アップル vs. サムスン陪審評決に逆転はあるのか?

アップル vs. サムスン陪審評決に逆転はあるのか? 1

誰も陪審評決で最終なんて思っちゃいないけど、『十二人の怒れる男』みたいなどんでん返しはあるのか? 法律専門ブログ「Groklaw(グロックロー)」創始者パメラ・ジョーンズ女史が陪審員の発言と専門家の見解を総ざらいして可能性に迫ります

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先日のアップルvs.サムスン訴訟審理では、陪審団が記入した判定フォームを最後に各陣営と判事が精査した。サムスンが評決読み上げの前に予め30分時間をとるよう申請[PDF]しておいたものだが、調べてみると果たしてサムスンの思惑通り陪審員の記入には食い違いがあった。

ミス修正後の判定はここ[PDF]修正前の判定はここ[PDF]、間違いを正すよう言われたのを受け、陪審団が判事に出したメモはここ[PDF]。全審理通して判事に出したメモはこれ1本きりだが、そこにはこう一文あるだけだった。

「Please let the jury know of the inconsistencies we are supposed to deliberate on(どうかこの陪審団に、審理が必要な矛盾点が何なのか、ご教示ください)」

大きく判定が矛盾するところは2ヶ所あった。判事は陪審員に正しく記入し直すよう突き返し、賠償金は10億5185万5000ドルから10億4934万3540ドル*に減った。陪審団は、例えば「特許は侵害してない」と判断した端末についても損害賠償200万ドルなり数十万ドルの請求を認めていた。詳しい話はThe Vergeのライブブログに全部残っている。

陪審団は侵害に当たらないと判断したGalaxy Tab 10.1 LTEについても損害賠償21万9694ドル相当の請求をアップルに認めている...同様の矛盾はIntercept(アップルに200万ドル以上の請求を認めた)でも見られた。

Interceptで、陪審団は「直接侵害はなんらない」ものと判断しながら、ユーティリティ特許'915と'163の侵害誘起責任の方は認めているのである。非存在の侵害を企業がどう誘起すると言うのだろう。

どう見ても、おかしい。The Vergeによると、陪審員長のベルビン・ホーガン氏は自身も特許保有者(これが氏の特許。動画情報録画保存の手法・装置とある)だが、陪審判断を下す上で各設問の解説(陪審説示)は参考にする必要もなかったと裁判所職員に言ってのけたようだ。

裁判所職員に陪審員長は、陪審説示に頼ることなく評決に達することができた、と話していた。

これだから今回の陪審員判決は長続きしないと思うのだ。他にもいろいろ理由はあるけども。

このポイントを改めて取り上げたのは、事の重大さがわかってない人がいることに今朝気づいたからだ。例えばPCWorldのジェームズ・ニコライ(James Niccolai)記者が引用した「法の専門家」の以下の言葉を見ても、明らかにわかってない。

「これだけ複雑な裁判で複雑極まりない判決フォーム(質問が700項目ある)を、よくこれだけの短期間で処理できたものだ。それには驚いたが、熟考の末の判断のようだし、陪審団の役割りは果たしたと思うね」と、陪審員の戦略・心理を研究する臨床心理学者兼DOAR Litigation Consultingディレクターのロイ・ファッターマン(Roy Futterman)さんは語る。

「その証拠に評決は内容が首尾一貫しており、まとまりがある」

記事の見出しは「アップル裁判スピード評決は陪審団の職務怠慢とイコールではない、と専門家」。

だが、陪審説示 [PDF]が本件のように複雑で糞長い(109ページある)場合は、現実問題、スピード評決=職務怠慢なんである。例えば慌てて評決を出したがために、アップルに200万ドル(1.57億円)余分に払えと言ってから、そういえば侵害はありませんでしたと言って差し引く。こういうことがひとつでもあると、当然のことながら頭をもたげるのは「陪審団は何をどう計算してこの数字を弾き出したのだ?」という疑問。何か現実的根拠があるなら、こんなヘマをなぜやる? そもそもこの賠償額にデータ的根拠なんてあったのか? 

