会社を2つアップルに買収させた超やり手起業家のお話

2013.01.27 12:00
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サイエンス誌のデザイナー、オーブリー・ジョンソン(Aubrey Johnson)氏が、自身のブログに書いたとある起業家のお話。

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2009年12月、アップルはビル・グエン(Bill Nguyen)氏が率いるスタートアップの小さな会社Lalaを買収した。Lalaは、グエンの息子(養子)の名前にちなんでつけられたもの。また、ソルフェージュにちなんだものでもある。Lalaは幾度もビジネスの方向転換をしつつも経営に苦しんでいた。デジタルラジオ局を買収したかと思えば、CDスワッピングを始め、ついにはストリーミングミュージックを手がけていた。

苦戦しながらも、Lalaには面白い成功例もあった。2009年、歌をグーグル検索すれば、検索結果のトップにくるのはLalaのページだった。iTunesでも、アーティストのMySpaceでもウェブサイトでもなく、Lalaのページがトップだった。Lalaへのクリックは、iTunesへの広告に繋がるわけでもなく、それどころかアップルよりも有利な条件で楽曲を提供していたのだ。Lalaがグーグル(グーグルのMusicベータ版)とパートナー契約を結んだ時は、アップルのエディー・キュー氏やiTunesチームはさぞかし肝を冷やしたことだろう。グエンの手には、まさに金塊があり、様々な会社とやり合おうとしていた。

やり合う相手は、予想に反してグーグルやアップルではなく、ノキアだった。とある寒い夜、40人以上が小さな部屋に集まりテレビ会議をしながら、グエンへのLala買収の内容を話し合った。ノキアの戦略はノキアのモバイルOSに新しい何かとして、モバイル端末の大きな利点となる音楽を導入したかったからだ。

ノキアから買収話を持ちかけられたグエンは、すぐさまグーグルに電話しノキアとの買収話を打ち明け、決定まで時間がないと告げた。グーグルのLalaに対する投資と開発リソースは、表面上はほぼ無くなってしまうような状況だった。ちなみに、グーグルには言わなかったが、グエンはノキアの約1100万ドルという申し入れには、まるで気を惹かれていなかったという。

この話を聞きグーグルはとたんに心配になり、早急に手を打った。グーグルもまたグエンに買収話を持ちかけたのだ。が、グーグルはここでグエンの要求を飲むのではなく、彼がどれだけ切羽詰まっているかを推し量ろうとしたのだ。そこでグエンもすぐさま次の手をうった。

ツテをあたり、アップルのリーダー格の人間との打ち合わせをとりつけた。大手モバイルOS企業数社から買収の話を持ちかけられていることをアップルに打ち明けたのだ。アップルのキューは、Lalaがグーグルと手を組むと検索の面からも自分達が不利になることをわかっていた。グエンは、Lalaの投資主であるワーナー・ブラザーズ・ミュージック等を通して、音楽業界大手と実に上手くやり合うことには長けてきていたのだ。悪名高くなっていた、と言ってもいい。

同年11月後半、グエンはパロアルトのスティーブ・ジョブズ宅で共に夕食を囲むことになった。その場には、エディー・キューのほかにも、ティム・クック等のアップル経営者が顔を揃えていた。ビートサラダを食べながらジョブズはこう言った。

「数字を提示するから、ビル、君が良ければ、話をすすめてこの状況を終わりにしよう。どうだい?」グエンはうなずいた。

ジョブズが数字の書かれた紙を渡し、グエンが承諾。そうしてこの買収話はまとまったのだ。アップルはLalaの買収に成功。買収額は約8000万ドル。残った従業員にさらに追加で約8000万ドルのボーナスがでたというから、買収の価値は合わせて1億6000万ドルに近い。

この話の皮肉は、Lalaからアップルに移動したメンバーのうち何人かは、結局はグエンと共に次のベンチャービジネスについていったということだろう。彼らは、この買収劇で得た大きな額とボーナスと共に去って行ったのだ。そして、グエンの新たなベンチャーColorは、再度アップルによって買収。鍵となる機能とコア開発者20数名がアップルに買収されたのだ。買収額は700万ドルとも言われている。Lalaの時と同じ開発者が今度はColorの人間として、アップルに移動するのだ。

アップルに2度も払わせるとは、やり手としか言いようがない。

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ブログを書いたAubrey氏は、Colorのデザイナーでもあります。

グエン氏の、このような買収目的とも言える短期集中型ビジネスには、嫌気を感じている人もいるようです。Colorに関しては、買収について揉めにもめ訴訟事件にまで発展しています。もちろん、彼がやり手であるということは間違いありませんけどね。


Aubrey.me

そうこ(Aubrey Johnson - Aubrey.me 米版

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