジニアたちも液化ナトリウムの密閉タンク内に分散プレートが余分に入ってるとは知らなかった。それでタンクのひとつが冷却パイプをブロックし、炉心が華氏700度(371℃)まで過熱、局所的に炉心溶融(メルトダウン)を引き起こしてしまった。
炉心溶融が起こると、原子炉燃料が過熱し、冷却システムで対処できる温度を超えてしまう。すると、それを取り巻くインフラ(密閉タンク、冷却システム、ひどい時には炉の床まで)も溶け出す。フル・メルトダウンの場合、燃料に引火し、華氏約2000度(1093℃)からしばらく動かなくなる。事故が起こった1966年当時まだそんな言葉は生まれていなかったが、「原子炉が溶けに溶け、しまいには地面貫通して地球の裏側の中国まで溶けちゃうんじゃないの?」(技術的にはありえない)という発想から「チャイナ・シンドローム」という言葉も生まれた。
フェルミ1号は本当はデトロイトとトレドの間にあるのだが、本のタイトルが『We Almost Lost Toledo』ではデトロイトほどのインパクトは出せなかったと思う。このように「Faded Giant」は、兵器以外の核事故を指す(こんな暗号だれが実生活で使うんだろう? 皆目見当つかないけど)。
タイビー島、1958年 -- Broken Arrow
ジョージア州タイビー島沖。ちょうどジョージア-サウスカロライナ州境界線のある辺りの、港町サバンナからそう遠くない海底の約10フィート(3m)の沈泥の下に水素爆弾がひとつ埋まっている。そこに落ちて、もうかれこれ50年以上になる。

1958年、B-47ストラトジェット爆撃機が訓練飛行中、空中衝突事故に遭った。機体には「Mark 15」という、爆薬400ポンド(181kg)と高濃縮ウランを実装した全長12フィート(3.7m)の軽量な水素爆弾が積んである。事故機のクルーは、これから不時着するって瀬戸際にこんな物騒なもの運んでたんじゃ堪らんと判断、海に捨てていいか聞いて投棄許可を取り付けた。爆弾は海面に触れても爆発することもなく海に飲まれて消え、それっきりその姿を人目に晒すことはなかった。
爆弾が完全に戦闘状態にあったかどうかをめぐっては若干意見の食い違いもある。一部の報道ではそうだったように書かれているが、空軍の正式な書類にはダミーのカプセルを搭載していたと記されているのだ。爆弾捜索の試みも何度か行われたが、周辺地質からの自然放射のため捜索は困難を極めた。もし仮に戦闘状態で爆発していたとしたら、サバンナの街は今ごろ間違いなく消し飛んでいたはずだ。
アイダホ・フォールズ、1961年 -- Faded Giant
「スリーマイル島(TMI)事故の話は?」と思う方もいるだろう。確かにあれもひどい事故だった。住民のいる地域に放射性ガスも漏れたし。でも、アメリカ核事故史上最も脳裏に焼きついて離れない恐怖体験をひとつ選べと言われたら、アイダホ・フォールズ以外考えられない。それにこの事件のことは比較的知られていない。

事故にあった「SL-1」はアイダホ州アイダホ・フォールズにほど近い、海軍の訓練用原子炉である。1961年1月3日夜、高熱を知らせるアラームが鳴り、そばにいた緊急要員が現場に急行した。が、放射レベルがあまりにも高く制御ルームに近寄るのもままならない。こうして1時間半も足止めになった後、ようやく入った時には係員2名が被曝した後だった。うち1名は瀕死の状態だったが間もなく死亡。原子炉の建物から外に運び出した後も遺体そのものの持つ放射能があまりにも高く、結局ふたりの遺体は鉛とコンクリートの墓に埋めるほかなかった。
話にはまだ続きがある。事故から数日後、救助隊が第3の運転技師の遺体を発見したのだ。その男性は原子炉の上に立ってる時に事故が起こったらしく、爆発の力で制御棒(control rod:CR)が跳ね上がって胸部を貫通、天井に磔になっていた。
