テック企業がアメリカの都市の姿を変えていく

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サンフランシスコやニューヨークで。

アメリカのテック企業って、アップルにしてもフェイスブックにしても、郊外の広い土地に大きくて特徴的なキャンパスを構えています。彼らが巨大企業に成長した今、そのオフィス周辺の環境への影響も小さくなく、中にはそんな彼らのあり方を問題視する人もいます。どのへんが問題なんでしょうか? 米Gizmodoのケルシー記者が、以下熱く論じてます。

2011年、スティーブ・ジョブズがクパティーノのアップル本社キャンパスのデザインをクパティーノ市議会に提示したとき、彼はその建物を「郊外型オフィス・パークに反するもの」だと言いました。「我々は1万2000人をひとつの建物に入れられるデザインを考え出した。それはちょっと変に聞こえるだろう」「だが我々は、たくさんの建物で構成されたオフィス・パークを見てきて、それが急速に退屈なものになりつつあることに気づいた。何かもっと良いことをしたいんだ。」と。ただ問題は、「誰にとって『良い』のか」ってことです。

ジョブズのロジックに反論するのは難しいです。そして実際、反論した人はほとんどいませんでした。多少、渋滞とか自転車用レーンとか、フリーのWi-Fiといったものについて注文が付いた程度で、フォスター・アンド・パートナーズ社設計による本社キャンパスは地域コミュニティの承認を得ることができました。

でも都市という視点から考えると、アップルの計画はジョブズが嫌がったオフィス・パークとそれほど変わらないものでした。30億ドル(約約2900億円)かけた建物は、周辺のコミュニティからは植栽と駐車場で隔てられていました。その近隣で感じられるアップルの気配といったら、車の渋滞くらいでした。「シリコンバレーの場作りをするのは、アップルの仕事じゃありません」批評家のリディア・リー氏が書いています。「でも、そんなグッドデザインの賞ももらえるような建物だったら、もっと高い視点から考えてくれなかったのは残念です。」

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そんな批判の対象は、アップルだけじゃありません。GPUメーカーの雄、Nvidiaも新本社ビル建設(上画像)を計画しています。ゲンスラーのデザインによるその建物は、彼らが作る製品からメタファーを引き出したものです。「情報フローへの接続が最初にデザインされるチップのデザインにヒントを得て、このふたつのフロアプレートは、その周辺の人の動きを中心にデザインされています。」建築家のハオ・コーさんはこう説明しています。「コラボレーションをつなぎ、広げる機会を最大化しようとしているんです。」ここでは、従業員同士が偶然ばったり出会うような場面を想定しています。でもキャンパスの外から見ると、この建物は周りのぼこぼこした小さな丘に阻まれて、まるで近隣に背を向けるかのようです。

一方、アマゾンのシアトルの本社ではバイオドームの中に社員を閉じ込めようとしています。でもこれは都市計画として見れば、道行く人へのある種のサービスにはなっています。

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会社と地域コミュニティを隔離する動きは、建物以外の形でも見られます。たとえばサンフランシスコとシリコンバレーの間で始まったプライベート・バスがあります。このバスサービスは、グーグルなどの会社が、社員の通勤環境を静かでエアコンが効いてWi-Fiの使えるものにしようと始めたものでした。これは実際すごく流行っていて、バスの停留所周辺のあり方を変え始めています。停留所付近の不動産価格が急騰しているし、新しいお洒落なレストランもその周りにできています。一方で地元の人たちと、このプライベートバスを使う関係者の間では、はっきりとした分離が起こりつつあります。

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でも、この動きがどうして問題になるんでしょうか? Design Observerの編集者で、著書「The Dot-Com City: Silicon Valley Urbanism」でテック業界の建築物について論じたアレクサンドラ・レンジさんは次のように言っています。「こうした変化によって、予想しなかった方向にコミュニティが影響を受けていくからです。」「彼らのビルについて、『誰に迷惑をかけてる? 社員にとってはパラダイスだよ』と言うのは簡単です。でも、サンフランシスコに住んでいる人に影響が及んでくると、それが見えてきます。プライベートバスで職場に向かって、プライベートオフィスパークで働く。それがつもりつもって、より大きな都市のあり方という形で出てくるんです。そうなると本当に問題だし、非民主的な事態でもあります。」

シリコンバレーは、1970年のサンフランシスコのネオリベラルな思想から発展していきました。そしてその名残は今でも企業のスローガンの「人をつなぐ」とか「デジタル技術を通じてより良い世界を作る」といった表現に見られます。でも都市環境への参加という意味では、テック企業のほとんどは近隣の環境から距離を置いています。1995年の『The Californian Ideology』というエッセイの言葉を借りると、このパラドックスは「ヒッピーの自由な精神と、ヤッピーの起業家精神」の衝突から生まれたんです。最近の雑誌ニューヨーカーの記事で、シリコンバレーにおける社会のイノベーションの歴史について、ジョージ・パッカー氏がこんな風にまとめています。

