Mac OS X Lion:これは僕らが期待した未来じゃない

Mac OS X Lion:これは僕らが期待した未来じゃない 1

こんなこと書くのは胸が張り裂けそうだけどMac OSX Lionのインターフェイス、ダメっぽいですよ。OSをシンプルにして、iOSのクリーンなエクスペリエンスと統一するというミッションはどこへやら。

グラフィックスとネットワーキングの基幹が高速で磐石なUnixじゃなかったらLionはアップルのVistaになるところですよ。

よりシンプルな未来...になっていない

Lion初公開のときスティーブ・ジョブズはiPadとiPhoneの成功要因をデスクトップに採り入れるのがLionのゴールだと明確に示しました。悪いことじゃないですよね。操作が簡単になればユーザーもコンピュータの操作にてんてこ舞いすることなく、やりたい作業に集中できますから。コンピュータ・エクスペリエンスの簡略化は'80年代からずっとコンピュータの聖杯とされてきたことでもあります。

コマンドラインからグラフィカルデスクトップに移行した時にも、それ(UIの簡略化)は起こりました(進化通史はここ[英語])。でも過去30年の間にコンピュータがまたまた複雑になってしまったな、と感じてる人は大勢います。何年もかけてジワジワくるので工夫して我慢している人もいますけど、大体の人は過去20年の間に溜まりに溜まった因習もショートカットも知らないまんま。継ぎ当てみたいにUIのレイヤーにレイヤーが上塗りされてきているのが現状です。

だからiPadとiPhoneは良かったんですね。そのクリーンなスレートは溜りに溜まった因習を隅に一掃しました。シンプルでパワフルな環境。すごい。これが未来だって思わせるものがあったんです。

でもLionはその未来に横から割り込んできたような違和感があるんですね。八方美人が仇に出て、OS X開発チームが作ったのはシンプルを求める消費者も、OCDの制御を求めるプロフェッショナルも満足させられない、なんとも調和に欠ける模造品のごときUIなのです。

アップルは特定の層をターゲットにしているわけでもないんですね。普通の人には超シンプルな(全画面表示切り替えの)モーダルなインターフェイスを用意して、ナードな人には昔ながらのウィンドウが開くプロレベルのインターフェイスを用意する...といった具合に、ユーザー判断で使い分けできるようにもしていません。そちらはむしろマイクロソフトがこれからWindows 8でやろうとしていることです。これに関しては皮肉にもマイクロソフトを見習うと、アップルも正しい方向に一歩前進ということになりますね。

良かれと思ったことが仇に

 初めてLion起動した時には、iPadみたいにLaunchpadが画面いっぱいに出るものと思っていました。Appleもこれがアプリを開く新しい手法だって喧伝してましたからね。

Lion-iOS-iCloud統合論は聞いてると素晴らしくて、魔法みたいな話ですよね。Launchpadからアプリにアクセスできて、アプリから文書にアクセスできて、その文書もゆくゆくは全部クラウドに保存され、手持ちの全端末からアクセス可能になるというんですから。Gmail登場でメール受信箱の必要性がなくなったように、これで物理的デスクトップのメタファーも一掃されることに。もちろん上級ユーザーやマゾ(?)のみなさまのためにFinderへのアクセスも当面残すんでしょうけどね、マイクロソフトがWindows 8でやってるように。

ということで関係者は全員納得なんでしょうけど、アップルが出してきたUIはなんか違うんですよね。Launchpadは「全アプリにアクセスする手法」という話ですけど、ドックのLaunchpadのアイコンをクリックして、そのインターフェイス開いてからじゃないとアプリが選べないんです。もうそれだったらFinderからアプリ開いちゃった方が早いですよね? 1回(か2回か3回)クリック増えたぶん、複雑になってしまってるんですよ。

ミッション・カオス

Lionの問題点は他にもあります。例えばフルスクリーンのアプリで使うMission Control

アップルはExposéとSpacesを完璧に融合したものがMission Controlだと喧伝していましたよね。因みに上級ユーザーに愛されているExposéとSpacesはLeopardの生産性向上化ツール。Exposéは素早くアプリとウィンドウを選べる機能で、Spacesは別々のデスクトップに別々のアプリの窓をグループ表示させることでプロの仕事環境をスッキリさせる機能です。

この融合の仕方(上の動画を見るとよくわかります)も、上級者はともかく、一般消費者には複雑過ぎるんですね。まるでモーダルの世界とウィンドウの世界の間にぶっ壊れた橋が架かってるような感じなのです。

