四面楚歌のウェブよ、誕生25周年おめでとう(動画)

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ワールドワイドウェブ誕生から25年。

ウェブは、コンピュータや携帯やタブレットなんかのファイルをハイパーリンクでつなげてインターネットで参照可能にしたシステム。このインターネット上の情報管理システムの提案をイギリスのコンピュータ科学者ティム・バーナーズ=リー氏が発表したのが1989年3月12日のことでした。

氏はその中で、情報をグラフィカルなかたちで表示してネットワーク全体で共有できたらインターネットはもっと便利になる、と明記しています。

インターネット自体はその何十年も前からあったんですが、インターフェイスらしいインターフェイスがなく、利用者は主に科学者に限られていました。この提案書は欧州原子核研究機構(CERN)に氏が宛てたものですが、そこからウェブは一研究所の枠を超え、地球人類を巻き込む壮大な成長を遂げていったのであります。

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ティム・バーナーズ=リー氏の提案書現物(via CERN)

ウェブ≠インターネット

因みに、ワールドワイドウェブとインターネットは別物です。ウェブは単に、繋がり合ったコンピュータの巨大な集合体(これがインターネット)をナビゲートしやすくしただけのもの。Motherboardのうまい喩えを引用しますと…インターネットが海なら、ウェブは海をゆく人を乗せた船・ボート・潜水艦、という位置づけになります。ウェブサイトやウェブページに行くときは読んで字の如くウェブを使いますが、アプリやスカイプ電話を使う時やクライアントでメールを受信するときはインターネットを使ってる、っていう違いがあります。

サービス開始から25年、ウェブは今も健在です。まあ、問題もありますけどね。これについては4年近く前にワイヤードにクリス・アンダーソン編集長が「The Web Is Deadウェブは死んだ」というセンセーショナルな見出しで書いてますけど、ウェブはドットコムバブル前後の活況はあったものの、近年ますますP2Pプロトコルとして不人気になってきており、アプリに押され気味なんですね。事実、あの記事が出た当時でもう既にアプリがインターネットの全トラフィックの3分の1前後を占める、という状況でした。

従って、もっと正確に言うなら…ワールドワイドウェブは今の時代に取り残されつつある、今の企業はウェブなんか眼中になくて、データ(と広告)を直にユーザーの目ん玉に送り届ける方に熱心だ、ということになりますかね。アンダーソン編集長は当時こう書いてます。

この動きを牽引しているのは、主にモバイルコンピューティングのiPhoneモデルの台頭だ。[…]今はますます多くの消費者がそちらの世界を選んでいる。それもウェブの枠組みが受け入れられないからとかではなく、専用プラットフォームの方が単に使い勝手もいいし自分たちのライフスタイルにフィットするからだ。[…]企業も金儲けはそちらの(クローズドな)プラットフォームの方がやり易いので当分この傾向は収まりそうもない。製作側も消費側も以下の1点において見方は一致している。「ウェブはもはやデジタル革命の集大成ではない」のだ。

今読むと少し古いところもありますが、この観察は正鵠を射ていると思います。考えてもみてくださいよ。ネット関連のことで最近ウェブページ行かないと済まない用事って、どれぐらいありますか? 逆にアプリやクライアントで済ませてしまえる用事は? 僕自身、ウェブ対インターネットで60対40ぐらいってところですもんね…。

企業も、ユーザーにはウェブではなくアプリを使ってもらいたがってます。その方が最適化したエクスペリエンス(と収益モデル)が提供できるからです。最適化したエクスペリエンスはいいんだが、それには代償も伴う、というわけですね。

フリーでオープンなウェブのフォーマットから企業が邪道に逸脱できる今のこの状況は、ネットワーク全体の権力のダイナミクスを狂わすものであり、また、政府の規制(有料で企業に特別待遇を付与する…などの)に扉を開いてしまうものでもあります。要するに…ネットの中立性が今、大変な危機に晒されているのです。

これを誰よりも強く認識しているのが、ウェブの父ティム・バーナーズ=リー氏です。先日、氏はインターネットにも「世界憲法―権利章典」を制定しよう、と呼びかけました(日本語関連記事)が、こうした問題を未然に防ぐこともその目的のひとつ。氏は英紙ザ・ガーディアンにこう語っています。

バックドアで何が起こってるか心配しないで利用できるオープンで中立なインターネットがないところに、オープンな政府も、良い民主主義も、良い医療も、コミュニティの連携も、文化の多様性も、実現できるわけがない。実現できると思うこと自体はナイーブ(考えが甘い)でもなんでもないが、ただ指をくわえて眺めてるだけでそういうものが手に入ると思うのは考えが甘い。

えーと…もうわかってると思いますが…ここで氏が言ってる「オープンで中立なインターネット」というのは、サービスを使うユーザー全員に利用規約に同意を強制できる営利目的の民間企業がぶいぶい幅を効かせて独占するインターネット…とは反対の意味ですからね。

グーグルを例にとると、グーグルはウェブにかなりの部分を依存しています。ウェブなしで存在するグーグルなんて想像もできません。しかしそのグーグルだって、みんながChromeやモバイルアプリのエコシステムの中で暮らして、グーグル公認広告だけ表示するグーグル公認サービスだけ使ってくれたらそれに越したことないんじゃないでしょうか? そういうせめぎ合いが今起こっているのです。

でもワールドワイドウェブさん、大丈夫、企業のことなんて心配しなくていいからね。ティム卿とウェブどっぷりの人たちは君の素晴らしさがよくわかってる。君がいつまでも今の君のままでいられるように闘ってくれるからね。

Adam Clark Estes(原文/satomi)