【過去記事】3Dプリンター騒がれ過ぎ。それで飯食ってる僕が言うんだから間違いない

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この記事は2013年5月24日公開のものを再掲載しています。

3Dプリンティングも認知がだいぶ広まってきましたね。新聞でもブログでもTVでも盛んに取り上げられています。

「これからはどんな製品でもダウンロードできる」

「自宅でも印刷屋でも、CADプログラム、アプリ、3Dスキャナーにデータ取り込んでプリント出力すればなんでも自作できる」

「製造の分散化が起こる。で、また西側に製造を取り戻せる」

しかし水を差すようでアレですが、カップケーキ、ダフトパンク最新アルバム、若返りの妙薬ゴジベリー(クコの実)同様、この3Dプリンティングも騒がれ過ぎ。どうしてそんなことわかるのかって、これで生計立ててますからね。

毎日来る日も来る日もマシン動かして一般人・業界人にご要望を伺うのが仕事なんです。この2年で成型したモデルは5000点、対応した問い合わせメールは1万件超。大企業から狂った発明家、デザイナー、愛好家まで、あらゆるレベルの顧客と深いお付き合いがあるので、彼らの3Dプリンティングに対する認識もそれなりにわかってるつもりです。

みなさんもこういう写真で...

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...3Dプリンターの世界を考えているんじゃないでしょうか。これは1個のピースでできたものです。製造を知ってる人間にとってはそれ自体、快挙です。でもこれ、原料は全部プラスターの粉。それにインクジェットのインクでちょちょっと色付けしただけなんです。普通の人はこれを見て、メタル、プラスティック、ゴムでできてるって思うかもしれませんけどね。違うんです。これの性能はママが集めてるフィギュア人形と変わんないんです。

光沢のあるプラスティック製の、もっと複雑なかたちをした成果物の写真もありますが、 あれは何万ポンド(何百万円)もするマシンで成型して、かなり経験積んだプロが何時間も何日も何週間もかけて念入りに後処理したものです。3Dプリントした機械、3Dプリントしたテーブル、マテリアルの3Dプリント、話題の3Dプリント銃--今はいろんな動画や写真が出回ってるので、それを見て「3Dプリンター、800ドルしないってさ」って聞けば、そりゃ「ワオ!」ってなりますわね。これ全部家でできる。これが未来だ!

ある意味それは当ってます―これで世界中のいろんなものが開かれることは間違いありません。でもだからと言って今騒がれてるようになんでも自分でDIYできるとか、製造の分散化が起こるとか、そういうことにはならないのです。

つまり革命はこないと?

一番の問題は過剰な期待、品質、価格、ユーザビリティでしょう。以下に、「みんなが思うほど3Dプリンティグはすごくもなんともないと思う理由」をまとめておきます。

人々の期待値:  今はみんな3Dプリントしたバイオリン、すごい靴、スパナ(眠...)など、なんでもプリンタから取り出してそのまま使える映像を見てしまってます。あれはレーザーや樹脂を使う超高価なハイエンドのプリンタなのですが、みんな知識や訓練積まなくても800ドル未満のマシンさえ買えば全部自分で作れるような気になってますからね。誰も車を見たことのない惑星である日突然「時速最高400kmで10人収容で3万円しない車」の話が新聞に出始めました、という状況に近いものがあります。噓は書いてないにしても、それが話の全容じゃないんですよね。

ネーミング:  「3Dプリンティング(3D printing)」って呼び方がいけない。だって、言いやすくないですか?  もし「高速プロトタイピング(rapid prototyping)」って呼称だったら違っていたかも。「うちにも高速プロトタイピング、早く1台欲しいね」って人はいませんよね?

強度:  3Dプリントした部品は昔ながらの製造工程でつくる部品ほど強くありません。1枚1枚レイヤー積み上げて成型していくところが、一番の強さでもあり一番の弱さでもあります。射出成形(injection molding)のような工法なら素材が比較的安定した構造なので部品全体に均質な強度を確保できるんですが。3Dプリンティングだと1枚1枚レイヤーですから、X軸×Y軸の平面ほどZ軸方向は固く繋がってなくて、ラミネート(薄板を重ねたもの)のような脆さがあるんです。これはレゴの壁を想像すると分かり易いかも。積み上げたブロックは上から押すと強く感じますが、横から押すと...いとも簡単に崩れてしまいます。

