英建築家ユニットFATが20年間の活動に終止符

英建築家ユニットFATが20年間の活動に終止符 1

一時代の終わり。

過去20年もの間、憎いほど素敵な建造物を生み出してきたイギリスの建築家ユニット「FAT」がその活動に終止符を打つことを発表しました。FATをご存じの方もそうでない方も、一緒に彼らの足跡を振り返ってみましょう。

FATはFashion Architecture Taste(ファッション、建築、テイスト)の頭文字。1990年代初頭にイギリスで3人の建築家(ショーン・グリフィス氏、チャールズ・ホランド氏、サム・ジェイコブ氏)が起ち上げました。当時は不況の真っただ中。FATの存在は言ってみるなら冗談みたいなものでしかありませんでした。あるインタビューにてジェイコブ氏いわく「当時のイギリスにあって、若い建築家としてやっていこうなんて途方もないことだったね。そんなやつ誰もいなかったよ」

ただ、そんな冗談みたいな存在だったからこそ、当時のメインストリームに抗する建築を自由に追求することができました。例えば、子供用と親用の生活空間を完全に分離した『Anti-Oedipal House(アンチ・エディプスコンプレックス・ハウス)』や、オランダのハーグにある屋根の上に小さなお城が乗っかった守衛詰所(時間になるとお城から煙が出たり明かりが灯ったり!)といったプロジェクトにFATらしさが光ります。

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グリフィス氏の自邸である『Blue House(ブルー・ハウス)』もFATらしい建物。木で覆われた家の装飾はまるで子供が書いた絵みたい。そして建物の正面を見ると、そのフロアの用途が分かるようになっています。上の階はホーム・オフィスなので、工場っぽいたくさんの窓で、住居部分の下の階は屋根と庇のシルエットで表現されています。

FATの冗談みたいなプロジェクトの数々は、次第に学生や批評家たちの間でカルト的な存在になっていきます。大きな建築に限らず、小さなアートプロジェクトもありました。例えば、有名なヘラクレスの顔を椅子にした『Soft Hercules(ソフト・ヘラクレス)』

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インスタレーションもありました。昨年のヴェネチア・ビエンナーレでは、『The Museum of Copying(模倣の博物館)』という名前のプロジェクトで同時代の建築家たちをからかっています。FATのメッセージはとてもシンプル。「デザインにオリジナリティなどというものは存在しない。あらゆるものがなにかの反復であるとすれば、建築に盗作というものは存在しない」

これを実証するため、世界でもっとも模倣されているルネサンス期の建物、アンドレーア・パッラーディオのヴィラ・アルメリコ・カプラをヴェネチア・ビエンナーレの会場に再現し、その中を建築における模倣の歴史でいっぱいにしたのです。

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盗作はFATにとって常にテーマの1つでありつづけました。アナクロニズム、〇〇派、△△スタイル、さまざまな美学、さまざまな論争…FATはすべてごちゃまぜにして表現してきました。例えばBBCのカーディフ支社。バロック様式の装飾とユニコード・シンボルを組み合わせています。

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2008年のプロジェクトであるロッテルダムの市民センター。

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ロンドンのベーカリーPeyton & Byrne。FATがデザインしたショップの白い壁は地下鉄の駅のタイルでできています。この白いタイルとピスタチオ色の漆喰について、ホランド氏は当時こう言っています。「まるでフォンダンクリームの中に浸っているみたいな感じ」

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FATの一番大きなプロジェクトはロンドンのイズリントンにある建物。正面を煉瓦で覆い、さかさまのアーチや雲などスーパーグラフィックな装飾を施した23戸の住宅です。

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FATの最後のプロジェクトとなるのは、2014年のヴェネチア・ビエンナーレにおけるプロジェクトと、グレイソン・ペリー氏とコラボしてイギリスの田舎にデザインした風変わりな家の2つ。

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FATのプロジェクトはどれも、建築とはかくあるべしという概念の対極に位置しており、たくさんの物議を醸してきました。まさにそれこそが彼らの意図でもあったわけですけどね。先日の活動停止発表でも、コラボレーターや友人にだけでなく、ガーディアン紙でFATのプロジェクトを批判した人たちにもお礼を述べるFATなのでした。

先日、Gawkerでトム・スコッカ氏が発表した記事に触発され、「真実を暴こうとする批評 vs 偽善的・お世辞的なコメント」について、ニューヨーカー誌ニューヨーク・タイムス紙といったメディアまでが賑わっていますが、この一連の論争は建築界の状況と非常によく似ていると思います。

きらびやかで現実にはありえないような完成見取り図。FATのチャールズ・ホランド氏の言葉を借りるなら「リスクなし、イノベーションなし、クオリティなし」の凡庸な建物をごまかすようなきらびやかなデザインは、「お世辞」と同等ではないでしょうか。一方FATのような建築は、うまく取り繕われた真実をあばき、建築家と言う職業の決してきれいごとだけではない現実を明らかにするという点で、真実を追求する「批評」と言えるでしょう。

過去20年間、建築業界はあらゆる種類の「お世辞」であふれていました。使われることよりも写真に撮られることを優先した建物。どうしようもないプロジェクトを建設したデザイナーに関する批評とも言えないような批評。有名建築家になることへの執着。そんな状況に異議を唱える数少ない声の1つがFATでした。彼らの辛辣さとこぎみよいウィットは、建築とフォトショップは決して同義ではないと思い出させてくれたものです。

FATとしての活動は終了しますが、3人はそれぞれ今後も建築、アート、執筆、教育の分野で活動していく予定です。

Images via FAT and Phaidon.

KELSEY CAMPBELL-DOLLAGHAN(原文/mana yamaguchi)