きのこ雲が見えたら初動は30分が勝負。核攻撃で放射性降下物を避ける方法をLLNLに聞いてみた

きのこ雲が見えたら初動は30分が勝負。核攻撃で放射性降下物を避ける方法をLLNLに聞いてみた 1

今この瞬間、自分の街に原爆が落ちてきたら、どこに、どれぐらいの時間避難すれば、放射性降下物の後遺症は最小限に食い止められるのか? ローレンス・リバモア国立研究所の大気科学者マイケル・ディロン(Michael Dillon)氏に伺ってみました。

氏は今月これをテーマに英学術専門誌「英国王立協会紀要(Proceedings of the Royal Society A)」に論文を掲載して話題の人。

化学事故、伝染病、核降下物など空気汚染災害時の政府緊急対応の研究一筋で、今回発表したのは既存の核降下物の研究多数を丹念に当たって、市街の核爆発の様々な要素を考慮してまとめた避難プラン。国から地方自治体まで幅広く採用してもらえれば、と考えています。

このプラン最大の特徴は、風向きや爆発規模といった情報から遮断される可能性の高い私やあなたのような一般人でも参考にできることです。「市内に原爆が落ちた」という認識だけでもこのプラン通り動けば被害は最小限にできます。

冷戦時の全面核戦争は非現実的

本題に移るその前にディロン氏が真っ先に断ってきたのは、「まだ理論上のプランに過ぎないからね」ということです。まさか小型核爆弾を現実の街に落として様子を見るわけにもいきませんからね。氏は「ありがたいことに、そういうことは滅多に起こらないんですよ」とも語っていました。

冷戦時の全面核戦争の脅威は去ったものの、テロの脅威は相変わらず残ってます。避難計画は不可欠だし、核攻撃に対する認識もパラダイムの転換が必要です。

現代人の思い描く核攻撃のシナリオは今も冷戦時代のまんまで、数メガトン級の原爆が至るところで爆発して都市焼失、人が大量に死んで、何百km圏内に死の灰が降って、世界が終わる…という『ターミネーター』みたいな認識で止まっていることが多いんですが、今日の国際状況でそんなシナリオが起こる確率は非常に低いんです。起こるとすればそれは0.1~10キロトンの小型核爆弾になる確率が高い。広島(15キロトン)、長崎(広島の1.5倍)よりずっと小さくて、冷戦時代の兵器に比べたらそれこそ無限小です。

「被害規模でいうと、ハリケーン・カトリーナに近い。都市には生き残る力も残ってる。これはその想定に基いて組んだプランです」(ディロン氏)

以下のチャートは、氏が想定した原爆と冷戦時代の原爆の差を被害範囲で示したものです。被害が一番ひどいのはピンクの領域(psi:重量ポンド毎平方インチ。爆発威力を圧力で示した単位)。ピンクの破線の内側の人は重度のやけどを負うリスクがあり、破線の外側の人は放射線被ばく、やけど、その他爆発によるけがの危険があります。最も重要な点は、今の核の脅威は被ばくリスクのある半径がずっと狭いこと。1キロトンの核弾頭だと爆心から2kmまでなんですね。冷戦時代の10メガトンの核弾頭は40km先まで被ばくが及ぶものでしたが。

つまり今きのこ雲が見えても、おそらく全員即死するとは限らない。市街が元通り復興することも十分考えられるのです。

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出典:Student Guide to Federal Nuclear Detonation Response Planning

爆発後の初動:30分で遮蔽物の陰に避難

さて本題。原爆が投下され、最初の爆発で負傷を免れたら、次に考えるのは「死の灰(放射性降下物)をどう避けるか」です。

と言っても冷戦時代ではないので「専用の核シェルターがなくても必要十分な保護は確保できる」とディロン氏。要は「シェルター代わりに使える建物がどんなもので、使えない建物がどんなものか知っておくだけでいい」んです。

緊急時対応要員の間では核シェルターの効き目を「PF」という単位で段階評価しています(FEMAの解説はこちら)。が、近所の建物に片っ端からPF値がデカデカ書かれてるわけじゃないですよね? つまり爆発後最初の30分で「必要十分なシェルター」がどれか自分で見極めなきゃならないのだと言うんですね。

その「必要十分」条件とは何か? 氏はこうアドバイスしています。

とにかく自分と爆弾との間になるべく大量の質量と物質を置くことだよ。爆心から距離を確保するのもいいが、重量を確保するんだ。重いもの、コンクリート、本の山、土の山――そういうものでいい。地下に行けるなら、そこに逃げる。探したいのはコンクリートの屋根、壁。大きな建物のずっと奥に逃げこむだけでもいい。地下は定番の避難場所だ。

む~なるほど。日本に地下アーケードが多いのは、こういうニュアンスもあるんだろか…。日本の総務省がまとめた「核兵器攻撃時の国民の保護に関する基本指針(pdf)」とも完全一致です。

早速、自分の街のことを少し考えてみましょう。自宅や職場から一番近い「必要十分なシェルター」はどこかな? 地下鉄の駅? コンクリートの壁に本がぎっしり並んでる図書館? 地下室? テナントが多くて仕切りの壁が何重にもある大型ビル? 

