ハリウッドの頭脳を「拡張」する3Dプリンタ。パシフィック・リムなどの製作エンジニアが語るその可能性

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クリス・アンダーソンによって定義された「メイカーズムーヴメント」。

3Dプリンティング技術や、そういった類のテクノロジーの進化には目を見張るものがあるものの、もう真新しさはなくなってきたように感じます。というのも、今は、実際にテクノロジーを、どのように実世界に落としこむか、あくまでツールとして使い、何を生み出すのか。そんなフェーズに来ているような気がします。

映画プロダクションシーンの最先端「ハリウッド」においても、3Dプリンティング技術を取り入れた製作が行われています。アメリカの3Dプリンタメーカー「ストラタシス」が東京でシンポジウムを開催した際に、3Dプリンティングを使い「パシフィック・リム」「ターミネーター4」、「2012」、「アバター」、「アイアンマン」などの映画製作を手がけたスタジオ「Legacy Effects」から、リードシステムエンジニアであるJason Lopes氏に話を伺う機会をいただきました。

最先端の映画製作現場において、3Dプリンティングという「ツール」がどのように取り入れられているのか話を聞いてきました。

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Legacy Effectsのリードシステムエンジニア、Jason Lopes氏

── 今日はどうぞ宜しくお願いします。まず、初めてストラタシスの3Dプリンタを導入した際に、映画のディレクターやコスチュームデザイナーはどういった反応をしめしましたか?

Jason Lopes(以下Jason)宜しくね。今でもその時のことをすごく覚えているよ。彼らは目を見開いていたね。今までは夕方5時に仕事が終わって家に帰って、次の日また仕事に行く。スタジオにいないときは製作作業を中断する必要があった。完全にね。でも今なら、例えば夜の11時にデータやファイルを受け取ったとする。そうするとすぐに準備に取り掛かれるよね。僕たちの時間は限られているんだ。製作というものが根底から覆された気分だったね。

── ということは、スタジオではいつも複数のプリンタがフル稼働している感じですか?

Jasonそうだね。ストラタシス製のマシーンが8台あって、いろいろなオプションに対応できるよう、複数のマテリアルを簡単にスイッチングできるような仕組みを作ってある。それぞれのプリンタは違う部屋に設置されていて、僕は別のコントロールルームみたいなところに座っているんだ。

鍵となるポイントは、僕たちはアーティストでもあり、テクニシャンでもあるということ。例えば、テクノロジーのことをよく理解できていないアーティストはいっぱいいるよね。システムがクラッシュしたらアーティストは何もできなくなり、流れが完全に止まってしまう。

僕たちはハイブリッドであることから、常にフローを円滑にまわすことができるんだ。テクノロジーを取り込みさらに理解する、ということがいかに大事か、日々感じているよ。

中には、JPL(ジェット推進研究所)で働いているメンバーもいるんだけど、そんなリソースがチームにいるって想像できないでしょ? でもそうやってチームはまわってるんだ。一人一人がバラバラで作業するんじゃなくて、全員が一つになってプロジェクトを進めていく。Legacy Effectsはそんな感じかな。

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── 映画製作において、典型的な3Dプリンティング技術の使い方ってどんな感じですか?

Jason映画によって違うし、プロダクションによってももちろん変わってくる。実際にコスチュームをつくることもあれば、一旦アイデアレヴェルのものを出力し、そこから全員でブレインストーミングしていくこともある。

まぁ、それはさておき、僕たちはまず、コンセプトに沿ったアイデアを元に、スモールスケールのものを出力するんだ。時間もそんなにかからないしね。それで製作チームに見せる。アイデアジェネレーターって感じかな。プロトタイプみたいなものでもあるね。まず実際にプリントアウトすることで、モニターからは見ることができなかった部分が表現される。まぁモニター上でも頑張ればできるんだけど、レンダリングの問題があったりと、実際にアウトプットして実世界に落とし込んだ方が話が早い。そうすることでさらに新しいアイデアが生まれやすくなるんだ。

その後、新しくアイデアが出れば、どんどん採用していくし、そのままGoサインが出ればフルスケール出力に移る。例えばさ、クリエイティヴディレクターやエグゼクティヴプロデューサーとかから、まだ構想段階、もしくは何も決まっていない映画の、キャラクターやヴィークルのアイデアをアウトプットしてほしいと電話があったとするよね。で、実際に出力したモデルで遊んでみる。そして、ストーリーのアイデアを膨らましていく、そんな使い方もできるんだ。今まで、何も決まっていない段階でこんなブレインストーミングができたかい?

ガワだけでなく、細かなギミックまで。

Jason僕たちは、Legacy Effectsが作るものに対してすごいこだわりをもっている。当たり前だよね。その時に出来うる最高のものを作るし、あるべきレヴェルまで必ず持っていく。

なんと舞台セットまで3Dプリンタが活躍しているようです。

── 今ハリウッドでどれぐらい3Dプリンティングが使われていますか? あと、今後どれぐらいハリウッドで3Dプリンティングが大きくなっていくと思います?

