スティーブ・ジョブズと米Gizmodo前編集長の最後の会話

スティーブ・ジョブズと米Gizmodo前編集長の最後の会話 1

ジョブズとGizmodoはこんな風に出会い、そして会えなくなり、今日を迎えていました。

正直なところ、現在のアップル本社とGizmodoの間のコミュニケーションは、スムーズとは言い難い状態です。が、最初からそうだったわけじゃないようです。

米Gizmodoの前編集長、ブライアン・ラムさんのブログによれば、ジョブズもGizmodoのファンで、1日3~4回もチェックしてくれてたそうです。でも、その関係はGizmodoがバーで拾われたiPhone 4のプロトタイプを記事にしたことで変わっていってしまいました。

Gizmodoとジョブズの出会いと、うまく行っていた頃の関係、そしてiPhone 4のプロトタイプ流出をめぐるやりとりは、以下のようなものだったんです。

ジョブズとGizmodoの出会いが書かれた2007年の記事によれば、両者の関係はすぐに打ち解けたものとなったようです。

ジョブズは思ったより背が高くて、いい色に焼けてました。ハワイかな。

話しかけようとして一瞬、「彼も忙しいだろうし...僕なんかに話しかけられても迷惑かな?」という思いがよぎりました。とりあえずサラダをとってきてまた考えました。いや、Gizmodoの編集長という仕事をしてるんだからもうちょっとアグレッシブにいかなきゃね。そこでぼくは皿をテーブルに置き、人混みをかきわけて彼の前になんとかもぐりこみ自己紹介したわけです。からかいたかったんじゃなくちょっと挨拶したかったんです。Gizmodoのブライアンです。あなたがiPodを作ったんですよね? みたいな(後半は口に出してないけど)。

そしたらスティーブは急に興奮して、嬉しそうな顔をしたんです。

そして彼は、Gizmodoが大好きだ。1日に3~4回見てるよと言ってくれたのです。しょっちゅう更新されて動きのあるサイトだからねと。

ギズモードは、彼のお気に入りのガジェットブログなんだそうです。彼の顔は心の底から興奮しているみたいに、くちゃくちゃに笑っていました。

そしてその3年ほど後には、Gizmodoのサイトデザインの相談に乗ってもらうくらいの仲に発展していました。ラムさんが見せたGizmodoのデザイン案に対し、ジョブズからこんなコメントをもらっていたそうです。

From: Steve Jobs

Subject: Re: Gizmodo on iPad

Date: March 31, 2010 6:00:56 PM PDT

To: brian lam


ブライアンへ

一部気に入ったところもあるが、理解できない部分もある。この「情報密度」が、君とか君たちのブランドにとって十分なのかどうか。ちょっとおとなしすぎる気がする。今週末見てみて、それからまたもっと役に立つようなフィードバックができると思う。

君たちがやってることは大体好きだし、毎日読んでいる。

スティーブ

Sent from my iPad

でもラムさんは、次々と成功を収めてエスタブリッシュメント化していくアップルと、反エスタブリッシュメント的なGizmodoが、いつかうまくいかなくなるときが来るのではないかと予感し始めます。そして...

ジェイソン記者がiPhoneのプロトタイプを手に入れたとき、編集長の僕は長期休暇中でした。

記事公開から1時間後、僕の電話が鳴って、発信元の番号はアップル本社になっていました。PRチームの誰かからだろうと思いました。でも、そうではありませんでした。

やあ、スティーブだ。僕の電話、本当に返してほしいんだ。」

彼は要求というより、依頼というトーンで言いました。彼はチャーミングで、楽しい感じでした。僕はサーフィンから戻ったところで半裸でしたが、なんとか正気になりました。

「僕らの電話で楽しんでくれたことはうれしいし、腹を立ててもいない。電話を失くした営業のやつには腹が立ってるけど。でも、間違ったところに行ったら困るから、あの電話は本当に返してほしいんだ」

僕は、もしかして僕ら自身が「間違ったところ」なのかなと思いました。

彼は続けて「ふたつやり方がある。ひとつは、僕がこれから誰かに電話を取りに行かせることだ。」

僕「僕は持ってないんですが」

「でも、誰が持ってるかは知ってるよね。...ふたつめは、誰かに法的文書を持たせて行かせること。でも、それはしたくないんだ」

スティーブは僕らに楽な出口を示してくれたのです。

僕は彼に、Gizmodoのみんなと話さなきゃと言いました。電話を切る前に彼は、「で、あの電話どう思う?」と聞きました。

僕は「美しいです」と言いました。

次の電話は約束通り僕の方からコールバックし、スティーブは「さて、どこに誰を行かせればいい?」と聞きました。僕はその前に条件を話し合いたいと言いました。僕は、アップルから僕らが手に入れたプロトタイプはアップルのものだという申し立てをしてほしいと言いました。それが紛失物を取り戻そうとするときの正しい法的プロセスだと考えたからです。

