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本当のところCDはなぜ74分なの?

2011.01.13 10:30 [2] [0]

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1980年コンパクトディスク・デジタルオーディオ規格が出た際、ひとつだけ妙だったのは最大収録時間が74分だったこと。60でも70でもない、74。

こんな中途半端な数字に落ち着いた背景には、あるひとりの耳の不自由な人がいました。そう、ボン生まれのルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンです。彼が最後に残した音楽史上最高の傑作「交響曲第9番ニ短調作品125」(Denonのリファレンスヘッドフォンで聴くたびに今でも全身粟立つ!)が収まるように74分という長さにした、というんですね。日本では有名な話ですけど。

時は1970年代、ロック&ディスコの絶頂期。フィリップス×ソニーがCD規格の共同開発に乗り出したのは1979年です。ローリング・ストーンズが「Summer Romance」を録音し、デビー・ハリーの「Heart of Glass」が大ヒットし、シックの「Good Times」に合わせて世界中が踊りまくっている、そんな時代ですね。

11.5cmをおすオランダのフィリップスに対し、ソニーは12cmをプッシュ。どちらもサンプリング周波数44056Hz、量子化ビット数16ビットのステレオサウンドで60分、充分収まるサイズではあります(追:1979年12月段階の当初案ではフィリップスが44.0-44.5kHz/14bit/11.5cm、ソニーは44.1kHz/16bit/10cmでした)。両社1歩も譲らない中、結局決め手になったのは大賀典雄氏の「第九も入らなくては」という一声だったとされます。以下はソニー社史からの引用。

フィリップスの主張した直径11.5cmというサイズは、オーディオカセットの対角線の長さと同じで、 DIN規格(ドイツ工業品標準規格)に適合する。ヨーロッパ市場でのカー・オーディオとしての将来性を見込んだのである。一方、ソニーは音楽ソフト面から議論を進めた。音楽家でもある大賀から決定的なひと言があった。「オペラの幕が途中で切れてはだめだ。ベートーベンの『第九』も入らなくては。ユーザーから見て合理性のあるメディアにしなくては意味がない」。これは75分あれば大丈夫だ、ということを意味していた。さらにクラシック音楽の演奏時間を調べてみると、75分あれば95%以上の曲が入り、直径12cmは必要ということになる。

大賀氏と言えばオーディオフリークで有名で、元々は東京芸大声楽科卒業後ベルリン国立芸大を出たバリトン歌手。東京芸大在学中に東京通信工業(後のソニー)のテープレコーダーを初めて聴いて手紙で音質に文句つけたら、逆に会社に入ってみないかと誘われ嘱託となり、後に入社、1980年代に社長にまで上り詰めた人です。当時は副社長してCD開発事業を総括していました。そのオーディオについての発言力は絶大だったんでしょうね。

フィリップスのサイトによると、一番長い第九の演奏時間は「1951年バイロイト音楽祭でヴィルヘルム・フルトベングラーが指揮したモノ録音の74分」で、60分じゃ途切れちゃう。で、74分×12cmに落ち着いた、ということです。

無論、この日本人なら誰もが知るエピソードには異論もあります。
 
 


よく言われるのは「第九収録できる長さを希望したのはカラヤンだ」という説で、上記エピソードにも「大賀氏がカラヤンの希望を鶴の一声として伝えたので一同それで納得した」というバージョンがあります。新規格をオーディオ愛好家に広める上で大きな役割を担うカラヤンが、新規格推進の条件として第九全曲収録できる長さを希望した、という話にはなかなか説得力ありますよね。

なぜ自分が指揮棒振る時の演奏時間(66分)を基準としなかったのかは「?」ですけど、これはフィリップスが子会社のPolyGramに「知りうる限りの演奏で一番長いものを調べさせてフルトベングラー版の74分に行き着いた」みたいですよ(フィリップス社の解説より)。

しかし、フィリップス社チーフエンジニアのKees Imminkさんの話はこれまた頭っから違うんです。12cmに落ち着いたのは「(当初案のどちらでもない)ニュートラルなサイズだったから」という、なんとも味も素っ気もない気の抜けたビールみたいな話なのですよ。これはソニーの説明ともフィリップスの説明とも違います。真ん中の穴はオランダの10セント硬貨(dubbeltje)に合わせた、という俗説(写真)とは符号しますけどね。

でも仮にそれが本当だったとしても僕は信じたくない気持ち...。どちらかと言えばクレイジーなドイツ人とマッドな日本人が74分ってことにした、という話を信じていたいです。だってその方がずっとロマンありますから。

読者さんからはこんな説も寄せられました。

悪いけど全部はずれ。CDは最初650MBで69分だった。これはドイツ人カラヤンが第九を指揮した場合の演奏時間に相当する。カラヤンはテクノロジーおたくで、まだ誰もレーザーディスクが何かも知らない時にいち早くコンサートのレーザーディスクを作った人だ。あらゆる録音技術に関心を持っていた。ソニーCEOとも友だちで、音楽祭で有名なザルツブルグの郊外にCDの工場を作って第九が収まる記録媒体を作るようソニーを説得したのも彼だ。そのCD製造技術が改善し、74分の限界までデータの読み取り・書き込みができるようになったのは、それから数年経ってからだった。つまり69分で始まった記録媒体にエンジニアが詰め込めるMAXが74分だったんだよ。

---

...という記事公開後、編集部にImminkさんご本人からこんなメールが届きましたよ。

あれはPR用の美談です。実際は11.5cmのディスクを生産できる工場を抱えるフィリップスの方が若干有利になるので、あんな話を出してきたんです。

この直径12 vs 11.5cm問題をめぐる詳しい話は私が「Beethoven, Shannon, and the Compact Disc」という記事にまとめてあります。

Greetings,
Kees


関連:音楽雑記帖 - CDが74分なのは

Jesus Diaz(原文/satomi)
 

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カラヤンとデジタル―こうして音は刻まれた




 

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