なぜマイクロソフトはノキアを買収したのか?

なぜマイクロソフトはノキアを買収したのか? 1

マイクロソフトがフィンランドのノキアから携帯事業を72億ドル(約7162億円)で買収する驚きのニュース。表面上は無謀に思えても深読みすると…やっぱり無謀だわ…いや、そこをなんとかバルマーCEOになったつもりで説明を試みてみたいと思います。

まずはマイクロソフトが買収で得るものを書き出してみましょう。

マイクロソフトが得るもの

・ノキアのスマートフォン・携帯事業(製造・アセンブリ事業込み)

・ノキア社員(デザインチーム、営業・事業チーム、スティーヴン・イーロップのチーム)

・特許の使用権(全部ではない)

・ノキアの「HERE」の地図テクノロジー(HERE部門そのものはノキア残留)

・サウナ(ノキア本社にもある。悪くない。決して悪くないんだが…要らない)

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便宜上の結婚

牛乳をタダで絞れるご時世になぜ牛を買うのか?  ノキアにしてみればマイクロソフトはさしずめ豊穣の神みたいなものです。

ノキアとマイクロソフトの戦略提携は最初から事業統合に近いものでした。ノキアは他のプラットフォームに携帯を一切作らずマイクロソフト一筋。マイクロソフトと他のWindows Phone 8パートナーとの関係は心停止状態となりました。結婚しないで同棲していたようなものですね。なぜ今頃になって婚姻届けなのか?

戦略背景の説明資料(PDF)には、ノキア携帯をインハウスにすれば「Windows Phoneの将来が守れる」とあります。つまり社内でハードウェアを製造できるんだからマイクロソフトが続く限りWindows Phoneも続く、と。ここまで読むと、なんとなく全体図が見えてきますよね。

ノキアのスマートフォンの最終四半期売上高は前年同期比24%減でした(PDF)。ノキアが強いとされるダムフォン(最低機能の携帯)ですら39%下がって、ノキアの各部門は売上・利益ともに全部軒並み前年比2桁ダウン。もう命綱なしでは沈むところまできていました。そこで救命胴衣を投げたのがマイクロソフトというわけです。

マイクロソフトは黙ってノキアに既に何億ドルもの投資援助を行っています。Windows Phoneをノキアが1台売るたびにマイクロソフトに入ってくるお金は現状たったの10ドルです。インハウスにすれば取り分はずっと多くなります。

ダムフォン利用者を手中に収める

要するにマイクロソフトはWindows Phoneの生き残りを図るためにはノキアも生かしておかきゃならなかった、ところがノキアが傾いたので自社に匿うのが一番との判断に至った、と。そう考えると納得ですが、そこはマイクロソフトのこと、そんな守りだけじゃなくて、もっと他に何かあるはずだって思ってしまいますよね。戦略的に見てもこの説明だけじゃ物足りない…。

NYタイムズが指摘してるように、世界にはダムフォン利用者がまだ何億人もいてノキア持ってる人の割合いも高いので、将来その人たちがスマートフォンに機種替えする時にWindows Phoneに移行してもらえるよう、今から備えているのかもしれません。遠過ぎる未来って気もしますが…。

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最もヒマな説「単なる節税対策」

これは金融サビーな人々の間で囁かれてる夢も希望もない説。マイクロソフトが海外に貯め込んだ現金保有高は現在600億ドル(約6兆円)。そのうち72億ドル(約7162億円)がっぽり減らせば大いなる節税対策になるというんですね。そういえばノキア買収は全額現金払いだったりする…。まあ、こういうのは大型買収のたびに出るお約束なんで、気にしない気にしない。

買収に彩りを添える登場人物

大型買収というと顔のない役員が一斉挙手してる役員会決議を想像してしまいますが、買収の影にはちゃんと生身の人間がいます。最注目はこの人たち!

ノキアのデザインチーム

Lumiaは美しい携帯です。優れたデザイン性を備え、堅牢なトップビルドの携帯です。売れ行きこそイマイチですが、それはマイクロソフトのSurfaceだって人のこと言えませんからね。彼らならマイクロソフトの携帯第1弾としてプッシュして恥ずかしくないもの造ってくれることは間違いなしです。

スティーヴン・イーロップ(Stephen Elop)

マイクロソフトのトップ経営陣として長年勤続した後、ノキアに異動したイーロップ氏がノキアの御旗を抱えて帰ってきました。奇しくもマイクロソフトは新CEO探しの真っ只中。まるでその時がくるのを待って古巣に戻したかのようです。買収発表段階でノキアCEOを辞め、マイクロソフトのデバイス&サービス部門VPにカナダのアクセント付きで就任しました(早速株式投資家は反発…)。

スティーブ・バルマー(Steve Ballmer)

この大型発表の1週間半前には引退表明したバルマー。ノキア買収は役員みんなの決議ですけど、やはりなんというかキャラ的に「退任直前にメキシコ合併を発表するオバマ」的な楽しさが。

みなさまへの影響

それだけわかれば充分という多忙なみなさまのために、場合分けでどうぞ。

Windows Phone携帯持ってる人でアプリ不足が不満な人:あんまり状況は変わらないでしょう。デベロッパーはWPユーザーが少ないので開発には及び腰です。この買収で減ることはあっても増えることはないような…。

Windows Phone携帯これから買う人:機種は減る覚悟で。マイクロソフトを除けばWP製造で提携してるのはサムソンとHTCぐらいなんですが、この統合で今の「サポートする」という生返事が「サポートしない」に変わるのは時間の問題かも。

「グーグルはモトローラ買収してからも他のOEMとAndroid製造で提携してるじゃん」―その通りですが、あれはしょうがないからそうしてるだけ。Androidは無視しようにもできないほど市場シェアがありますからね。

Windows Phone携帯は眼中にない人:現状維持。

以上です。ノキアは生きるために自殺を図り、マイクロソフトはよくわからないものに倍賭けの大博打を張り、やっとライブタイルに慣れたユーザーは選択肢が減る不安に駆られている―というのが72億ドル(約7162億円)の買収で僕が受けた第一印象です。

BRIAN BARRETT(原文/satomi)