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まずデフォルトで入ってるDashboard Space。これは今のMac OS Xみたいに、全ウィジェットを収めておく場所ですね。

次にDesktop Spaceってのがあって、ここはウィンドウが開くタイプのアプリの在り処。やっぱりこれもLeopardに似ています。Lionでは複数のデスクトップごとに別々のアプリをグループ分けが可能で、どのアプリをグループにまとめるかは全部ユーザーが決められるようになってます。

そして最後にくるのがフルスクリーンアプリのSpace。ここには全画面表示のアプリ1個につきSpace1個の割合いでSpaceが何個もできていくんですね。現状、フルスクリーン表示で使えるアプリはiPhoto、Previewと、あとはシステムアプリ多数といったところ。

アイディア自体は悪くないし、フルスクリーンのアプリを使う時はこれで完璧です。 3本指か4本指で右左にスワイプするだけで簡単&スムーズにアプリの切り替えもできるし、気持ちのままにタスクを切り替えることができますからね。僕が使うアプリは専らPhotoshopとタブ付きブラウザ、 iMovie/FCP、Mailで、7万枚ある写真アルバムはiPhotoで管理し、1万2000曲ぐらいある楽曲はiTunesで管理しているわけですが、こういうアプリを全画面で切り替えて使えるのは便利。シンプルでクリアなところがいいなって思います。

ところがここにDesktop SpacesとDashboard Spaceが加わると、窓、デスクトップ、四角、Dashboardウィジェット、アイコンの集中砲火状態になってしまうのです。

しかも3本指を上にスワイプしてMission Controlに入ると、今ある忌々しいウィンドウのクラスタに、さらに忌々しいウィンドウのクラスタがどっちゃり加わって、もっとすごいことなってるんです。窓でもSpaceでもどれかひとつクリックすると動くことは動くのだけど。こんな複雑なんじゃExposéとかSpaces使ってた方がまだシンプルって気がしちゃいますよ...。各機能のコントロールを一箇所にまとめようとして、かえって複雑になっちゃったんですね。こんな風に混ぜちゃダメですよ。

情報が交錯してますが、サードパーティーのアプリはすべてアップルが推奨する全画面表示モード込みになるって話なので、だとしたらiChat、Twitterみたいな小さな窓1個のアプリのホームはDesktop Spaceということになるのかもしれませんね(それか全部Dashboard Spaceに動かしちゃった方が良い気もしますが)。上級ユーザーはアプリを全部Desktop Spacesで動かしたければ動かすことも可能でしょう。普通のユーザーは全アプリをフルスクリーンモードで使えば暮らしもシンプルになります。Launchpadもそうですけど、システム環境設定で敢えて指定しない限りアプリのデフォルト・モードはフルスクリーンになるはずですよね。

そうすれば消費者もiPadみたいにシンプルでモーダルな環境が得られるだろうし、プロはプロで今の忌々しいクラスタの山を残すことができます。

一貫性がない

...とコンセプトをごちゃ混ぜに組み合わせることから派生する問題も多々あるのです。例えばフルスクリーンのアプリ使用時に別のアプリを開こうにも、簡単に開く方法がない! スワイプ、スワイプしまくってDesktop Spaceまで戻ってDockやFinderやLaunchpadからアプリを起動するか、3本指を上にスワイプしてMission ControlのDockからアプリを開くか、DockのLaunchpadをクリックしてアプリを探すか、Command + Tabでメニュー開いてそこからLaunchpadを開くか、フルスクリーン表示アプリのトップメニューにあるSpotlightウィジェットでアプリ探すかしないとダメなんです。ぜいぜい。

な~んかあまりにもアクセス経路あり過ぎて消費者は頭がパンクしちゃいますよね。上級ユーザーはAlfredみたいなサードパーティーの一発起動ソフトのランチャ使っちゃうんじゃないですかね、どこからでもアプリや文書が素早く開けるやつ。

コンセプトがごちゃ混ぜになって生まれる頭痛の種はそれだけじゃありません。ジェスチャーに一貫性がないのも問題。新登場のNatural Scrollingとかもなかったことにした方がいいんじゃないですかね...。これは生まれてからずっとスクロールしてきた流れを逆にやるジェスチャ(数分も使えば頭は慣れますが、いつでもOFFにできますよ)。問題はアプリ同士の間でもジェスチャ認識に一貫性がないところなんですよ。

