「欲しいものは3Dプリンタを使って自分で作る時代がやってくる」:米WIREDクリス・アンダーソン インタビュー

2012.11.21 19:00
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WIRED編集長からメイカー(MAKER)へ。

「ロングテール」「フリー」という、かつてなかった概念をWIRED誌上と著書で次々と提唱してきたクリス・アンダーソンによる、あらたなる著書は「MAKERS」でした。「21世紀の産業革命が始まる」という衝撃的な副題が意味するのは、デジタルの世界で起きた変化がリアルの世界にも波及し、ものを作る個人たち(メイカーズ)が新しい産業革命の担い手になるということ。

クリス氏のいうメイカームーブメントの特徴は以下のとおり。

1 デスクトップのデジタル工作機械を使って、モノをデザインし、試作すること(デジタルDIY)。

2 それらのデザインをオンラインのコミュニティで当たり前に共有し、仲間と協力すること。

3 デザインファイルが標準化されたこと。おかげでだれでも自分のデザインを製造業者に送り、欲しい数だけ作ってもらうことができる。また自宅でも、家庭用のツールで手軽に製造できる。(後略)

(『MAKERS』32ページより)

ここでいう「家庭用のツール」とは最近安価になってきた3Dプリンタのこと。これが引き金となりムーブメントが起こるというのです。

奇しくもクリス氏自身も先日WIRED編集長を辞任し、自身が起業したラジコン飛行機の制作会社3D RoboticsのCEOに専念すると発表されたばかりというタイミングでお話を伺えたので、その様子をお届けします。


── だれもがメイカーになれるものなんですか?

121114makers02_1H8A4516.jpg「メイカー」は人間が本来持っている本能的なもの。子供の時はものを勝手に作ったでしょう? 料理を作る、庭で植物を育てるというのも本能の表れかもしれません。そして今は、さまざまなものを作ることがデジタルで、スクリーン上でできるようになっている時代。さらにスクリーン上でのコミュニティも形成されています。

1984年は誰でも使えるコンピュータ(Macintosh)ができた年でした。1993年はWebが登場して人々がつながれるようになった年。そして今は、その20年後。世界はWebによって変わったと世界中の人が実感しています。

どういうふうに変わったかというと、クリエイティビティ(創造性)がより発揮できるようになり、いろいろなところに人が参加することも簡単になった。新しい産業が生まれ、衰退したりなくなった産業もある。そういった変化をわれわれは実際に体験しています。なので、メイカームーブメントによる変化は、おのずと20年後にわかることでしょう。

私自身、どのように変わるかの答えが今あるわけではありません。ただ言えるのは、Webが起こしたこの20年の変化よりも大きな変化が世界で起こるということ。なぜなら、ものを扱う市場はWebよりも大きいからです。

例えば商品カテゴリが増えるかもしれない。人々が買えるものの選択肢が増えるかもしれない。ものが今よりも安くなるかもしれない。また、産業にとっても今はまだない産業が生まれるかもしれない。文化としても世界としても、人間は何かしらの進化をしていくものなのです。

そういった先が見えない中で言えることは、製造業はWebモデルをもって進化するだろうということ。Webによってもたらされた世の中の進化が、またこの20年で生まれるようになる。その原因となっているのがテクノロジー技術の民主化。誰でも等しくテクノロジーに触れて、その恩恵にあずかれる。それによる変化がこの20年で起こるのではないかと思っています。


── 多くの人につくったものを届けるには「大量生産をして量販店に置く」しかないと思うのですが、それはメイカームーブメントによって変わりますか?

今の時代は、デザイン段階でアイデアをWeb上でシェアすることができます。それをそのままネットで売ればいいのです。必ずしもお店に置かなくてもいいと思います。

よく誤解されるのですが、「大量生産をして量販店に置く」ビジネスモデルがなくなるわけではありません。そうした考えは、よくある「ロングテールの誤解」に基づいています。ロングテールが出てくるとブロックバスター(メジャーなもの)がなくなってすべてがロングテールになると思いがちですが、共存できるのです。独占がなくなり、多様性が広がるということ。例えばYouTubeでは個人がアップするものもハリウッド的な映画のトレーラーもあります。

加えて言うなら、メイカームーブメントからはiPhoneは作れないと思います。作れるとしたら、iPhoneと共存できるアクセサリーのようなものでしょう。


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実際に作られたものの例を出すと、BluetoothでiPhoneと連携するスマートウォッチ「Pebble」です。この製品が面白いのはクラウド・ファンディングのKickstarterプロジェクトで資金を調達し、パロアルト(ゼロックスが中心となって作られたカリフォルニア州にある研究機関。Macintoshもこの研究所を訪れたジョブズが触発されて作られたとも)発信で作られたということ。

Pebbleはソニーのスマートウォッチと同時期に発表になりましたが、個人的にはPebbleの方が優れていると思っています。個人や小さなチームがつくったものが、大企業の製品と戦える土俵になってきているところが、メイカームーブメントの面白いところなのです。


── よりパーソナルな欲求をかなえるものが登場する土壌ができつつあるということでしょうか?

その通りです。マスのニーズ、みんなが欲しいと思うものはもちろんあります。一方でパーソナルだったり、自分だけがユニークだと思うものが作り出せるようになった。より自分に合ったものであれば、満足度はより高くなるはずです。


── 日本では特殊な住宅事情があります。3Dプリンタを置いたり、作品を置いたりするスペースがない家庭も多いです。日本でもメイカームーブメントは浸透するのでしょうか?

必ずしも各家庭に物理的に置く必要はありません。われわれもShapewaysのような3Dプリンタが置いてあるメイカースペース(工作空間)を活用しています。そこではチタンやステンレスなどの素材もそろいます。各家庭に必要なのはブラウザだけでいいのです。

メイカースペースは言うなればジムのようなもの。ジムのメンバーになって、そこにいく。ジムでは、家にはないマシンを使ってトレーニングしたり、トレーナーに教えてもらったりできます。しかも、同じことをやっているひとや同じことに関心があるひとが近くにいるという状況は理想的です。

家に置くのが難しいようなマシンを簡単に使えるようにするために、図書館くらいの分布でメイカースペースが存在するようになれば、日本でもじゅうぶんにメイカームーブメントは浸透すると思いますよ。


インタビューを終えて


クリス氏が一番伝えたかったことはなんなのか。

それは「だれでも作りたいものが作れる時代がすぐそこまで来ている」ということ。なんの専門知識もないド文系の僕だって、オープンソースとネット上のコミュニティの力を借りれば、3Dプリンタで新たなものを生み出せるかもしれない...! そう考えるととてもワクワクしてきました。

ニコニコ動画でMODを作る職人やボーカロイドで曲を作るアーティストのような、今までビットの世界で活躍していた人たちが3Dプリンタを使い、リアルの世界でものを生み出すようになるかもしれません。こういう分野って日本の得意芸ですもんね。

日本の製造業が自信をなくしているように見える今だからこそ、このメイカームーブメントが新たな光を照らしてくれるような気がしてきました。


同時にライフハッカー[日本版]でもインタビューを行なっているので、あわせてどうぞ。


MAKERS

(松葉信彦)

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  • MAKERS―21世紀の産業革命が始まる
  • クリス・アンダーソン|NHK出版
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