そしてハリウッドサインまでの行き方は順路検索から消えた

LA名物ハリウッドサイン。

LAXに飛行機で高度を下げていくときにも見えるし、101号線からも50km先からでも見えるんだけど、あの麓まで行きたいと思ってもまともな順路は絶対検索できないって知ってました?

止めたのは住民です。

あの8文字に押し寄せてくる観光客と、ニセの通行規制の標識まで出して締め出す住民。この背後にはハリウッド住民vs.ハリウッド観光客の熾烈な戦いがあったのです。

ハリウッドサインまでの行き方

ハリウッドサインは米国最大の都市公園・グリフィスパークを東西に走るサンタモニカ丘陵、そこに属する小高い山「リー山(Mt. Lee)」にあります。文字に座るのは厳禁ですが、山自体は一般の人も登れるので、文字の裏手から全市を一望することは可能です(下の写真は私が撮ったもの)。

一番いいのは直近のビーチウッドキャニオンから入山するルートですね。看板は1923年にハリウッドランドの住宅開発地のPRのためにたてられたんですが、その元祖ハリウッドランドの本拠がここです。ルートはキツいけど、メンテは割としっかりしてる山道です。

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看板裏側から見下ろす市内。2009年「The Big Parade」の山歩きで撮影

私がちょうど13年前にLAに越してきて最初に住んだのが、ブロンソンキャニオン(このもうひとつ先の谷)でした。家の前の道から看板はかなりよく見えるので、週末になると観光客がよく「H-O-L-L-Y-W-O-O-D」を背に今でいうセルフィー撮ってましたよ。近所をぷらぷら歩いて公園に登っていくと、必ず最低でも1台の車に看板までの道順を訊かれたものです。

しかしなんせ看板は公園の中なので車で入ることはできません。そう答えると、みんな途端にガッカリした顔になってましたね。

しかも看板まで行くには山道を延々歩かなきゃならなくて、仮に到達しても看板は裏からしか見れないので、たぶんここから眺めるのが一番ですよ(ラクだし)、と続けると、話を最後まで聞かないでブーッと走り去る人もよくいました。ヤマ勘で走れば看板の下まで行けるからもういいよって感じで。

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こんなに近い。なのに遠いハリウッドサイン。Photo by Seng Phomphanh

でもね。あの看板って闇雲に走っても茫洋として永久に辿り着けないんですよ。麓のハリウッドヒルズでは何の変哲もない行き止まりの道で記念写真撮ってる観光客が沢山います。「ハリウッドヒルズ」という紛らわしい地名、くねくね道のお陰で、よくハリウッドヒルズがあの山だと思って迷い込む観光客が多いんです。看板の本当の地元住民にとっては最高の避雷針ですね。

そんなこんなで5年ぐらい前までは混雑も安定してたんですが、その均衡を崩したのが携帯とGPSです。順路検索を使えばアクセスゲートまで一直線ですもんね。そこに車停めて、狭い住宅街を通り抜けていく人がドッと増えて、住宅街は大渋滞!

夏は乾燥して山火事リスクもあるっていうのに、路駐の車が多過ぎて、緊急出動の消防車も入れなくなってしまったのです。

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Google Mapsで見ると、ハリウッドサインの立地は、ビーチウッドキャニオンの北の山道とばっちりわかる(住民にとっては憂鬱の種)

住民は市の行政に泣き付きました。で、次に泣きついたのが地元選出のTom LaBonge市議です。LaBonge市議は、看板まで山歩きする定例ハイキングのリーダーとして地元では有名な人。市議は熟考の末、ある突拍子もないアイディアを思いつきます。「看板の公式のGPS座標(緯度経度)を変えれば観光客から永久に隠せるんじゃ? ちょっと掛け合ってみるわ」ということになったのです。

そしてハリウッドサインの行き方は消えた

2011年を迎える頃には住民の観光客締め出しにも遠慮がなくなってゆきます。路肩を赤ペンキで塗って路駐禁止に見せかけたり(違法)、通り抜け禁止の標識を張り出したり(違法)。ハリウッドサインみたいな白文字で空き地に「TOURISTS GO AWAY(観光客くるな)」って書くアートも登場します。でも観光客はみんな一見さん。後から後から押し寄せてきます。

混んでるのは私もよく知ってたので、これはまずいなーと思って、ブログに「ハリウッドサインを見る一番の方法」という記事を出したのもその頃です。記事では、ビーチウッドキャニオンのつづら折りの道を運転していくのは一番のルートではないということを書き、近くの公園なら看板もよく見えるし、そこに車を停めて歩いていけるよって紹介したんです。

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あれから3年経ちますが、今でも「ハリウッドサインを見る一番の方法」を検索すると、このブログ記事が上に出てきます。で、ブログで情報公開してくれてありがとう、というお礼のメールも数週間に1回ぐらいの割合いで届きます。看板で撮った記念写真と一緒に。

