アノニマスの恨みを買い、執拗な攻撃を受け続けてもなお戦う女性ハッカー

普通じゃ耐えられなさそうです。

ハッカー集団アノニマスは、政府関係の機密情報を流出させたり、サイトをダウンさせたり、インターネット上で大暴れしてきました。活動が反体制的であることから、義賊集団のように感じた人もいたかもしれません。

でも、彼らによって自分や子供の生活まで脅かされている人もいます。アノニマスの裏の顔が、ここにあります。

  

ジェニファー・エミックさんは40歳のギークで、ミシガン州で夫と子供たちとともにきわめて普通に中流家庭生活を営んでいます。エミックさんと電話するといつも、世界中のどんな母親もそうであるように、彼女は子供たちを叱りつけている、そんな感じです。ただ違うのは、エミックさんは著名ハッカーでLulzSecのリーダー・Sabuの個人情報(氏名、住所など)を、他の誰よりも、おそらくFBIより早く暴いてしまったことです。

エミックさんはここ2年間、アノニマスとそのシンパたちと戦ってきました。その過程で、彼女は自分の家や子供、家族、財産、仕事、人格といったあらゆるものについて、ネット上のあらゆる場を通じて脅かされてきました。その様子をエミックさんは「集団精神異常」と呼んでいますが、それは彼女自身をハッカー集団に引きつけたものでもありました。

 

かつての仲間

 

エミックさんとアノニマスの関係は、初めから悪いものだったわけではありません。というかエミックさんは、もともとアノニマスのメンバーのひとりで、アノニマスが初期に仕掛けた「Project Chanology」にオブザーバーとして参加していたのです。

そのプロジェクトは新興宗教団体サイエントロジーへの抗議運動で、それを契機に2008年頃、彼らはメジャーな存在になっていきました。彼女はAbout.comにサイエントロジーについての記事を定期的に書いていたため、インターネットを使い倒してカルト宗教に対抗しようとする運動には自然と引きつけられました。彼女はまた「家族の中でサイエントロジーに関わった人がいた」ため、単に好奇心だけで運動に参加したのでもありませんでした。

2008年当時、Project Chanologyの運動もアノニマスも、匿名掲示板の4chanと深くつながっていましたが、4chanのような軽さはありませんでした。彼らの要求は、サイエントロジーとIRS(アメリカ合衆国内国歳入庁)の癒着の終焉や、サイエントロジーの信者に対する人権侵害の実態調査といったシリアスなテーマであり、その結果、あやふやな情報も混在しつつも、サイエントロジーへの批判が世間にも広がりました。彼らは反体制的でありつつ、組織立っていて、だいたいは礼儀正しく、統一がとれていました。運動は騒々しいものでしたが、アナーキーではありませんでした。「警察からも好かれてましたよ」とエミックさんは笑います。彼女はコミュニティにいる他のメンバーともすぐに仲良くなり、彼らのPRマネジャーのような存在になっていきました。

でも、そんな蜜月は長く続きませんでした。

ある時点から、アノニマスの別の顔が派生してきたのです。アノニマスと近い関係にあるLulzSecが政府や大企業のサーバーを攻撃し始め、やがては相手かまわず敵視するようになっていきました。思想的統一もとれなくなり、エミックさんいわく「(アノニマスを)サイエントロジーの先に動かそうとした」メンバーたちは、エゴに支配されるようになりました。彼らがどこに向かっているのか、今でもわかりません。その活動は反資本主義から、Wikileaks支援、政策提言、個人の中傷などなどに広がっていました。エミックさんはもうそんな集団に参加したくないと考えたうえで、ただそこから抜けるだけではなく、その経験や人脈を生かそうとしたのです。

 

背信が生んだビジネス

 

エミックさんは、自分のハッカーとしての能力、そしてアノニマスのコアとのつながりをビジネスにしようとしましたBacktrace Securityという会社を設立したのです。同社は今でも別名で運営されており、「タトリング」や「スニッチング」と呼ばれる、機密情報を暴くサービスに特化しています。インサイダーのコンタクト情報や関連資料、情報提供者を集めるのです。「一番の仕事仲間はFBIです」と彼女は言います。名前は教えてくれませんでしたが、FBI以外の組織にも協力しているそうです。彼女のビジネスはシンプルで、情報を掘り起して売る、それだけです。

そんなわけで、エミックさんはあっという間にたくさんの敵を作っていきました。敵は彼女の熱意を憎悪し、彼らが(ネット上で)使えるものは全部使って、彼女を引きずり下ろそうとしています。