それは追々明らかになることだが、サムスンが打ってくる次の一手には間違いなく、ルール50(b)に基づく申立てが含まれてくるだろう。まともな判断ができる陪審員なら、今回提示された証拠を基にああいう判断には至らないだろう、と主張し軽減を求める申立てだ。オラクル対グーグルの訴訟でグーグルが出したルール50(b)の申立て[審理中]を見ると大体の感じが掴めると思う。ご覧のように申立てでは全体の勝訴を求めることもできるし、陪審員判定のうちどれかひとつに絞ることもできる。

要するにこの話はまだ終わりには程遠い。アップルのティム・クックCEOは哲学的思いに沈み、この裁判で争ったのは特許や金ではなく価値だ、と語った。それを言うなら、陪審員が自らの責任を果たすことも、米国が重んじる価値である。与えられた陪審説示を読み、ちゃんと理解し従う責任も、そこには含まれている。審理は各々が自らの職務を果たし、公平に行われなければならない、という点はクックCEOも同意だろう。

陪審員が陪審説示を読まなくても正しい審理が出せると思ったとしたなら...それも急いで大ポカやって(やった)...全部アップルに有利なように...それって絶対おかしい。法律専門ブログ「Above the Law」もこう書いている

ひとつ腑に落ちないことがあるので、アップルvs.サムスン陪審団の紳士淑女のみなさんに伺いたいんだが...。あの評決の言葉をすべて理解するのに僕だって最低3日はかかるよ! 個別の問題があれだけ沢山あったのに、みなさんはそのすべてに対し、ずっと短期間で法的拘束力のある決断に至った。コイン投げで決めたの?

弁護士が判定フォームの用語をきちんと理解するのに3日かかると言ってるのだ。なぜ陪審員はそれと同じことやって同じ時間かからないのか? フォームには700問あった。ひとつはっきりしてるのは、陪審団は矛盾を取り除くのに必要な時間をきっちりとらなかった、ということ。だから侵害もしてない物件に200万ドルの賠償金とかテキトーな数字書いて埋めるなんてことが起こった。

まったく茶番もいいところだ。

マイケル・リッシュ(Michael Risch)教授はさらに大きな矛盾点を指摘している。

  

あのGalaxy Tabがデザイン特許の侵害を免れるなんておかしくないか? 予備審理で禁止命令が出たのはこの端末だけ。なのに、裁きを免れた数少ない端末に入った。因みにiPadそっくりだ。

[...]UIにデザイン特許を取れること自体がもう意匠法崩壊の現れ。この点は最高裁が判断すべき問題じゃないかと個人的には思う。四角いアイコンを4列に並べてドックを置く人を止められるのか否か? その問題は15年前のロータス対ボーランド裁判でとっくの昔に片付いたものとばかり思っていた。基礎的UIの法律を回避する方法を見つけたのはアップルの手柄だが、この種の判決は長続きしない。

アメリカの最高裁まで行く、そう予言してる法律家を目にしたのは氏が2人目だ。氏からはGroklawにも、「よくぞこれだけ細かい情報、しかも実に正確な情報、ソース文書の現物を集めてくれたものだ。全部揃ったところはなかなかない」 とお褒めの言葉をいただいた。

陪審員のひとりがCNETグレッグ・サンドヴァル記者の取材に答えた。その記事「独占:アップル-サムスン陪審員が語った」には、こうある。

アップル対サムスン陪審員マニュエル・イラーガン(Manuel Ilagan)さんは、両社の主張を聞いた陪審員9人は初日審議が終わった段階で既に、サムスンがアップルに不正を働いたことは間違いないと考えていた、と話している。

最終的には片方に非常に有利な判断となったが、初日審理が終わるまでは陪審員の間でまとまった意見があるかどうかもよくわからなかったという。

「初日は(サムスンの侵害で全員が同意してるとは)思ってもいませんでした」、「激しく議論を重ねました。特に揉めたのは、バウンスバックとピンチ・トゥ・ズームの特許ですね。アップルは特許を持ってると言ってますが、(サムスンがiPhoneがデビューする前から存在したと言った)先行技術はどうなるのかってみんなで議論になったんです。