Jasonもうこのシーンは十分大きいね。僕らが始める前からも存在してた。例えば、J・J・エイブラムスも使っていたり。本当にいろんなところで使われているけど、それが大きな「偉業」にはまだなっていない。でも僕たちは、マテリアルを徹底的に研究することで、3Dプリンティング技術を「モノ」の内側、外側、両方で使うことができる。今後もどんどん大きくなっていくと思うよ。コスプレシーンもあるしね。

考えてみてよ。iMacぐらいの値段でコスチュームとか、頭の中にあるアイデアを実世界にアウトプットできるんだよ? 特に若い世代には無限のアイデアがある。これが大きくならないわけがないよね。

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── さて、今まで3Dプリンティングのテクノロジーについて伺ってきたわけですが、かつてハリウッドにおいて、そういったテクノロジーって完全に別の世界のモノだったと思います。今そういうテクノロジー産業とハリウッドのフィルムメイキング産業ってどれぐらい近くなっているのでしょう?

Jasonテクノロジーが僕たちのデイリーライフにどれぐらい近づいているか考えてみてよ(笑)。

なんというか、エクステンション的な存在かな。3Dプリンタとか、こういうテクノロジーって、人の可能性をエクステンション、つまり拡張するものだよね。頭の中にあるイメージやアイデアがこういったテクノロジーを使って実世界に「拡張(プリントアウト)」されるっていうか。

── ハリウッドって、そういう新しいテクノロジーに対して寛容な体質なんですか?

Jasonそうだね。そもそもハリウッドはテクノロジーを知ってる。子持ちの連中は特にね。彼らって結構稼いでるからさ(笑)、その子どもらはとにかくテクノロジーが詰まった最先端のガジェットを持ってるんだよね。そんな子どもたちから新しい情報やアイデアを入手して、仕事場に行くわけ。そこでさらにアイデアが一つ上のステップに昇華されていくんだ。

もう一つ。ちなみに今回の東京滞在ででいっぱいインタヴュー受けたけど、こんな話が出てきたのは君たちギズモードが初めてだよ(笑)!

日本もそうだと思うけど、いろんな学校が、「うちはデジタルモデリングの授業に力をいれてます」、みたいな広告を出しているよね。そこの生徒はもちろんデジタルモデルをつくれるわけ。クールなんだけど、それ以上のものはない。だってスクリーンは2Dだし、というかそもそも物理的なモデリングを彼らは知らないから。

3Dプリンティング技術って、失敗や、改善点がヴィジュアライズされるから、次へのステップに簡単に進みやすい。より上のレヴェルのモデラーを育てていけるんだ。物理的な世界でモデリングできる人は、なんだってモデリングできるんだよ。

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ギズモードのファンだというJason Lopes氏。ステッカーを渡すとすごく喜んでくれました。

── 最後の質問なのですが、3Dプリンティングは置いておいて(すみません!)、他にいまイノヴェイティヴって感じるものはありますか?

Jasonそうきたか(笑)。

ちょうど最近同じ質問を自分にもしていたんだけど、アイデアを得るプロセスそのものが、現代のイノヴェーションだと思うね。これはできる、これは無理かな、みたいなもの、要するに、リミットがもう存在しないと思うんだ。10年前にアイデアレヴェルで止まっていたもの、また失敗に終わったものが、今は形にできる。さらに明日には、その形から別のアイデアが生まれるかもしれない。これって本当にイノヴェーションだと思う。

3Dプリンティング技術ばかりに目がいってしまいがちだけど(もちろんすごい技術なんだけどね)、3Dプリンティング技術を得た人々が、よりクリエイティヴになれる、新しい何かを切り拓いていく、というところに僕たちはエキサイトしているんだと思う。

僕たちの業界では特にそうじゃない? 世界が不況だとしても、人は映画を観に行くでしょ。Legacy Effectsは常に進化していかないと、その時々のニーズにあわせていけないよね。

── いやLegacy Effectsがいい映画をつくってくれるから人は映画を観るんだと思いますよ。いつもありがとう!

Jasonどういたしまして(笑)!

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冒頭でも触れましたが、ハリウッドにおける3Dプリンティング技術は、新しいもので、とにかくみんながその話をしている、どんどん利用シーンが広がっている、というわけではなく、あくまでツールとしてまるで昔からあった存在のように製作現場に根付いているようでした。

Jason氏のインタヴュー後、ストラタシス社が密かに狙っていることを教えてもらったのですが、それは日本で数カ所メイカーセンターをつくり彼らのマシーンを設置、そこでハッカソンを敢行し、2020年の東京オリンピックの公式キャラクターを決めるということ。まだアイデアベースだけど、絶対やってみせる、と興奮した様子で教えてくれました。

3Dプリンタはあくまでツール。そこからいかにクリエイティヴになれるか、世界の最先端の現場では、人が今まで以上のクリエイティヴィティを発揮していました。

image by Japan Photography, Legacy Effects

source: Legacy Effects, Stratasys

(河原田長臣)