ジョブズの現実歪曲空間は生き続けている

ジョブズの現実歪曲空間は生き続けている 1

アップル番の経験則から言うと、アップル広報の公式見解が知りたかったら一流のアップル御用ブロガーの記事を読むだけでいい、ジョン・グルーバー(John Gruber)とかMGシーグラ―(MG Siegler)とか、あれはもう無償で働くアップル広報ボットみたいなものだから。

彼らにアップルは情報を流してる。ただオンレコで話す度胸はないから、「状況に詳しい筋」から得た話として記事中に盛り込むことを条件に垂れ込んでいるのだ。あれは読んでるとソ連政治研究家になってプラウダ(ソ連共産党機関紙)とかイズベスチヤ(政府機関紙)読んでる気分に近いものがある。

今回も地図が騒ぎになると案の定、都合のいい言い訳がグルーバーとシーグラーから出てきた。グルーバーは「On the Timing of Apple's Map Switch(アップル地図変更のタイミングを考える)」という記事、シーグラーは「Ripping Off The Bloody Band-Aid(アップルは血だらけのバンドエイド[絆創膏=グーグル]を剥がした)」。

どちらも地図自体がダメなことには一切触れず、 タイミングの話に擦り変えてしまっている。なぜアップルは今これをやったのか? なぜもっと待って切り替えを先延ばしにしなかったのか?  もちろんこう書くとアップルがやってることは正しいことになって、悪いのは当然グーグルだ。

 

見方を変えるとアップルはがんばってもせいぜいこの程度ということ。あのアプリが大きな一歩後退じゃないとも言い繕えないし、顧客のニーズより自分たちの小競り合いを優先しなかったとも言い繕えない、十分な人・金・物を注ぎ込んで対策を打ったと言い繕うこともできない。

となると、あとは何だ? バンドエイドとタイミングの話ぐらいしか残っていないではないか。そうだ、もう全部タイミングの話にしよう。タイミング、タイミング、タイミング。来年じゃなく今なぜ独自地図なのかって話にしちゃえ。これが世に言う「ミスダイレクション」―専ら手品師と広報がよくやる手である。[...]

こっちを見るな、あっちを見ろ。あっちだってあっち、ほらあの丘の上になんかあるぞ、あれ~UFOかな~?

いかにもアップルらしい...。今年新MAPを初めてデモした段階でアップルは既に糞アプリなことは重々知っていたはずだ。知ってなきゃおかしい。知らないわけがない。なのにアップルは毎度の如く今回も耳障りのいいことしか言わなかった。人類がかつて創った中で最高の地図、超スマート、超すごい! 見てみろよ、このフライオーバー! ワオーー! あまりの素晴らしさにTechCrunchは「Google Mapsが時代遅れに見える」と絶賛! 記事の書き出しでは「マウンテンビュー(グーグル)のみなさーん、聞こえてる?」と呼びかけている。

だんだん思い出してきただろうか? そうだ、アップル新MAPでグーグルは死ぬという話だったのだ。致命的打撃になる。それはガーミンなどの頑として「敗北を認めない」(英テレグラフ)競合他社にとっても同じだろうと、そう言われていた。

でも結局はこういうカラクリだったのだ。客にうんこを押し付ける時には自分から「うんこ」なんて呼ばない。うんこをまがい物の宝石で飾り立てて「ティアラ」と呼ぶのである。FaceTime(誰も使わないビデオ会議アプリで同じようなの搭載した携帯は何年も前から腐るほどある)も壇上からジョニー・アイヴと繋いで「このJetsonsをずっとやりたかったんだ!」とまるで初めてテレビ電話使った時のようにビックリ仰天してみせて、あーアップルのお陰でマジカルな宇宙時代がやってくるんだなーというムードを演出するのである(←ジョブズが実際やった)。

Siri(有能...でもない音声アシスタント)なら、革命的人工知能(AI)が人類文明をいかに変えてゆくかを語り、これは完成までに数十年の歳月を要したディープな研究の成果、それが今ようやく「未来の到来を告げるのだ」とTechCrunchでシーグラーが書きたてたようにやればいい。

幸いアップルには水を差し入れてくれるサクラがまだいる。が、今回それがグルーバーとシーグラーぐらいしかいない、というのが僕的にはすごく重要な転機という気がする。他の人にも絶対アップルは情報を流してると思うのだが、これまでのところ誰も乗ってない感じなのだ。NYタイムズのアップルびいきのポーグ(Pogue)記者ですら、この地図の件に関しては悪いところに目を瞑って与えられた予定原稿そのまま読み上げるような記事は書いていない

グルーバーもシーグラーも地図のレビューを最初書いた時に問題に気づかなかった件についてはひとことも触れていない。シーグラーはTechCrunchに出した最初のレビューで新マップに「感動した」と書き、「どう考えても悪くない」と書いているのだが。

そこには触れないで、今は痛みを伴うかもしれないけど、これは実は良いことなんだよ、とくる。なぜそうなる? 新しい地図アプリは最悪だけど、どうせ絆創膏はがすなら(iOS大型アプデの谷間に契約切れてややこしいことになるより)早い方がいいだろ、だからこれで良かったのさ―。

スティーブは亡くなった。が、現実歪曲空間は今も生き続けている。

【ダン・ライオンズ - Dan Lyons】ニューズウィーク誌テクノロジー編集長。偽ジョブズとして人気を博し、その匿名ブログ「The Secret Diary of Fake Steve Jobs」は月間ビジター150万人を記録した。宣伝・マーケにビタ一文かけていない個人ブログとしては悪くない。今の記事は実名ブログ「Real Dan Lyons」で。

Dan Lyons原文/satomi)