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「イランの核」の裏にある真の脅威、「野放しギーク」とは?

原子力ギークの問題、日本にとっても対岸の火事じゃなさそうです。
先日IAEA(国際原子力機関)の報告書で、イランにおいて核兵器開発プログラムが進められている懸念が示されました。でもその報告書でもっとも気がかりな点は、イランの核兵器設計に協力したと見られるロシア人物理学者の存在です。彼のような人物は他にも数万人いる可能性があり、「ならずもの国家(rogue states)やテロリスト集団に雇われる準備が整っている」と核拡散防止アナリストは指摘しています。
今回のことで、旧ソ連の兵器科学者ヴャチェスラフ・ダニレンコは一躍「有名人」となりました。ダニレンコは、核連鎖反応を引き起こす際に使われる高精度起爆装置の設計をイランで指導したことをIAEAにより発見されたのです。
ダニレンコの名前はIAEAの報告書には記されていません。でもそこには「自国の核兵器プログラムに参加経験のある」「外国の専門家」と書かれています。IAEAが聞き取り調査を行ったその人物は、1996年から2002年にかけて、イランによる原子力装置用「起爆システム」の研究に協力していました。
この証言は決定的証拠にはなりませんが、イランがその核研究について平和目的だという主張を続けるのは難しくなりました。「IAEAはイランに未申告核物質および原子力活動が存在しないことについて、確実な保証ができない」とIAEAの報告書には書かれています。「そのため、イランにあるすべての核物質が平和活動のためにあると結論付けることもできない」と。
「外国の専門家」が不法な核開発プログラムに参加する可能性について、原子力ウォッチャーたちはここ20年間警告し続けてきました。これは「野放しギーク(Loose Geeks)」と呼ばれる問題なのです。世界の関心は今回のIAEAの報告書以降イランに向けられると思われますが、ダニレンコのような人物は世界中に存在するのです。
ソ連崩壊後、ふたりの有力議員、サム・ナンとリチャード・ルーガーがソ連からの核拡散を防ぐべく、ロシアの核技術者を取り込む救済プログラムを作りました。「彼らは核を作るための知識、そして核物質そのものをきっちり抑えこもうとしていました」と語るのはアレクサンドラ・トーマ氏、核拡散防止団体の集合体であるFissile Materials Working Groupの創始者です。
ナンとルーガーの取り組みは非常にうまく行きました。ダニレンコはロシア人科学者の主流ではないのです。でも他の野放しギークたちが、ロシア以外からも出現してきました。何人いるのか、誰も正確には把握していません。が、きわめて多数存在するというのが大方の見方です。
「それは小さなギルドではなく、数万人単位なんです」と言うのは核拡散防止団体Ploughshares Fundのディレクター、ジョー・シリンシオーネ氏です。「核兵器施設は米国やロシアの他に、中国やフランスにもありますし、パキスタンやインドにあるものも規模が大きくなっており、小規模ながらイスラエルにもあります。」さらには北朝鮮や、先進的核開発プログラムを中断した南アフリカやブラジルがあります。
それらの国の核技術者のほとんどは、「ならずもの国家」やテロリスト集団から接触されることはありません。もし接触されても、ほとんどはノーと言うはずです。でも、混乱状態にあるリビアやイラクのような国にも、核のノウハウがあり、技術者がいます。そして現在は核技術者にとって経済的に恵まれている状況とは言えません。
「問題は経済なんです」と前出のトーマ氏。「彼らには十分な収入が与えられていないんです。贈収賄が起こります。腐敗がはびこります。間違いが起こります。」そして生活のためにその職を利用し、不正に走る核技術者が出てきてしまうのです。
グローバル経済が停滞しているとはいえ、核ノウハウのあるほとんどの国や地域はかつての旧ソ連の核開発コミュニティほど困窮していません。「旧ソ連には、必要最低限の薪もなかったのです」と戦略国際問題研究所の核非拡散研究のディレクター、シャロン・スクアッソーニ氏は言います。「核施設の守り手たちは、薪を集めるために森に入って行ってしまったのです。」
でも、経済状況だけが理由ではありません。野放しギーク問題が明らかになって以来、核技術者たちは核ノウハウに商品価値があることに気づいたのです。パキスタンのA.Q.カーンが核技術の地下市場を構築し、そこを通じて、リビアや北朝鮮、そしてイランにも核技術が輸出されていきました。
A.Q.カーンの闇商品以上に、核技術者たちそのものが政治的商材であり、ターゲットでもあります。イランの核技術者らが不可解に殺される事件が相次いでいます。イランの核技術者シャラム・アミリ氏は、CIAが彼を拉致したと訴えています。
こうした状況を受けて、専門家らはナン=ルーガーの核技術者救済策の対象をロシア人以外にも拡大しようと十年来尽力してきました。米国務省の核拡散防止担当特別顧問、ロバート・アインホーンは、「ロシア人技術者だけに注意を向けるのは誤りだ」と2004年のニューヨークタイムズで警告しています。「もしイランがこの先数年で核爆弾を手に入れるとしたら、それはロシア人のおかげではないだろう。それは、A.Q.カーンからの支援によるものとなるだろう。」
その発言は誇張だったかもしれませんが、主旨は有意義なものでした。米国は最近ようやくナン=ルーガーの施策対象をロシア人以外にも拡大しました。「イラクである程度実績ができました。リビアでも少し検討中です」とスクアッソーニ氏は言っています。「わかっている規模よりきわめて小さなものです。」
スクアッソーニ氏も、野放しギークは数万人規模ではないかと考えています。「核兵器開発には、いろいろな種類のエンジニアリング知識のためにたくさんの人が必要です。エンジニアだけではありません。金属を非常に高耐性に機械加工する方法を知っている人も必要です。だから必要な人数は数百、数千人になります」とスクアッソーニ氏。「原子力工学の単位を持っているだけの人を核兵器の作り方を知っていると言うとしたら、それはおかしいです」
誰も野放しギークの規模を正確に知らないと言うこと自体が、この問題の大きさを物語っています。スクアッソーニ氏は、今回接触した他の専門家と同様、この件には調査が不足していると言います。米国政府が把握していたとしても、明らかにはされません。「この件は、調査を始めるとすぐ機密の壁に突き当たってしまう種類のことです」と言うのは米国の超党派調査機関・米国議会調査局の核拡散防止専門家、ポール・カー氏です。カー氏も、野放しギークは数万人規模と推計しています。
IAEAの報告書によって、野放しギーク問題が新たな関心を喚起するかどうかはわかりません。でもきっとルーガー上院議員は、今頃アイリシュウイスキーでも飲みながら「だから言ったじゃないか」とつぶやいていることでしょう。
Photo:Flickr/Jurvetson
Spencer Ackerman(原文/miho)
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