今まさに、ロボットが知的労働を奪い始めている(動画あり)

2012.12.01 09:00
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工場の仕事だけじゃなく。

Atlantic誌のアダム・デビッドソン(Adam Davidson)記者は、Standard Motor Productsの組立ラインを訪れていました。その際、作業員マディーがインジェクターにキャップを溶接する作業をしているのを見て、なぜ彼女がしているのかと質問しました。なぜ機械でやらないのか? と。他にもその工場では多くの作業を人手で行なっていました。マディーを監督するトニーが、はっきりと答えました。「マディーは、機械より安いんです。」

 


 
デビッドソン氏の記事『アメリカで物を作るということ(原題:Making It in America)』には、アメリカの製造業が向かう先について、背筋が寒くなるようなデータが明らかにされています。それは単純な数字の問題です。マディーの収入は、2年分合計しても、機械にかかる10万ドル(約821万円)より少ないんです。だから彼女には仕事があるんです...当面は。

でもアメリカの他のところでは、ロボットはより安いばかりか、仕事の質も良く、能力も高まっています。ロボットたちは自動車を運転したり、新聞記事を書いたり、処方せんにしたがって薬を調合したりができるようになっています。そして、その仕事をするために何年も学校に通い訓練を積んだ人間を代替し始めています。まるで古いSFのようなストーリーですが、そんな「未来」はもはや未来ではありません。今まさに、起こっていることなんです。

我々の仕事が、機械でできる可能性はどれくらいでしょうか? じつは、危険なほど高いんです。


スポーツ好きな人なら、「ナラティブ・サイエンス (Narrative Science)」という存在を聞いたことがあるかもしれません。スポーツ記事を書いて生計を立てている人なら、間違いなく聞いたことがあるはずです。そしてそれが、記者の仕事を奪おうとする存在であることも。

ノースウェスタン大学の工学とジャーナリズムの各部門の共同研究であるナラティブ・サイエンスは、2010年に正式に設立されました。コンピューター科学者とジャーナリスト、ビジネスマンたちが運営しています。彼らのゴールは、同社の人工知能プラットフォーム「Quill」を通して、データから記事を作り出すことです。Quillは入力されたデータ(たとえばサッカーの試合のスコア)を使って、数秒で記事を書いてしまいます。ピューリッツァー賞を取るような記事じゃありませんが、ときには人間より良い記事を書くことさえあります。

スポーツサイトのDeadspinでは昨年、ナラティブ・サイエンスに地元の新聞より良い野球の記事を書かせようと試みました。新聞記事では、「ピッチャーが完全試合」という重要なリード文が記事の下の方に埋もれていました。でもナラティブ・サイエンスでは、「完全試合」をちゃんと先頭に出していたのです。

Sports Illustratedのライターで現在ESPN誌とESPN.comのシニアライター、パブロ・S・トーレ(Pablo S. Torre)氏は、長文の特集や人物記事の場合はニュアンスが重要なので、コンピューターが書けるようになるには時間がかかるだろうとしています。でも通信社のスポーツ記者の仕事に関しては、それほど安泰ではないとも指摘しています。

「カジュアルな読者は、記事本体からどんどんボックス・スコアに飛んでいくようになっていると感じます。」とトーレ氏。「試合のまとめ記事を読むとき、彼らは試合の中で一番面白かった部分を探そうとします。今は一般的に、手軽なまとめとかハイライトが好まれますから。だからロボットが人間の知性を模してそういう部分を推定できるようになれば、それは恐るべきものになるでしょう。」

トーレ氏は、社会全体が「事実だけ伝えてくれればいいです」という方向になるにつれ、AP通信のような〆切に追われて書く記者はロボットとの競争で苦しむだろうとしています。ロボットは、スコアのデータさえ入れればすぐにまとめ記事を書いてしまうのですから。

「それは、AP通信が仕事をしてないせいじゃないんです。彼らはむしろちゃんとやっているし、いつだって十分な評価を受けていません。」とトーレ氏は言います。「そうではなくて、試合直後や緊急のときに求められているのは、文章の質じゃないからです。」


ジャーナリスト同様に薬剤師も、高い教育を受けた職業でありながらロボットによる危険にさらされています。昨年、薬剤師を父に持つSlate誌のジャーナリスト、ファーハド・マンジュー氏は、カリフォルニア大学サンフランシスコ医療センター(UCSF)で処方薬を調合するPillPickというロボットを見ました。PillPickは巨大で高価ですが、機械には違いありません。作ったのはSwisslogという会社で、非常に効率がよく、人間より正確な仕事をします。薬というのは人間にとって毒にもなりうるものなので、薬剤師には正確な仕事が求められます。専門家によれば、毎年「薬剤ミス」によって100万人以上の人が被害を受け、7000人が死亡していると推定されています。

PillPickが仕事をする様子です。



PillPickは、なじみの薬剤師に比べれば冷たい感じがするし、見た目も良くありません。でも良い仕事をするんなら、見た目の印象は重要ではなくなります。

PillPick導入前は、UCSFでは100人ほどいる薬剤師スタッフの約半数が、患者への薬の受け渡しやチェックに配置されていました。現在、そのほとんどは病院の他の場所に配置転換され、注射をしたり、患者への薬の処方計画の調整を支援したり、その他以前には無視されていた仕事をするようになりました。ロボットの薬局は設置に700万ドル(約5億7000万円)かかりましたが、それは薬剤師全員の1年分の給与合計より少ない額でした。そしてフル稼働すれば、PillPickは1日1万回分の薬を調合できます。稼働を始めた昨年以降、PillPickは35万の処方せんに対応して薬を調合しながら、ミスは1度もありませんでした(最初のエラーはプリンターの問題で、それは人間がすぐに直しました)。

