ブンブンサテライツインタビュー:奇跡の時間に作られた剥き出しの本質、それを届ける手法

2015.02.04 22:30
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聴いてすぐに分かりました。これは特別な1枚だなと。

ロックとエレクトロニックがフュージョンした世界で、ときに激しく、ときに静かに自らを表現してきたブンブンサテライツ(BOOM BOOM SATELLITES)が本日2月4日にリリースしたニューアルバム「SHINE LIKE A BILLION SUNS」のことです。

中野雅之さんと川島道行さんによって1990年に結成され、日本と世界の音楽ファンを虜にしてきたブンブンサテライツですが、その道のりは決して平坦なものではありませんでした。

川島さんは過去に3度の脳腫瘍を克服しましたが、本作の制作中に4度目を発症していることが明らかになり「余命約2年」を宣言されました。しかし諦めることなく治療法を模索し、臨床実験段階の特殊な放射線治療を受け、腫瘍の拡大を防ぐことに成功したのです。

2人の手に戻ってきた奇跡的な時間

しかし通常の精神状態でいることは難しかったと思われます。2人はこの状況に、いかに対峙し、音と言葉を紡ぎ出したのか?

今作はアルバム制作の最終工程であるマスタリングまでを自ら手掛け、中野さんが日本人アーティストとして初めてMastered for iTunes認定のサウンドエンジニアに選ばれるというトピックもありました。Mastered for iTunesは「アーティストやサウンドエンジニアが思い描いた通りの音質で楽曲を配信する」ためにアップルが用意した取り組み。これにより、2人の音楽に向き合う姿勢や、表現するためのこだわりなどが、より強く伝わってくるのではないでしょうか。

彼らのプライベートスタジオにおじゃまし、そんな特別なアルバム「SHINE LIKE A BILLION SUNS」のこと、語っていただきました。


*  *  *


難しい状況でもファーストプライオリティは音楽だった


ー 2月4日に新作「SHINE LIKE A BILLION SUNS」がリリースされました。川島さんの脳腫瘍手術もあり難しい時期だったと思いますが、制作はどのような形でスタートしたのですか?

中野:前作「EMBRACE」(2013年1月リリース)が出てすぐに川島君が入院し、その間、僕が1人で曲作りを始めました。3度目の脳腫瘍手術ということもあり、退院後に音楽活動が続けられるのかどうかも分かりませんでしたから、それを確認する意味でもトラックを用意しておいて、退院後すぐに歌ってみるというところから本格的に制作が始まりました。

川島:2013年1月の終わりから2月の頭にかけてのことです。退院してすぐのころは、自分ではしっかりしているつもりでしたけど、今振り返ってみると漫然とした状態だったように思います。ただ、もう20年近く2人でやってきているので、僕の状態は中野が一番よく分かってくれている。もし何か気がついたことがあれば知らせてくれるという安心感がありましたし、どんなことがあっても音楽は続けていこうと思っていたのですぐにスタジオに戻ってきました。

中野:制作において最初のモチベーションが音楽自体からくることもあれば、ふと沸いてくる今の自分の人生のようなところからくることもあります。今回はほとんどすべての曲が後者から出来上がっているアルバムで、私小説的な要素が音にもリリックにも色濃く出ています。今までの中でも一番そういうカラーが強いアルバムですね。


収録曲「BLIND BIRD」


ー バンドの存在というものも改めて見直すような機会だったのでしょうか。

中野:そうですね。今回さらに制作の途中で4度目の脳腫瘍が見つかりました。普通ならば生きているかどうかも分からない、ましてミュージシャンとして音楽活動をしているというケースなど聞いたことがありません。

川島君と出会って20年くらい経ちますが、初めは友達からスタートし、プロになってデビューしてレコードが出せた、ちょうどそのころ(1997年)に1度目の脳腫瘍が見つかって手術を経験します。それからずっと僕たちは、バンドを続けていけるのかどうか、なぜやりたいのか、今後どうしていきたいのかなど、お互いに話し合いながら常に考えてきました。


