「時間」ってどうやって認識してるんだろ?

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遅刻魔の原因と対策が少し、わかりました。

正確な時間を知るには、腕時計にしろ携帯にしろ、何らかの時計が欠かせませんね。でも、たとえば「1時間」の経過くらいは時計なしでも正確にわかってもよさそうなものです。この問題は、人間が複数のことを同時処理できる能力にも関係しています。さらに、コーヒーと時間の経過の関係も明らかになってきました。神経科学の研究によって、脳がどのように時間を認識するのか、またはしないのかがわかってきたのです。

 ありがちなことですが、この前私は記事を書き上げようとしていて、5分ばかり経ったかな、と思ったら25分も過ぎていました...。あああ、ランチミーティングの予定が入ってたのに。私はレストランに向かう間、サンフランシスコの異常にきつい坂道を駆け下りながら、これまで100万回も繰り返してきた自問自答をしていました。なぜ私はいつも遅刻してしまうんだろう、と。

そして今回こそ、この謎を解き明かそうと決めたのです。

私はその答えを求めて、神経科学分野の研究にあたってみることにしました。脳における時間の問題を研究している人たちは、その専門分野を「時間知覚」とか「クロック・タイミング」と呼んでいます。その研究によると、人間の脳はもっとも不正確でありながらもっとも強力な時間計測機器なんだそうです。どういうことでしょうか?

・なぜ時間認識が絶対に正確にならないか

時計が1秒1秒を刻んでいくのを見るときは、我々は客観的時間の世界にいます。そこでは、1分は必ず60秒と決まっています。が、脳の中では、1分というのは相対的な時間です。ときには、ほんの1分が永遠にもなりえます。それは、人間はきわめて主観的な体内時計で時間を計っているからです。

体内時計には、デジタル時計と共通する面もあります。科学者的に言うと、パルスで時間を計る、ということです。このパルスが蓄積され、時間として記憶に保存されるのです。

ここでおかしなことが起こります。体内時計は、とか、注意の向け方とかによって早くなったり、遅くなったりするのです。たとえば、道路を横断するのに60秒かかるとします。体内時計では、眠いときにはこれを50パルスと数えるかもしれません。でも、エスプレッソを飲んだばかりのときなら100パルス数えるかもしれません。それは、刺激物が文字通り脳の中の時計を早めるためです(詳細は後述)。脳は、道路を渡るときにかかった50パルスと100パルス、それぞれを記憶します。

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Image via Warren Meck.

そうは言っても、道を渡るのにどれくらい時間がかかるか、直感的な感覚は誰もが持っています。でも、同じことをするのでも、かかる時間はそのたびに少しずつ違うのに、どうしてそんな感覚を持てるのでしょうか。

神経科学者のウォレン・メックさんによると、あることをするときにどれくらい時間がかかるかを考えるとき、脳では時間の記憶のサンプルを取り出し、その中からひとつを選ぶのだそうです。「その選択はランダムです」とメックさんは説明します。「つまり、25を取り出すかも知れないし、36かもしれない。平均値を取り出せば、正確です。」

この仕組みではたいてい、所要時間の予測は正確です。が、残念ながら、ときどきは平均値から遠く外れた記憶のサンプルを取り出してしまい、本来かかる時間よりゆっくりと道を渡ろうと判断してしまいます。

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・なぜマルチタスクできるのか

私たちは、体内時計があるからマルチタスクできているのかもしれません。なぜなら、下等なネズミでさえ、体内時計はひとつではないからです。

誰もが、体内時計を少なくともふたつ持っています。ひとつは1日周期のリズムをトラックする時計で、いつ眠り、いつ目覚め、食べなくてはならないかを教えてくれます。これはもっとも基本的かつ重要な体内時計であり、たとえば海藻のような生物の中でもこれが働いていることがわかっています。もうひとつの時計は、上に書いたような、ある行動をするのに必要な時間を教えてくれる時計です。

メックさんと共同研究している神経学者のカタリン・V・ブフシさんは、ネズミを使った実験で、脳は複数の体内時計を非常に複雑に動かしていることを発見しました。その実験では、ネズミが3つのレバーを押すと餌を食べられるようになっていました。レバーを押す間隔はレバーごとに異なり、10秒、30秒、90秒となっています。学習段階を経た後、ネズミは3つのレバーすべてに対して10秒、30秒、90秒と時間間隔を調整して押せるようになったのです。

