なぜ製品スペックはアテにならない?

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計ること、すなわち知ることだと、かのケルビン郷は言いましたが、マーケティング担当のスペック表記が巧妙になるにつれ、計った数字も製品を知る参考にはならなくなってきています

ガジェットが安く買える年末、みんな売り場で数字、比率、%をじっくり見比べて品定めされてることと思います。周波数応答も見なきゃならないしダイナミックコントラスト比も色域もチェックして、性能とコストバリューをきっちり把握しないとAとBどっち選んでいいか判断つきませんものね。

ただ唯一の問題は...これが鶏ガラや爪切り選ぶみたいに簡単には品定めできないんですよね...。最近はスペック表記にも誤解を招く表現や誇張が増えてるし、全然意味ないものまで混じってますからね...しかも年々ひどくなってきた気がする...。

僕も15歳の頃は「Blast Processing」(セガメガドライブ[米:Genesis]が1992年に考えたマーケティング用語)と聞くだけでスゲーって思って、なんかスーパーニンテンドー(スーパーファミコン)が急に色あせて見えたものです。

今のスペックのお料理の仕方もあれと原理は大体一緒。メーカーさんは空っぽのマーケティング用語をあれこれ発明する代わりに、単にそれらしい数字をどっちゃり並べているのです。

こういった嘘・捏造まがいのスペックが出まわる背景には、まず、「人は数字に弱い生き物だ」という大前提があります。「Journal of Consumer Research」に載った最近の調査でも、数値化できるスペックの効果は絶大で、製品を自分の手にとって直にテストできる場合でも消費者はリストが長く数字(MPとか)がでかい製品をつい選んでしまう、という結果が出ています。

とんでもスペックが大量に出回るあとひとつの要因は企業同士の「対抗意識」

 

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「ガジェットの世界に(普通の人が理解できないような言葉を使う)ギミックや嘘が溢れ返っているのは競争が激しいせいもあるね」と語るのはDisplayMate TechnologiesのRaymond Soneira社長。仕様表記の嘘を見抜くバイブルとされる記事をMaximumPCに書いた同社長は、ガジェットの技術面のことが複雑になるにつれ、メーカーとマーケターが数字を自由にいじれる余地も増え、いじり方も大胆になってきていると言います。

「大体の消費者はどっちみち技術のことなんて理解できないから、簡単にミスリードされ、ごまかされ、ひどい時には騙されてしまうんだよ」(Soneira社長)

しかし怪しい表記が氾濫する唯一最大の理由はズバリ、こうしないと「業界で生き残っていけないから」じゃないかと。やらなきゃ、やられる! これだけ各社とも大げさな宣伝に走る中、自分だけギミックな競争から距離置いてたんじゃ製品の死活問題に関わりますものね。現実の生活で意味持つ数字だけ真面目に並べると、なんだか他より劣る製品に見えちゃうし、全く表記しなかったら、なんか隠してる人みたいです...。結局、Catch-22(狂気の戦争)と知りつつ、やらなきゃならないのが現実なんじゃーないでしょうか!?

長年オーディオエンジニアをしているミュージシャン兼プロデューサーのDavid Moultonさんは、このようなガジェットの仕様を取り巻く状況をこうまとめています。

「製品を作る時、エンジニアは特殊なテストを行ってパフォーマンスを計る。ところがテスト計測結果が営業の手に渡ると、彼らはこの数字を製品の価値を表現する言葉として使う。こうして数字は営業トークになってしまうのだ」

となれば、消費者がコロッと数字に惑わされなければいいんですよね。というわけで以下のパートでは、どの「営業トーク」に騙されないように気を付けたら良いのか、少し詳しく見てみましょう。

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Color Gamut(色域)

色域とは?:  これは画面が再生できる色の範囲を表すスペックです。普通はRec.709(HDTV)とかsRGB(パソコン、デジカメ)といったカラー規格の比を%で表示します。

落とし穴: メーカーさんは言わないけど、画面には、閲覧コンテンツを作った時の色域と同じだけしか表示されないので、まあ、それだけあれば充分です。もし違えば、本来の色とは違って見えるけど...。

