アップルの根幹にある「シンプルさ」とは?:『Think Simple』著者 ケン・シーガル氏インタビュー

2012.05.25 19:00
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アップルが他の企業と根本的に違うところとは何か? それは製品のデザインから企業理念まで、挙げればキリが無いかもしれませんが、その根幹にあるのはスティーブ・ジョブズ氏が信奉した「シンプル」という哲学です。

その哲学を、自身の実体験から著書『Think Simple―アップルを生みだす熱狂的哲学』にまとめたケン・シーガル氏。彼は広告のクリエイティブ・ディレクターとしてNeXT時代から12年間もジョブズ氏とともに働いてきた人物です。シーガル氏の実績はかの有名な「Think Different」キャンペーン、そして「iMac」の命名など、現在のアップルの一部を作り上げたといっても過言ではありません。

『Think Simple』では、デルやインテルなどの他企業とも仕事してきたキャリアを持つシーガル氏が「シンプルさ」という観点から、他社との対比を含め、スティーブ・ジョブズが導いたアップルの成功の秘密を解説します。

そんな本著の日本発売にあわせて来日したシーガル氏に、ギズモード・ジャパン編集部がインタビューを敢行。ジョブズ氏との個人的なエピソードや、日本企業がシンプルになることができるのかなどを訊いてきました。
 

 
ギズモード編集部

早速ですが、一緒に働いてきた中で耳にした、ジョブズ氏の最も辛辣な言葉は何だったのでしょうか? ご自身、または他の誰に対しての言葉でも結構です。

シーガル氏

自分の経験でひとつ覚えているのは、私とスティーブ(・ジョブズ)、そしてアップルのコンサルタントをしていたとても優秀な大学教授と電話で三者通話をしていた時のことです。電話だったので直接目にしたわけではありませんが、不快なことだったので今でもはっきり覚えています。

スティーブはこの大学教授が仕事を十分にしていないというようなコメントをしました。すると教授は「スティーブ! このために私がどれだけ時間を費やしているのか、週末まで返上して、家族にも会えてないという事を君は理解していない!」と反論しました。スティーブもすかさず怒鳴り返し、罵り合いになったところで彼は僕に「またかけ直すよ」と言って電話を切りました。あの口論の始めの部分しか知りませんが、結末は今でも気になります。とても個人的な侮辱を言っていましたからね。

120525thinksimple03.jpgまた、私自身が怒りの矛先を向けられたこともあります。iMac用の初めての差込広告は16ページくらいのもので、ニューズウィーク誌やタイム誌向けのものでした。それを作っていた時のことです。これは一番最初のiMacで、アップルを救うことになる新しいコンピュータだったこともあり、スティーブにとって非常に重要なものでした。私たちはアップルから素材のアートワークをもらいます。発売されるまで製品の仕様は常に変わるので、最新のアートワークを使った印刷用の最終版を用意しました。何百万刷と印刷されますからね。承認のためにスティーブが確認をしたのですが、彼はキーボードのブルーの色が違うことに気づきました。とてもわずかな色の違いだったので、部屋にいた他の人は誰もそれに気づきませんでした。しかし彼の目には見えていたのです。

その時スティーブは車に乗っていたようで、そこから私に電話をかけてきました。彼はとても怒っており、私はこれほどまでに人間が激怒しているのを聞いたことがありません。キーボードのブルーが間違っているせいで広告キャンペーンが全部ダメになると彼は考えていたのです。「全て台無しだ、大惨事だ!」と彼は叫びました。実際はそれほど大きな問題ではありません。新しいアートワークに替えるだけで、全ては事なきを得ました。

おもしろいのは、2週間後くらいにスティーブから電話があり、彼はこれ以上ないほど広告を気に入ってくれたことです。「アップル史上、いやコンピュータ史上最高のローンチだ。これにどんな形でも関わった人を感謝してくれ」と、愛と情熱のこもった賛辞をくれました。2週間前はすべてが台無しと叫んでいたにもかかわらずです。

 
ギズモード編集部

話は変わりますが、今年3月に新しいiPad(The New iPad)が発売されました。これまでのナンバリング(数字)をやめたネーミングに関してどう思いましたか?

