【デザイン】ダウンジャケットってどうなってるの?

【デザイン】ダウンジャケットってどうなってるの? 1

軽くて、動きやすくて、極寒の雪山にも耐えられる防寒性を持つダウン素材。それは人類の防寒史上もっとも暖かい素材であり、いまだにそれをしのぐ素材はありません。今回は、そんな最強防寒具としてのダウンジャケットがどんなふうにできているのかを解説します。

 ・なぜダウンなのか?

ダウンジャケットのことなんて、普通あまり気にかけないと思います。自分が持っていたり、もしくは友達でも持っている人はたくさんいたりしますが、だからこそ当たり前すぎて、気に留めることなんてあまりないですよね。ただのダウンジャケット、実用品です。

でも、ダウンジャケットがこんなにユビキタスなのには、それなりの理由があるのです。というのは、人類が生きて行く上で、より暖かく過ごすための方法を数世紀にわたって作り出そうとしているのですが、それでも、きちんと作ったダウンほど良いものはできていないのです。科学がどんなにがんばってミラクル人工合成素材を作っても、ダウンにはかないません

でも、重量に対する保温性はパーフェクトなんですが、雨に濡れてしまうと、ダウンはダウンしてしまいます。なのでダウンは、乾燥した、低温の気候に合っています。ダウンは水との相性が悪いので、鳥にくっついているときとは違って、水に濡れると羽が防寒性を失ってしまうのです。

でも、ダウンにはものすごい圧縮性があります。しかもものすごく丈夫です。きちんとケアすれば、何十年も着られます

とにかくダウンは、重量に対してもっとも暖かい素材なのです。そう、重量がポイントです。たとえば数千メートル級の山で、岩や雪でおおわれたきつい傾斜を登って行くとしたら、身に着けるものは極力軽くしたいはずです。

このようにダウンは断熱素材として非常に優れているのですが、その真価を発揮するには、ただ適当に服の中に詰め込めばいいってものじゃありません。良いジャケットとは、ダウンであっても、デザインが優れていなくてはいけません。ダウンジャケットがどれもほとんど同じにみえてしまう理由は、極めて微妙なバランスが求められるからなのです。というのは、ふかふかのクッションを体中に巻きつけた人に見えないようにするためのバランスです。

・ダウンはただの羽じゃない

ダウンジャケットのデザインのかっこいいところは、たとえばCPUとか太陽光パネルとかと違って、存在理由が形から見て取れることです。ダウンの服を注意深く見れば、なぜああいうデザインなのかがわかるでしょう。「形態は機能に従う」を体現しています。不要な部分は一切ありません。デザイナーがちゃんと仕事をすれば、削るものは何もなくなります。ただダウンがあり、それをホールドするものがあればいいんです。が、そこがトリッキーなポイントです。厳密にはどういう構造になっているんでしょうか?

アウトドア衣料品を手がけるパタゴニアのデザイナー、エリック・ライスさんは、知る人ぞ知るダウン・セーター(一般的なダウンジャケットをより薄手でコンパクトにしたようなもの)を作った人物で、ダウンに精通しています。なので彼に、ダウンが僕らを高山で凍える悲劇(または、通勤通学の寒さ)から守ってくれる仕組みについて聞いてみました。

ダウン・ジャケットを作るには、まずダウンそのものを知る必要がある、とライスさんは言います。ダウンは基本的には羽です。でもあくまで基本的に、です。ライスさんの説明によると、ダウンのすごいところは、近づいてよく見てみると、ものすごく細かい空間がたくさんあることなんです。

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この画像はダウンの羽を顕微鏡で見たものです。超アップです。これだけ近づいて見ると、ダウンの秘密がわかってくるのではないでしょうか。ダウンは単なる羽ではないんです。ディテールに魔法があるのです。

まず、少しズームしたところで、メインの羽毛レベルがあります。いわゆる羽(フェザー)にくっついているような羽毛です。もう一段ズームすると、二番目の羽毛がメインの羽毛から出ているのがわかります。さらにもう一段ズームすると、三番目のさらに小さな羽毛があり、先端が突起状になっています。この小さな突起部分がミソなんです。ダウンの羽がひとつ、ふたつあるだけでは何もなりません。でも、ダウンが詰まったジャケットは、突起と突起がかみあってものすごく複雑な構造を作り上げ、全体をふわっと持ち上げるだけのテンションを作り出すことで、重力のままに落ちてはいかないようになるのです。

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これを小さな、ふかふかの高層ビルのようなものだと考えてください。個々のダウンが支えあうことで全体が立っている状態です。そしてこのふかふかに「立っている」構造のことを、デザイナーたちは「ロフト」と呼んでいます。

ロフトとは基本的に、ふかふか感を表す専門用語で、一番大事な言葉です。ロフトが良ければ、つまりダウンの詰め具合がふかふかであるほど、より多くの空気がジャケットの中に取り込まれていて、寒さが入り込む余地は少なくなります。強く弾力のある羽は、強く、厳冬にも耐えるジャケットになります。

