なぜグーグルは「YouTube Music Key」でアーティストを強制的に歌わせようとするのか?

なぜグーグルは「YouTube Music Key」でアーティストを強制的に歌わせようとするのか? 1

アーティストへの余計な呪縛と捉えるか、協業関係の選択肢と捉えるか。

チェロ界のロックンローラーZoë Keatingさんは、グーグルが同社の新ストリーミングサービス「YouTube Music Key」に彼女の楽曲の権利を強制的に譲渡させようとしていると主張し、怒りを露わにしています。

もしグーグルに協力しなければKeatingさんはYouTubeの全マネタイズ・オプションを失い、彼女のアカウントもYouTubeでその他大勢と同じ扱いに格下げ。つまり、YouTubeはもう彼女をミュージシャンとして扱わないというのです。

Keatingさんは自身のTumblrに投稿した長文記事で、YouTubeの担当者が彼女に連絡をよこし、今後はYouTube Music Keyの契約にサインする必要があること、もしサインしなければ彼女のYouTubeチャンネルが「ブロック」されることを説明してきたといいます。曰く、現在彼女が所有しているYouTubeアカウントを使い続けるには契約が必要だとか。

  1. 私の楽曲はすべて無料/プレミアム両方の音楽サービスに含まれてしまいます。もし全楽曲を出したくなくても、私がミュージック・パートナーだからという理由で、第三者が私の情報を説明文に入れたものも全部自動的にこの音楽サービスへ組み込まれるのです。
  2. 全ての曲に「マネタイズ」設定がなされ、私の曲には広告が掲載されます。
  3. 新曲のリリース時は、他のどんなサービスにも遅れをとらず同じタイミングでYouTubeに公開するよう要求されています。コアなファンのためにまずBandcampでリリースし、次にiTunesで公開するといったことはもうできなくなります。
  4. 現在はビットレート320kbpsがグーグルの基準ですが、新しい基準に従い全楽曲をハイレゾ音源でアップロードしなくてはなりません。
  5. この契約は5年間継続されます。

Keatingさんの曲はSpotifyにもありますし、大量の曲を自ら放出したりもしています。しかし根本的に、今回の件は彼女にとって「あるストリーミングサービスに参加したいかどうか」という問いではありません。これは選択の問題なんですよね。彼女はなぜ自分がこのシステムに参加しなければならないのか分からず、次のように説明しています。

2015年には、アーティストがこんな過剰な管理を頼んだとでもいうのでしょうか? 一つは、個人が私の全音楽を無料で聴けるようにアップロードすること(困りはしません)。もう一つは、大企業が完全に私への強制を行うこと。参加を勧められたけれど、囲われた後は、今度は自分が求めていないことをやらされそうになっています。

つまり、Keatingさんは今回の件をおとり商法のようなものだと見ているんですね。彼女は自分がアップロードした動画上に掲載される広告からお金が得られるサービスと契約したものの、今度はそれを受け入れ、関係を強制されることを懸念しているというわけです。今回の変更は、あらゆる人をもがき苦しませるに違いない、略奪の香りがしますね。

インディペンデント・レーベルやアーティストたちは、契約を迫るグーグルの強制的なアプローチに反発してきましたし、昨年の夏には僕も「グーグルは圧力を望まないアーティストたちに圧力をかけている」と追及しました。アーティスト側に立ったこの視点、僕も分かります。YouTubeが凄いサービスとして成立した理由は、あらゆる種類のクリエイターが自分の作品を共有できるオープンなプラットフォームだったから。特定の新たな契約を強制することで、YouTubeは初期の魔法を自ら壊していく方向に向かっているんですよね。

一方、「アーティストたちがお金を稼ぐために新たな花道を用意しただけだ」というグーグルの観点から見ると、Keatingさんが新しい条項でこんなに怒ってしまったことには純粋に驚きを隠せないようです。

グーグル広報担当者は、KeatingさんのアカウントがYouTubeから削除されたり動画がブロックされることはないと否定。しかし、もしKeatingさんが自分の音楽をYouTubeでマネタイズしていくのであれば、条項をすべて受け入れる必要があるという発言はしています。なお、ContentIDを使って動画内でKeatingさんの音楽を利用しているユーザーを今後も管理したいという希望があれば許可する、とあわせて言及しています。

非力な人たちに不幸な契約を迫ろうとする大企業とは手を組みたくないというアーティストたちには、僕もたいがい共感をおぼえます。ただ、今回のケースはどうなんだろうな…だんだんグーグルやYouTube側の考え方に傾いてきました。

何百万もの楽曲を配信するホスティングサービスとして、各アーティストと個別契約を締結するような運営をやり切るのは単純に無理があるというだけの話ですよね。しかも、もし僕たちがYouTube音楽プログラムの無料側のアーティストだとして、有料の定額サービスからわざわざ僕たちを抜く意味もないというか。

「グーグルの金を受け取れ」とKeatingさんに強制する人はいません。もし彼女が「受け取る」という道を選んだのであれば、0か1かの契約に不満を言うことはできないはずです。アーティストとしての第三の選択肢が「YouTubeには全く協力しない」だとすると、話を聞いててもなんだかなーって。ほかのアーティストがみんな同じルールでやってるのに、ちょっとフェアじゃないかもしれない。

僕がインディペンデントなアーティストを差し置いてグーグルの側につくなんて、正直、自分でも信じられません。でも、YouTubeという拡散力の高いプラットフォーム上で自分の音楽を公開してお金をもらうのであれば、自分もそれだけの対価を支払うことになりますよね。

Mario Aguilar - Gizmodo US[原文

(Rumi)