たかが順路で大げさな気もしますけど、Google Mapsで検索してみると理由はわかると思います。そうなんですよ、順路を検索しても全然近くに行けないんです。

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Google Mapsで付近を検索すると、看板の正確な立地はきちんと出てきます(さすがに座標軸は変わっていない)。でも運転の順路を検索した途端に、遥か彼方のグリフィス天文台までの行き方が出てくるんです! 天文台は1920年代建造の美建築で、場所は看板のあるリー山の東隣の山です。グリフィス天文台からリー山のハリウッドサインまではグレイの点々で結んでるだけ。こんな点々、Google Mapsでは見たことないです。徒歩で順路調べても結果は同じ。

そりゃグリフィス天文台から歩いて行けないこともありませんけど、ルートは結構複雑です。これでは歩こうにも、点々見るだけで戦意喪失ですよね。

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上図は、ブログで紹介した公園から徒歩で行くルートをGoogle Mapsで検索してみたところです。こっちはいよいよ狂ってますよ。ハリウッドサインの反対方向に1時間37分歩いて、やっぱりグリフィス天文台にからハリウッドサイン見ろって出てくるんです。

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これはグリフィス天文台からハリウッドサインまでの順路検索結果

検索方法を変えてもダメ。Google MapsもApple MapsもBingも全部答えはおんなじです。グリフィス天文台に行け。そんでもってグレイの破線の方角を眺めろ。でも間違っても看板まで歩こうなんて思うな、という結果しか出てこないのです。

いや、グリフィス天文台から見るハリウッドサインが悪いと言ってるんじゃないですよ。ものすごく綺麗です。観光客に説明するならこっちの方がずっと簡単ですよね。ただ、ひと握りのアンジェレノス(LA地元民)にブースカ言われたぐらいで地図作成会社が主要ルート書き換えるなんてこと、本当にあるんでしょうか?

ハリウッドサイン・トラスト、グーグル、ガーミンからの回答

どうしてこうなったのか? さっそく看板の保護・管理を行う非営利団体「ハリウッドサイン・トラスト」のBetsy Isroelitさんに伺ってみました。

すると、確かに最初は看板をオンラインで完全に「隠してしまう」方向で動いていたのだけど、それは不可能という結論に至ったのだそうですよ? 「一時はグーグルにお願いして住所は削除してもらっていたんですが、他の場所(市役所や市議会のサイト)に沢山出ているため、また元通り掲載されるようになりました」(Isroelitさん)

しょうがないのでLaBonge市議が出した代案が順路変更です。市議はグーグルやGPS大手のガーミンと緊密に連携し、看板までの順路を変える方向で説得に成功したのです。

ガーミンのCarly Hysellさんからは「2012年春リリースのマップから変更しました」という確認がとれました。グーグルのGina Sciglianoさんからは「看板の所在地はそのままですが、運転の順路は2014年11月に変更し、LedgewoodとMulholland Hwyの交差点に代わってグリフィス天文台に誘導するようになりました」 という回答をいただきました。

「名所リストからは看板の所在地は削除され、看板本体の代わりに『看板が見える名所』が追加された」(ガーミンのHysellさん)のだそうな。このハリウッドサインが見える2大名所のひとつがグリフィス天文台なんですね。残りひとつは看板から4マイル(6.4km)離れたハリウッド大通りにあるハリウッド&ハイランドです。

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ハリウッド&ハイランドから見たハリウッドサイン。観光客はみんな見物の名所だと思ってるから文句言わないだけで心の中ではショボいと思ってるはず。Photo via Hollywood Sign Trust

ハリウッドサイン見物にイスタンブールから遥々来て、こんなショッピングモール(ハリウッド&ハイランド)に案内されたら、凹むよね…。

ハリウッドサイン・トラストの公式サイトにもこの2つの見物ポイントは載ってます。が、Isroelitさんのお話によると、看板本体の所在地は曖昧なままにしておきたいというのがハリウッドサイン・トラストの公式な立ち位置なんだそうですよ? 従ってトラストの公式サイトには正確な住所は出ていません。代わりに「なぜ看板まで山歩きしてはいけないのか」という理由の説明に1ページまるまる割いてます。「近隣エリアに路駐禁止ということは、かなりはっきり主張しています」、「無論、うちは土地の所有者でもないし、市の公道を規制する権限もないんですけどね」(Isroelitさん)

外からくる観光客や市民をいじめる地元民にもそんなことする権限はないんですけどね。道路、トレイル、公営駐車場を使う権利は観光客や市民にも等しくあります。

ところが私のところに「ハリウッドサインの正確な場所と行き方を個人ブログに書いたのはけしからん」と苦情を言ってくる地元住民もいるんです。

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グーグル・ストリートビューで見たハリウッドサイン。ここでは住所は6084 Mulholland Hwyとなっている

