宇宙インターネットとは何だ? そして、その競争を制するのは誰?

宇宙インターネットとは何だ? そして、その競争を制するのは誰? 1

宇宙 x インターネット!

先日、グーグルがSpaceXへの10億ドルの投資を発表し、ますます注目を浴びるイーロン・マスク氏の衛星を使った宇宙インターネット事業。クレイジーなアイディアと思いきや、巨額投資もあり、夢のような話が実現へと近づきつつあります。

宇宙への進出は、何もSpaceXだけが考えるものではありません。グーグルがそこに加わったのも驚く話ではありません。実業家リチャード・ブランソン氏のヴァージン・グループとクアルコムもSpaceXと似た宇宙ネットを提案するOneWebへと投資します。

なぜ、誰もが急に宇宙インターネット事業に興味を持ったのか? まず、挙げられるのは、莫大なお金を生み出すであろう事業だからということ。次に、メドも立たない多数のインフラ整備なしで地球上のすべての人にネットを提供するには、もうこの手しかないということ。最近急に耳にすることが増えた気がする宇宙ネットですが、投資家達は今になって急に興味を持ち始めたわけではないのです。アメリカは、もう長い間宇宙インターネットを夢見続けてきたのです。

「宇宙インターネット」と「惑星間インターネット」

まず、初めに宇宙インターネットとは何ぞやという話にふれましょう。最近話題になる「宇宙インターネット」というものと、長年ある「宇宙にインターネットを作る」という構想の違いからハッキリさせましょう。前者の宇宙インターネットは、つまり地球で使うためのネットを衛星ベースでやるサービスのこと。1990年代から民間企業がプロジェクトを推進しており、今話題になっている宇宙インターネット/宇宙ネット/スペースネットは、このことです。

では、後者の宇宙にインターネットを作るとはどういうことかというと、宇宙でも使えるインターネットの話。Interplanetaryインターネット/惑星間インターネット/IPNと呼ばれます。こちらは、宇宙ネットよりも壮大な、NASAも巻き込む話になります。簡単に言うと、地球上でのネット通信のように、簡単に他の惑星ともコミュニケーションをとれるツールのことです。とはいえ、距離や光の速さの問題で、惑星間の通信には数秒から数分の遅れは生じてしまいますけれど。地球上でのコミュニケーションと比べれば、例えば火星の友達とチャットしようと思えば、多少ラグがでるという話。

さて、NASAは研究を続け前進をみせてきました。動画に登場する地球インターネットのパイオニアVint Cerf氏は、惑星間インターネットのアイディア実現に向けて注力した人の1人です。NASAのベテラン職員であり、ジェット推進研究所(JPL)の科学者、宇宙飛行士同士のコミュニケーションとしてインターネットのようなシステム開発を行なっていたAdrian Hooke氏協力のもと、Cerf氏は、90年代後半の実現を向けて計画を練り始めたのです。Wiredは、2000年の記事でこれに触れていました。そこには、このように書かれていました。「太陽系上に十分なハードウェアが整えば、数十年後には、IPNは低価格で広バンド幅を持つ宇宙からの通信手段となる。Cerf氏は、惑星間インターネットのバックボーンを地球のネットに繋げることも考えている。火星の探査機に取り付けられたウェブカムの映像を、ログインして学ぶ学生がでてくるかもしれない。宇宙飛行士が、メールを送り、受け取り、音楽や映画をダウンロードするかもしれない。」

Cerf氏の予想(その内多くはすでに実現されている)をもとに想像すると、確かにいつか宇宙ネットや惑星間ネットが共に実現する日が見えてくるような気がします。実際に、NASAは現在、太陽系にレーザーをザッピングするなどのシステムをテスト中で、惑星間インターネットのバックボーン強化につとめています。

同時に地球では、億万長者の皆さんが地球のインフラに注力しています。地球全体を、衛星(または他の何か)を介して繋ぐという野望は新しいアイディアではなく、多数の賢い人々がすでにここ15年ほど本気で取り組んでいるプロジェクトなのです。それは、偶然か必然か、ドットコムブーム(ネットブーム)の90年代後半からスタートしました。

宇宙ネット事業開拓時代

宇宙ネット構想/建設にあたって、初めは失敗しました。そりゃ、すぐさま壁にぶちあたりました。当時、名乗りをあげたのはIridium CommunicationsGlobalstarの2社。1998年の終わりに、衛星ベースのコミュニケーションネットワークを立ち上げました。が、Iridiumは、その9ヶ月後に破産。Globalstarは、もう少し持ち堪えたものの、2002年初めに破産しました。結局両社ともに、衛星電話ビジネス止まりでした。他にも、SkyBridgeやTeledesicという会社も自社の宇宙ネットを構築しようとしましたが、こちらも失敗に終りました。

宇宙ネット、その夢は莫大な資金をまず準備できないことには不可能だと思われました。例え、巨額な資金が準備でき衛星を打ち上げたとしても、それを運営していくにはこれまた莫大な資金が必要になる…、これは大変なことだ、無理じゃないか、そんな雰囲気が流れました。