そこで登場したのが(ベルビン・ホーガン)陪審員長です。経験もあるし、自分で特許も持ってる。最初は議論は白熱していました、まあ、行儀良くですけどね。ホーガンは特許持ってるので、自分の経験を紹介してくれました。その後はずっと簡単になりました。難しかったのは先行特許が何か、という最初の特許の議論ですね。先行技術がアップルの前になんにも出てなかった、 というのはにわかに信じがたいことですから。

「というか、その問題は棚上げにして前に進んだんです」、「その方が早く終わりますからね。みんな議論が堂々巡りで身動き取れなくなってましたから」

「サムスンがその特許を侵害した、そう決めたら、あとはいろんなサムスン製品を上から順にただチェックしていけばいいので簡単でした、どうせ全部同じだし。例えばトレードドレスも、サムスンが『ベゼルのついたフラットスクリーン』のトレードドレスを侵害したって判断すれば...あとはダーッと製品を下まで見ていってベゼルがついてるかどうか確かめる、という具合。だけどみんな時間はかけましたよ。急ぎはしませんでした。判断を下す前にはちゃんと話し合ったし、ヒートアップすることもありました」

知れば知るほど悪い方向に向かってる気が...

ロイターのダン・レヴィン(Dan Levine)記者は陪審員長の言葉をこう紹介している。

「軽いお仕置きでは済まないとのメッセージを送りたかった。痛みを伴うが、理不尽ではない額にしたかった」と述べた。

ホーガン氏は、3日と待たずに陪審員たちが評決に至った――これは法律の専門家らの予想を遥かに上回るスピード評決だった――のは、エンジニア経験と法律の経験のある人が何人かいたので、それも複雑な案件の理解の助けになったためだ、と述べた。ひとたびアップル特許が有効なものだと決まった後は、陪審員たちが1個1個の端末を別々に査定した、と話している。

先ほどの陪審員と言ってることが違う。もう、喋れば喋るほど、ボロが出る状態。こうして喋ってくれるのをサムスンは喜んでいるだろうけど...。あの109ページある陪審説示 [PDF]にきちんと目を通していたら、賠償額は懲罰であってはならない、単に損失の補填が目的だ、という第35項の下り(以下部分引用)も読んでいたはずなのに。

損害賠償額は、特許所有者が受けた侵害の補填に足る額とする。侵害が起こらなかった場合の経済状況にほぼ見合う額とすること。ただし、いかなる場合も妥当なロイヤリティー(特許使用料)を下回ってはならない。あなたが認定する賠償額は特許保有者への補填であり、侵害者を懲罰するのが目的となってはならない点に留意すること。

仮にこれを見落としても、同じ指示は第53項でも繰り返し述べられている。彼らはこれらの指示に従ったか? というか、そもそも読んだのか? 記事にある陪審委員長の言葉が本当なら、あらぬ方向に判断がぶれていたことがわかる。

USA Todayによれば、サムスン側弁護人のジョン・クイン(John Quinn)は今回の陪審員評定を覆すよう判事に求め、聞き入れられなければ控訴する構えだと言ってるらしい。

世界をリードするスマートフォンメーカーのサムスンは徹底抗戦を宣言。弁護団は評定破棄を求める意向であることを判事に伝えた。

イノベーション意欲を失わせ消費者の選ぶ権利を制限する、こんな評定が有効になることが許されてはならない」とサムスン側弁護団代表のジョン・クイン氏。本件判事か控訴審で判決は覆されるはずだ、と氏は主張する。

アップル側弁護団は、サムスンの一番人気の携帯・タブレットを米市場から撤回するよう、正式にサムスンに要求する構えだ。(故意侵害なので損害賠償は)陪審団が認めた10億5000万ドルの3倍の30億ドル、判事に請求できる運びとなる。

サムスン側の陪審評定破棄の要求も勘案しながら、判決はルーシー・コウ米地裁判事が数週間後に下す。評定廃棄に判事が応じなければ控訴するまでだ、とクイン弁護士。

陪審評決後、サムスンは「角の丸い長方形に1社の独占権を認めてしまうほど、今の特許法は解釈次第でどうにでもなる。残念なことだ」と言っている。

クイン弁護士は声明でこう述べた。「本件はこの判断が最終では決してない」、「1社にスマホの形状に対する独占権を与えるところまで特許法の捻じ曲がった解釈がまかり通ってはならない」