社会の薬依存が高まる一方、薬も多様化しているため、米国労働統計局では今から2020年までに薬剤師への需要は25%増えると予想しています。その平均年間給与は11万1000ドル(約912万円)で、人間の薬剤師は比較的高価です。これを考えると、薬剤師の代わりにPillPickを導入する病院がもっと増えてもおかしくありません。今年の初め、中国最大の医療施設のひとつである本溪中央病院がPillPick1台を発注しました。そして7月には、シンガポール最大の病院グループがPillPick5台を注文しました。

シンガポールへの販売は「ティッピング・ポイントです」とSwisslogのアジアにおけるヘルスケアソリューション部門責任者、ステファン・ソンデレガー(Stephan Sonderegger)氏はプレスリリースで述べています。つまり、薬学を学ぶ賢い学生が異分野への転向を考えるなら、マサチューセッツ工科大学あたりでロボット工学を学ぶときが来たということです。

このようにあらゆるスキルレベルの仕事をロボットがこなす今、自分の仕事はロボットにはできないと思うのは間違いと言っていいでしょう。さらにロボットは、かつてよりコスト効率も改善しています。PillPickの導入には数百万ドルかかりますが、ボストンの企業Rethink Robotics社では「Baxter」というロボットを2万2000ドル(約180万円)で発売しました。その価格はラインで働く人間の1年間の給与分で、しかもBaxterはトイレ休憩も、保険も、休暇も必要としません。

「このロボットではiPhoneは作れません」とRethink Roboticsの創業者兼CTOのロドニー・ブルックス氏は、ピッツバーグで行われたロボティクスの展示会で語りました。でもBaxterはそれほど器用でなくても可能な仕事、たとえばベルトコンベアから部品を拾ってそれをどこかに付けるとか、配送用に商品を仕分けして梱包するとかはできます。さらにRethink Roboticsではベンチャーキャピタルから6000万ドル(約49億円)以上の投資を受けており、それを使ってiPhoneも作れるBaxterの後継機を生み出すのは近いかもしれません。

Baxterの発売は、アメリカ人の大好きなガジェットをたくさん作っているフォックスコンが、人間の代わりとしてロボット100万台を購入するという計画を開始してから1週間のことでした。アップル製品を作っているたくさんの工員たちが職を失うことでしょう。フォックスコンの厳しい労働環境は有名ですが、それでも、仕事がないよりはマシではないでしょうか。

映画『ターミネーター』では、ロボットたちが決起して人間を抹殺します。こんなスカイネットのシナリオは恐ろしいものでしたが、実際近づいている未来だって恐ろしいものです。ロボットは人間を直接殺しはしません。ただ人間を徐々に仕事から押し出すことで世界中の労働者を貧しくさせ、人間同士が生きるために殺しあうよう仕向けるのです。

コンピューター科学者のフェデリコ・ピストノ(Federico Pistono)氏が、先日io9にこんな恐怖を書いていました。

新たなパラダイムに合わせるためのバックアッププランがなければ、最悪のことが起こりうる。暴動、警察の横暴、全体的な苦悩がどんどん高まって危機的レベルに達すると、すべての社会経済システムが崩壊する。そうなれば、貧富に関係なく、地球上のすべての人に対して悪影響が出てくるだろう。

カーネギーメロン大学のロボット工学教授イラー・ナバクシュ(Illah Nourbakhsh)氏は、ピスタノ氏の懸念に共感を示しています。『ロボットの未来(原題:Robot Futures)』という書籍を発刊予定のナバクシュ氏は、ロボットが引き起こしうる「継続的不完全雇用」によって「非常に悪い」事態が起こりうるとしています。が、今ならまだ引き返せるとも言います。

我々は工場を建てるとき、政府は周辺環境への影響を調査・評価させます。毒性物質を発生させたら生態系にどう影響するかを見て、それをどう改善するかも検討します。こうしたことが雇用に関して何もなされていないのは不思議です。

ナバクシュ氏は、「雇用への影響評価」の導入を望むとしています。それは、ロボット作業員に移行する企業に対して、彼らが人間の雇用市場に与える損失を計算し、最小化すべく努力させるものです。「この種のコントロールが必要なんです」とナバクシュ氏。「企業のトップはもうけるために必要なら何だってするし、人間をロボットで置き換えれば、必ず利益につながるからです。」

でも、労働の機械化が暴走しないようにする責任は、企業トップだけのものではありません。ナバクシュ氏は、消費者も社会に何を求めるかを自問し始めるべきだと言います。ロボットの完ぺきなサービスが良いのか? 人間にしかできない、柔らかなクオリティを求めるのか?

「グーグルはロボットカーを作っていますが、ロボットのドライバーはニューヨークで一番美味しいベーグル屋さんを教えてはくれないでしょう」とナバクシュ氏。

ロボットはそういったニュアンス的な、楽しいことを知りません。我々は労働コストに価値を置くのと同じように、人間にしかできないことに価値を見出していくべきです。それらは本当に大事なものだからです。」


Cord Jefferson(原文/miho)

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