カーボンファイバーってなんでこんなに高価なの?

高いものには理由があります。

カーボンファイバーは1960年代、ロケットのモーターケースやタンクに使われ始めました。そのときそれはガラス繊維だけでなく、他のさまざまな素材に取って替わるのではないかと思われました。

が、それから50年たった今も、カーボンファイバーはいまだに高嶺の花的な素材です。バットマンのスーツにも使われていますし、高価な自動車のダッシュボードやパフォーマンスパーツ、はたまたバスタブなんてのもあります。でも、1ポンド(約454g)で安くても10ドルもするので、高すぎてあまり普及しないんです。使われ始めてからこんなに時間が経つのに、「ムーアの法則」みたいにコストダウンしていかないのはどうしてなんでしょうか? その理由を調べてみたところ、カーボンファイバーを作ることの大変さがわかりました。

どれだけ大変なんでしょうか?

・カーボンファイバーができるまで

カーボンファイバーには、カーボンファイバーとなる前のベース素材があります。ベース素材は多くの場合、ポリアクリロニトリルと呼ばれる有機ポリマーで、これはセーターやカーペットに使われているアクリル繊維に近い素材です。でもそれと違うのは、ポリアクリロニトリルが加工によって鉄よりも強く、軽くなるということ、そしてはるかに高価になるということです。1ポンド3ドル前後という価格は一見それほどでもないと思われるかもしれませんが、加工処理でさらにコストがかかっていきます。

ベース素材からカーボンファイバーの「カーボン」部分を取り出すには、素材の半分のアクリル部分は除去する必要があります。「最終製品には、元の2倍のコストが必要です。半分は消えてしまうので。」とオークリッジ国立研究所高分子基複合材料グループのボブ・ノリス氏は言います。「エネルギーと設備の費用を算入する前の段階でも、最終製品のうちベース素材分が1ポンド5ドルくらいになるんです。」

1ポンド5ドルという価格は、カーボンファイバーがメインストリームの自動車アプリケーションで採用されるためのマジックナンバーともなりました。7ドルでもまあいいんですが、5ドルの方が採用されやすいでしょう。そんなわけで、素材だけでも予算がぐっと上がってしまうんです。

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さらに、ベース素材を加工してカーボンファイバーにするためには、上にあるようなモンスターみたいな機械と、大量の熱が必要です。主要なステップはふたつあるんですが、一番目は、酸化・安定化です。ここで繊維は継続的に15~30メートルもあるオーブンに入れられ、摂氏数百度の熱の中を通ります。このプロセスは何時間もかかるので、膨大なエネルギーが必要になります。

次に炭素化と言われる工程を通ります。こっちのオーブンは酸化のときよりは短いんですが、温度はもっと高くなります。最初が摂氏1000度くらいで、次はもっと高温にします。なので必要なエネルギーは、もう考えたくもないくらいのレベルです。

さらにさらに、熱するプロセスに耐えられないアクリルを処理したり、排出ガスが環境を汚染しないようにしたりが必要です。環境への配慮にもお金がかかるんです。「エネルギーも不動産費用も設備も、たくさん必要です」とノリスさん。そしてこれらは、カーボンファイバーという素材単体を作るためだけに必要なものです。

・糸がパネルになるまで

ここまでのプロセスで、いわゆる「カーボンファイバー」の製造工程のどこまで来たかを振り返ってみましょう。「カーボンファイバー」といえば、あのかっこいい、硬くてすごく軽いパネルで、特徴的な模様のあるものですよね。それを完成形とすると、ここまでのプロセスではまだ、そのパネルの元になる糸ができただけです。これからさらに、素材の一方向の強度を生かすためにその糸を格子状に織って、くっつける工程が必要です。

ここでは、すべての糸が確実にお互いの重さを支え合うようにします。「ファイバーがすべて平行になり、均一に引っ張られているように注意する必要があります」とカーボンファイバーメーカー・東邦テナックスアメリカのロブ・クラウーン社長が説明してくれました。もし格子の中に曲がった糸があると、他のまっすぐな糸に余計なストレスをかけて、まっすぐな方が先に損傷してしまいます。そうした可能性をあらかじめ補うために、メーカーがただでさえ高価なファイバーをさらに10パーセントほど足している場合もあります。

カーボンファイバー単体は、バットマンのスーツみたいに強じんな素材ではありません。それはコンクリートの中に埋め込まれる鉄と同様の補強材なのです。現在カーボンファイバーは、熱硬化性樹脂と一緒に使われています。カーボンファイバーが熱硬化性樹脂と一緒になって、複合材料としていろいろな形に加工されているんです。問題は、熱硬化性樹脂はオートクレーブで処理されて硬化してしまうと、壊さなければ形を修正できないことです。そのため小さなミスがあっただけで、大きな無駄、そして時間を費やすことになります。また熱硬化自体にも1時間以上かかりますが、それはたとえば自動車のボディパネルがプレスされていく速さと比較すれば、けっこうな時間です。

つまり、カーボンファイバーの価格を下げるためには部分的に何かを変えるだけではだめで、システム全体を変えなくてはなりません。コストダウンが実現できれば見返りが大きいので、産業界でも取り組んでいるところです。

・コストダウンに向けた取り組み

まず、ベース素材の代替案があり、たとえばセーターで使われているタイプのアクリルが候補となっています。「設備がそこまで特殊でなくてよくなるので、ベース素材のコストを20~30パーセント下げられるかもしれません。」とノリスさん。また従来の石油ベースのものと違って、樹木に含まれるリグニンという素材も注目されています。

加工プロセスも改善できるかもしれません。たとえば熱し方をプラズマヒーティングに変えることなどで、コストを下げられるかもしれません。「そうすれば炉全体を熱する必要がないので、時間が削減できます。フィラメントを囲むようにプラズマを発生させるんです。」とノリス氏は言います。

また、複合材料を作る際に使うプラスチックの種類を替えるという手もあります。熱硬化性プラスチックに替わって熱可塑性プラスチックを使う方法ですが、この方法はまだ完成していません。でももし完全に代替できるようになると、前出のクラウーン氏によれば、加工プロセスのコストを60~70パーセント程度削減できるのではということです。熱可塑性プラスチックは早く固まり、溶解・再溶解も可能なので、もしミスがあった場合にも無駄が少なくなるのです。

こんな風に変化の兆しも見えてきています。ノリス氏はカーボンファイバーがたとえばエアバスのA380といった新しい商業航空機にアルミニウムの代わりに使われるようになったと指摘しています。「カーボンファイバーはよりメインストリームの素材になろうとしています。でも、今までそれは性能のためにお金をかけられる分野においてのみでした。」もっとコストが下がって、より多くの分野で使われるようになるといいですね。

Rachel Swaby(原文/miho)