誰も見抜けなかったiPadの成功。5つの「非常識」とは?

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祝5周年!

2010年4月にiPadが登場してから5年が経過しました。アップルは、この5年間で9モデルのiPadをリリースし、累計販売台数は2億5000万台を突破したとのことですよ。

そんないまではすっかり大成功のアップル製品として定着したiPadも、実は登場したころは、すさまじい逆風にさらされていました。あんなものが絶対に売れるはずはないさってね。しかもその指摘のなかには、もっともな内容だって多々あったのです。ところが、iPadの歴史を振りかえるならば、たとえ当時は常識とされていた考えでさえ、iPadは非常識に打ち破っていったのです。この経緯をまとめておくことは、今後のイノベーションにつながる貴重な分析ともなることでしょう。

せっかくの5周年ですから、iPad登場時に非常識とレッテルを貼られていた5つのポイントを列挙してみたいと思います。意外と新しい発明へのヒントにもなるかもよ~。

Flashが使えないってどうよ?

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この指摘は、すでにiPadよりも前に発売されたiPhoneでも大問題とされてきました。iPhoneに対抗するAndroidスマートフォンのなかには、わざわざFlashが使えるということを売りにして、iPhoneの普及を阻もうとたくらまれたモデルまでありましたよね。

Flashが誕生したのはPC全盛期のことだ。マウスで操作するPCに向けて作られたのだ。だが、モバイルの時代には、低消費電力、タッチインターフェース、オープンなウェブ標準が求められる。このすべての分野で、Flashはニーズにかなう存在ではない。

当時アップルのスティーブ・ジョブズCEOは、こんなふうにブログへ反論を記したとされています。その後、本当にモバイル向けFlashは終焉を迎え、HTML5こそが業界の標準として浸透していきました。

でも、こうした流れをiPadの登場時から見据えていた人は、いったいどれほどいたのでしょうか? でも、アップルが予見していた、PC向けテクノロジーはモバイル向けにシームレスに適用できないとの考察は、みごとにFlashの衰退という形で成就をみたようです。

思えば、近代的な大量生産で自動車業界の様相を一気に変革した「T型フォード」でも、同じような指摘がありました。当時は蒸気自動車こそが、まさにスタンダードなクルマの形であり、あんなガソリン車なんてどうよ?と冷ややかなまなざしで、チープなT型フォードを見守る雰囲気もあったそうですね。でも、いざ歴史を振りかえってみれば、自動車の普及速度を大幅にアップさせたT型フォードのかげで、主流だった蒸気自動車は完全に姿を消していったのでした。

iPadというネーミングほどひどいものはない?

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すっかりiPadというブランドが定着してしまったので、いまとなっては、やや信じられないことにも思えてしまいます。でも、アップルが初めてiPadという製品名を正式に明らかにしたときの失望感といったら! えぇっ、絶対に「iSlate」にすべきだったでしょう? いやいや、もっと落ち着いた「iTablet」とか「iTab」にしておくべきだっただろうにな~。

iPadの発表会の後、その製品名は酷評される流れがあったことを覚えていますか? 思うに、IT業界のネーミングは、意味のない、ややダサいものも多いです。有名なものでは、Yahooの社名の由来があります。一説には、Yet Another Hierarchical Officious Oracleの頭文字から取られたともいわれていますけど。でも真相は、創業者がガリバー旅行記に登場する野獣「yahoo」を社名に選んだだけなんだとか。いまやYahooと耳にして、野獣を思い浮かべる人なんてほとんどいないでしょうね。

つまり、IT業界には、ネーミングの価値よりも、もっと重要なものがあるということでしょうか。本当に優れた製品サービスであれば、どんなにネーミングがパッとしなかったり、やや失敗したと指摘されようとも、そんなことは関係なく成功してしまうというわけです。逆に、どんなにネーミングでは勝っていても、決してその後に日の目をみない商品だって多々あるわけですし……。

キーボードはついてないの?

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「タッチスクリーンのソフトウェアキーボードでは、まともに文字入力などできるものか。いちいちキーを見なくても打てるパソコンのタッチタイピング。これこそ文字入力の王道であるべきだよな。iPadなんかで長い文章を打とうとは思わないね」

これも5年前はよくいわれていました。iPhoneが世に出る前のガラケー全盛期。ダイヤルキーパッドがないスマートフォンなんて、使いにくくてしかたがないと、もっともらしく聞こえる指摘です。実際のところ、わざわざ物理ハードウェアキーボードが売れたりもしましたっけね?

