氷を割る核動力のバターナイフ!世界最大級の原子力砕氷船「ヤマル号」

氷を割る核動力のバターナイフ!世界最大級の原子力砕氷船「ヤマル号」 1

旧ソは効率的統治能力には欠けるものの、そのぶん怖いもの知らずなエンジニアリングで世界をアッと言わせてくれましたよね。ホント、ひとつの船に原子炉2基積んで北極の氷を割らせようなんて考えるの、旧ソぐらいでしょう。北朝鮮だってそこまでは...。

シベリア北西の「地球の果て」、ヤマル半島。その名を冠したアルクティカ級原子力砕氷船「ヤマル号(NS Yamal)」は、ロシアが誇るモンスターマシンです。

製造開始は1986年ですが完成は1992年になってからです。間にソビエト崩壊を挟んでいるので。

ロシア新政府に政権交代後は当初予定された目的(北極海航路を開いておくこと)も不要となったため、船長150m、重量2万3455トンの船に50の客室をあつらえて北極観光クルーザーに改造し、「Murmansk Shipping Company」が運用してきました。

動力源は加圧水型原子炉2基で、濃縮ウランの燃料棒を各245本ずつ備えています。核物質を500kg満載するとヤマル号は燃料補給抜きで最高5年まで稼働できます。すごいですね。

原子炉は重量各160トンあり、これは密閉し圧力を下げたコンパートメントに収め、その外側を鋼鉄・高密度コンクリート・水で囲って外部との接触を遮断しています。船の至るところに計86個のセンサを配し、放射能の量は常時監視してるんですよ。

 原子炉で推進システムを動かす仕組みは、ソビエトの直感・直截的デザインの伝統を破る複雑さ。まるでルーブ・ゴールドバーグ・マシンですよ。

まず高圧な蒸気をつくるボイラーを原子炉で動かし、蒸気圧力で発電機12基を動かし、その発電機がさらにプロペラのスクリュー3本の各々についている電力モーターを動かすんですね。

モーターがスクリューに供給するパワーはスクリュー1本につき2万5000馬力(55.3MW)。その超馬力で厚さ最大2.3mの氷を3ノット(3×1.857km/h)の速さでザックザク砕いていきます。

ヤマル号が処理できる氷の厚さは定格最大5mですが、実際に砕いた塊の一番高いところを測った記録では、なんと厚さ9mなんてのも残ってるんだそうな。

しかもこのクソ馬力に任せて厚さ48mmもある二重船体で砕く...だけじゃないんです。船体には摩擦抵抗を減らす特殊ポリマーのコーティングを施し、二重船体の間にはバラスト水処理装置を実装して船尾にもっと重量が集中するようにしているほか、水深9mで毎秒24m³の泡を噴出しまくる気泡発生装置も装備してるんですよ(泡で氷盤が割れ易くなり、舵取りも楽になる)。

一度に縦20フィート(6m)の氷をぶった切る超人パワーを備えたヤマル号なわけですが、実は北極に囚われの身。そこから外には一歩も出られないのです...。

何故なら、ヤマル号の原子炉は北極の極寒の水を冷却水に使ってるので、赤道に近づくとどうしてもオーバーヒートして燃料棒がメルトダウンしちゃうんですね。増してや赤道またいで南半球に行くなんて夢のまた夢。なんだか悲しいですね。

[Yamal (Icebreaker) Wiki - Cool Antarctica]関連:ヤマル号第1日目(11日間のツアー体験記です。おすすめ!)

Andrew Tarantola(原文/satomi)