さらに、ネズミはその体内時計を止めたり開始させたり、リセットしたりもできたのです。たとえば、30秒のレバーが止まったとしても、10秒と90秒のレバーは動かし続けるのです。そしてもし10秒のレバーが止まってまた動き始めれば、ネズミはそれぞれの時間間隔をキャリブレートして、レバーを適切なスピードで再度押し始めるのです。ブフシさんはこれを、ネズミは複数の体内時計を同時に動かすことができるのだと分析しました。そして人間も同様です。

現在この記事を読んでいる方は、少なくとも3つの時計を動かしているはずです。1日周期の時計、この記事を読むのにかかる時間を計る時計、そして今仕事中であれば、家に帰るまでの時間を計る時計です。他にも進行中のことがあれば、それにかかる時間を教えてくれる時計もあるでしょう。

たくさんのタスクを同時に処理できる能力は、このように複数の時計を動かせる能力の上に成り立っているのです。なので、脳の中で時間知覚に役立っているニューラルネットワークが、体の動きを計画し調整するネットワークと同じものだということも驚きではないでしょう。時間の感覚と、行動する能力は、脳の中の深いところでつながっているのです。もっと単純に言うと、ふたつの時間を同時に計ることと、ふたつのことを同時にすることは、脳の観点からはかなり近いことなのです。

・なぜコーヒーを飲むと時間が早くなり、アルツハイマー病では遅くなるのか

私は遅刻魔だと書きましたが、他にも欠点があります。私はコーヒー飲みで、マリファナ吸いです。だから納得してしまったのですが、どちらの成分も体内時計のスピードに影響するのだそうです。

体内時計のスピードが変わると、記憶にも影響が出ることがわかっています。カフェイン摂取によって、体内時計は早く進みます。仮に、脳は60秒を60パルスと記憶しているとして、カフェインを摂取すると100パルスになります。

この結果ふたつのことが起こります。ひとつは、時間記憶を取り出すとき、その時間は60秒より短く感じられます。つまり、時計が早く進むということは、時間が早く過ぎるということになります。ふたつめに、記憶がより細かくなります。1分間に100パルスを保存する、ということは1秒あたりに保存されるデータが増えるということになります。つまり、コーヒーや他の刺激物によって、記憶が増えていきます。逆に、ハロペリドールのような抗精神病薬は体内時計を遅くし、1分をより長く感じさせます。

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カフェインとハロペリドールは、主に脳のドーパミンシステムを混乱させることで、体内時計に影響を与えています。が、記憶を操作することで時間を歪めることもできてしまいます。脳のアセチルコリンシステムは、時間ベースの記憶の保存のされ方を規定しています。アルツハイマー病における記憶喪失の主要原因のひとつは、記憶保存に必要なアセチルコリンが不足することであることがわかってきました。アルツハイマー病にかかった人においても、体内時計は正常に動いています。が、体内時計から来る記憶を保存するスピードが遅くなってしまうのです。そのため、アルツハイマー病にかかると、物事に必要な時間を判断するのが困難になってくるのです。またそれは、記憶が曖昧になってしまう原因でもあるのです。

アルツハイマー病での記憶喪失に対しては、脳の中のアセチルコリンを増加させるサプリメントによる治療がよく行われています。このサプリメントを使うと、どんな人でも記憶能力を高めることができ、なおかつドーパミンシステムに影響しないため、カフェインのように体内時計を早めてしまうこともないのです。体内時計を早めることなく、時間の記憶を増加させられるのです。

一方、マリファナが面白いのは、ドーパミンシステムとアセチルコリンシステムの両方に働きかける数少ない薬物であることです。前者の働きを早め、後者の働きは遅くします。そのため、マリファナで恍惚状態になると、心臓はどきどきするのですが、記憶は悪くなります。

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・なぜ見えるより聞こえる方が早いのか

このように、脳の時間認識は簡単に歪められてしまうのですが、体に受けた刺激の認識は、ミリ秒単位で正確です。生物学者のヴァージニー・ヴァン・ワッセンホフさんは、1秒間に起こったことの順序を脳がどのように認識するかを研究しました。そして、見るものや聞くものによって、時間の受け取り方が変わってくることがわかったのです。

