CERNが建築家のレジデントを募集!

CERNが建築家のレジデントを募集! 1

建築家+物理学者=∞

アートと高エネルギー物理学。まったく意外な組み合わせに思えますが、実はいろいろ共通点があるんですね。例えば、空間、時間、目に見える世界の構造、目に見えない世界の構造…。そこに目を付けたのが世界最高峰の学術機関であるCERN(欧州原子核研究機構)。ここ4年間ほど、アーティストと物理学者をコラボさせるプログラムを行っています。そして今度はその門戸を建築家にも広げるのだそう!

2011年、CERNはCollide@CERNというプログラムを立ち上げました。このプログラムは、スイスのジュネーブ郊外にあるCERN本部にアーティストをレジデントとして迎えるというもの。プログラムのディレクターであるAriane Koekさんは当時こう語っています。「素粒子物理学とアートは、非常に密接な関係にあると思います。どちらも私たちの存在、つまり人間であるとはどういうことなのか、宇宙において私たちはどんな位置づけなのかを探求しているのですから。21世紀においてイノベーションを求めるのであれば、この2つの分野でコラボレーションするのはごく自然なことだと思いますよ」

プログラムの最初の参加者は、アーティストのJulius von Bismarckさん。そしてCERNがBismarckさんのパートナーに選んだのは理論物理学者のJames Wellsさん。Wellsさんはダークマターから、4次元を超える世界までさまざまなトピックを研究されている学者さんです。二人は素晴らしいインスタレーションアートが生みだしただけでなく、CERNの他の研究者たちも巻き込んだ数々のプロジェクトにも取り組みました。「30人の物理学者を地下に閉じ込めて、暗闇に何を見たかを尋ねる」なんていう面白いプロジェクトもあったそう。BismarckさんとWellsさんのコラボレーションによる作品の一つに、天井から吊るした4つの照明がゆらゆらと回っているものがあります。一見無秩序に回転しているように見えるのですが、実は78回目の回転で4つのランプの動きがぴったり一致するのです。(動画は05:40くらい最後までを見ると分かりやすいですよ)

CERNがこうしてアーティストを迎えるのは、決して気まぐれな思いつきではありません。深くて終わりのない、時に泥沼のような研究活動に、これまで思いもよらなかったような新しいアイデアを吹き込むためです。真空状態で科学が存在することができないように、アートも何もないところには存在できません。科学者もアーティストも、自身の枠を超えた考え方や視点に出会うことで発展や成長があります。それなら、世界最高峰の高エネルギー物理学研究施設で、科学者とアーティストをコラボさせてみようじゃないかというわけですね。

Bismarckさんを最初のレジデントに迎えて以降、CERNは他の分野のアーティストたちも招き入れています。サウンドスカルプターのBill Fontanaさんもその一人。彼は宇宙学者と組んで、Large Hadron Collider(CERNにある世界最大の粒子加速器)やCERNの他のエリアで作られたアコースティックなバイブレーションの録音を行いました。

もちろんこんなふうにアーティストを何カ月もCERNに滞在させるのにはそれなりの費用がかかります。そこで2013年には、各国が特定のレジデントをスポンサーできるようにする新しいプログラムAccelerate@CERNが立ち上げられました。このプログラムでスイスはデジタルアーティスト1名を、ギリシャはビジュアルアーティスト1名をスポンサーしました。

そして今年このプログラムはさらに拡大され、オーストリアが建築家を1名、台湾がデジタルパフォーマンスアーティストまたはダンサーを2名スポンサーすることになり、現在候補者を募集中です。レジデントに選ばれると、「時間と空間の概念に関する理論的な取り組みや、研究所で行われている最先端技術を使った物質のエンジニアリング作業」を含むCERNのすべてのオペレーションを案内してもらうことができます。そしてこれまでのレジデントと同様、CERNの物理学者とペアを組んで作品に取り組みます。

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個人的には、CERNがその神聖な研究の殿堂に建築家を招くというのは非常に興味深いことだと思います。何と言ってもCERNはすでに世界最大のマシンを建設することに成功していますし、Accelerate@CERNの説明にも書かれているように「Large Hadron Colliderやディテクターなど、世界中探してもCERNでしか見ることができない素晴らしい建造物の実績がすでにある」わけです。そんな場所で、宇宙の根源を探究する取り組みに建築家は何をもたらすことができるのでしょう? また逆に理論物理学者は建築家の作品にどんな影響を与えるのでしょう?

そのヒントはAccelerate@CERNの説明にあるかもしれません。説明では2005年の書籍『Disappearing Architecture: From Real to Virtual to Quantum(消えゆく建築:リアルからバーチャル、そして量子へ)』が引用されています。これは数々の建築史学者や批評家が、建築家は自らの作品を物理的な環境だけでなく、それ以外のリアリティや環境野中でも考え始めるべきではないかと議論している書籍です。

建築家にとっての今後の課題とは、創造的にハイブリッドな環境を取り入れること、物理的な世界において設計しうるデジタルな空間を理解し、それを有効に活用すること、そして視覚に支配されている文化の中で建築家の役割を再定義することにある。

CERNが自らのミッションの焦点を「科学」だけでなく「人間」に置いていることは素晴らしく頼もしい限りです。私たちが把握しているリアリティの圏外を、科学的な視点だけでなく、構造的・デザイン的な視点でも探求するというのは非常に面白いですよね。このプロジェクトからどんな結果が生まれるのか楽しみです。

source: CERN; h/t ArchDaily

image 1: Peter Macdiarmid/Getty

image 2: Vittorio Zunino Celotto/Getty

Kelsey Campbell-Dollaghan - Gizmodo US[原文

(mana yamaguchi)