伝記「スティーブ・ジョブズ」著者が描くテクノロジー史「The Innovators」

イノヴェーションの歴史を俯瞰。

伝記『スティーブ・ジョブズ』でよく知られるウォルター・アイザックソン氏が、新著『The Innovators』を発表しました。19世紀前半から現在まで続くデジタルなテクノロジーの歴史とともに、イノヴェーションがどう起こったかを振り返る内容のようです。米GizmodoのMatt Novak記者がさっそく読んでレヴューしています。

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「The Innovators」は、イノヴェーターと彼らが作ったものについて書かれた本だと思っても仕方ありません。そう思わせるタイトルなので。でも実際この本は、誰が「現代のハイテク社会を作った」という称号に値するかを検証する内容です。そういう意味で、これは2014年で1番がっかりな本です。

来年飛行機に乗ったら、機内では少なくとも3人の人がこの本を読んでいることでしょう。そういうものです。「How Group of Hackers, Geniuses, and Geeks Created the Digital Revolution(直訳:ハッカー、天才、ギークの集団がいかにデジタル革命を作り出したか)」という副題のついたこの書籍は、メジャーなノンフィクションの中でも大ヒットとなるでしょう。ベストセラーになるべくデザインされ、販売されていますし、それにふさわしい理由もたくさんあります。

この本では正しい問いかけと、重要な命題が提示されています。特に「未来とはコラボレーションと成功の積み重ね、組織的な力で作られるものであって、よく思われているように1人の天才がガレージで作りあげるものではない」というあたりです。でも最近のテクノロジーの歴史をある程度知っている人にとってはちょっと物足りない部分もあります。この本を読んでも、テクノロジーの歴史の多くが白人男性(ほとんどはずっと前に死んでいる)の間の醜い争いと、マシンやソフトウェア、プロトコルの発明に関する権利主張だらけだったんだと再認識するばかりです。

アイザックソン氏は多分、2011年の伝記「スティーブ・ジョブズ」で1番よく知られていて、ストーリーテラーとしても非常に優れています。でも「The Innovators」は、過去10年をアルバート・アインシュタインやベンジャミン・フランクリン、ヘンリー・キッシンジャー、そしてスティーブ・ジョブズといった歴史上の「偉人」を称える本を書くことに費やしてきたことへの半端な懺悔のようにも読めます。アイザックソン氏は、これまで天才たちの目を通して我々の進歩への理解を深めてきたのに、この本は彼に否定的な歴史家に対する謝罪文書のようにすら感じられます。

「The Innovators」の各章は、それだけでも1冊の本に値します。そして実際、それぞれの章は何らかの形で本になっています。たとえば第7章「The Internet」は、Katie Hafnerの「Where Wizards Stay Up Late:The Ofigins of the Internet」のようなもっと包括的な本を読んだ人にとって新しい情報はありません。他の章も同様で、深掘りしたければもっと深く書かれた書籍がすでにあります

でも、アイザックソン氏はここで新たな情報を共有するつもりではありません。考え方としては、彼は読者に一歩引いて、過去200年ほどをより俯瞰的に理解してほしいということのようです。そして、多くの人がそうしてみたいと思うはずです。

イノヴェーションの歴史は、数千という人や組織が、それぞれの知見をそれぞれの世代のテクノロジーに捧げた結果として理解されるべきです。スティーブ・ジョブズみたいな人物が週末にガレージにこもって、突如完成したiPhoneを持ってやってきた…と思い込みたくても、発明はそんな風にできません。その手のストーリーは小学校とかポピュラーなWebコミックとかで語られがちですが、大人は世界をそういう風に理解すべきではありません。

このアイザックソン氏の書籍の最大の問題は、彼がその両方のストーリーを描こうとしているということかもしれません。彼は「オレが最初だ!」「いやオレだ!」という醜い争いを描くことでごちゃごちゃした歴史の現実を浮き彫りにしつつも、結局どのイノヴェーションは誰のものかに関して強い主張を持っているんです。アイザックソン氏は、自分が醜い争いより一段高いところにいるように見せているのですが、実際は地上に自分の立場を持っているんです。あちこちにちりばめられすぎたアルバート・アインシュタインやベンジャミン・フランクリンの発言録も気になります。

たとえば「The Computer」と題された第2章では、ジョン・モークリーとジョン・ヴィンセント・アタナソフの話があります。短く言うと、ビッグ・ガイのモークリーと負け犬のアタナソフが最初の電気式デジタルコンピュータを作った人物の座をめぐって激しく争った話です。モークリーは1941年にアタナソフの元を4日間訪問し、多くのアイデアを借りているはずなのですが、今一般的にコンピュータの発明者と思われているのはアタナソフでなくモークリーのほうです。でもアイザックソン氏の描くストーリーを読むと、モークリーのほうが歴史に名を残すに値するという印象が残ります。これまた死んだ白人男性の遺産をめぐる争いか…とうんざりしてきます。

「The Innovators」は包括的に書こうとされているので、偉人論大好きな親戚のおじさんへのクリスマスギフトとしては完ぺきです。そういう、トーマス・エジソンが電球を発明したと信じて疑わないとか、エイダ・ラブレスなんて文字通り聞いたことがないっていうおじさん、いますよね。この本は明らかにこの種の読者向けに研究され、書かれ、売られています。それ自体は良いんです。でもこの記事を読んでいる人なら、広く浅くではなく、特定の時代やテクノロジーについてもっと深く知りたいかもしれません。

アイザックソン氏の命題をもっとタイト(かつ手頃)なパッケージで手に入れたい人は、スコット・バーカン氏の2010年の本「The Myths of Innovation」はたった10ドル(約1,080円、日本のアマゾンでもKindle版が同程度の価格)です。またはギズモードみたいなテクノロジーブログやWebサイトなら、無料です。伝記好きなおじさんなら、最初の300ページを飛ばしてビル・ゲイツとグーグルのパートに行ったほうがいいかもしれません。キルビー対ノイスのマイクロチップ特許争いについて読んでも、あまり面白くありません。1999年の映画「バトル・オブ・シリコンバレー」、またはアイザックソン氏の「スティーブ・ジョブズ」のほうがおじさん好みかもしれません。

僕は「The Innovators」が好きでもあり嫌いでもあり、複雑な感覚です。近代社会の中でのイノヴェーションの起こり方を理解する上で、重要な著述だとは思います。でもその種の本はこれまでにもあります。このテクノロジーの歴史というレンズを通してみると、そこがまさにポイントです。この種の本は、もうあるんです。

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以上Novak記者でした。「スティーブ・ジョブズ」のように登場人物に密着した、ディテールたっぷりの内容を期待するとがっかりするということでしょうか。コンピュータの歴史を広く浅く振り返るための本、として読むと、また違う印象になるのかもしれません。

Matt Novak - Gizmodo US[原文

(miho)