おかしいのは、脳は「見る」ことに関して「聞く」ことよりずっと遅い、ということです。ヴァン・ワッセンホフさんによると、「人にビープ音を聞かせると同時にフラッシュを見せて、皮質の反応を記録すると、視覚野は50ミリ秒後に反応しているのがわかります。が、聴覚野は12ミリ秒後なのです。」つまり脳による視覚の処理は、聴覚よりも遅いのです。

なぜそうなのか、まだ誰にもわかりません。ヴァン・ワッセンホフさんいわく「音と光の速度の違いと関係あるかもしれません。聴覚システムには変換の仕組みがあり、時間があまりかかりません。または目の中での光化学と関係あるかもしれません。または処理にかかる時間が単に違うのかもしれません。」

このように違いはあるにもかかわらず、脳は20ミリ秒しか差がない光と音の順序を認識できるのです。音と光の認識には38ミリ秒のタイムラグがありますが、それでも、もし何かが炎を上げて燃え出し、その25ミリ秒後に大きな爆発音がしたとしたら、その順序は認識できるのです。

しかもこれはすべてたった1秒間に起こるのです。つまり、道を渡るのにどれくらいかかるか、についてはよく間違えているこの脳が、数十ミリ秒内の出来事の順序をきっちり把握することができるのです。

一連の実験の中で、ヴァン・ワッセンホフさんとそのチームは、見る対象によって時間知覚を変えられることを発見しました。たとえば、もし対象物が視界の中で大きくなり、近付いているように見える場合、知覚される時間は長く感じられます。同じことが、徐々に大きくなる音の場合でも起こります。この理由は単純です。もし何かに強い注意を向けると、時間が歪められるのです。

さらに、視覚からの入力に集中すると、同時に聞いている音の意味まで変わってしまうしいのです。たとえば、巨大な飛行機が自分に向かって近付いているとします。すると、エンジン音が小さくなるなど、飛行機が遠のいていく音が聞こえていても、時間が引き伸ばされて感じられます。

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・なぜ私が遅刻魔か

では、最初の問い、私がランチミーティングに向かいながら考えていたことに戻りましょう。なぜ私はいつも時間に遅れてしまうんでしょうか? 可能性としては、コーヒーを飲み、マリファナを吸う習慣のせいで、必要な時間を把握する能力が恒久的に影響を受けてしまったのかもしれません。時間をしょっちゅう早めているうえに、記憶を保存するアセチルコリンシステムを頻繁に遅くしているので、時間間隔の記憶がいいかげんになってしまったのかもしれません。時間の記憶を取り出すときに、ミスリーディングなものを取り出してしまって、時間の見積もりを間違ってしまうのかもしれません。

この説が正しければ、コーヒー反対キャンペーンをしている人にとっては朗報かもしれませんが、実は正しくないようなのです。メックさんは実験で、ネズミの脳が、薬物による体内時計の歪みを補正し始めたことを見つけたのです。体内時計は、カフェインやマリファナのせいで早く動くことに慣れてしまうと、それに合わせてより信頼できる時間の記憶を取り出してくれるようになるのだそうです。

私のケースに関しては、ヴァン・ワッセンホフさんが行った、「何かに集中すると時間の認識が歪む」という実験の方がよい説明になりそうです。近づいてくる物体が意識の多くを占めると、主観的な時間はゆっくりになる、ということでしたね。何かに注意するということは、時間を早く過ぎ去らせることにもなるのです。

ヴァン・ワッセンホフさんに「なぜ私がいつも遅れるか」について考えを聞いてみると、注意を向けている対象と関係があるかもしれない、と指摘してくれました。いわく、

初めてのデートでは、時間はあっという間です。とても集中しているからです。面白い議論をしているときなども、時間を忘れてしまいます。が、病院で順番を待っているときは、時間をきっちり意識します。時間そのものに注意を向けていると、時間はゆっくり過ぎるのです。

私の場合、記事を書くことに集中していて、5分と思った時間が25分でした。脳にとっては、集中している状態は薬物のようなものなのです。よって私の体内時計は早くなり、経過した時間の感覚が歪んでしまったのです。

で、どうすれば時間に遅れなくなるのでしょうか? と考えて、わかりました。私たちは脳の中に複数の体内時計を持っているのですが、それでも、体外時計客観的時計を持っているのには理由があるのです。デジタル時計に相談して、私の歪んだ時間の感覚を修正しろ、ってことですね。

それで思ったのですが、時計とは、人類最古の脳力拡張テクノロジーなのかもしれませんね。

Annalee Newitz(原文/miho)