企業の多くは「色域が広いのはベターな画面の証拠」という、よくある誤解を逆手にとってるんですね。「色域145%(英語表現?)」とかたまに見かけますが、あれは一体なんなのか? というと、特別な意味はないんです。色域が広いと、なんでもサチュレートして見える、というのはありますが。どのカラー規格でも色域100%以上あったってソースの元画像にないカラーは出せないんですよ、とSoneira社長は言ってます。

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Contrast Ratio(コントラスト比)

コントラスト比とは?: 正しくカリブレートした後、画面の最も明るい白の明度を最も暗い黒の明度で割ると...ハイおわり! これがコントラスト比です。

落とし穴: 現実には1500:1~2000:1の間に落ち着くのが普通。Soneira社長によるとベストなLCDでもこの間らしいんですが、それも過去の話となりました。今はデカけりゃオーケーとばかりに、メーカーさんもまったく意味ないコントラスト比競争に走ってます。

最近よく目にするのが「ダイナミックコントラスト比」なるもの。これは画面のビデオシグナルが完全に黒(つまりスタンバイモード)のとき計る比のことです。完全に黒いんだから光の出力もガクンと減り、元々コントラスト比を割り出す際に母数として使っていた「画像表示状態で一番暗いところ」よりまだ暗くなります。このトリックを使えば当然コントラスト比は上がりますよね? 時には500万:1なんていう天文学的数字(ソニーの場合は「無限」)になる場合もあるんです。もちろん嘘じゃないけど、このスペックは全くもってナンセンス。現実の性能を知る参考にはなりません。ダイナミックコントラスト比が伝えてくれるのは「黒に比べ白がどれだけ明るいか」という、たったそれだけの情報です。

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Response Time(反応時間)

反応速度とは?:  レイテンシ、反応レートとも呼ばれる反応時間。これは動きの速いシーンでLCDの動きにどれだけのブレが出るか数値化する業界標準テストです。1ピクセルが黒から一番明るい白に達し、また黒に戻るまで(rise-and-fall)にかかる時間を測定することで割り出します。現実に起こる像のブレを知る指標としてはあまり参考になりませんが。

落とし穴:  まあ、考えてもみてくださいよ、この5年という短いスパンの間に表示反応速度は25ms(ミリ秒)から(速いもので)1msまでになったんですよ? ひゃーすごい! マジック! と思っちゃいますけど、そんなすごいことでもないんです。Soneira社長によると、映像のトランジッションというのは、もっともっと小さくて微妙なグレイからグレイに変わる(gray-to-gray)影のトランジッションが大半らしいんですね。こちらは普通もっと長い時間(3~4倍)がかかるのだけど、動きのブレの処理能力を示す指標としてはこっちの時間の方が遙かに大事。

ところがそんなの消費者が見たってどっち(rise-and-fallかgray-to-grayか)の速度を測ったかなんて知る由もないわけですよ。スペック表示は売上げに大きな影響を与えますから、表示時間は短いに越したことないですよね? それで結局メーカーさんとしても映像上はgray-to-grayのトランジッションを改善する方が重要なのに、黒白黒の反応時間減らす方が優先みたいな雰囲気が生まれてしまってるんです。結果どうなったか? というと、反応速度が最速のスペックを持つLCDディスプレイも、映像のブレが最小とは限らない、そんな状況が生まれているのですよ。

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Viewing Angle(視野角)

視野角とは?:  これは簡単です。画面の視聴に耐えうる角度の最大値です。一般にプラズマディスプレイの方が広いですけど、メーカーさんが仕様書に記載する角度は...無視していいかも...しれない...。

落とし穴:  最近は180度超えも珍しくないですが、これもSoneira社長に言わせると現実の視野角とはなんの関係もないそうですからね。大体の消費者は気づいてないのですが、この角度のスペックはコントラスト比が10:1に落ちる角度がベースの数字なのです。とてもじゃないけど視聴に耐えるレベルの数字じゃない。 現実にはその±45度で許容範囲のコントラスト比がやっと出るぐらいなのですが、それだって明るいサチュレートした色の時だけ。もっと明暗、色相、サチュレーション(彩度)に幅がある画像はさらに狭い視野角から見ても「かなり劣化して」見えるんですよ。もちろん誰も教えてくれませんけどね...。