事故原因の鍵は、核反応レートを制御するクルーの能力にある。持続可能な核反応を維持するには、核分裂のたびに中性子を必要充分な数だけ生成し、さらに多くの原子にぶつけ、そこでまた核分裂を起こす状態にキープしないといけない。この制御は、中性子が核分裂を起こす確率を操作することで行う。どう操作するのか?...だが、これは主に中性子を無害に吸収する素材の棒をコントロールすることで行う。つまり原子炉に制御棒を入れれば入れるほど反応は減速するというわけ。
折悪しくSL-1では整備点検中で、主制御棒を数インチだけ引き抜くはずだったが、間違ってほとんど引き抜いてしまった。この原子炉は大型の制御棒を1本だけ使う設計なので、たったひとつの操作ミス(制御棒をほとんど全部引き抜くこと)でも核反応は瞬時に臨界を超え、核分裂が次々起こって指数関数的に増える状態に陥ってしまう。それが起こってしまった。
エネルギー出力がすさまじい勢いで増大し、冷却水が蒸発し、原子炉本体もところどころ蒸発し、大爆発が発生。爆発そのものの影響で核反応は停止となった。
僕はずっとあの(デトロイトの核の悪夢を歌った)Gil Scott-Heronが『We Almost Lost Idaho Falls(アイダホフォールズ全市焼失の危機)』って本書かないかなと思って期待してるのだけど...。
NORAD、1979年 -- NUCFLASH未遂
ソビエトが本当に核攻撃してきたら迎撃に使うシステム。そんなものでソビエト核攻撃のコンピュータミュレーションなんかするもんじゃないと、NORAD(北米航空宇宙防衛司令部)が思い知った事件。
ミサイル防衛の要を担うNORADの元に、ロシア核爆弾の本格的な砲列が米国に向かっている緊急事態を示すサインが入ってきた。これを受けNORADは直ちに完全戦闘状態の核兵器を積んだ飛行機複数をスクランブル発進させ、防弾装備の大統領緊急特別機も空に飛ばした(大統領の搭乗は間に合わなかったが)。
指という指がボタンを叩く。飛行クルーの司令官たちは攻撃開始の合図を待った。こうして緊迫の6分が経過。その間、誰も第3次世界大戦が本当に起こったかどうか確かなところは知らなかった...しかも妙なことに誰ひとりとして米露大統領直通電話(ホットライン)の「赤い電話」でソビエトに真意を尋ねようとする者もいなかった。
結局、高度早期警戒レーダー&サテライトから「ミサイル検出ゼロ」との報せが入って誤解は氷解。訓練用テープが何かの手違いで流れ、警戒シグナル誤発動を誘導したことがわかった。軍の専門用語で「NUCFLASH」は核戦争勃発の原因になる核爆発を指す。
おまけ:ダルースの熊
空軍基地の金網によじ登る熊を見て、ある警備員が警報を鳴らした。近在の各基地に中継の際、伝達ミスで「intruder alert!(侵入者に警戒!)」を「Nuke Russia Now!(ロシアへ直ちに核攻撃せよ!)」と伝えてしまった。訂正した頃にはもう、核爆弾を装備したジェット機が何台も滑走路に出ていつでも出動できる体制になっていた。
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こんなの怖くもなんともないと思うかもしれないが、ここで紹介したような事故は米国側だけでも他に何十件とある。あのキューバミサイル危機のことだってここでは触れていない。悲しい教訓だが、剥き出しの攻撃より恐ろしいのは、能力不足と操作ミスなのである。
ソース:
Farmer, James H. "Korea and the A-Bomb." Flight Journal, Dec. 2010.
"The SL-1 Reactor Accident." Radiationworks.
"Nuclear Accidents." Georgia State University.
"Criticality Accidents." Trinity Atomic Website.
関連:
原子の構造と核分裂 - 原子力発電 | 電気事業連合会
UPDATE:表記を一部訂正しました。Great thanks to 園部正幸氏。
Ed Grabianowski(原文/satomi)
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