米政府、50メートル先から何もかもお見通しにできるレーザースキャナーの導入を計画中

米政府、50メートル先から何もかもお見通しにできるレーザースキャナーの導入を計画中 1

全裸スキャナーの、その先へ。

空港のセキュリティゲートのスキャナでほぼ全裸が見えることが話題になって久しいですが、全裸どころか何を食べたかとか、アドレナリンがどれくらい出てるかとかも、技術的には透視可能なようです。米Gizmodoに寄稿してくれたハンドルネームナック(NAC)さんは、そんなレーザースキャナーの導入を米国政府が計画中だとして懸念を示しています。

ナックさんによれば、そんなスキャナーは米国に旅行するときに空港のセキュリティゲートで使われるだけではありません。もしかしたら交通機関やスポーツ施設など、人が多く集まる場所ではつねにそんな監視の目が張り巡らされるようになるかもしれないのです。それも、本人の承諾なく

以下、ナックさんによる寄稿文です。

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米国国土安全保障省は、来年か再来年中には、我々の体や身に着けているものからわかることはすべて、一瞬で把握できるようになります。レーザー技術を使った新しい分子スキャナーを、最大50メートル離れた場所から身体や衣服、荷物に向ければ、ドラッグや、衣服についた火薬、朝食に食べたものやアドレナリンの分泌状態まで、一挙に検知できるのです。それは我々の体に指一本触れることなく行われます。

しかも、我々の知らないうちに

そのレーザー技術はあまりに強力だったため、2011年11月、発明者たちはIn-Q-Telと契約して米国国土安全保障省に協力することになりました。In-Q-Telは1999年2月に設立された民間企業ですが、CIAのディレクターの要請を受けて作られており、米国議会からのサポートも受けています。In-Q-Telによれば、彼らは政府機関と新規技術を持つ民間企業の間のかけ橋的な存在です。

彼らの計画では、分子レベルスキャナーを米国中の空港や国境に設置することになっています。スキャナーに関して公式に発表されている目的は、爆発物や危険な化学薬品、生物兵器などを、離れた場所から素早く発見することです。

この機械は、従来のシステムと比べると1000万倍速く、100万倍感度が高いそうです。つまり、怪しい人やランダムにピックアップされた人だけでなく、空港のセキュリティを通過する人全員をスキャンすることも可能ということです。

すべてをリアルタイムに分析

トップ画のものがそのマシンです。これを使うと、単に爆発物や薬品、生物兵器を検知できるだけではありません。これを作った会社ジェニア・フォトニクスによると、このレーザーは衣服などの有機素材も透過できるそうです。詳細はこちら(英語です)の資料にあります。

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ジェニア・フォトニクスは2009年、レーザー技術や光ファイバーを専門とする博士号保持者たちによって設立されました。レーザー関連では30件以上の特許を持っており、そうした特許は生体医療や産業へのさまざまな応用が可能だとしています。たとえばがん細胞の特定や、工場などでの有害物質の検出といったことへの貢献が考えられます。

またIn-Q-Telでは次のようにも指摘しています。「ジェニア・フォトニクスを導入した場合の従来と比べた重要なメリットは、このシステムなら必要な機器がひとつのセットになっていてアライメント不要なので、今までより移動がしやすく、多様な場所に設置が可能になるということです。(中略)この小さくタフなレーザーは、いろいろなパターンとシーケンスで波長を素早く出す能力を持っています。」

つまり、全員を対象にしたスキャンが可能になるだけでなく、どんな場所でもスキャンが可能になるのです。たとえば地下鉄や信号、スポーツイベントなど、どこでだって可能になるはずです。

どれくらいすごいの?

このマシンは持ち運び可能で、ラックに載せることもできるシステムです。最長50メートルの距離からピコ秒以内にレーザーを発射し、目標物をスキャンすることができます。どんな目的で使うとしても、それは「瞬時に」と言える速さです。

この小さなマシンは、リアルタイムで情報を表示するプログラムをインストールしたコンピューターと接続して使われます。これを使われたら、水のボトルを持ってこっそりセキュリティを通過するのももう不可能です。通路を歩いている間に、朝食に何を食べたかまでスキャンされてしまうのです。

この技術自体は新しいものではありません。ただ、従来のものより何百万倍も速く、便利になったのです。2008年、ジョージ・ワシントン大学のチームが同じようなレーザースペクトロメーターを作っていましたが、そこでは違うプロセスが用いられていました。尿に含まれるドラッグの代謝物とか、紙幣についた爆発薬、植物の葉の内部で起きている化学変化までも検出できたのですが、所要時間は1秒以内というものでした。

ロシアでも同じような技術が研究され、今年4月に発表されていました。彼らのレーザーセンサーは「50メートル離れた場所からでも、百万個の分子からたったひとつの分子を捉えることができる」と発表されています。

もしジェニア・フォトニクスの技術が本格的に実用化されれば、スピードや持ち運びやすさ、利便性という意味で大きな前進となります。ただしそれが意味するものも、以下のように非常に大きなことです。

限りない監視

ここまでのところ、このレーザー機器導入にあたって個人の人権やプライバシーに関する議論は起こっていません。どんな物質についてスキャンされるのか、誰がそれを決めるのか、ある物質に関してどの程度の量で「検知した」とされるのか、といったことも不明です。誰かが落とした大麻をそれと知らずに踏んでしまうことだってありえなくはないです。0.003グラムの大麻が靴底に付いていたためにドバイで投獄されているひとがいますが、これから同じようなことがもっと起きるようになるのでしょうか?

また、機器がすごく持ち運びやすくなるということは、空港とか国境だけじゃなくて警察車両なんかにも搭載されるんでしょうか? 警察官がアドレナリンレベルの上がっている人を探したり、それで暴力事件を未然に防いだりするのでしょうか? 信号待ちの車がスキャンされるようになるんでしょうか? そしてそういったデータは、どこかに保存されるのでしょうか?

答えのない疑問がまだたくさんありますが、明確なことがひとつあります。それは、この技術が個人の生活を侵害しうる可能性が、従来の空港でのボディスキャンとか盗聴、GPSトラッキングの比ではないということです。

プライバシーの終わりの始まり

国土安全保障省科学技術担当次官の発言によると、このスキャンテクノロジーは今後1~2年以内に使えるようになります。つまり、2013年にはもう空港でこのシステムが見られるかもしれないということです。

言い換えれば、空港を利用する人がトイレから自動販売機に歩いて行くその間に、このマシンが特定の物質を探すレーザーをみんなの体中に浴びせて、そのデータを瞬時にレポート・保存するようになるまで、もうすぐかもしれないのです。

米国政府が、盗聴にとどまらずに本人の同意なしのレーザースキャンとその記録をしようと考えるのは、きわめてありそうな話です。事前同意を求めないどころか、スキャンの存在すらまったく知らされないかもしれません。

この技術が医療目的で使われば、革命的な診察方法になるかもしれませんし、空港で全身くまなく触られるパットダウンに代わる手段ができれば、それは魅力的です。ただ、新しいレーザースキャン技術には、これまで書いたようなダークサイドも考えられます。そんな危険な可能性についても、我々は事前にある程度知っておく必要があるんじゃないでしょうか。

この記事を書いたNACさんは、現在大学院の博士課程で再生可能エネルギー、特に都市環境の中で廃棄物をエネルギーに替える方法について研究中です。今回の話はほとんどが公開情報に基づくものですが、本人が匿名希望のため、ハンドルネームで記事を公開しています。

NAC(原文/miho)