ディロン氏は移動は爆発後30分以内に済ませなければならない、と警告していますよ。(論文では「5分以内で移動できるなら外がどんな状況であろうと即刻そこに移動すべきだ」と書いてます)。30分過ぎると体にいろいろ変調が出てきますからね。ただしいくら急ぎでも車はだめ。渋滞で一歩も動けなくなるので。移動は徒歩か自転車にしましょう。

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避難場所で半日~丸1日待機

遮蔽物の中に避難したら、次に考えるのは、「どれぐらい待ったら外に出て安全なのか」です。

映画の世界では数分待機しただけで人探しに外へ出ちゃったり、生き残った人類が何百年も地下で暮らしたり、あり得ないシナリオのオンパレードですが、現実はそのどれとも違う、とディロン氏は話してます。

一番いいのは救助隊到着まで待つこと。小型核爆弾で爆発半径が1マイル(1.6km)程度だとすると、国家機能が麻痺するほどの打撃はないので、そのうち救助隊がきます。

誰も来なかったらどうするか? 氏は「自分なら12~24時間待ってから外に出る」そうです。でもやっぱり「救助隊を待つ方が、脱出ルートも教えてくれるのでいい」と話してます。シェルターから出て爆心に向かったんじゃ、目も当てられませんからね。

死の灰はどのように起こるのか?

この「12~24時間」というアドバイスを最初聞いたときは「エエ!?」って感じでした。「そんな、1日も待たないで外に出て大丈夫なの?」と思ったんですが、そうなんですって。

一番怖い初期放射性降下物は、重みに耐えかねて爆発後数時間以内に降ってくる放射性物質。これは風向きと濃度にもよりますが、爆心のかなり近い範囲に降るんですね。

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「爆発後、数時間に渡って降るこの巨大粒子が最も危険で最も放射線レベルも高い。浴びたその場で体に不調が現れるのはこれが原因だ」 (ディロン氏)

初期放射性降下物による放射線病は、がんみたいなもので、被曝してから発症までに何年もかかる場合もあるのだそうです。シェルターに隠れても将来くるがんまでは避けられないかもしれないけど、少なくとも被ばくしたその場で即死という事態は避けることができます。

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因みに放射性降下物(死の灰)はどこにでも飛んでいって、なんにでも入り込む魔法の物質…ではありません。「高放射性粒子で汚染される物理的なエリアというものがあるので、シェルターから出たらまずそのエリアから出ることだ」(氏)。そこで力を発揮するのが救急隊です。そういうホットゾーンを避ける方法、どこまで逃げたら安全かも、救助隊が教えてくれるはずなので。

もちろん放射性降下物の中には、もっと軽くて空中に長く留まる粒子もあります。が、 こうした粒子は放射線病の症状がその場で出るというものでもありませんからね(初動ではこれを避けることを第一に考えること)。

あとディロン氏が言ってたのは、初期放射性降下物は危険なんだけど「減衰もはやい」ということです。これまた総務省資料p.3「7の法則」にある通りなのですが、「危険ゾーンはみるみる狭まってゆく」ので、爆発の1時間後より「24時間後に外に出た方が格段に安全」なんだそうですよ。

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映画も小説もハリケーン・カトリーナ規模の核爆弾を題材として扱ったものはなくて、あるのは1959年の『渚にて(On the Beach)』(第三次大戦の核戦争で北半球が全滅する話)みたいな描写だけ。みんな「核攻撃=世界の終わり」で思考停止するようにしつけられているだけ。でも実際には過酷ながらもサバイブできる状況だったりするわけで、もっとポスト冷戦時代の現実に則した作品も欲しいところですね。

とりあえず暇な時にでも家の周辺と市内を見回して現実に使える避難ルート、シェルターを考えておきましょう。いつも前を通りかかるたびに「だせぇなぁ」って思ってる分厚いコンクリート壁のビルで命拾い…なーんてことが将来あるかもしれませんよ?

論文全文はこちら(英文)でぜひ。

図版は特記されているものを除き、すべて米国家保安職員向け発行物「Planning Guidance for Response to a Nuclear Detonation(核爆発対応計画指針)」収蔵のものです。

ANNALEE NEWITZ(原文12/satomi)