技術者も、科学者も、またはどんなガチョウの敵も、ガチョウの羽の持つ効果を打ち破ることがいまだできていないのです。ダウンは水に弱いことから、PrimaLoftのような防水素材でダウンを超えようとする試みもありました。でもそうした人工素材は、対重量比の暖かさにおいてダウンにかなうものがなく、しかも往々にして生産コストが非常に高いのです。

・寒さに対するシールドの作り方

では、正しいダウンを手に入れたとして、次にどうすればいいでしょう。単にジャケットに詰め込めばいいというものではありません。ライスさんによれば、ダウンは特殊な方法で固定させる必要があります。

ダウンのコート、ジャケット、セーター、いずれにしてもデザインの過程ではシンプルな質問がふたつあります。どれくらい暖かくしたいかと、どれくらい軽くしたいかです。すでに述べたとおり、ほとんどのダウンジャケットは見た目同じだと気づいたでしょう。どれもダウンの詰まったふかふかの、しましまラインです。それぞれのライン、または「キルト」は、大きくなったり小さくなったり、厚くなったり薄くなったり、用途によって違ってきます。では、どんな用途があるでしょうか?

もし、寒い日にちょこっと着られる、軽いものがほしいなら、リボンみたいに細いダウンの詰め物が必要になります。詰め物が細いということは、ダウンは少なく、全体のかさも減ります。かがんで靴のひもを結ぶ、伸び上がって電車の網棚に荷物を載せる、といった動きも楽ちんです。肌寒い程度の気候なら、薄手のダウンでしょう。

雪の日や登山には、大きなキルトが必要です。ひとつひとつのキルトは大きく、したがって全体の数としては少なくなります。大きなキルトだとダウンが「ロフト」するだけの空間ができ、ふかふかになります。その分断熱性も高くなり、寒気に対する分厚いシールドになります。どんな寒気が来ようと、そんなコートの中はシェルターになります。こんなヘビーデューティなダウンジャケットには、薄手の軽いジャケットみたいなリボン状のものとは違って、大きな長方形の詰め物が必要になります。

でも、さらに言えば、ダウンなら何でも良いというわけではないんです。人生におけるいろいろなものと同様、そこには等級があるんです。最高級にふかふかの高価なダウンがある一方で、どうしようもないダウンもあるんです。

そんな違いを見分けるためにレーティングシステムがあり、ダウンの「フィルパワー」を計っています。その基準はダウンがどの程度「ロフト」し、保温性が高いかというもので、数値が高ければより良質であることを意味します。そこそこのフィルパワー、たとえば500以上なら、少ない量でもある程度保温性があるということを意味します。ダウンが少なければ、より軽くなります。成熟したガチョウから取れる良質なダウンだとフィルパワーが800~900となり、ものすごく軽いジャケットができます。

・もっともっと暖かくしたいときは?

さて、ダウンを手に入れたとして、キルトもあるとして、次にどうするかというと、これらをくっつけます。ダウンジャケットの特徴であるしましまラインは、キルトが縫いこまれていることでできています。それによって、羽が正しい位置に固定されるようになっています。ほとんどの用途においては、この作り方で問題なく、これが普通です。

でもライスさんの指摘によれば、縫い目部分にはダウンがありません。つまりプロテクションがなく、寒気の矢が突き刺さる隙になってしまいます。これは通勤通学程度なら問題ないですが、高山では弱点になってしまいます。そんなとき、デザイナーは「バッフル」構造を使うのです。これは最高にハードコアなジャケットのビルドです。

「バッフル」構造というのは、シールドの下にシールドを付けるようなものです。断熱素材のポケットを、服の構造の内部に作るのです。具体的に言うと、縫い目部分の裏側に、さらにダウンの詰まったチューブをぐるりとめぐらせるのです。これで弱点はなくなりますが、価格はすごく高価になります。

・どうやって羽が飛び出さないようにしてるの?

ライスさんにもうひとつ聞きました。羽が飛び出さないようにどうやってるのでしょう?せっかく良いダウンを使っていても、その羽がどんどん出てきてしまっては最悪です。だからそれを防ぐための素材を選ぶところまで終わらないと、デザインは終わりません。

ダウンジャケットでは、中身は天然素材ですが、外側は合成素材が便利です。その選定も厳しくなくてはいけません。「ダウンプルーフ」な素材とは、防風性があり、軽量で、密にできていて羽が飛び出さないようになっているものです。

さあ、ダウンを手に入れ、それを入れるキルトができ、用途に合わせたジャケットの形が決まり、適切な生地を使って縫い合わされ、ジッパーとロゴがついて、ようやくダウンジャケットできあがりです。今度ダウンジャケットを見かけたとき、または着るとき(今着ている人も)、そんないろんな要素があることを少し思い出してみてください。

David Evison/Shutterstock

Sam Biddle(原文/miho)