そこに現れたのがグレッグ・ワイラー氏です。2007年、彼は中軌道衛星を介して地球全体へ低コストで安定したインターネットの供給を目指す次世代ネットワーク企業O3bを立ち上げました。(O3bは、Other 3 Billionの意味)2008年にニューヨーク・タイムズ紙は「静止衛星からバックホール回線を買えば、そのコストは1ヶ月に、毎メガバイト4000ドルという莫大なものになる」と書いていますが、ワイラー氏が打ち出したのは、同じキャパを500ドル以下で提供できるという計画でした。

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その計画は大志あるものでした。グーグルなど投資者の目を惹くのに十分な大きさの野望だったわけです。2010年までに衛星第1号を打ち上げるという計画に遅れはでましたが、それでもO3bは、2013年にまず最初の衛星4台を、2014年にはさらにもう4つの衛星の打ち上げに成功しました。ハードウェアに問題が発生したこともありましたが、結果ネットワークは2.1Mbpsの速さまで対応可能となりました。(比較:地球のブロードバンド、ダウンロード平均スピードは21.9Mbps)

さて、ワイラー氏は自身が企業した03bには留まらず、2014年グーグルが社内で手がける宇宙ネットプロジェクトに参加するために、2人のメンバーとともにグーグルへとその活動の場を移しました。さらにその後は、ワイラー氏を含む3人ともグーグルを去り、700台もの衛星を起動に乗せようというこれまた大志を抱くWorldVu Satelitesへ移動。ちょうどその頃、ワイラー氏がSpaceXのオフィスに頻繁に顔を出している、そしてイーロン・マスク氏は衛星ベースのネットというアイディアに興味津々だとメディアは報じていました。WorldVu(後のOneWeb)の当時の規模は社員数30人程度でしたが、彼らには大きな強みがありました。それは、かつてSkyBridgeが所有していた衛星周波数帯へのアクセス権です。

さて、あちらこちらと人が移動し複雑に聞こえますが、実際に業界全体が複雑だったわけです。言うなれば、21世紀最初の10年くらいは、衛星ベースのインターネット開拓時代、そりゃごちゃついて当然。今年(2015年)のマスク氏のSpaceXの新投資者発表、リチャード・ブランソン氏のOneWebへの投資発表によって、やっとちょっと落ち着いて、業界全体がシンプルになってきたと言えるのではないでしょうか。

グーグルが投資するSpaceX、そしてブランソン氏のヴァージン・グループが投資するOneWeb。この2社の宇宙ネット事業への対立という形が明らかになってきました。が、ここに名乗りをあげるのは、2社だけではありません。

フェイスブック VS. グーグル

ワイラー氏がより安い衛星をどう作るかに試行錯誤する一方、グーグルはグーグルで取り組んでいることがあります。グーグルの研究開発ラボは、地球上のインターネットのため空を高高度気球で埋めようとするProject Loonを推進中。Project Loonは、宇宙ネットとは異なるものの、そう遠くもない存在。

いや、思っているよりもクレイジーなアイディアなのかもしれません。グーグルは、すでにこの気球計画(最大12マイル先までシグナルを飛ばすことができる)について幾つもトライアルを行なっています。宇宙ネットとは異なるものの、気球を衛星の代わりと考えれば、つまりは同じようなゴールに向っているわけです。中軌道衛星が地上1200マイルから2万2000マイル(約1900キロから3万5000キロ)上空にあるのに対し、グーグルのインターネット用気球は高度6万マイル(約18キロ)、風力で浮遊します。衛星ならば必要数が数百なのに対し、気球ならば数千個。

Project Loonは、完璧なプロジェクトとは言えません。グーグル曰く、気球が提供するネットアクセスは今日の3Gネットワークかそれ以上のスピードがあるといます。とはいえ、地球全体の上空に無数の気球がフワフワ浮いているというのは、なんとも不条理な気がします。例え、飛行機の飛行高度よりも上にその気球があるとしても…。気球は破裂することもあるでしょう、さすればその破片が地面に落ちてくることもあるでしょう。また、そうして提供するのが3Gネットワークレベルのスピードだというのも、正直そんなもんかよ、と。さらにトドメとして、1台の気球が上空に浮遊していられるのは100日程度だというのです。そうすると、メンテナンスはどれだけ大変なことか…。

では、マーク・ザッカーバーグ氏のアイディアはどうでしょう。フェイスクッブのConnectivity Labも、同じくクレイジーな計画を打ち出しています。それは、ドローンと衛星とレーザーを使ってインターネットを提供しようというもの。ソーシャルネットワークのChange.orgの名の下に、地球上のすべての人にインターネットを提供したいというのが、彼らのミッションです。もちろん、グーグルにしろフェイスブックにしろ、今ネット環境が整っていな地域にネット提供すれば、自分とこにさらに莫大な数(30から40億人)のユーザーをもたらせるというのが動機の1つにあるのは間違いないのでしょうが。