表面加工:  プラスティック成型もいけるってことで実物を見せてる事例もありますよね。でも大体は光沢のある滑らかな表面だったりします。上から下までレイヤー積み上げた跡がガタガタ見えてるマットフィニッシュの実物を見せてる例はあまりないんじゃないでしょうか。「滑らか」な表面加工をやってる会社も沢山ありますが、サービス名から「3Dプリンティング」の前置きがボコッと抜けてることもよくあります。部品は後加工も可能ですが、アセトン(超危険)のような化学物質や人間の手作業が必要だし、これやると部品のディテールと耐久性は落ちてしまうんですね。

コスト:  コストは使う素材によりますね。大きな物は高くて、小さな物は安い。たったそれだけのことですよ。複雑さの度合いだとか部品の数だとかいうのは全く関係ありません。特別な道具は一切必要ないっていうのが3Dプリンティングの素晴らしさで、これでデザイナー、クリエイタ―、ハッカーには大きなチャンスが開けるわけですが、じゃあ、「ドアノブを新しいのに取り替えたい」って人にもプラスになるかっていうと、どうなんでしょうね。さらに3Dプリンティングでは、量産化でコストが切り下がるってものでもなく、所謂スケールメリットが無いので、1個Y円のものを千個刷れば千倍のコストがきっかりかかります。要するに、自分の握りこぶしより大きなものは作っても時間の無駄ってことですね。

しかも末端の材料費は原料調達コストよりずっと高くつきます。一番安いのでも1kgで50ドル(5000円強)ぐらいするし、高いのになると500ドル(5万円強)する樹脂もあります。申し訳ないけど全然節約にはならんのです。ダフトパンクのヘルメットを原寸サイズで刷ってちょ、というリクエストも来ますけど、値段聞いてガックリ崩折れるダフトパンク・ファンがリクエストの数と同じぐらいいるのです。

スピード:  多くの人は3Dプリンティングは高速だと思ってます。これも「製造工程にしては」という前置きがボッコリ抜けてしまってるもうひとつの例ですね。実際には何時間も何日もかかるなんてザラ。1枚1枚のレイヤーを厚くすれば時間は縮められるんですけど、これやるとたちどころに表面仕上げの質が落ちてしまうのです。「でも将来もっと高速になるんでしょ」という考え方も必ずしも事実とは言い切れなくて、なにしろ我々はABSやPLYといった化学物質の材料特性の限界の中でやりくりしなきゃならないんですね。こうした素材はものすごく高速に押し出さなきゃいけなくて、尚且つ部品の特性を壊さない範囲の速度に留めなきゃいけないんです。今のトップエンドのFDM(Fluid Deposition Modelling)でやってるのがまさにそれです。

ユーザビリティ:  これは大きいです。何かを成型するにはCADモデルが必要なんですけど、その入手が大変なのです。ものすごく大変。手紙を書いて「印刷」ボタン押しても印刷はできませんよね? そもそも印刷ボタンないし。タイプして誤字直さなきゃいけない。3Dプリンティングもそれと同じです。但し手紙の100万倍大変なんですね。「じゃあ、どうすればいいの?」―よくあるアプローチを並べてみましょう。

1. CADを学ぶ:  学んでおくにこしたことないけど難しいですよ。プログラムの仕組みも学ばなきゃならないし(Photoshopにちょっと似てます。1週間やれば何か描けるようになって、3年やれば奥の奥まで知り尽くせる)、デザインの仕方も学ばなきゃならない。「10mmの穴に10mmのシャフトは入らない」という風に、トレランス(許容差)なんてものまで考えなきゃならないので大変だよ。

2. 3Dスキャン: 外側の表面だけスキャンしたい、奥行きの寸法が要らないなら、これもいいんですけどね(内側はスキャンできない)。「壊れた部品をスキャンして3Dプリント出力する」っていう発想は大袈裟です。今は超強力接着剤とかシリコンモールディング(スペア作るならこっちの方がもっと滑らかで強いものができる)もあることだし。それに耳で聞くほど簡単でもないし、安くもないんです。Xbox Kinect買ってスキャナーに改造もできますが、それをやれるのは期待と程遠いものしかできなくても構わない人、プロに有料で頼める人ぐらいでしょう。

3. 3Dファイルをダウンロード:  毎日ネットには3Dモデルの新ライブラリがオープンしてますが、どこもアッという間に他のサイトと全く同じ3Dファイルで埋まっている気がしますね。ファイルの99%は第三者の目を通していないもの。つまり本当に3D成型が可能だという保証はどこにもないものです。アニメーションやレンダリング目的のファイルも多く、平らな面にイメージを投射しただけのものもあります。あれでは成型はムリ。メジャーな3Dプリンティングライブラリでさえエラーの出るファイル、3Dプリンターの性能・コストを度外視したファイルだらけなのが現状です。

4. 写真ベースのアプリ:  スキャニングみたいなもの。もっと劣る。

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家庭用スキャン&プリンターの作品例(将来はもっとよくなると思われる)