陪審員長の別の発言も入ってきた。ブルームバーグ日本版)が伝えたもの。

「本件審理に入って問題の特許を眺め出したとき考えたのは『これが仮に自分の特許で告発されたとしたなら、自分で特許は守り切れるだろうか?』という点です」とホーガン氏は説明する。 8月22日、最終弁論が終わった後、氏は「頭の中に電球がパッと点くようにひらめいた」という。「全部この考え方でいかないとな、そう思ったんです」

こういうの気づくのGrocklawだけだよ、と思われるかもしれないが、陪審員が原告に有利過ぎる判定を下す傾向にあるのはよく知られた問題だ。APのポール・エリアス(Paul Elias)記者もこの記事でその問題を提起している。

最近ますます、こういう複雑な係争案件が判事ではなく陪審員の判断に委ねられることが増えているが、陪審員は特許侵害に寛大な賠償請求を認める傾向にある。

受取側になる企業も特許制度改革を求めたりしているが、法律の一部専門家の間からは、これだけ莫大なお金が絡む評決・損害賠償の判断を普通の市民が行うことに対し疑問の声も上がっている。

「それは良い質問だ ...今盛んに議論されているテーマでもある」 と、ノートルダム大マーク・マッケンナ法学部教授は言う。

今回の裁判は、陪審員の想像の範疇を超えてます」と、UCハスティング校ロビン・フェルドマン教授(知的所有権が専門)は評決前に言っていた。「陪審説示が100ページ以上ですよ。あんな長いリーディング、自分の法学部の学生にだって課題に出さない。消化不良起こしてしまうでしょう」

「この裁判は、特許制度が制御不能になってる何よりの証拠」、「この裁判で何が起ころうと、世の中の人はそこから一歩下がって、今ある知的所有権制度の中で我々が一線を越えてしまったのではないかと考える必要があると思いますね」

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*この修正後の数字で本当に合ってるのか、という話もある。読者が計算してみたら計10億4942万3540ドルだったそうだ(ここに出てる数字が全部正しいと仮定して)。修正後の判定フォーム[PDF]から数字を拾っておくので、各自答え合わせしてみられたい。

私[読者]の計算ではアップルにまだ数十万ドル有利、と出ました。

Captivate . . . . . . . . . .80,840,162

Continuum . . . . . . . . . .16,399,117

Droid Charge. . . . . . . . .50,672,869

Epic 4G. . . . . . . . . . .130,180,894

Exhibit 4G . . . . . . . . . .1,081,820

Fascinate. . . . . . . . . .143,539,179

Galaxy Ace . . . . . . . . . . . . . .0

Galaxy Prevail. . . . . . . .57,867,383

Galaxy S . . . . . . . . . . . . . . .0

Galaxy S 4G . . . . . . . . .73,344,668

Galaxy S II (AT&T). . . . . .40,494,356

Galaxy S II (i9000). . . . . . . . . .0

Galaxy S II (T-Mobile). . . .83,791,708

Galaxy S II (Epic 4G Touch).100,326,988

Galaxy S II (Skyrocket) . . .32,273,558

Galaxy S (Showcase) . . . . .22,002,146

Galaxy Tab . . . . . . . . . .1,966,691

Galaxy Tab 10.1 WiFi . . . . . .833,076

Galaxy Tab 10.1 4G LTE . . . . . . . .0

Gem. . . . . . . . . . . . . .4,075,585

Indulge . . . . . . . . . . .16,011,184

Infuse 4G . . . . . . . . . .44,792,974

Intercept. . . . . . . . . . . . . . .0

Mesmerize . . . . . . . . . .53,123,612

Nexus S 4G . . . . . . . . . .1,828,297

Replenish. . . . . . . . . . .3,350,256

Transform. . . . . . . . . . . .953,060

Vibrant . . . . . . . . . . .89,673,957

合計 . . . . . . . . . .1,049,423,540(単位・ドル)

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Pamela Jones - Groklaw原文/satomi)