テイラー・スウィフトのSpotify撤退は普通のビジネス判断

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でもSpotifyがフェアじゃないとか、そういう問題じゃない。

先週テイラー・スウィフトが作品をSpotifyから削除し、さらに「Spotifyは壮大な実験で、アーティストの努力を公正にまかなえない」と批判コメントも発表しました。なんだかSpotifyがフェアじゃなくて、ビジネススキームとしても成り立っていないという批判のように聞こえます。でも実際、彼女の判断の根拠はそんな高尚なところにはなく、Spotifyがフェアかどうかとか成り立つかどうかは全然関係ないんです。

スウィフト側とSpotifyのやりとりは、Spotifyからアーティストに対して実際どれだけお金が払われてるかという点にフォーカスしています。そもそもスウィフトのコメントがこういうものなので、それは当然の流れだと言えます。いわく、「私は自分の人生をかけた仕事を、作曲家やプロデューサー、アーティスト、クリエイターの努力を公正にまかなうと思えない実験に捧げるつもりはありません。」つまりストリーミングサービスは、まったくお金を稼げない仕組みなんでしょうか? スウィフトの言葉はそれを大声で示唆しています。

そういう、ストリーミング音楽サービスが成り立つのかというビジネスモデルの話は大事ではありますが、そのビジネスモデルが成り立とうが成り立つまいが、今の彼女には全然影響してきません。彼女がSpotifyから引き揚げたのは、ただの賢明で退屈なビジネス判断です。だって彼女のアルバム「1989」は、たった1週間で128万枚も売り上げたんです。もし彼女がSpotifyに曲を出さなければ、さらなるユーザーがストリーミングでなくアルバムを買って、彼女はますますお金を稼げるんです。それは彼女がテイラー・スウィフトだから有効な判断だったんです。

今週発売のBloomberg Businessweekのトップ記事で、スウィフトの所属するレコードレーベルのオーナー、スコット・ボルチェッタ氏がスウィフトがSpotifyから抜けた真の動機を語っています。

我々は誰かに反対しているわけではありませんが、新しいビジネスモデルに対する責任もありません」とボルチェッタ氏。「そのビジネスモデルが機能するなら、それは素晴らしいことです。でも、我々自身のビジネスに損害を与えることでそれを実現させるわけにはいきません。それがSpotifyなのです。」

テイラー・スウィフトにとってSpotifyを利用する価値がないのは、彼女がポピュラーであり、みんなが彼女のニューアルバムをこぞって買うからです。だからSpotifyに作品を載せないほうがたくさん稼げるっていうまったく合理的な判断が働いたんです。非常にシンプルです。

とはいえ、スウィフトのSpotifyに関するコメントがそういう商魂たくましさを隠すための計算高いウソだと言いたいわけではありません。ただ彼女の判断とか、その裏側の数字とかは、世界でもっとも人気のあるエンターテイナーのひとりである彼女にしかあてはまらないってことです。彼女にはSpotifyが与えられる以上のお金が必要なんです。でも、ほとんどの人にとってはそうではありません。彼女にとっては古い仕組みがまだ有効に機能していて、だから「実験」に参加する必要がないんです。

テイラー・スウィフトとSpotifyに関する議論は、Spotifyが誰にとっても良い仕組みであることを暗黙の前提としています。でも実際はそうじゃありません。Spotifyが20億ドル(約2,300億円)をロイヤリティで支払っているといっても、ほとんどのアーティストはそこからまとまったお金をもらえません。Spotifyもストリーミング音楽サービス全般も、少なくとも今はもうからないビジネスなんです。

主要レコードレーベルが何年も待たせたあげくようやくSpotifyに参加するようになったのは、彼らにはそうするしかもうなかったからです。音楽を盗むのがあまりに簡単になってしまって売上が落ち込み、レコード産業は10年前よりさらに死んでいるんです。ストリーミングが新たな主流になったわけでもなく、それは単に沈みゆく船の残骸みたいなもので、何人かが生き残りを賭けて飛びついてるだけなんです。でもテイラー・スウィフトみたいに強力な救命ボートを持ってれば、残骸にすがる理由はありません。

皮肉なのは、テイラー・スウィフトがSpotifyに残っていたとすれば、それはそれで多くの人がうらやむお金を稼いでいただろうってことです。それはSpotifyの基準で見ればものすごい金額でも、テイラー・スウィフトが生み出している山のようなレコード売上に比べれば何でもありません。

つまりそういうことなんです。たくさんの人がテイラー・スウィフトのアルバムを買いに殺到していて、そこからたくさんのお金がテイラー・スウィフトに入っていく、それらはストリーミング音楽サービスとは何の関係もないただの山みたいなものです。その山の意味を考えても、何も得られないでしょう。

Spotifyは、アーティストが本当に稼ぐための未来のスキームではありません。そしておそらく、我々が知っている「レコード産業」は消えていき、成功しているアーティストたちはいろいろな収益源を組み合わせて生活の糧とすることになるでしょう。そのごく一部が、Spotifyなどから得られるロイヤリティ収入になることと思われます。

テイラー・スウィフトは、「クリエイターへの公正な対価」を本当に心から求めていたのかもしれない、というか多分そうなんだと思います。でも彼女は普通のアーティストとは全然違っていて、彼女にあてはまることは、または彼女がSpotifyを去ることで得られるものは、他のアーティストにはあてはまらないんです。そしてスウィフトがレコード売上を最大化するためにした判断を、Spotifyに対する何らかの主張と捉えるのは間違っています。

Mario Aguilar - Gizmodo US[原文

(miho)