Apple Payを阻むもの、それは小売業者の欲望

Apple Payを阻むもの、それは小売業者の欲望 1

並みいる大手リアル企業が、アップルの敵に。

Apple Payのローンチは、スマートフォンひとつで何でも買える未来に向けた大きなステップだと思われました。でも小売業の巨人たち、ウォルマートや家電量販店のベストバイ、ドラッグストアのCVSなどは、そんな夢を全部ぶち壊して、代わりに全然使えないものを僕らに使わせようとしています。彼らにとっては、消費者なんかどうでもいいんです。

先週末、ドラッグストアのRite-AidとCVSでいきなり(そして意味ありげに)Apple Payが使えなくなりました。その後すぐに、彼らがNFCの設定を意図的に無効にしていたことがわかりました。本質的に、Apple Payは単に既存のNFC決済スキームの新しいフレーヴァーに過ぎません。Google Walletを筆頭に、その手のものは今まで何年も存在してきました。でも今になって、それが攻撃されているんです。

顧客の支払手段の選択肢を増やすのでなく減らしてしまうばかりか、これからNFC決済を大きく広げる可能性のあるシステムから離脱するなんて、大手小売業の判断としては異常です。未来が開けたというのに、小売業者は後ろ向きになろうとしているんです。何なんでしょうか?

パワープレイ

Rite-AidとCVSのそんな動きが週末のニュースで取り沙汰されましたが、彼らは「Merchant Customer Exchange」(MCX)とよばれる団体の一部に過ぎません。その団体はウォルマートとかベストバイ、ホームセンターのLowe'sといった、まだその図体の重さで自滅していないリアル大企業の集まりです。

彼らを結びつけるものは、自分が時代遅れではないかという恐怖の他に何があるんでしょうか? たとえば、毎日何百万と処理するクレジットカードの手数料を回避するスキームです。そのため、彼らは独自のCurrentCというシステムを作ってApple Payや他のNFC技術を回避したいのです。ちなみにCurrentCはまだ立ち上がっていませんが、消費者のことをまったく考えない不便な代物です。

Apple PayもGoogle Walletも、NFCでクレジットカードでの支払いを簡単にしています。つまりみんなの生活は良くなりますが、一方でウォルマートなど小売業側にはマスターカードとかに払う手数料が発生します。一方CurrentCは、QRコードを使って顧客に銀行口座からの直接支払いをさせようとしています。QRコードですよ。何十億ドルと稼いでいる企業が、各取引にかかる数セントを削り取るために、顧客の生活を複雑にしようとしているんです。

CurrentCの描く「未来」は、こんなんです。

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TechCrunchには未発表のCurrentCの内幕について詳細が記されていて、まるでホラーストーリーです。CurrentCを使うには、まず銀行口座をアプリとつながなくちゃいけないんです。小売大手・ターゲットの個人情報流出でお店にクレジットカード番号を保存されるのが心配な人でも、銀行口座をアプリに入れるのは平気なはず…ってことでしょうか?

さらに支払いのときは、ユーザーは電話をアンロックして、CurrentCアプリを開き、QRコードスキャナを開いて、レジのスクリーン上のQRコードをスキャンしなくちゃいけません。それがもしうまく機能しない場合は、数字のコードを手入力するように指示されます。なんという便利さ。

CurrentCの支払い方法がそこまで後ろ向きなのは、それを作っている人たちにとって顧客なんかどうでもいいからです。たしかにCurrentCは、たとえばロイヤルティカードを支払いプロセスの中に入れたり、いくつか便利な機能も載せようとしています。でもだからって、そんな使い勝手の悪さの言い訳にはなりません。Apple Payか、Google Walletか、他のNFCを使った決済手段か、またはCurrentCかと聞かれれば、みんな必ずApple PayなどNFCの方を選ぶはずです。ベストバイのCEOとかなら違うかもしれませんが。

だからMCXはNFCという選択肢をみんなから奪ったんです。彼らの内部文書がSlashgearにリークされ、Rite-AidがNFCをブロックしたのは、Apple PayがCurrentCを殺す前にその首を戦略的に締めてやるという意図だと確認できました。彼らの従業員は、Apple Payで支払いができないことを顧客に謝罪するとともに、CurrentCを紹介するように指示されてさえいました。

この汚いやり方は、Rite-Aidだけじゃありません。MCX加盟企業はすでに排他的契約にサインしているという報告もあります。小売業者たちはその魂をCurrentCに永遠に売ってしまったかもしれず、あとはMCXが加盟企業の契約遂行を見守るだけなのかもしれません。たとえばCVSは、「現在Apple PayなどのNFC決済を受け付けられず、他の方法を検討中」とする声明も出しています。さて、他の方法って何でしょうか?

戦いの始まり

Apple Payは、その出来が良いからこそ恐れられています。チャンスがあるからです。Google Walletや他のモバイル決済システムはそこまで普及しなかったので、MCXは大して目を付けていませんでした。でもApple Payは、それ自身だけじゃなくNFCすべてを広めていくための最後のひと押しです。MCX側は、それをわかっているんです。

もちろん、MCXに加盟する企業が自前のシステムを作っちゃいけないという意味ではありません。競争が起こるのはすごく良いことです。でも彼らがCurrentCとApple Payを並べたくないのは、Apple Payが大差で勝つとわかっているからです。というか、CurrentCと既存のクレジットカードを比べた場合でさえ、みんなクレジットカードの方を選ぶはずです。

これはユーザーにとって全然優しくない動きです。MCXは、より多くのお金を搾り取るためなら、顧客が彼らにお金を渡す気を削いでもいいと思っているかのようです。

Apple Payや他のNFC決済が締め出されて不便になるのは我々ユーザーです。我々は決済手段の未来の最先端にいるのに、小売業者はやる気もなければ譲歩する気もない、いやそれ以下です。彼らは自分たちの利益をちょっとでも増やすために、この数年の進歩を巻き戻そうとしています。これまでずっとこの技術が使えるのを待っていた僕らは、やっとそれが実現したっていうのに、企業の欲望に邪魔をされているんです。そんな理由で過去にとらわれてしまうなんて、全然納得いきません。

image by Tara Jacoby

source: TechCrunch, Slashgear

Eric Limer - Gizmodo US[原文

(miho)