Apple Watchで、ファッション層は取り込めるか?

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漠然と「オシャレな人」をイメージするとき、どんな人を思い浮かべますか? 思い浮かんだイメージの手首には何がありますか? その手首という場所こそ、アップルが今後狙っているファッションとITが融合したポジションです。

アップルはiPodやMacBookで、IT業界でのモダンでファッショナブルな地位を築いてきました。ジョニー・アイブ氏のアルミデザインのMacBookは、数々の映画やドラマに登場し、いつの間にか、なんとなーくの雰囲気オシャレを演出する必須アイテムの1つとなっています(最近は、ここにマイクロソフトのSurfaceがぐいぐい来ている雰囲気も)。

現代のオシャレ人の要素に、ガジェットが加わっているのは確かで。その中でも、アップルがいい位置を築き保ってきたのも間違いなし。では、アップルがファッションの世界で成功できるかというと、それはまた別の話。今、アップルが持つ成功と呼べる地位は、あくまでもIT業界でのファッショナブルな地位です。ファッション業界の一員ではありません。

ファション業界はIT業界へ進出したか?

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その逆を考えたら納得できます。ファッション業界もIT業界に進出してきてはいます。しかし、その進出の仕方(あるいは成功例)は、あくまでも自分たちの得意な点をいかした、立場をわきまえた進出方法。そう、ガジェット周りのアクセサリーという立ち位置です。大手デザイナーから、ローカルな雑貨店まで、スマートフォンケースやカバー、ラップトップケース、シェルなど、多種多様なアクセサリーを展開しています。Vansが自社のアイコンであるワッフルソールのスマートフォンケースを出せばあちこちで取り上げられ、かつてデザイナーに疎かった人ですら知ってか知らずかマークジェイコブスのケースを使っています。

中でも、特に大きな成功例だと感じたのは、MoschinoのフレンチフライiPhoneケース。ファッション誌はもちろん、ガジェット系まで幅広いメディアで話題となりましたが、話題性だけが成功の理由ではありません。ファッションメーカーとして作ったこのケースは、ランウェイコレクションとして一貫性のあるデザインで、他にもミニドレスやカーディガン、レザーのバッグが展開されています。つまり、ガジェットアクセサリーコレクションの1つとして単体でデザインされたのではなく、1コレクションとして他のファッションアイテムと横並びでデザインされたうえに、大きな反響を呼んだことが素晴らしいではないですか。まさに立場を見極めた異業種への進出方法の成功例でしょう。…いや、そもそもスマートフォンカバーなどは、異業種ではなく、元々ファッション寄りの分野だったのかもしれません。そう考えれば、進出すらしていないことになり、ましてやIT業界の一員ヅラなんてしたこともないわけで。

もちろん、よりガジェガジェしくIT業界に食い込んできたファッションアイテムもあります。例えば、3DプリントのドレスだとかLED搭載のジャケットだとか、気温によって色を変えるマフラーだとか。よりテクノロジーの要素を色濃く出してきたアイテムです。しかし、これらはどちらかというとファッションよりもその技術力をアピールしており、ファッション業界の中ではしょせん色もの。一般うけ、浸透は果たせません。それどころか、IT業界の中でもメジャーとなることはなく、色ものの位置から抜け出すことは、今はまだありません。

「時計」というファッションアイテム

しかし面白いことに、腕時計というのは、そもそもファッションかつガジェットであるというグレーなアイテム。個々の機能によって、どちら寄りになるのかは大きく異なり、両業界からラブコールが届く希有な存在です。手首周りのアイテムは、ロボットアニメやSF、ガジェット好きには夢にまで見た憧れの存在。そこに、IT業界が目を付けるのは当然の流れでしょう。アップルがこのIT寄りの立場でApple Watchを出すならば、通常運転に感じます。グーグルやサムスンとのスマートウォッチ競争では、市場をより拡大し、頂点となる可能性もあります。が、今回アップルが、ファッション要素を色濃く打ち出し、ファッション誌での露出を重視した戦略で狙うのは、今までとは違う層=ファッション層をダイレクトに獲得することではないでしょうか。スマートウォッチ市場はもちろん、時計市場も狙う。まさに、ファッションかつガジェットという実にグレーな立ち位置を利用し、お馴染みIT業界だけでなく、ファッション業界も取り込もうとしているのです。

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スマートフォンとスマートウォッチにおける、IT業界とファッション業界に対する絶対的な差は何か。それは、持ち歩くものと身につけるものという違いでしょう。身につけるものは、よりファッション要素が濃くなること必至。しかし、今までしていた時計を外して、Apple Watchに移行するのはなかなかのハードル。一時的にお試しする人はいるでしょうが、定着するかはまた別。確かに、モバイル決済が、メールの通知が、ヘルス機能が…、そういった機能で比べれば、時刻がわかるだけの時計の機能は赤子レベルです。しかし、時計の魅力は機能がすべてではありません。デザインやブランド力、職人の技、ステイタスとさまざまな要素が折り重なってこその時計の価値です。従来の時計業界を前にして、アップルというブランド力は存分には発揮できないでしょう。時計業界から見たら、あのアップルだって新入りです。すると、武器となるのは真新しさと機能、あとは話題性だけ。これでは、ファッション層を長期的に取り込み、業界入りするのには弱い。

さらなる弱点として、プロダクト周期というものもあります。ガジェットの周期は短い、非常に短い。スマートフォンの新モデルリリース周期が約1年、スマートウォッチも似た感じでしょうか。ファッションの周期もそりゃシーズンごとに毎年変わるので短いですが、普遍的なものもあります。エルメスのバーキンや、ティファニーのシルバーアクセなんてまさに永遠でしょう。アップルだって、初代Macintoshは展示されるほど普遍的なものではありますが、あくまで存在がという意味であって、現在も使えるということではありません。この周期でApple Watchを買い換えねば最新機能が使えなくなり、つまり最大の武器がなくなるとなれば、1年経てば従来の時計と渡り合うことはますます難しくなります。個人的な意見を言えば、「Apple Watchを向こう10年毎年もらえるボタン」と「カルティエのタンク ソロをプレゼントボタン」があれば、迷わず後者を押します。もちろん、古いタイプの人間だと言われればそれまでですがね。

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Apple Watchには、iPhone以来の驚きと革新を期待しています。世界が変わるかもしれないとも思います。ただ、機能が何よりの魅力であり武器であるApple Watchにとって、ファッション層を真に取り込むのはやはり難しいと思わずにはいられません。あんたそりゃ、思っている以上のハードルでしょうよ、と。従来の時計業界の仲間入りはできても、そこで重役となるのは「まだ」不可能に近い話。1984年にIBMに挑んだときよりも、誰も想像しなかったiPhoneを世に送り出したときよりも、今回の戦いは未知なるものになりそうです。なんせ、ライバルは同じ業界メンバーだけじゃないんだもんね。

ハードルの高さはアップルも承知の上。だからこそ、今回の発表(日本時間10日午前2時)では、ファッション業界へ進出するため、共存するための秘策があるのではと期待してしまいます。Apple Watch独特のさらなるオープン性で各ブランドへある程度デザインの自由を与えるとか…。Pebble Time Watchが提案する、バンド部分をサードパーティが自由に開発できるとか…。何かそんな驚きの秘策を期待したいです。

image by Nata Sha / Shutterstock.com

source: Apple

(そうこ)