マシン・レンジ:  何百種もの素材で3Dプリントできるのはわかったけど、それ全部リビングでできるようなものか? もちろんこれはムリです。3Dプリンターと言っても種類はいろいろあって、それぞれに長所と短所があります。消費者向け3Dプリンターの主な形態はFDMですが、 これはABSやPLYの押し出しが比較的安全に行われる...つまり素材を素早く冷却するので機械から出てきたところで指で触れるんですね(+あんまり散らからない)。他のタイプのプリンターではこうはいきません。樹脂は細かいところまで再現できるのはいいのだけど本当によく散らかるし、値段も高価なんですね。素材を粉で入れるプリンターは死ぬほど散らかるし、下手すると爆発することもあります(粉ベースのプリンターで3Dプリント銃作ろうとか絶対思わないこと) 。あとは稼働中は高熱になったり、廃棄物が山ほど出たり。なので消去法でいくと、家庭用に適した技術は本当にFDMぐらいしかないんです(因みにFDMは表面加工が最悪)。

原料: 概して1種類の素材でしか刷れなくて、普通はプラスティックを使います。とわかったところで、周りを見回してみてください...今、部屋の中にプラスティックだけでできたものって幾つありますか? 僕は2つ。カップとレンズキャップですね。カップは780円しました。レンズキャップは高価だけど、精度が要求されるし、クリップもカッチリ合わなきゃいけませんよね(多層で弱い3Dプリント向きじゃない)。3Dプリントなんてとてもじゃないけどムリ。やりません。家の中のものは大体が何種類かの素材でできていて、金属とプラスティック両方使ってるものがほとんどですよね。でも金属とプラスティックは一緒に加工できないんです。互いの融点が華氏数百度も離れてるので。僕だってリビングで素材がどろどろに溶けるのは勘弁です。

一度読んでなるほどなーと思ったのは、3Dプリンタをパン焼き器に喩えるアナロジーですね。 90年代にはパン焼き器が突如安くなって1家に1台となりました。みんな4-7ドルはたいて材料買い揃えて取説通りにセットして寝ます。朝起きると焼きたてパンの美味しそうな香りが2階まで広がってきています。機械・材料・手間暇かけた甲斐があった...と、誘われるように下に降りていってみんなでパンを切り分けて食べます。「むおー!こんなおいしいパン食べたことない!」

そして2週間後。パン焼き器は棚の奥。パンは店で買って済ませる元の生活に逆戻りしてましたとさ。

まあ、僕が思うに、99%の人は3ドルかけて家で焼くより店で1ドルで買った方が安いって気づいて、そうしちゃうんじゃないかなーと。家で焼く方がいいのはわかってるけど、ついついね。

3Dプリンタは恋人。嫌ってるわけではない

ここまで読んだら普通、「こいつよっぽど3Dプリンティングのこと嫌いなんだな」、「まるで3Dには未来ないみたいな書き方だな」って思いますよね。でもそんなことないです。むしろ今は3Dプリンティングに夢中。でっかい未来もあると思ってます。心の底からそう信じてなければ、こうして来る日も来る日も貴重な人生の毎日をそれに捧げるなんてことしません。

消費者向けの3Dプリンティングの未来は、人が創造し、発明し、アイディアを共有するポテンシャルがどれほどのものかにかかってます。この会社を始めて以来、僕は何百人というデザイナーがアイディアをかたちにするお手伝いをし、それが市場に出るのを誇らしい思いで眺めてきました。今では3Dプリントではなく大量生産されているので、質もずっと良くなってます。

3Dプリンティングは今後もプロトタイピング市場、限定数製造(超ハイエンドなマシンで)、医療、航空宇宙産業などの領域で成長していくと思います。ただ、毎日家で使うようなものなのか? それはちょっと違うと思うんですね。

3Dプリンティングはまだ始まったばかりで、言うなればハネムーン期。何もかもが新鮮で、こんなこともあんなこともできるっていう驚きの連続なんですな。でも現実問題、できるまでの過程を度外視して仕上がったパーツだけ見比べれば、プリント成型したパーツは質ではだいぶ遅れてるわけでして。コストアドバンテージもないこと多いし。やりくり上手な人は絶対大量生産のもの買っちゃうと思う。ああ...僕の勘違いだったら嬉しいのだけど。

本稿は3Dプリンティング専門会社「3D Print UK」創業者で、サウスロンドンを拠点に個人・法人顧客(+Gizmodo UK主催デザインコンペ応募読者)向けに3Dモデルを多数成型しているニック・アレンさんのゲスト寄稿です。

Nick Allen(原文/satomi)