シーガル氏

私の最初の反応は、「アップルらしくなくてちょっと混乱するな」というものでした。その後考えを改めましたが、奇妙だと思ったのは途中で路線変更をしたことです。iPhoneには数字がついており、iPadも数字がついていましたが突然それがなくなりました。しかし、iMacやPower Mac、MacBook Airなどにはもともと数字がついていなかったので、シンプルにしようとしているアップルの立場は理解できます。

 
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ユーザーがどのモデルを持っているのか説明しにくいといった問題はありますが、アップルとしては、ユーザーに数字を気にすることなく「新しいiPadが発売されたから買いに行こう」と言わせたいのでしょう。ある意味ではシンプルさを極限に近いところまで持っていったと思います。現時点でiPhoneのみがナンバリングされている製品であることを考えると、「iPhone 5」が「The New iPhone(新しいiPhone)」となっても驚きません。

 
ギズモード編集部

では、日本の企業が「Think Simple(単純に考える)」を実現することは可能だと思いますか?

シーガル氏

日本の企業について個人的に知識があるわけではありませんが、大企業がどういうものかは知っています。

大企業はよりシンプルだった一昔前の時代に立ち返ることが苦手です。ほとんどの大企業もはじめは小さな会社から始まり、当時はシンプルな価値観を持ち、小規模な会議を行い、スピード感もあったと思います。しかし成長するにつれ数百人の人員、プロジェクトを管理するために多くのプロセスが設定されます。このようなプロセスは誰かがもたらした成功を制度化するために作られるのでしょう。そして次第にアイディアよりもプロセスを重視するようになってしまうのです。

120525thinksimple06.JPGスティーブの素晴らしかったところは、常にアイディアを第一に考え、アイディアを潰すようなプロセスを決して許さなかったことです。

シンプリシティの基礎は、これから大きくなりたい小さな会社にこそ適用しやすいとおもいます。大企業に希望がないとは言いません。もちろん希望はありますし、そう信じて行動できる強いリーダーシップが必要です。例えば私が過去にデルと仕事をした時、問題意識を持ち、解決策を率先して作ろうとする人も多くいました。しかし彼らの多くはやがて障害に直面して諦めてしまうのです。

やはりトップが「お金と時間がかかりすぎている、これはクレイジーだ」と言えなければいけません。そのようなレベルで変化をもたらすことができるのは最高経営責任者だけでしょう。

 
ギズモード編集部

最後に現実離れした話ですが、世界中のすべての企業が「Think Simple」を実現した時に世界はどうなるでしょうか?

シーガル氏

この質問は好きです。

複雑さとシンプルさの間には関係があります。世界が複雑だからこそシンプルさに価値があるのです。複雑でなければシンプルさは際立ちません。同じようにすべての企業が複雑でないのなら、よりシンプルな企業が頭角を現す事はないでしょう。

複雑さは良くも悪くもあります。世の中を複雑にするので悪いものではありますが、スティーブ・ジョブズのように信念をもった人間が違う考え方をすることで競争相手たちを超越することができる良さがあるのです。もし全世界がシンプルだったら私のように本を書く必要もありませんし、アップルも他の似たような目標をもつ企業に埋もれてしまうでしょう。シンプルさというのはごく限られた人間が持つスキルであり、複雑さを求める、人間の本質のおかげでそれが変わることは無いと思います。

 
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世界で最も賢い人たちですら物事を複雑にします。私はデルやマイクロソフト、HPの経営者たちが愚かだとは思いません。とても頭のいい人たちだと思っています。しかし頭の良い人は物事を考えてしまいがちなのです。スティーブは無駄をなくして会社の考え方をシンプルにし、人々を集中させて不可能とも思える事を達成させることに長けていました。社員たちの背中を押して、彼らが考えていた能力の限界を超える仕事をさせたのです。

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兄弟サイト、ライフハッカーでもシーガル氏にインタビューを行ったので、そちらも乞うご期待!


(インタビュー:松葉信彦、撮影:河原田長臣、文:ニール太平)

Image of iPad via Apple
 

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