アポロ13号を地球帰還に導いた文書、38万8375ドル(約3023万円)で落札される

アポロ13号を地球帰還に導いた文書、38万8375ドル(約3023万円)で落札される 1

書き込んだ船長の、手の震えが伝わってくるような...。

上の画像は、アポロ13号のミッションで実際に使われた月着陸船の操作マニュアルです。左下に手書きの数字が書かれていますが、これはジェームズ・ラヴェル船長がアポロ13号の機械船の酸素タンク爆発から2時間後に書き込んだものです。

アポロ13号は月面着陸の計画でしたが、月に向かう途中で酸素タンク爆発が発生したため、計画変更せざるをえなくなりました。そして急きょ月着陸船を救命ボート的に使って地球に戻ることになったのです。

そんな中で使われたこの操作マニュアルが先日オークションに出品され、38万8375ドル(約3023万円)で落札されました。でも、アポロ13号の乗組員にとってはお金では計れない価値があったはずです。ここに書かれた数字は宇宙船を地球に帰還させるためにきわめて重要なもので、その役割についてラヴェル船長自身が右上の青いポストイットで説明しています。

この文書は、司令・機械船の誘導データを月着陸船の誘導システムに転送し、宇宙船の天球上の位置データを損なわないために使われたものである。この計算が行われた時間は地上経過時間58:08:06、爆発の約2時間後である。ジェームズ・ラヴェル

マニュアルは全70ページにおよび、他のページにもこのようにいろいろなメモが書き込まれています。

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アポロ13号には、ラヴェル船長と、ヘイズ飛行士、スワイガート飛行士の計3人が乗っていました。彼らが生きて帰るまでにはさまざまな対応が必要でしたが、地球までの軌道を正しく設定することはその第一歩でした。この計算結果を月着陸船に送ることが、彼らの生命線だったのです。アポロ13号の司令船は酸素と電力を失いつつあったので、月着陸船のエンジンを彼らの地球帰還のために使うことを考えていたからです。

当時の状況について、NASAの速報にはこうあります。

こちらアポロ管制室、地上経過時間57:58。簡潔にまとめると、アポロ13号の機械船において、低温酸素漏れという深刻な問題が発生中。機械船は燃料電池から電力システムを供給し、乗員が呼吸する酸素も提供している。

現在、乗員は月着陸船に搭乗中。スタンバイ...現在の対応案は、月着陸船の降下推進システム、つまり月着陸船の大きなエンジンを使って宇宙船をより高速に推進し、月の裏側を通って地球に帰るまでの時間を通常の自由帰還軌道より1日早めることである。

こんな非常事態の中、ラヴェル船長は冷静にも「動揺のせいで軌道修正のための計算が間違っているのでは」と懸念しました。そして彼はヒューストンの管制室に、算出した数字を伝え、計算の再チェックを受けることにしたのです。このときのラヴェル船長と管制室の交信記録は、以下のようにNASAで保存・公開されています。

058:00:51 月着陸船パイロット(ヘイズ)

OK。次は? ジェームズ(訳注:ラヴェル船長)。軌道修正?

058:00:57 船長(ラヴェル)

しっかりやってくれ。ゆっくりやって。

058:01:32 管制室(通信担当官)

アクエリアス(訳注:月着陸船の名前)へ、こちらヒューストン。軌道修正に関しては、(マニュアルの)Activation 31までを続けてほしい。ステップ7まで全部。どうぞ。

058:01:45 月着陸船パイロット (ヘイズ)

OK。31のステップ7までを続けてほしいってことだね、ジャック。

058:02:26 月着陸船パイロット(ヘイズ)

OK。Verb 41、Noun 20(注:コンピューターのコマンドで、「軌道修正」「現在の角度」)。OK。プラスしたい? プラス、マイナス? プラス302.43? これでいい?

058:03:12 月着陸船パイロット(ヘイズ)

OK。入力させて。OK。次は? プラス347.78。347.78。OK。081.3. これでいい? ENTER。OK。

058:03:53 管制室(通信担当官)

オデッセイ(訳注:司令・機械船の名前)、こちらヒューストン。

058:04:01 管制室(通信担当官)

どうぞ、アクエリアス。

058:04:03 船長(ラヴェル)

ヒューストン、私の計算を再チェックしてほしい。軌道修正に問題ないか確認したいので。ロール角のキャリブレーションはマイナス2度。司令船の角度は355.57、167.78、351.87。

058:04:36 管制室(通信担当官)

OK、ジム。ロール角はマイナス2.0と確認。司令船は355.57、167.78、351.87。

058:05:19 月着陸船パイロット(ヘイズ)

OK。Verb 41、こちら完了。OK。

058:07:11 管制室(通信担当官)

OK、ジャック。ありがとう。アクエリアス、軌道修正の計算は正しいようだ。

058:07:20 司令船 (スワイガート)

OK。OK、ENTERをスタンバイ。

058:07:26 司令船 (スワイガート)

3...

058:07:39 司令船 (スワイガート)

地上経過時間だ。地上経過時間が必要だ。何時? 何時? 58? 58:07?

058:08:15 司令船 (スワイガート)

58:何分?

058:09:16 船長(ラヴェル)

ヒューストン、こちらアクエリアス。

058:09:18 管制室(通信担当官)

どうぞ、アクエリアス。

058:09:23 船長(ラヴェル)

ジンバル(訳注:羅針盤のような装置)の角度を伝える。司令船は、356.69、163.42、346.67。アクエリアスは302.26、345.92、011.79。どうぞ。

058:09:47 管制室(通信担当官)

OK、ジム。司令船は356.65(原文ママ)、163.42、346.67。アクエリアスは302.26、345.92、011.78。

058:10:07 船長(ラヴェル)

011.79だ。

058:10:11 管制室(通信担当官)

もう一度願います。

058:10:17 船長(ラヴェル)

月着陸船の中央ジンバルは011.79。

058:10:22 管制室(通信担当官)

011.79。了解。

このように地上との確認が行われ、地球への帰還が開始されました。これ以外にも膨大なやりとりや処置がありましたが、彼ら宇宙飛行士の勇気と訓練の成果、地上メンバーとのチームワークなどが一体となって、彼らの試みは成功しました。そしてアポロ13号は当初の目的である月面着陸は果たせなかったものの地球への帰還には成功し、宇宙開発史上最大の「成功した失敗」として語り継がれることになったのです。

[Heritage Auctions]

Jesus Diaz(原文/miho)