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Space間移動は3本指で左右スワイプ...ですけど、Launchpadにいる時はこれと似た操作を2本指だけでやるんです。1本指ではダメ。何故ならLaunchpadはアプリなので、ページ切り替えは2本指じゃないといけないんですね。でも頭ではSpace切り替えは3本という意識に縛り付けられたままなので、なんか2本指でいいのかなという気がしちゃうんです。

しかもSafariで2本指スワッピングすると履歴参照ですし、Previewでやるとページを行ったり来たりできるんですよね...。それぞれ納得な気もしますが、気がするだけで滅茶苦茶ですよ。

この問題は他のアプリに影響が出る可能性もありますよね。ジェスチャー言語に一貫性が感じられなくて、iPhoneやiPadほど直感的に使えるわけでも決してない。もしかしてこれはそれ用のタッチのエレメントがないせいかもしれませんけどね。Lion買う人はMagic Trackpadも買った方がいいですよ。

残念な物理的メタファー

iOSからMac OS X Lionに投入されたもうひとつの要素は、物理的な面をグラフィックスでエミュレート(再現)する機能です。今やPhoto Boothを開けばデカい模造の写真パネルが出てくるし、Address Book開けば紙で閉じた住所録、iCal開けば紙と革でできたカレンダが出てくるんですね。

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それにしても何故にアップルはわざわざ時代遅れになった小物を好んで再現するんでしょうね?  紙と革のカレンダなんて今の人、使います? スケジュール帳は?  18歳未満の若者に訊いたら「それなに?」って言われそうですよね。

iOSのガイドラインでは、物理的な面にタッチを誘導するよう推奨しているのはわかるんですけど、それはタッチする画面があればの話であって...。もう2008年じゃないんだし、今は誰でも画面タッチの仕方ぐらい分かってますよね。どっちみちiMacは画面を触って動かせないですし...。

これは別の原稿で取り上げるべきテーマかもしれないですけど、古物をエミュレートする嗜好は青臭いギミックという気がしちゃうんですよね。ドロップ飴みたいなAqua(OS XのUI)がそろそろ古臭いな、と感じるのと一緒。これに関してはアップルのソフトウェア担当もジョン・アイヴ氏とその取り巻きに学ぶ必要がありそうですね。インターフェイスをシンプルにして、ユーザになんの付加情報も与えないもの、無用の飾りは全部切り落としてしまった方が。アップル独自のハードウェアとタイポグラフィー活用を踏まえたUIが見たかったなあ、と思ってしまいます。

まともなところ

悪いとこばかりじゃないですよ。あのゼリーみたいなAquaのスクロールバーは消え、UIもグラフィックは前よりシンプルになって統一感も出て、かつてないほど地に足がついてる雰囲気。リアルの小物を画面上に再現するギミックに走ってるばかりじゃないのです。

アニメーション使いもゴージャスで、いろんな意味が込められています。AirDropの共有用インターフェイスも最高。シンプルで理に適っており、ちゃんと使えて。無駄が一切ないです。Mailではスレ表示にアニメーションを使ってるんですが、これもなかなか良くて、話の流れがよく分かるんですね。グラフィックスはもっと単純にして、もっともっと情報を伝える部分にアニメーションを使って欲しいですけどね。

他にも細かいことは山ほどあります。例えばiChatは連絡先リストがひとつになりました(サードパーティーのチャット専用アプリでは既にそうなっており、兼ねてから修正を求める声があった)。アカウントと連絡先の情報もiOSっぽく統一されてて使い心地最高。アプリのステータス保存や文書バージョン自動保存(データを自動保存し、後で時間を遡って編集を前の状態に戻せる機能)も然り。細々したことだけど、これでLionに乗り換える人も多そうですよね。

自分的にLionは要らない。あなたもたぶん不要

でも全体として見れば、これはマストハブなアップグレードじゃない、というのが僕の感想です。

Mac OS Xは大好きです。2000年9月に出た最初の使いにくい開発者プレビュー版の時からずっと使ってますし。iOSも大好きです。モーダルだからパワフルなコンピュータ処理もシンプルに使えて、同時に普通の人をエンパワーしてくれるOSだと思います。このふたつがMac OS X Lionで完璧に合体するものとばかり期待してたんですが、残念ながらUIの観点だけ見ればその試みは失敗に終わった感じですね。その作業に失敗したことで従来容認できたことまで台なしになってる気がしてなりません。

Jesus Diaz(原文/satomi)