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中野雅之さん(Bass, Programming)


脳腫瘍の発症が3度目、4度目となるとそういった認識もどんどん深まっていきます。音楽人生死生観などを共有していくことになる。なので、自分たちの考えは一概にこうだと言えるようなものではありませんが、ファーストプライオリティは音楽だった。もし次に脳腫瘍が再発したら音楽を続けるのは相当厳しくなると思うので、今やれることを思い切りやろうと。家族とか、大切なものはいろいろあると思いますが。

川島:僕は、家族かバンドかというくらいシンプルな人生を送ってきたので二者択一でした。これまで音楽を続けてきて、より多くの時間を中野と過ごしてきているし、ここで1つの責任を果たし、自分の気持ちを全うするのが自分らしい人生じゃないかと思ったので、あまり迷うことはありませんでした。すでにアルバムを作り始めていたこともあり、とにかくこれを完成させるんだと。

よく「どうやって精神状態を保っているのか」と聞かれるのですが、このスタジオに来て音楽に向き合うことで保たれています。死に対する恐怖が、ふとしたことで落ちる溝みたいなものとして存在するのですが、そこへ落ち込まないように音楽が引っ張ってくれている。このスタジオで過ごすことが、生きるモチベーション、病気と闘うモチベーションになっている。


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川島道行さん(Vocal, Guitar)


中野:ただ、音楽自体には感傷的なものは持ち込まなかった。私小説的ではありますが、真っ直ぐでポジティブなものです。表現には陰と陽があって初めて真実味が出てくるのでネガティブな要素も引き受けます。しかし、不穏な和声や含みを持たせたリリックなどは使わず、聴く人にどこかポジティブなフィーリングを与える音楽でありたかった。その方向性は川島君の状況にかかわらず、ぶれることはなかったです。

ー その軸を保つのもなかなか難しかったのではないですか?

中野:音楽に向き合う集中力はすごく高かったので、それほど強く意識しなくても大丈夫でした。2011年に震災が起きたとき、創作活動を行っている人は、ああいった悲劇にどう向き合い、どう表現に還元すべきか悩んだと思います。これを言ってもいいのか? これを作ってもいいのか? とても難しく、大きなバイアスがかかったと思うんです。そうすると、もの作りにおける軸がぶれ、表現がピュアでなくなり、どこか過剰であったり臆病になったりする。僕たちもその時期を過ごしたので分かります。

ただ今回は、状況が内側で起こったことなので外に向かっていけばいい。音楽自体に過度なプレッシャーがかかることなく一所懸命に取り組めました。


ストーリーの起伏を描くマスタリング


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「SHINE LIKE A BILLION SUNS」通常盤ジャケット


ー アルバムのジャケットや、いくつかの楽曲に用意されたカバーアートと映像にはモチーフとしてが用いられています。この世界観も印象的でした。

中野:コンセプトに共感してもらえたクリエイターたちにカバーアートを作ってもらったり、花が咲いてから枯れていくまでをコマ撮りで撮影してムービーにしたりと、いろいろな取り組みをしました。モチーフに花を選んだのは死生観を表現するためです。これは川島君の話とは切り離したものですが、生を受けたものが必ず終わりを迎えるという、何千年も何万年も淡々と続いてきた摂理を表すアイコンとして選びました。


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収録楽曲に用意された花のカバーアート。現在オフィシャルサイトで見ることができる


ー アルバムの構成からも死生観は強く伝わってきました。曲の並びに意味が感じられ、特に終盤の、ハードさが抑えられ逆回転音が多用されるところなど、引き込まれるものがありました。

中野:そういうストーリーはうまく描けたんじゃないかなと思います。

ー 絵になって見えるようでした。

中野:良い音楽やオーディオ体験はビジュアルを想起させるものだと思います。2本のスピーカー、2つのイヤフォンのダイヤフラムから立体的にものが見えてくる。メロディだけではなく、音そのものに情感があったり、情報があったりします。たった2本のスピーカーでもすごくいろいろな表現ができるんです。僕は、古典的な12音階の中で曲を作ることも、もちろん好きですが、それを音響的に表現するというところにも興味があります。