でも彼は、それによって現行モデルの売上に影響が出るので、公的な申し立てはしたくないと言いました。「自分を撃てって言うのか!」と。会社の売上が問題だったのかもしれませんが、そうでもなかったかもしれません。彼はただ人から何かしろと指図されたくないのかも、という感じを受けました。そして僕自身も、指図されたくありませんでした。特に自分が記事にすべき相手からは。それにそのときは、僕の方がスティーブに対して指図できる立場にあったので、僕は折れませんでした。

今回は、彼はハッピーじゃありませんでした。彼は誰かと話さなきゃと言い、また電話を切りました。

ジョブズとラムさんの交渉は平行線をたどり、最後の会話は次のようなものになりました。

スティーブがコールバックしてきましたが、冷たいトーンで、例の電話の返却を申し立てる文書を送ると言いました。僕が彼に最後に言ったのは、「スティーブ、僕はただ、僕はこの仕事が好きなんです。で、面白いときもあるけど、ときにはやりにくいこととか、一部の人から見たらうじ虫みたいと思われるようなことでもやらなきゃいけないんです。たとえば健康問題とか、今回のこととか。」

僕は彼に、僕はアップルが大好きだけど、世の中と読者のためになることをしなきゃならないんだと言いました。僕が悲しんでいるという事実は隠そうとしていました。

スティーブは「きみは自分の仕事をしてるだけだ」と言いました。可能な限り優しい言い方で。僕は少し救われると同時に、さらに悲しい気持ちになりました。

これが、スティーブが僕に優しかった最後のときでした。

その後ラムさんは、記者仲間との会話をきっかけに、この件がアップル、そしてジョブズに与えた痛みについて考えるようになりました。

職業上は、僕は後悔はしません。あのスクープは大きなものでした。世間からも喜ばれました。もしもう一度できるなら、僕はまたあの電話のスクープ記事を手がけることことでしょう。

でもそのときは、僕はスティーブに文書を求めるなんてことはしないと思います。そして、あの電話を失くしたエンジニアの記事をもっと同情を込めて、名前を出さずに書くと思います。スティーブは僕らが楽しんで、スクープも書けたのに、そのうえ欲も深いと言いました。そしてそれは正しかったんです。そう、僕らは欲張りすぎたんです。切ない勝利でした。それに僕らは目の前しか見えていませんでした。ときどき、僕は僕らがあの電話を見つけなければよかったと思うことすらあります。そうすればこの痛みを感じないですみます。でも、これが人生です。楽な出口なんかないときもあるんです。

ラムさんは今年6月に米Gizmodoの編集長を辞め、さらに8月にはiPhone 4に関して米Gizmodoは不起訴という正式な判断が下りました。それでも、ラムさんの中でこの件は終わっていませんでした。

約1年半、僕はそのジレンマについて毎日考え続けてきました。とても悲しく、ほとんど何も書けなくなるくらいでした。心が弱くなりました。そして3週間前、僕はもう十分だと感じ、スティーブに謝罪のメールを送りました。

---

"From: brian lam

Subject: Hey Steve

Date: September 14, 2011 12:31:04 PM PDT

To: Steve Jobs

スティーブ、iPhone 4の問題が決着して数ヵ月になりますが、僕はこんな風にならなければよかったと思っています。僕は多分、いくつかの理由で、あのスクープ記事が出てからすぐに辞めるべきだったんです。僕はそれをチームに迷惑をかけずに言う方法がわからなくて、できませんでした。でも今は、信念を持てない仕事なら辞めた方がいいってことを学びました。

迷惑をかけてしまって、すみませんでした。

B

---

若かりし頃のスティーブ・ジョブズは、彼を裏切った人物を許さないことで知られていました。でも数日前、彼に非常に近い人物から「すべてはもう過ぎたことだ」と聞きました。僕は返事をもらえることは期待していませんでしたし、結局もらえませんでした。でも上のメールを送ったあと、僕は自分自身を許すことができました。そして僕の「書けない」状態も終わりました。

僕はあの優しい人物に、自分がバカだったことを謝ることができて幸運に思います。

iPhone試作機をめぐるドタバタの背後でこんなやりとりがあって、そんな中でもスティーブ・ジョブズはGizmodoに対してフェアに接してくれていたんです。

改めて、我々が失った存在の大きさ、深さを感じます...。

[The Wirecutter]

Joe Brown(原文/miho)