音声

Dynamic Range(ダイナミックレンジ)

ダイナミックレンジとは?:  オーディオ業界では楽器や音響機器が出せる一番弱い音と一番強い音の比を測ってデジベルで表示しています。それがダイナミックレンジ。オーディオ技師がこれを気にし始めたのはアナログ録音の時代でした。当時はテープのノイズ(磁気録音に最初から埋め込まれたノイズ)が大きな問題でしたからね。今のデジタル録音にはほとんど関係ないんです。

落とし穴: ダイナミックレンジもほぼいつも、必要以上に大きく表示されているとMoultonさん(前出のオーディオ専門家)は言います。消費者的には嫌なノイズが出ない程度のダイナミックレンジは欲しいところだけど、現実の暮らしで触れる音楽・映画はノイズなんてほとんど問題ないみたいですよ。Moultonさんはこう説明しています。

「電子的にやれば、そりゃ現実世界にあるダイナミックレンジよりずっと大きなダイナミックレンジが作れる。ダイナミックレンジ120dbと自慢する人はただのアホさ。現実にそこまでは行けないのだから。

僕らが生きている現実のアコースティックな音の世界で通用するのはその約半分の60dbだね。つまりものすごく小さな音は僕らが生きてる世界の生活音で聞こえないし、大きな音はそのレベルで再生すると音があまりにもデカくて近所から苦情が来たり、訴えられてしまう」

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Frequency Response/Bandwidth(周波数特性/帯域幅)

周波数特性/帯域幅とは?: 周波数応答には「帯域幅」という呼び方もあります。これは我々の耳に聞こえるスペクトル幅のことですね。人間の耳が感知できるバンド幅って意外と広いんですよ。具体的に言うと、なんと10オクターブ(周波数は2の10 乗...高低差1000/1の比)もあります。 耳が聞き取れる一番低い周波数は約20 Hz、一番高い周波数は20 kHz。音楽や学校の授業ではこれを10で割ってオクターブって呼んでるんです。1オクターブ上がると周波数は2倍になります。

落とし穴:  これは音響機材作って売る時、メーカーがごまかしちゃうんですね...。今は20 Hz~20 kHzで周波数を特定するのがとても一般的ですけど、あれもひどい話ですよ。第一そんな厳密に出力できる音響機材はほとんどないし、第二にスピーカーが対応できません。それを取り付ける家が丸1軒買えるぐらい高いスピーカーでもない限り。とにかく一番高価な機材じゃないと無理なんです。

Moultonさんは、「周波数特性はどうにでも書けるし、読む方も眉にツバどっぷりつけて読まないと。[...]みんな、そんなに周波数特性が良くないものも、良いって書いてるからね」と話してました。

Power Handling/Wattage(パワーハンドリング/ワット数)

パワー処理/ワット数とは?:  家が揺れるぐらいタフなパワーハンドリング! ...があったって使う時はそんなパワー使いません、せいぜい1ワットか2ワットです。なのに1200ワットある豪華スピーカーは...これがあんまり値下がりしないんだなぁ...。

落とし穴:  一般の人が音楽を聴く範囲でパワーはあんまり関係ないです。新しいサウンドシステムやスピーカーをこれから買いにいく人にひとつアドバイス。パワーが2倍になっても耳ではほっとんど聞き取れませんからね(3db未満の違いなので)。パワーが10倍になって初めてウーファーやラウドスピーカーの音が2倍の大きさになる感じ。なので300ワットと1200ワットのシステムの違いといっても...そんな大したことないんです。

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数字がアテにならないなら、これからギークはどうしたらいいの? ―まずは触ってみることですね。あとはガジェットを毎日つかってる信用できるサイトのレビューを参考にするのも良しでしょう。最後は宣伝になっちゃいましたが、今日はこの辺で。

Bryan Gardiner(原文/satomi)