あらゆるののしりの言葉が投げつけられ、電話はほとんど毎日、家や携帯電話にかかってきます。電話番号は、アノニマスがずっと前に公開しています。

こうした嫌がらせをしてくるのはまったく知らない人物ではなく、彼女のBacktrace Securityのときの元ビジネスパートナーまでも含まれています。彼はオンラインでは「Hubris」という名前で通っている傷痍軍人で、彼らが決別したあとの泥仕合の中でアノニマスに入ったのです。

 

終わりのない攻撃

 

脅しの電話なんて序の口、とエミックさんは言います。その口調には恐れが感じられず驚くほど、というか、どちらかというとうんざりしているという調子です。「彼らを止めるものは何もありません。邪魔をする相手には何でもしたいことをする権利があると思っているんです。」彼らの目的は、彼女とその家族を傷つけることです。または少なくとも、傷つける可能性があると言い立てることです。

「こうなったのはエミックのせいだ。あいつが引き下がらない限り、地獄を見せ続けてやろう」ということです。

以下は、エミックさんがほぼ毎日受けている嫌がらせや脅迫の例です。

 

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アノニマスのシンパが、彼女の住所を地図付きでツイッターに公開しています。エミックさんの住所はPasteBinなどのサイトにも定期的に再ポストされています。

 

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エミックさんが子供と一緒に映っている写真社会保障番号も載っています。

 

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アノニマスから、エミックさんが使っているプロバイダーのアカウント情報をポストされています。AsherahResearchはエミックさんのアカウントです。

 

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アノニマスのアカウントでは、エミックさんを「BITCH」、「CUNT」(訳注:「女性器」の俗称が転じて、「バカ女」の強烈な表現)と繰り返し呼んでいます。

 

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エミックさんの息子になりすましてポストしているツイッターアカウントです。

 

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「ケツの穴(anal cavities)に陰嚢を入れてやる(teabag)」と脅しているようです。

 

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エミックさんの個人情報を盗もうとするやり取りです。

 

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エミックさんの子供たちが通う学校について。

 

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ライバルのハッカーがエミックさんを「消す」と示唆しています。

 

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LulzSecのかつてのスター・Kaylaも合流。

 

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エミックさんの子供たちへの脅し。

 

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アノニマスから再び。

 

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エミックさんの社会保障番号。

 

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エミックさんの自宅住所が無限にスパムされています。

 

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エミックさんが「バカな娼婦」で「子宮をはぎ取るべき」と言われています。

 

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エミックさんの元パートナーHubrisが、「交番の隣に住んでいれば安全だと思ってるのか」と聞いています。

 

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エミックさんを児童虐待で通報するという脅し。

 

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エミックさんは粛清されるべき悪魔だと言っています。

 

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拷問すると匂わせています。

 

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「IRLのエミック、いつか殺してやる」とも言われています。

これらは本当にほんの一部です。エミックさんはテキストメッセージも週に数百件受けていて、子供の写真を小児性愛サイトに載せると脅されたりしています。彼女の16歳の継娘は、フェイスブックもメールも、アカウントがハックされてめちゃめちゃにされました。エミックさんは自分のWebサイトも乗っ取られてしまいました(こちらです)。

公開されているアノニマスのIRCのログです。

2月23日 22:18:33 残念、ジェニファー・エミックはもういじれないかもしれない

2月23日 22:18:39 レズ女

2月23日 22:19:15 ワロタ

2月23日 22:19:18 ガキを脅かす

2月23日 22:19:20 効果あった様子

彼らはエミックさんの母親にまで嫌がらせをしており、エミックさんは非常に腹を立てています。「そこまでやるのか、と思いました」とエミックさんは悔やみます。エミックさんの継娘以外の子供たちは、これまでのところオンラインのアカウントを乗っ取られたりはしていませんが、それも時間の問題です。

アノニマスからの攻撃は、最近特に大きなハッキング事件を起こせていないこともあり、当面は止まらないものと見られます。「アノニマスに攻撃されたければ、批判するだけでいいんです」とエミックさん。「引き下がらなければ、なおさらです。」エミックさんの方も、一歩も引く気はないようです。最後に話したとき、エミックさんはまた別の著名ハッカーの情報を暴こうとしているところで、その進捗の悲喜こもごもを語ってくれました。

でも本当に疑問なのは、エミックさんにとってそんなに価値があることなのか? ということです。子供を殺すと言われ、プライバシー情報があちこちに貼り付けられ、日々人格を貶められる生活をしてでも、ネット上の不良たちをこらしめることに価値を感じられるんでしょうか? 彼女はためらいなく答えます。「たしかにチャレンジングですけど、いろいろ探し出すのが好きなんです。それに、自分たちは頭が良いと思っている犯罪集団を出し抜くのって、楽しいんですよ。

 

Sam Biddle(原文/miho)