アップルの言う「プロ」の意味が微妙に変わってきている

アップルの言う「プロ」の意味が微妙に変わってきている 1

ここ数年、アップルに捨てられた彼女になった気分で落ち込んでるプロは多いだろう。棄てられたのは自分のせいじゃない。単に愛が冷めてしまったのだ。

アップルに気持ちを確かめたらきっと否定する。だけど、これだけ態度に出てたら気づくなって言う方が無理というものだ。

Mac Pro

アップルで最もパワフルなMacだが、アップデートはイラつくほど遅い。物理的にも10億年ぐらい変わってない(もうじき変わるようだけど)。皮肉なことに、このプロユーザー仕様のMacが、高速のThunderbolt接続に対応してない唯一のMacとなった。あのMac miniだってThunderbolt使えるようになって2年以上も経つ。

17-inch MacBook Pro

言わずと知れた大画面ラップトップ。これぐらい面積ないと出先で仕事にならないデザイナーとビデオ編集者に好評で必需品だったのに…廃止。がびょ~ん。

Final Cut Pro

長らく待望のアップルのハイエンド動画編集スイートがついにきた!!…と思ったら、プロ必需の機能がないし(マルチカム編集、EDLサポート、後方互換などなど)。あれにはプロ編集業界も言葉を失った。いや、「言葉を失った」という言い方は正しくないか…苦悶の叫びは今だに鳴り止んでいない。

Aperture

最新バージョンリリースは2010年2月だ。そう、もう3年半もメジャーアップデートがないのだ! 「その言い方はミスリーディングだ」と言われるかもしれないが、Apertureのライバル「Adobe Lightroom」は目に見えて進化を続けている。あれと比べてしまうと、停滞感は否めない。

いやあ…もしかしてアップル、プロ市場を捨てる気なんかな? 「まさか考えすぎでしょ」と言ってもらえたら嬉しいが、実はスティーブ・ジョブズ自身も一度それを真剣に検討したことがあるのだ。

それはiMacが世界のベストセラーになった当時のことだ。スティーブをまじえての広告代理店の定例会議でPro製品廃止してしまおうかな、と言っていたのだよ。理由は大体みなさんの想像通り。コンシューマー向け製品にはメリットが無限にあるが、プロ向け製品はニッチな市場が相手だから膨大なリソースを食われてしまうってことね。

言うまでもなく、プロ市場はアップルにとって数は小粒でも、それなりにバリューもある。プロはオピニオンリーダーであり、人に影響を与える人であり、エバンジェリストだ。友だち、家族、同僚は「あの人がアップル好きだからな」ってことでアップルを買う。それもあってスティーブも結局は思い止まり、プロ製品にコミットする従来路線を続けた。――しかし、このコミットメントが未来永劫変わらないとはひと言も言ってないのだ。

これまでの流れを整理すると、アップルはプロ市場に対する考え方、どうプロユーザーに奉仕するのが一番かという考え方を変えてしまったのだろう。

嫌がる人もいるだろう。だがまあ、違いと言っても、これはFinal Cut Pro 7とFinal Cut Pro Xぐらいの差かもしれない。FCP7はコントロールが豊富かつディープなので、アプリを使いこなすまでに相当がんばらないといけない。その点、FCPXはパワフルだが、戦意喪失するほど難解でもなく、もっと引き寄せる感じで、いくつかの高度機能は簡略化・自動化されている。プロの多くが言うように「FCPをアホでも使えるようにした」んだね。そうやって考えると、FCPは「iMovie Pro」という言い方もできる。

但し、ここで気をつけなきゃならないのは、2つの問題を混同しないことだ。まず1つ目はアプリの機能自体の問題がある。あともっと大局的には、これから動画編集がどこに向かおうとしているか、という問題がある。アップルのことだから土台から見直してもっと良いものを目指すんだろう。

それでアップルを離れる顧客もいるだろう(離れることを声高に言う人もいる)。しかし、これで限界を押し上げてプロのコアなグループをハッピーにできれば、それはそれでいいのかなという気もする。アプリが突然理解できるようになって楽しく活用できるなら、もっと幅広いハイエンドの消費者を引き寄せられるかもしれないしね。

今年発売となる新Mac Proも、こういう哲学を形にしたものとなる。「ユーザーフレンドリー」なデザインで、内蔵スロットやベイではなく拡張はThunderboltを通して行う。必要なものをなんでも繋げればそれでOKだ。これが出れば「アップルはプロのことも忘れてませんよ」という久々に明るいメッセージになるだろう。アップデートというより、最も古いカテゴリのコンピュータを再構築するようなものになる。それができるのはアップルだけだ

Mac Proと言えば思い出すのがPower Mac G4 Cube。デザインは感動だったが、1年で市場から撤退した。Cubeは消費者向けに不釣合いなほど高かった。なのでMac Proは内容に見合う値段にしないとダメだろうね。

Mac Proはプロ全員を満足させる製品になるのか? それはたぶんない。こんな円筒形じゃ棚に入らないじゃんとか、また内蔵のものを犠牲にして、とか言われるだろう。

そういう人々から見れば、アップルはプロ市場から離れていくばかりだ。だがそれは、全く新しい領域にアップルが足を踏み入れた、ということでもある。プロのみなさんも一緒に行こうよと手招きしている。創造・イノベーションを愛する人になら、それと同じ思いでデザインしたこの超パワフルなコンピュータの良さがわかってもらえる、という方にアップルは賭けているのだ(たぶん)。

まあ、そうは言っても消えた17インチMacBook Proの問題は残るけど。ある日突然プロが「いやーやっぱり仕事はちっこい画面に限るね!」とでも言い出さない限り、前向きに受け止めるのは難しい。

もちろん復活したら話は別だけどね。見違えるほど良くなって、Retinaになって…

*本稿筆者ケン・シーガル(Ken Segall)はアップル、NeXTの実績で知られる古参クリエイティブ・ディレクター。著書に『Insanely Simple: The Obsession That Drives Apple's SuccessThink Simple―アップルを生みだす熱狂的哲学)』、ブログは Observatory。ホームページはここ

KEN SEGALL(原文/satomi)