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グーグルもフェイスブックも無茶苦茶言ってるなと思いきや、フェイスブックの計画の方が若干現実的です。ザッカーバーグ氏がドローンネット事業を発表した頃、フェイスブックはTitan Aerospaceの6000万ドル買収計画も発表しました。Titan Aerospaceは、世界最長飛行記録を持つドローンの開発元です。全長54フィート(約16.5メートル)のソーラーパワー飛行機は、5年間の飛行が可能で、プログラムされたミッション遂行のため周回します。1台のドローンで6500平方マイル(約1万6800平方キロメートル)ものエリアをカバーでき、これは100個の携帯基地局に匹敵します。なるほど、確かに現実的ですね。

しかし、ここで大どんでん返しが起きました。なんと、ザッカーバーグ氏の発表から数ヶ月後、実際にTitan Aerospaceを買収したのはグーグルだったのです。グーグルは、Titanのドローンをネット事業ではなく、Google Earthプロジェクトに利用しようという考え。買収には失敗したものの、フェイスブックはドローンネットの夢は諦めていません。

イーロン・マスク VS. リチャード・ブランソン

俄然盛り上がりをみせる宇宙ネット競争。昨年はとくに火蓋を切ったような年でした。が、先日のグーグル(SpaceX)とヴァージン・グループ(OneWeb)の投資発表により、イーロン・マスク氏とリチャード・ブランソン氏が、宇宙ネットの二大巨頭というわかりやすい図式が見えてきました。

SpaceXとOneWebは、両社ともに、資金調達が可能であること、宇宙に必要な機材を送ることができることを証明しました。SpaceXは、巨大なデータ量を転送できる腕前を近年みせつけ、数ヶ月前には、カナダ宇宙庁の人工衛星CASSIOPEと共にFalcon 9を軌道にのせました。これによる巨大データのハイスピード転送システムは、低軌道上にのり90分ごとに周回します。データソースから何十ギガバイトというデータを吸い上げ、送信先へと周回しながら送ります。CASSIOPEのデータ送信速度は、なんと2100Mbps。

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CASSIOPEの技術を使いSpaceXがどこまで目指すのか、それはまだ不確かです。マスク氏は、宇宙ネットは地球のネットよりも速くなると豪語しています。Bloomberg Businessweekのインタビューにて、「光の速度は、宇宙の真空空間では40%速くなる」と語り、長距離ネットサービスを人口の少ないエリアに住む人々にも提供できることを優先事項の1つに掲げています。その他、彼は火星のインターネット設備構築も視野にいれており、将来火星に住むならば必要なことという方針を持っています。

一方OneWebはというと、こちらも誰にも劣らない宇宙ネットの経験をすでに持っています。前述した自社のもつ周波数帯のアクセス権です。軌道上にあるネットワークの操作には欠かせません。ブランソン氏はこれが非常に重要だと考えており、「イーロンが対抗するのは無理だろう」と、ウォール・ストリート紙のインタビューにて強気の発言も飛び出しました。「グレッグ(ワイラー氏)が権利を持っており、これ以上にネットワークが入り込む隙間はない。もしイーロンがここに参戦したいなら、論理的に考えて我々とタッグを組む以外ないだろう」と。

宇宙ネットを制するのは誰だ?

さて、宇宙ネット競争はどう進んでいくのでしょう。まだまだ戦いの火蓋は切って落とされたばかりとはいえ、すでにそこそこ煮詰まりつつあります。もし、マスク氏、ブランソン氏、ザッカーバーグ氏など、関係者全員が手をとりあい、未来の宇宙インフラ事業を行なったら…。巨万の富を持つ彼らが提供するコミュニケーションツールがそこにあるのです。

フェイスブックやグーグルにとっての利益は、実にシンプルな話です。宇宙ネットのおかげで、自社サービスのユーザー数が増えますから。これで十分な利益で、それ以上は不必要とも言えるでしょう。すると、ブランソン氏とマスク氏が投資した分は、元をとるには十分、さらにキャプタリズム色を増して行きます。SpaceXもしくはOneWebが宇宙ネットに成功すれば、そこから得られる莫大な利益が2人の懐にはいるわけです。マスク氏は、この利益を資金としていよいよ火星コロニー計画を進めていくでしょう。

宇宙ネット競争に誰が勝利するかはさておき、実現されれば全人類がどこかで恩恵に授かることになるわけです。ならば、ヒートアップする今望むのは、どうか正しい方向にうまいこといきますようにということだけ…。できたら、複数の企業で提携して実現/運営が行なわれればいいのですけれど。全人類が使う宇宙ネットが1社提供というのは、あまりに巨大な力で恐ろしいでしょうから…。

image: Illustration by Tara Jacoby

Adam Clark Estes - Gizmodo US[原文

(そうこ)