ー 作曲からミックスダウンまでを含めての制作であると。

中野:もっと言えば、今回はマスタリングまでを含め、ということになります。マスタリングという工程は一般的にはなじみが薄いかもしれませんが、曲を並べ、ばらつきが出ないように音の大きさや太さ、明るさを調整する、制作の最終工程にあたるものです。平均的なポップミュージックでは、すべての曲を同じ音量、同じラウドネス感にそろえるのが一般的です。そうすることで、聴く場所や再生装置を選ばず同じように聴ける。

今回、専門のマスタリングエンジニアを使わず自分で手掛けたのは、アルバムの中に起伏を作りたかったからです。すごく静かなところから、歪むギリギリのラウドな音まで、ダイナミックレンジを広く取っています。クラシックやジャズは比較的こういうアプローチをしますが、ポップミュージックのアプローチではダイナミックレンジの幅が詰まってしまうため表現し切れないと考え、自分で手掛けることにしました。

ー アルバムのマスタリングでは曲間の設定も行うと思いますが、そこも重要な要素ですよね。

中野:そうですね。間合いの取り方、そのタイム感は国や人種によって大きく違うところで、海外でマスタリングする際、放っておくとどんどん曲間が詰められてしまうんですよ。そこでよく「あと2秒入れてください」というような指示を出したりする。それが今回は納得いくまで行えました。


Mastered for iTunes認定エンジニアに


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ー 中野さんは日本人アーティストとして初めてMastered for iTunes認定のサウンドエンジニアに選ばれました。Mastered for iTunesでは、iTunes向けに最適化されたマスタリングを行うのですか?

中野:今回は別途マスタリングを行ったわけではありません。僕が行ったのは、CDにしても、ハイレゾリューションのオーディオファイルにしても、Mastered for iTunesにしても問題のない適正なレベルとダイナミックレンジが確保されたデータを作ることです。

ー Mastered for iTunesの目的は「アーティストやサウンドエンジニアが思い描いた通りの音質で楽曲を配信できる」ことだとされていますので、今回の中野さんのアプローチは合致しますね。

中野:さらに、CD、ハイレゾリューション、iTunesなどのフォーマットに対しての調整を研究していけば、それぞれに一番合ったものが見つけられるかもしれないですね。


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ブンブンサテライツのプライベートスタジオ。ハードウェアの音源やアウトボードも豊富に用意されている


ー 制作環境についても教えてください。DAWは何をお使いですか?

中野:Pro Toolsです。マスタリングに使ったのはPro Tools Software、Nuendo、iZotope RX4。マスタリングされたオーディオファイルをWave Burnerを使ってCDに焼き、車の中などで試聴します。iZotope RX4は音質がとてもよいので純粋なリスナーの方にもプレーヤーとしてオススメできますよ。

ー 同じデジタルデータを扱うのでも、ソフトによって音が違うのですね。

中野:違いますね。DAWはLogicもあるのですが、Logicを使うとちょっとアナログっぽい懐かしいような音になります。デジタルデータとはいえ、ソフト内で常に演算が行われるので音が変わるのは分かるのですが、不思議なのは何のプロセスも行われていない0dBで固定されたトラックでもソフトによって音が違うこと。Pro ToolsとNuendoとLogicでは音が違う。DAWだけでなく、プレーヤーのiTunes、QuickTime、OS Xでスペースキーを押したときに立ち上がるQuick Lookもすべて音が違います。

ー お気に入りの音はありますか?

中野:それぞれに良さがあります。一番トランスペアレントなのはiZotope RX4。クリアで立体感と奥行きがある。一方、アップル製のものはウォームな鳴り方をしますね。パンチがあってファット。全体的にそういう傾向があると思う。Logic、iTunes、QuickTimeのほか、GarageBandも同じ傾向の音だと思います。


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ー ところで、Oculus Riftのような、音とビジュアルを使った新しいテクノロジーやVR表現に興味はありますか?