でも、iPadの利用シーンにおいて、本当にハードウェアキーボードを展開し、バリバリとタッチタイピングを必要とすることのほうが少なくなってしまった。これこそが現実に生じたことだったのではないでしょうか。ほとんどのアプリは、キーボードでの過剰なタイピングなどいらない作りになっています。キー文字入力操作ではなく、ジェスチャー中心の操作環境が主流にもなってきました。iPhoneが築いたミニマルデザインの世界から、iPadによって、もはやキーボードの必要性すら感じさせない世界へと進み、完成をみようとしているのかな?

どうして7インチサイズじゃないの?

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後にiPad miniが登場するまでは、かたくなにiPadは9.7インチの初代と同じサイズにこだわってきました。でも、10インチタブレットなんて大きすぎる。7インチのタブレットが出たら、絶対にヒットするのにな。手軽に持ち歩くには大きく、本格的な作業をするには小さい、まさに中途半端なサイズがiPadなのだから。

こんな批判が飛び出しても、当時のアップルのスティーブ・ジョブズCEOは、一向に意に介する様子はありませんでした。むしろ、10インチサイズこそがタブレットのベストデザインとの理想にこだわり続けましたよね。iPad miniが発売された現在でも、結局のところ、もっとも売れているのは10インチサイズのモデルばかりであることからしても、やはりジョブズの判断は正しかったのでしょう。

映画を見るならば、迫力の10インチクラスのiPadの画面が最適。でも、ラップトップよりは小さいので、スッとカバンに入れて持ち運びしやすい。その後、時代はスマートフォンの大型化という流れをたどり、いまではかえって7インチクラスのタブレットの需要が失われてきています。もしや、こんな展開になっていくことまで、すでにiPadの発売時から予測されていたのでしょうか?

パソコンあるからiPadなんていらないでしょう?

パソコンが普及していない発展途上国ならばいざ知らず、5年前ならば、すでに先進国では一般家庭にまでパソコンは十分に普及していました。iPadを購入するユーザー層ならば、すでにノートPCだって所有しているケースが大半です。だから、いまさらiPadを買う必要なんてないでしょう?

iPadはラップトップという市場を侵食してしまう。タブレットが売れれば売れるほど、パソコンは売れなくなっていく。そう懸念する人も多いですよね。では、もうすでにパソコンユーザーであれば、新たにiPadの購入ユーザーとはならないのか?

当初iPadの成功に懐疑的な人が多かったのは、iPadがパソコンとは異なる市場を切り開くことが読めなかったのかもしれませんよね。パソコンと競合するというよりは、パソコンがあってもiPadがほしくなる新しい世界の創造。そんなiPadのスタンスを、5年前から十分に予想できていた人は、いったいどれほどいたでしょうか?

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iPhoneが世界初のスマートフォンではなかったのと同じように、iPadが世界初のタブレットとして市場に投入されたわけではありません。でも、iPadが世に出るまでは、タブレットという製品カテゴリーさえ知らなかったという人が大半でした。それを、数々の既成概念を打ち砕きつつ、5年でタブレット界の揺るぎないスタンダードに定着したiPadは、まさに偉大と評さざるを得ないでしょうね。

ちなみに、周囲でiPadを使っている人をみると、どうもその利用スタイルは、それぞれのユーザーで固定化しつつもあるようです。私はキッチンで料理のレシピをチェックするのに欠かせない。私はソファーで寝そべって、映画を見るのに欠かせない。私は、このアプリを使うために……。まさにユーザーによって、iPadの使い方は十人十色。それでも、そのすべてのユーザーに欠かせない存在へとiPadが浸透したのはお見事といえるでしょうか。

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そして、まだiPadが生活にフィットしていない、頑固なPCから離れられないユーザー層を取り込むべく、いまアップルは「iPad Pro」なる新モデルを用意しているとも噂されています。わざわざキーボードもマウスもつなげられる、MacBookライクに使える12インチ大画面のiPad? こちらも今後の動向が楽しみではありますよね。

ただ、それよりも先に世間を賑わしそうなのが、Apple Watchの発売でしょう。当然ながら、Apple Watchは、世界初のスマートウォッチというわけではありません。そして、すでに発売前から、Apple Watchをめぐっては、数々の否定的な意見もあふれていることは事実です。でも、いまから5年後に振りかえってみればどうでしょうか?

Apple Watchの非常識が打ち破った、スマートウォッチの既成概念とは…。そんなふうにApple Watchの成功を思いかえせる楽しみな展開になっていくといいですよね。

Adam Clark Estes - Gizmodo US[原文

(湯木進悟)