次期CEOの本命登場。マイクロソフトのノキア買収を10分で読み解く

次期CEOの本命登場。マイクロソフトのノキア買収を10分で読み解く 1

マイクロソフトがついにノキアのハードウェア部門を72億ドル(7200億円)で買収し、自社ブランド携帯製造に名乗りをあげました。

買収するのは具体的にはノキアの端末・サービス事業部門で、ノキアの地図と特許の使用料も込み。買収後ノキア社員3万2000人はマイクロソフト社員となります。

ノキアがSymbian OSを捨ててマイクロソフトWindows Phoneで最後の賭けに出て約2年半。スマホで史上最高峰のカメラを有する逸品(最新モデルはLumia 1020)を実現したものの、双方期待したほどの売れ行きには至っていません。

マイクロソフトはノキアのハードウェア部門を傘下に収めることで、アップル×iPhoneのような真に統合化されたエクスペリエンスの実現を目指すのが狙いと思われます。

自社製造体制確立でOne Microsoft実現。遅きに失した感も?

マイクロソフトがハード分野に力を入れ始めたのはここ1年ぐらいの動きです。Surface発表は昨年6月で、中身刷新の新モデルも近日発売予定です。今度出るXbox Oneもコンソールとしてはかつてないほどリビングへの浸透に力を入れたメジャーリリースとなります。そしてノキア―これでハードはひとまず完成でしょうか。Surface ProをPCとしてカウントすれば、今の人が触るコンピュータ端末はあまねくカバーしたことに。あとは壁で囲って、数年前から温めてきた「One Microsoft」的な統合化されたエクスペリエンス構築に乗り出すことができます(使う人がいればの話ですが)。

ノキアのハードウェアはマイクロソフトのSurface部門とはいろんな意味でパラレルなので相性も良さそうです。ともに造りのしっかりしたハードウェアなのに、まだソフトやインストール実績、機能が揃ってないせいで競合(AndroidなりiPhoneなり既存のラップトップなりPCなり)からユーザーを奪うところまでいっていません。

Windows Phoneのグローバルシェアは2013第2四半期3.7%でした。マイクロソフトがノキア買収発表直後に公開した社内予想は、この世界市場シェアを2018年までに15%というラインまで持っていきたいとしています。長丁場の戦いだし、まだ追いつくだけの時間的余裕は残されている、というのはマイクロソフトの言う通りなのですが、5年目標が15%というのはやや控え目過ぎじゃないでしょうか…。

今は人気の絶頂の製品も5年で新製品にズタズタに引き裂かれて地に堕ちる時代。今から5年前iPhoneはまだ赤ちゃんでRIMの地盤は揺るぎないものに思えました。ところが今はiPhoneはこの通りで、BlackBerryは買収に関心もってくれそうなところにはすべて当たってそれでも買い手がつかなくてバラ売り寸前ですからね。

噂に聞くところによれば、ノキアは独自に10.1インチタブレットを開発中とも言われます。開発コードネームは「Sirius(シリウス)」。カラフルなLumia携帯に似たデザインで、OSはWindows RTですが、マイクロソフトのSurfaceにカウントされるかどうかは不明です。マイクロソフトはなるべく製品は統合していきたい方針なので、(秀逸なデザインと噂の)このノキアの10.1インチタブレットを買収後どうするかにも注目!ですね。

買収で何が変わるの?

マイクロソフトは買収後もWindows Phone OSのライセンス提供をやめるつもりはありません。自社でも造るというだけで。この辺はグーグルがモトローラ買収後もHTCやサムスンと(一見)仲良くしているのと同じですね。マイクロソフトはその点に自ら言及し、今後も提携メーカー様大事でやっていくと言いましたが、Surfaceを発表した時もメーカーさんからは「直接の競合品を出すとは何事じゃ」という反発があったやに聞きます。それを思うと、Windows Phoneサポートに既に及び腰のHTCやサムスンに高品位のWPスマホを作ってもらうのはかなり大変そう。下手するとまともなWindows Phone造るのはマイクロソフトだけということも考えられそうです。

あと買収の資料でさりげにデカかったのが、ノキアの「HERE」マップもマイクロソフト全端末で使用可能になること。ノキアの地図と地図機能の多くは従来ノキアの独占でした。Windows Phoneの全マップにはその土台(一部はノキアのNavteqがベース)のところが結局採用されましたが、あれよりもっと優れた地図がマイクロソフトの全端末・サービスで使えるんだからマイクロソフトにとっては大勝利です。マイクロソフト自身がBing Mapsに不信任票を投じて引退を決めたと見ることもできます。だとすれば少なくともアップルからは1本とったことになります。

同様にノキアのWindows Phone携帯が売りにしてきたノキアの技術(カメラ技術、Windows Phoneアプリ)も、より広範なWindows Phoneワールドに組み込まれることになりそうですね。その点については発表がなかったので想像ですが。

ノキアが売る携帯1台につきマイクロソフトに入るソフトウェア使用料はたったの10ドルだったことも丸々買収に踏み切ったもうひとつの要因と考えられます。

マイクロソフト次期CEOの本命はイーロップ氏?