中野:新しいテクノロジーに興味がないわけではなく、柔軟でありたいとも思いますが、自分がそのフォーマットを自由に扱えるプランイメージがしっかり持てたときに足を踏み入れたいと思います。そういうものを音楽表現で使うときは、テクノロジー自体にフォーカスがいきすぎる傾向があります。テクノロジー自体はアートフォームではないので、その進歩には期待しつつも表現に落とし込めるところにくるまでわれわれは待たなくてはならない。

僕はわりと古典的なところがあって、音楽の表現でもサラウンドよりステレオに興味があるんです。つまり2本のスピーカーを使って音をどこに置くか。5本のスピーカーを使えば後ろから音を出すのは簡単ですが、それは2本のスピーカーでも可能です。PCとUSBスピーカーのような環境でもできる。ステレオが発明されてから長い時間が経っていますが、まだまだ追求できることはあります。

ー 先ほど、音がビジュアルを想起させるという話がありましたが、そう考えるとあえてビジュアルを提示せずにいることも表現方法の1つなのかもしれません。

中野:そうですね。ビジュアルがあると音という情報に対する感覚は相対的に下がっていくのかもしれない。不完全なものの中でやることに見いだせるものがある気がします。

ー 最後に、昨今のデジタルオーディオシーンについてうかがいます。ここ最近、二極化の流れがあり、1つはストリーミングで音楽を聴く流れ、もう1つはハイレゾに向かう流れです。どちらにシンパシーを感じますか?

中野:どちらにも感じます。カジュアルに音楽をたくさん聴いてもらうという意味ではストリーミングには意義があると思います。かといってその音楽体験が豊かな環境の中で行われているかというと必ずしもそうではない。人生を変えるような音楽体験が起きにくいのではないかと思うのです。ある1曲を大事に扱うようなことが少なくなり、そうすると社会において音楽の力が下がってしまうことになるので、音楽家として寂しいところではあります。

一方、ハイレゾリューションの音楽は、圧縮音楽ファイルでは体験できないものを持っていると思います。だからたくさんの人に体験してほしいという気持ちもあるのですが、データ量が大きいことなど、普及するにはたくさんのハードルがあると思います。

音楽を作る側の人間としては、いい環境で聴いてもらいたいという気持ちはありますが、今後どこに向かっていくのかは僕もちょっと予想がつかないですね。メディアが変化するスピードも早くて読めないところがある。

ハイレゾリューションがビジネスとして難しいと判断され、ばっさりと止めてしまう可能性もあるだろうし、ストリーミングというものがあまりにも手軽に音楽が聴けてしまうことによって飽きられ、全然違うことが起きる可能性もありますよね。本当に、来年のことが分からないという感じです。


*  *  *


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難しい状況に対峙したときの気持ちを率直に語ってくれたブンブンサテライツのお二人。その言葉はあらゆる装飾が剥ぎ取られた本質そのもののように感じられ、ダイレクトに胸に伝わってきました。

おそらく、多くの人が「SHINE LIKE A BILLION SUNS」から同じものを受け取るのではないかと思います。突きつめて、突きつめて、たどり着いた本質。それが聴き手に伝えるものを。


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アーティスト:ブンブンサテライツ(BOOM BOOM SATELLITES)
タイトル:SHINE LIKE A BILLION SUNS(Mastered for iTunes)
http://bit.ly/1Cv9IPS(iTunes Store)
レーベル:gr8!records / Sony Music Records
リリース日:2月4日(水)

収録曲

01. SHINE
02. ONLY BLOOD
03. COMPLICATED
04. A HUNDRED SUNS
05. VANISHING
06. BACK IN BLACK
07. THE MOTH(attracted the flame)
08. BLIND BIRD
09. OVERCOME
10. STAIN
11. EMERGENCE


source: BOOM BOOM SATELLITES

(北口大介)

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