テクノロジー産業は、自身をその存在するコミュニティから隔離することで、ベイエリアを変化させながら、ベイエリアに変化させられることはなかった。ある意味では、手を汚すことがなかった。(中略)テクノロジーは競争力の弱さや非効率への応えになりうるかもしれない。だが、正義や公正さといったより大きな問題に関しては、ほとんど何の答えにもならない。「政治問題なんて、エンジニアリングで直せるバグであって、利益や価値観の根本的な不一致じゃない」とでも考えていれば別だが。

企業たちは、社屋のデザインを通じて従業員同士のコミュニケーションを奨励しようとしています。でも一方で、彼らは従業員と周辺コミュニティの間の対話を支えることに関してはそれほど興味がないようです。

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ニューヨークのテック業界も、サンフランシスコのそれを悪い意味で真似るように発展しています。特に気になるのは、ニューヨーク市内でももっとも隔離された場所とも言える、イーストリバーにある小さな島、ルーズベルト島に巨大なテックキャンパスを作っていることです。そこではニューヨーク市がコーネル大学と協力して、210万スクエアフィート(約5万9000坪)のコミュニティを作り、そこに学生やテック関係の仕事をする人たちが住んで仕事もするという計画です。それを「僕らのシリコン・アイランド」と呼んで喜ぶ人もいます。「街に対するそういう考え方、それでも(訳注:隔離されていても)街の一部だと思ってしまうこととか、『ここでクリエイティブなことが起こってる』と思っていることとか、彼らのそんな姿勢がすごく気に障ります」と前出のレンジ氏は言います。

歴史的に言うと、都市空間を交通機関とか建造物で分割していくプロセスは、社会経済的な理由で起こってきました。テック業界と都市の関係において言うと、上に書いたような現象はある通念に支えられていたように思います。それは、賢い若者の「イノベーション」を支援するには、職環境との完ぺきで密接なループを作り出すことが必要だという考え方です。これはアメリカにおいて、1950年代から浸透していった思想です。素晴らしい仕事は、従業員の間で親しみと対話を促進するような空間から生まれるんだという思想です。

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皮肉にも、その考えがいつも正しいとは限りません。その反証としてよく例に出されるのは、マサチューセッツ工科大学(MIT)が第二次世界大戦中に建てた「Building 20」という木造のオンボロビルです。この建物には、その後MIT内の異端プログラムがみんな詰め込まれていて、デザイン的にもうまくできていなかったので、いろんな分野の研究者がつねにお互いに関わらざるをえない状況に追い込まれました。その結果、Building 20から戦後期のもっとも重要な研究のいくつかが生まれていきました。素敵なキャンパスに研究者を隔離したからではなく、彼らに無理やり環境や周りの人に適応させたからです。これはある意味で、都市がしているのと同じことです。ニューヨークは、都市という規模でのBuilding 20なんです。テック・コミュニティのための島を作る必要なんてないはずです。

郊外型の巨大な、隔離されたキャンパスを作ることへのアンチテーゼは、オフィスを都市の中に作ってしまうことです。たとえばフェイスブックは、ニューヨークのエンジニアリングチームをニューヨークのローワー・マンハッタンの新オフィスに移す計画を発表しました。新オフィスをデザインしたのはフランク・ゲリー氏、カリフォルニア州メンローパークにあるフェイスブック本社をデザインした建築家です。「そのオフィスにはメンローパークの本社にあるいろいろな要素が使われますが、ニューヨークらしいデザインになり、マンハッタンで働くというユニークな経験を体現するものになります。」とディレクターのセルカン・ピアンティノ氏は言います。たとえばローワー・マンハッタンにある文化やコミュニティへのアクセスや、近隣のジムのメンバーシップといったものを用意し、社員をアフター5にオフィス周辺の社会に溶け込ませます。それはシンプルなことのようですが、フェイスブックのような大企業には、周辺に経済的・文化的な大きな影響を与える力があります。たとえば、MakerBotやEtsyといった企業が中心になってブルックリンに「Tech Triangle」を形成していますが、それによって数千人の雇用が生まれ、地域の経済成長に貢献しています。

西海岸でも、複数のコミュニティで同じ事が起こっています。郊外にスタンドアローンのオフィスを作るのではなく、サンフランシスコにとどまっているんです。たとえばSpotifyがセントラルマーケットにあるウォーフィールド・ビルディングのオフィスに拡張移転すると発表しましたし、TwitterやZendeskもサンフランシスコの不動産に資金を投じています。

とはいえ、郊外型オフィスパークの方が企業にとって効率が良いのも事実なので、企業の姿勢が急に変わることは考えにくいです。フェイスブックやTwitterの、都市型オフィスの動きを「アメリカの都市生活の新時代」なんてまとめてみたい気もしますが、実際今までだって、企業の利益が新たな成長をドライブしてきたことには変わりありません。ただし現代の企業は、単に自社ビルを作るだけじゃなく、それを通じて地域全体をデザインし、プランを立て、その政策に影響を与えてしまうことすらある存在なんです。

Kelsey Campbell-Dollaghan(原文/miho)