今回の買収のニュースは米時間月曜夜、マイクロソフトのスティーブ・バルマーCEOとノキアのスティーブン・イーロップ(Stephen Elop)CEOふたりの公開書簡というかたちで発表されました。バルマーCEOは買収の状況説明のメールをマイクロソフト全社員に流し、そこに戦略的背景を記した文書(PDF)を添付しています。

イーロップ氏は即日のうちに新端末チームのトップに就任しました。

Windows部門トップを短期務めた後、Xbox OneとSurfaceを担当する端末&スタジオ部門トップに異動となったジュリー・ラーソン=グリーン(Julie Larson-Green)女史は今の事業を終え次第、イーロップ氏のチームに加わります。

つまり、イーロップ氏の方が上? となるとバルマーの「次」もだんだん見えてきましたね。バルマーCEOは端末・サービス部門の舵取りを任せられる人物が決まり次第、来年にも引退する意向を先ごろ明らかにしています。このタイミングでノキアから端末・サービス部門を買い、そのトップという重職にイーロップ氏を据えるということは…氏こそがバルマーCEOの肝入りの次期CEOなのかも。これはWSJも同じ見方。ジュリー・ラーソン=グリーン女史にとってはまさに伏兵出現となります。

で、ノキアには何が残るの?

これが結構興味深いのです。マイクロソフトは「Here」マップもノキアの特許も使えるようになる、とさっき書きましたよね。つまりこのふたつは両部門ともノキアに残るのです。で、このふたつがあれば、まあ会社としては存続できるんですね。地図と特許は当分消えてなくなることもありませんし、Hereはノキアのハードウェア部門から切り離す方がプラスの影響もありますから。残る3つ目はネットワーク機器事業部でして、これがやはり一番面白いところです。

BuzzFeedのジョン・ハーマン(John Herrman)記者が指摘するように、ノキア・ソリューション・ネットワークそれ自体は現在伸びており、変革に出遅れて追いつけないなんてこともありません。前は苦境だったのですが、2011年後半にモバイル・ブロードバンドのインフラの原点に再度フォーカスする方針を固めて持ち直しました。モトローラのワイヤレスネットワーク機器部門も買収し、イラン政府の携帯盗聴スキャンダルに巻き込まれる羽目にもなったりしています。

以上の各分野が今後のノキアの主力。マイクロソフトとの買収交渉はモバイル・ワールド・コングレスの後、水面下で進められてきたようですね。7月はじめにはノキア・シーメンス・ネットワークス(Nokia Siemens Network)のシーメンスの持ち株を全部買って完全子会社化し、8月にはノキア・シーメンス・ネットワークス(Nokia Siemens Networks)に改名。現在はイラン国内モバイルブロードバンド網構築支援をはじめ様々な契約を確保しているんですよ。

まだ他に何かある?

ミクロで見た場合、ノキア&マイクロソフト携帯のデザインがこの先どうなるかは気になるところです。ノキアのエンジニアチームからは大勢マイクロソフトに移転となりますが、デザインチームからどれぐらい異動になるのかははっきりわかっていません。ここ数年、ノキアのアイデンティティーの中核的役割りを果たしてきたLumiaのデザインのエートス。これがマイクロソフト独自のデザインセンスにどう組み込まれていくのか? LumiaはWindows Phoneとしては最高でも、Surfaceと並べると浮いてしまわないのか? その辺をどうするかですよね。

でも一番重要な問題は、それを解決したところで今の状況になんか違いが出るの?というところかもしれません。Windows Phoneで最高のハード提携先を70億ドルで買って、それで携帯・ソフトウェア・エクスペリエンスに変化が出るのか? それはまだ何とも言えませんよね。ノキアの携帯はWindows 8の全般的なエクスペリエンスに合わせて作られていますが、Surfaceでタブレットとラップトップを統合したのと同じような大がかりな開発を携帯でまたやるとも考えにくいし…。

ひとつハッキリしてるのは今後も美しい新モデルのWindows Phoneが数ヶ月おきに出続けること。でも仮に変化と言ってもそれぐらいで、マイクロソフトがこれまでやってきたことと同じことの焼き直しに甘んじるとするなら、誰が携帯つくったところで変わり映えしない、ということになっちゃいます。それでなくても苦戦を強いられているマイクロソフト。延命で終わってしまうかどうかは、今後のお手並み拝見ですね。

RIP、ノキアのリングトーン。一生忘れないよ。

↑一番耳障りな音をテストしてる中から生まれたという誕生秘話WSJが紹介してます…

KYLE WAGNER(原文/satomi)