住民から苦情がくる

苦情のメールが届いたのは先週です。公園の住所とトレイルの入り口をブログから削除しないと法的手段に訴えると脅す内容です(どちらも看板の所在地でも住宅街の中でもないのに)。地図をつくることがどう違法行為になるのだろう、と考えてる間にも8件立て続けにメールが届きました。私のブログのせいでこんなことになってるって違法駐車の写真を添付して。

数時間後に別の住民からもこんなメールがきました。

「安全」で「楽しい」ウォーキングなんてとんでもない。あなたがブログで案内してるのは死のトラップだ。

ここには大量の車を受け入れるインフラもない。 駐車場所もない。市のパークレンジャーの見回りもない。トイレも、 水道も、 歩道もない。ハリウッドサインまで歩くのは「あってはならないこと」なのに、こんな一触即発の状況を加速してなんのつもりなのだ。

メールにはボヤと消火栓破裂の写真が添付されてました。どっちも私の記事が原因らしいです。車に犬が轢き殺されたということも書かれていました。たぶん私の記事が悪いんでしょう。

こんなメールで驚いてちゃいけませんよ。今年、看板の地元ビーチウッドキャニオンの住民は署名運動を起こして市に働きかけ、看板までの公道のトレイルから観光客を締め出すことに成功し、トレイルに高いフェンスをたてて警備員を雇ってしまったんですよ。3月からトレイルは閉鎖されたままになってます。それじゃなくてもLAは公園が少ないのに。国内最大級の都市公園に入る一番人気のルートのひとつに観光客はおろか住民も近寄れなくなってしまったのです。

LaBonge市議の回答

念のためLaBonge市議に取材してみたら、「自分の仕事は環境と安全の懸念に対処することだ」という点を強調し、「渓谷の環境に影響があることなので我々はそれを解消しようとしているのだ」と話していました。ただ、通行止めや駐車の規制は特に設けていなくて、「山には常時アクセスできるようにしておくことが極めて重要だ」とのこと。今(修理という名目で)閉鎖されてるトレイルもすぐ元通り開通するだろうと話してました。

市議が今考えている次の対処策は、ハリウッドから看板到達ルート入り口までシャトルバスを発着させて車を減らす、というものです。

オンラインの表示規制を行政が行うのはとても難しいものだ、とも話していました。地図作成会社が国民の安全のために国境線や政府の建物の衛星写真をぼやかしたりするのはよくあることですが、LAのど真ん中の公用地の表示を操作するのはどうかなーという不安もあります。

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看板ルート入り口に5月現れたOn The Roadによるインスタレーション。ハリウッドサインが解体されたかのように見せかけてる

ガーミンのHysellさんによると、同社の地図製作者は社員が車で運転して得たデータ以外のデータも考慮しているのだそうです。「市役所や郡の人、米運輸省のウェブサイトなどからも定期的に情報を仕入れて、当然それに応じて地図は更新・調整しています」、「ユーザーからの報告も受付けており、事実に基づく価値ある情報と判断すれば変更を加えています」(Hysellさん)

ハリウッドサインの地元はLA屈指の高級住宅街です。ここに家を買う人は看板があることぐらい百も承知だと思うのです。窓開ければ看板が目と鼻の先にあるんだから。なのにそこに家を買って、オンラインの地図を操作してまで観光客を締め出しにかかるとは。デジタル地図の未来は暗いですね。

ゲーテッドコミュニティもそこまできたのか、って思ってしまいました。

もちろん同じことがよそでも起きるとは限りません。ハリウッドサインのケースは例外中の例外だということは、Hysellさんも認めてました。が、1個例外が認められたら1個で終わる保証はどこにもありませんよね?

オンライン住宅物件情報のZillowに働きかけて「変な人が近所に引っ越してくると困るので、○○な人には近所の物件を表示しないでくれ」と情報操作を依頼する家主とかもいそうだし。行き着けのレストランに変な客がこないよう、住所を隠してくれってYelpに働きかける富裕層もいそうだし。キリがないですよ。

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これもグーグル・ストリートビューの1枚

LA名物の看板。その周りにデジタルのウォールを張り巡らす団体。観光客に地形情報を偽るテクノロジー企業。正確な情報を出すブロガーを叩く自警の住民。「NIMBY」(Not In My Back Yardの略。開発に反対する地元住民を皮肉ってこう呼ぶ)の名のもとに2重、3重の検閲がかかっている気がしますよ。

お金と影響力のある住民が怒ると地図会社もタジタジですね。地図で順路検索できなくて、ブログ(日本語はこことかこことかここ)の案内が頼りだなんて。万人に見えるのに手が届かないお宝の地図を紙に描いて回すようなアナログ感があります。ともあれマップの表記が正常に戻るまでしばらくはこの私がご案内しますよ

Top art by Michael Hession

Alissa Walker - Gizmodo US[原文

(satomi)